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『リーダーシップの日本近現代史』(237)/『日本人に一番欠けているものは自由と正義への希求心』ー冤罪と誤判の追及に生涯をかけた正義の弁護士・正木ひろし氏を訪ねて』★『世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝12回連載一挙公開」』

   

 

   『棺を蓋うて』ー冤罪救済に晩年を捧げた正木ひろし弁護士」記事再録

前坂 俊之(ジャーナリスト)

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歴史上の人物をその真実においてとらえるとはどういうことだろうか。それにつけて思うことがある。

正木ひろし弁護士が1975年(昭和50)十二月六日、肝臓ガンで死去された。七十九歳であった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E6%9C%A8%E3%81%B2%E3%82%8D%E3%81%97

 正木弁護士は戦前は個人雑誌『近きより』で軍国主義を痛烈に批判し、戦後は一貫して数多くの冤罪事件を手がけてきた。氏の生涯は権力悪との果敢な戦いに終始した。

ところが、法曹界では氏に対する毀誉褒貶ほど激しいものはなかったという。売名家、スタンドプレーヤーというのがそのレッテルであった。

 当時、毎日新聞呉支局記者をしていた私が正木弁護士宅をはじめて訪問したのは、1973年(昭和48)8月のことである。

東京の国鉄中央線・市ヶ谷駅からほんの目の前、困りに近代的なビルや商店が建ち並ぶなかに取り残されたような古ぼけた家がポッリとあり、それがお宅だった。

木造二階建てで板壁は一面にツタがおおい、日本一高名な弁護士宅とはとても思えない貧相な印象であった。玄関には座る部分が破れた粗末なソファーが置かれ、来客用の応接間といったものもない。その清貧を極めた生活ぶりには驚いてしまった。

 戦後、数多くの大事件に取組みながら、氏は弁護料らしきものは受け取らなかった。冤罪に陥れられた被告は一様に貧しく、これら弁護料を払えない被告のために自己の生活を犠牲にしながら救援に奔走してきたのである。

収入といえば事件について著述した原稿料か印税しかなく、これも被告のためにカンパすることが多かった。

 二階の書斎は本や裁判記録で埋まり、寝室へは体を斜めにしないと通れないほどだった。机の横には愛読され、背綴がボロボロになった聖書が数冊置かれ、すぐうしろの三畳寝室には万年床の布団が垣間見えた。

 氏はキリスト教を信仰していた。

「人間を大事にするのが文化の母胎だ。人間一人一人がみな神であるとの認識が僕の思想の土台なんだね。ある検事が僕に『有罪になったとしても君の名前は上がったし、いいではないか』と言ったことがある。

彼らは被告のことを自分の身に置きかえて考えたことが全くない。自分たちが本物の刀で切っていることに気がつかないんだね」と諦観したように話された。

 翌49年の年賀状では「八十歳の老青年、これからどれだけの仕事がやれるか自分も興味を持ってやっています」との元気な便りがあった。

その1月12日に同氏宅を再び訪れた際のこと。文化放送の朝の訪問に氏が出演したその番組を、二人でコタツのなかで聞いたことがある。

最後に女性アナウンサーがリクエスト曲をたずね、「真白き富士の嶺」を氏は注文された。ラジオから曲が流れると、氏は声を出して歌い、目をじっと閉じて聞き入っていたが、しばらくすると大粒の涙をポロポロとこぼされた。

そのまるで子供のような純粋なしぐさに、私は激しく胸を打たれた。

 

『地域史研究―尼崎市史研究紀要』第5巻第3号、昭和51年3月「史煙」に掲載

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◎「世界が尊敬した日本人―「司法の正義と人権擁護に

生涯をかけた正木ひろし弁護士をしのんで①」

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/1363.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法の正義と人権擁護に

涯をかけた正木ひろし弁護士をしのんで②」

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/1361.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法の正義と人権擁護に

生涯をかけた正木ひろし弁護士をしのんで③」

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/1358.html

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝④」

全告白『八海事件の真相』(上)<死刑冤罪事件はこうして生まれた>

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/1357.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦い

に生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑤」

全告白・八海事件の真相(中)ー死刑の恐怖から偽証を警察・検察から強要された<死刑冤罪事件はこうして生まれた>「サンデー毎日」(1977年9月11日号)から

http://www.maesaka-toshiyuki.com/wp-admin/post.php?post=1354&action=edit

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑥」全告白・八海事件の真相ー死刑の恐怖から偽証を警察・検察から強要された<死刑冤罪事件はこうして生まれた>「サンデー毎日」(1977年9月11日号)から

http://www.maesaka-toshiyuki.com/history/1350.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑦」全告白・八海事件の真相―真犯人の異常に発達した自己防衛本能から偽証した① >「サンデー毎日」(1977年9月18日号)

http://www.maesaka-toshiyuki.com/history/1345.html

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑧」

全告白・八海事件の真相<8年間300 通の少女との文通で良心のうずきから「偽証を告白」>「サンデー毎日」(1977年9月25日号に掲載)

http://www.maesaka-toshiyuki.com/history/1332.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑨」「八海事件の真犯人はこうして冤罪を証明した(上)」

「月刊 ジャーナリスト」1977年12月号「懺悔する男」で掲載>

http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/1319.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑩」

「八海事件の真犯人は出所後に誤判を自ら証明した(中)」

「月刊 ジャーナリスト」1977年12月号「懺悔する男」で掲載>

http://www.maesaka-toshiyuki.com/history/1315.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑪」「八海事件の真犯人は出所後に誤判を自ら証明した(下)」

「月刊 ジャーナリスト」1977年12月号「懺悔する男」で掲載>

http://www.maesaka-toshiyuki.com/history/1312.html

 

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦いに生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑫」

「昭和戦後の多数の冤罪事件で八海事件真犯人は出所後に誤判を自ら証明した稀有のケース(終)」

http://www.maesaka-toshiyuki.com/history/1310.html

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