前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

「世界が尊敬した日本人「正木ひろし弁護士の超闘伝⑦」八海事件の真相―真犯人の異常に発達した自己防衛本能

   

  

 ◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦い

に生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑦

全告白・八海事件の真相―真犯人の異常に発達した自己防衛本能

から偽証した① >「サンデー毎日」(1977年9月18日号)

前坂 俊之(ジャーナリスト) 

 


(1) 精神鑑定の結果は・・


最高裁判事をはじめ各裁判官は知能の低いといわれるYのウソになぜだまされたのか。

この疑問から私はスタートした。そして、約6年たった今、依然としてこの疑問は解けてはいない。ただ、この間に冤罪の経緯を解くいくつかの手がかりだけは得られた。

Y
ノートはもちろん、その中の最も大きなものだが、今一つ見過ごせないものがある。Yは七回の裁判を通じて、その供述の信ぴょう性が真っ二つに分かれたが、一度も精神鑑定をされていない。弁護側からは何度か鑑定依頼が出されたが、検察側が強硬に反対、裁判所も行わなかった。


ところが、仮所後に精神鑑定が行われたのである。Yは結核治療のため、国立賀茂療養所(広島県賀茂郡)に四十九年二月から同十月末まで入院した。
同病院には精神科もあり、久保摂二医務課長が精神鑑定をし、次のように分析した。


「Yの知能指数は70点台(普通の場合は100点以上。80点から100点までが大体、ボーダーライン、症状の順位からいうと、正常、ボーダーライン、軽愚、呂鈍、痴愚白痴となる)。


Yはボーダーラインから軽愚に該当する。戦時中の教育空白期と重なっていることもあるが、本人が自分の無知を十分認識している。これに対して自己防衛本能が非常に強く出ている。一般常識や感情抑制に欠けていることは確かだが、精神異常などに当てはまらない。


嘘言癖についても、日常デタラメばかりを言っているのではなく、追いつめられた場合、自己防衛からウソで切り抜けるものだ。ウソをついて人を陥れるほどの才能はない。嘘言癖も当てはまらない。
ただ軽愚の特徴として、おだてにのりやすく、オッチョコチョイで、先走ったことをする。
これが逆に、強く言われると、すぐ妥協し、環境によっては反社会的な行動をとることがある。集団生活になじまず、社会的には未熟である」としている。
この鑑定をみて、驚くのは一、二審の判決文中のYの分析とそっくりということだ。
このようなYのいうところを裁判官はまともに受けとめたのではないか。そこに思わぬ陥穽があったのではないかと思う。


例えば、多数犯の一つの根拠に各裁判官は「Yや他の偽証者が自分の証言によって、他人が死刑になるという重大な状況でウソを言うとは思えない」という趣旨のことを書いている。この認識を甘いと思うのは私だけではあるまい。これはあくまで優等生的な思考で、追いつめられた犯罪者の心理には適用できない。


ただ、ここで一つ注意しなければならないことがある。裁判官がYを正常と見誤る点は確かにあるということだ。共犯とされたA、Eや各弁護士も「軽愚」には見えなかったと口をそろえる。


私も六年間付き合ってみて、常識に欠けた、性格異常的な面は感じたが、とても軽愚には思えなかった。逆に、自己の利益を執ように追求し、不利益な立場には絶対たないという自己防衛本能はわれわれの何倍も発達しているように感じた。


(2) このYの二面性


軽愚でありながら、異常な自己防衛本能の発達に裁判官はだまされ、一方、検察官はそれを逆手に利用したのである。
久保課長の「Yはウソをついて人を陥れるほどの才能はない」という指摘は重要である。では誰が、Yを操ったのか。


Yはノートの中で四番から公判に出廷する前に検事から証言を教えこまれ、予行演習をしたという重大な事実を書いている。この点、私はことがことだけに、Yの自己弁護と責任逃れの可能性もあるとして憤重に取り扱ったが、Yが獄中から持ち帰ったノート六冊に確かに学習した形跡は歴然と残っているのである。


(3) 「検事が書く台本を覚えて法廷にたった」


Yは三十三年一月から始まった第四審(第一次差戻し審)の広島高裁で二十二回、証言台に立った。

「検事は公判前にはずっと一週間は続けてやって来た。大体、午後六時前ごろにて午後九時までには終わる。新聞などは検事に頼み、見せてもらうようになっていたので八海事件に関する新聞、雑誌はどんなものでもみていた」(Yノ-ト)


「検事は連日来て、『いついつにはこう言っている。これが正しい』と言って私におぼえさせる。私が警察や池田修一検事(第一審のときの検事・前号参照)にいったこと、一、
二審で言った事をまとめ、五人共犯によい方を私に読んで聞かせる。検事は記録を読むのではなく、ノートに書いてきたのを私に書きとらせおぼえさせた」(同)


「私が頭が弱いので、『忘れないようにノートに書いておけ』と指示して、暗記させた。私は検事が書いた台本を覚えて、舞台(公判廷)に立った」(同)


「私は知っていても、わざと間違えて答える。すると検事は必死になって私におぼえこませる。私はわざとウソを言って検事と一緒にいる時間を延ばした。房に帰ると寒いが、検事と話していればストーブもあるし、タバコも吸え、茶も飲める。
検事は私をよほど馬鹿だとみていた。私は自分でも頭が弱いことは知っているが、検事が思っているほど馬鹿ではない。わざと引き延ばして検事に何度も面会に来させた」(同)


