池田龍夫のマスコミ時評(35) 『迷走つづく「普天間移設」―「辺野古」にこだわる日米政府の無策』
2015/01/02
池田龍夫のマスコミ時評(35)
『迷走つづく「普天間移設」―「辺野古」にこだわる日米政府の無策』
ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
鳩山由紀夫政権末期の「米軍普天間基地移設に関する日米合意(2010・5・28)」から1年。代替地・辺野古をめぐる交渉は「出口のない迷路」をウロウロ、憂慮すべき状況が続いている。「国外、最低でも沖縄県外への移設」を掲げた鳩山構想は、米国の〝圧力〟で潰され、菅直人首相へのバトンタッチを余儀なくされた1年前の〝対米従属〟外交が腹立たしい。
振り返れば、日米特別行動委員会が「在日米軍再編『最終報告』」を決定したのが2006年5月。米国が国際環境の変化に対応するため「グアムを拠点とした軍事再編」に舵を切ったわけで、その一環として「沖縄海兵隊8000人を2014年までに移動させる」との方針を提示したが、米国は一部海兵隊の辺野古移設に固執。これに対し沖縄県知事・県議会・名護市長のほか県内全市町村長がそろって県外移設を求めて譲らず、暗礁に乗り上げたままだ。
これら一連の米軍基地問題を考えれば考えるほど、日本外交の無為・無策と、米国外交のしたたかさに気づかされる。最近の具体例に基づいて検証してみたい。
「思いやり予算」だけは5年先まで約束
2000億円規模の税金を在日米軍に毎年つぎ込む「思いやり予算」(在日米軍駐留経費の日本側負担)に関する特別協定が、2011年3月31日午後の衆参両院本会議で共産、社民両党を除く各党の賛成多数で可決、承認された。日本政府が4月1日以降、米軍基地従業員の労務費や米軍の光熱水費を支出する根拠となるもので、有効期間を現行の3年から5年に延長、11年度現行水準(1881億円)を日本側が負担することになった。
5年間で1兆円近い「思いやり予算」の国会審議は、東日本大震災によって実質討議が省かれ、31日の衆院本会議可決のあと、参院外交防衛委2時間半の審議を経て、参院本会議でスピード可決。ギリギリ年度内成立に漕ぎつけ、米国の要請に応えたような印象だ。
これに関する4月1日朝刊、沖縄県紙を除く各紙の扱いが「余りにもひど過ぎる」と感じた。福島原発事故報道に重点を置いた紙面づくりは認めるものの、5年間にわたって膨大な予算を食う「思いやり予算」決着を、ないがしろにしてはならない。米軍駐留を容認している国は、日本だけではないが、「思いやり」名目で膨大な米軍駐留経費を負担している国は日本のみで、対米追従の批判が高まっている。
米国の軍事戦略見直し・防衛予算削減計画に伴って、沖縄などの米軍基地を再検討すべき時期に、「なぜ新特別協定可決を急いだのか」と、問題点を指摘することこそ新聞の責務ではなかったか。50~60行程度のスペースでもいいから、「思いやり予算」の問題点をきちんと報道すべきだったのに、大部分の新聞がベタ扱い、一連の年度内成立法案の中に数行の記事のみで見出しもつけていない紙面を見て驚かされた。
そもそも「思いやり予算」は1973年、ベトナム戦争での財政難に喘ぐ米国への「暫定的、特例的措置」だったのに、現在まで恒常化してしまった奇妙な取り決めだ。現在、大震災で国家的危機に陥った日本こそ、米国から「思いやり」を受けたい立場ではないか。
米軍が「トモダチ」の作戦名で約6000人を投入したことに敬意を表するが、在沖米海兵隊の活躍で「普天間飛行場の死活的重要性が証明された」とアピールしているのは恩着せがましい。普天間問題につき、米軍当局が震災を〝政治利用〟したとすれば、抗議せざるを得ない。旧協定期限切れで多少の空白期間が生じても、「思いやり予算」審議を数カ月延ばし、落ち着いた環境での国会審議こそ望ましかった。その点〝駆け込み決着〟の印象を残した菅政権の政治責任は大きい。
ウィキリークスが暴いた移転費〝水増し〝
朝日新聞は「ウィキリークス」から提供された米国の公電を分析して「米軍がグアム移転費水増し」の裏取引をあぶり出し、5月4日朝刊に特報したことは当誌の6月号「メディア談話室」が紹介した通りである。詳述すると、08年12月の資金負担交渉で日本側負担比率を相対的に低くするための操作が行われていた。
92億㌦だった移転費総額を10億㌦増やすことで,3分の2だった日本側負担比率60%を切るよう操作していたのだ。当初の日本側負担割合66%を59%に〝粉飾〟し、日本側も渋々応じたという。
沖縄返還交渉の際の「米軍基地400万㌦復元補償費肩代わりなどの「財政密約」をめぐり「沖縄密約文書開示訴訟」は東京高裁で審理中だが、米国の強引な外交手法が40年前と全く変わっていないことに気づく。巧妙な手段、裏取引によって多額の費用をぶったくる米外交の謀略が透けて見えるではないか。
ウィキリークスの暴露に続き、『朝日』6・11夕刊の「グアム移転費、日本負担の9割塩漬け」にも驚いた。09,10年度に日本が提供した計814億円のうち、9割以上の758億円が使われずに滞留しているという。菅政権も当初予算に149億円計上しているが、全くの〝無駄ガネ〟ではないか。
オバマ政権は2012会計年度(11年10月~12年9月)の予算教書でグアム移転1億5000万㌦(約130億円)を計上したが、前会計年度の要求額から約6割も減額している。そもそも普天間県内移設は沖縄住民の理解を得られず、米側にも実現への熱意に陰りがみえる。
「過去の合意に縛られて米側への資金提供だけ続けることが理にかなうのか。公金の使い方という視点から国民的な議論が必要だ」と同夕刊が指摘していたが。その通りである。
「嘉手納統合案」を提起したレビン構想
世界一危険な普天間基地問題打開のため、米上院軍事委員会のレビン委員長(民主)とマケイン筆頭理事(共和)、ウェッブ東アジア太平洋小委員長(民主)が来日、5月11日に声明を発表した。
「国防省の再編計画は非現実的で実行不可能。巨額の費用をかけて辺野古に移設するよりも、嘉手納基地への統合を検討すべきだ」と指摘し、「沖縄やグアムの政治的現実や、東日本大震災に伴う日本の財政的な負担も考慮されねばならない」と計画見直しを提言した。嘉手納統合案は岡田克也元外相らも提案していたが、米側は空軍の航空機と海兵隊ヘリコプターを同時に運用するのは困難だと拒否、地元住民も騒音や事故の危険性が増えると反対している。
「レビン委員長らの判断には、米国の国防政策上、優先順位の高いアフガン戦争やテロ対策のための予算を確保するためにも、実現のメドが立たない普天間問題でのけじめが必要との問題意識があったものとみられる。過去に頓挫した経緯のある嘉手納統合を提案したのは、実現可能性を模索したというよりは、巨額の財政支出を伴う普天間移設計画を中止させること自体に主眼が置かれたものとも言えそうだ」との背景分析(『毎日』5・12夕刊)に共感する。
北沢俊美防衛相は6月13日、仲井真弘多・沖縄県知事を訪ね、「普天間飛行場の辺野古への移設(Ⅴ字案)促進」に加えて、「新型垂直離着陸輸送MⅤ22オスプレイが普天間に来年配備される」と伝えた。辺野古Ⅴ字案に加え、オスプレイ配備が重なって、仲井真知事らを一層硬化させてしまった。
また北沢防衛相は「2014年までの普天間移設期限を撤回し、『出来る限り早い実現を図る』との表現で日米(2プラス2)間で調整している」と伝えた。しかし、辺野古移設にこだわればこだわるほど沖縄県民感情を刺激し、普天間飛行場固定化につながりかねない危機的状況に追い込んでしまった。「レビン構想」が〝手詰まり〟打開の契機に直結するとは思えないが、米国内で現行移設案に疑問の声が高まってきている証拠である。
いま注目されているのは、「2プラス2」会議直後の7月に新国防長官に就任するバネッタ氏(CIA長官)が、レビン構想に柔軟姿勢を示しているとの情報だ。「普天間移設と連動した8000人のグアム移設も、グアムのインフラ整備が遅れている。『CIA経費削減を進めたことで知られるバネッタ氏が、普天間移設やグアム移転の計画を見直す可能性も否定できない』との指摘がある」(『東京』6・14朝刊)との観測は興味深い。
遡れば、1996年4月の「普天間返還の日米合意」から16年も経つのに、外交交渉の拙劣さから、県民の期待を裏切ってきた日米政府の責任は大きい。新たな構想に基づき、普天間問題解決を急いでほしい。
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