「公判中、トイレで偶然、Aらの弁護士、正木ひろし弁護士に会った。『いよいよ君は悪人になったな』と正木弁護士は言った。
私はハッとすると同時に猛烈な反発を感じた。私はどうせ悪人だ。徹底して悪人になってやれ。どうせ刑務所から一生出れはしない。トコトン、ウソを言って裁判がどう転ぶか。私もこの裁判に死を賭けていた。こわい者はもうなかった」(同)


「検事の尋問が始まる前、毎日どのくらい進むかを前もって話し合った。検事は『あまりスムースに行くと、君と前もって話していると感づかれるので、わざと異議を入れるから。君はすぐ答えなくてもよい』と弁護側から異議が出る質問をした。もめている間、私は一息入れ、うまく切り抜けるウソを考えた」 (同)


検察側は三十三年九月、八海事件弁護団の原田香留夫弁護士宅を偽証教唆の疑いで家宅捜査、K子、Hらを偽証容疑で次々に逮捕した。窮地に追い込まれた検察陣のあせった非常手段であった。Hはそれまで誰もが一度も供述していないのに急に自分も共犯に加わる予定だったという爆弾発言まで行った。


「私はまさかHがウソを言うとは思わなかった。警察なら拷問でウソを言わせるが、検事はそんな事はしない。その代わり、精神的な拷問(苦痛)でウソの自白をさせる。検事は『Hは君たちと六人でやることになっていたと言っているぞ』と言った。


検事は何度もしつこく聞いた。そんなことがウソであることは私が一番よく知っている。今さら、Hと口裏を合わせるのは不自然だと思い、知らないと言った。もし、口裏を合わせれば、弁護側から追及されることは火を見るように明らかだった」(同)

 

 

                            つづく

 

 

 - 現代史研究 , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『ウクライナ戦争に見る ロシアの恫喝・陰謀外交の研究➄』★『日露300年戦争(1)-『徳川時代の日露関係 /日露交渉の発端の真相』★『こうしてロシアは千島列島と樺太を侵攻した』』★『徳川時代の日露関係日露交渉の発端(ロシアの千島進出と樺太)』

 2017/11/16/徳川時代の日露関係日露交渉の発端(ロシアの千島 …

★スクープ写真『2011年3月11日福島原発事故約1ヵ月前の『鎌倉カヤック釣りバカ日記公開』★『Severe winter in KAMAKURA SEA』と『老人の海』=『ラッキー!大カサゴのお出ましじゃ』

 前坂 俊之(ジャーナリスト)   『三寒四温』とはよく言ったものよ- …

no image
日本リーダーパワー史(595)「昭和戦後の高度経済成長を築いた男たち」ー「世界最強の新幹線の生みの親・三木忠直ー零戦の機体で世界最高水準の「夢の超特急」を作る

 日本リーダーパワー史(595)     昭和戦後の高度経済成長を築いた男たち …

no image
★『オンライン/新型コロナパンデミックの世界』(2020年12月―21年1月15日)★『 コロナ第3波に襲われた世』★「トランプ大統領の最後の悪あがき、支持者が米議事堂に乱入!』★『バイデン新大統領の就任式(1/20日)★『中国の強権、戦狼外交が続く』★『今年7月に中国共産党は結党100年を迎える』(下)

  「トランプ大統領の最後の悪あがき、支持者が米議事堂に乱入!」 前坂 …

『オンライン/日本の戦争を考える講座➅/ ★ 『 日本議会政治の父尾崎咢堂の語る<150年かわらぬ日本の弱体内閣制度のバカの壁』★『日本政治の老害を打破し、青年政治家よ立て』★『 明治初年の日本新時代の 当時、参議や各省長官は30代で、西郷隆盛や大久保利通でも40歳前後、60代の者がなかった。 青年の意気は天を衝くばかり。40を過ぎた先輩は何事にも遠慮がちであった』

   2012/03/16  日本リーダ …

no image
速報(171)『日本のメルトダウン』☆『何よりダメな日本のガバナンスーオリンパス、観光庁のケーススタディー』

速報(171)『日本のメルトダウン』   ☆『何よりダメな日本のガバナ …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(119)/記事再録☆<日本は21世紀の新アジア・グローバル主義のリーダーをめざせ>★『 アジアが世界の中心となる今こそ,100年前に <アジア諸民族の師父と尊敬された大アジア主義者・犬養毅(木堂)から学ぼう』★『亡命イスラム教徒を全面的に支援した唯一の政治家』★『藩閥、軍閥と戦い終始一貫して『産業立国論』を唱えた政治家』★『最大の功績は中国革命の父・孫文を宮崎滔天を中国に派遣して日本に亡命させ匿い全面支援した、いわば中国革命を実現したゴッドファーザーこそ犬養木堂なのだ』

     2015/01/21日本リーダーパワー史 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(255)記事再録/ 『歴史有名人の長寿と食事①天海、御木本幸吉、鈴木大拙、西園寺公望、富岡鉄斎、大隈重信』

    2011/07/19百歳学入門(30)/記 …

no image
★『地球史上最大級か? 台風19号の勢力に世界が注目(米航空宇宙局(NASA)と海洋大気庁調べ)』★『緊急スーパー台風19号の進路速報!★【動画解説】台風19号 東海・関東に上陸の見込み(10/12/am7/09)★『10/11/am730の稲村ヶ崎ビッグサーフィン動画公開』★『地球史上最大級か? 衛星写真に騒然』

2019年9月23日、国連で開催された「国連気候行動サミット」では若者世代の代表 …

no image
『各国新聞からみた東アジア日中韓150年対立史⑪』日韓パーセプションギャップ、大倉喜八郎の明治10年(1877)の『朝鮮現地レポート』

 『各国新聞からみた東アジア日中韓150年対立史⑪』   長 …