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高杉晋吾渾身レポート(23)ルポ ダム難民⑦ ダム災害にさいなまれる紀伊半島ー和歌山県新宮、田辺本宮・・・

   

高杉晋吾レポート(23)
 
ルポ ダム難民 ⑦
ダム災害にさいなまれる紀伊半島
<和歌山県新宮、田辺本宮、古座川、白浜、日高川中津、
日高美浜町の現場ルポ>
 
高杉晋吾(フリージャーナリスト)
 
ダム災害にさいなまれる紀伊半島
 
2011年12月13日、午前9時、私たちの和歌山県水害調査は始まった。
同行者は埼玉県の仲間である田原廣美、12月12日21時40分に池袋を出発して、13日の7時45分に新宮駅に到着した。
前回、11月15日から19日までのダム難民(2)において奈良県五条市大塔地区、
《写真左、被災地、本宮や新宮上流の二津野ダムの放水》》 および十津川村の調査を行ったが、その際、多くの人々から下流の和歌山県田辺市の本宮等の被害が大きいという話を聞き、自分なりに調査計画を立てた。今回は田原氏のほか、地元に明るい奈良県五条市の窪田照久氏が参加することになった。窪田氏は第一日、13日の午後から参加する。
 
「人命か?」「ダム防衛か?」画期的! 新宮市の決議書
 
新宮では市議会の災害復興対策委員会(市議全員)の前田賢一委員長と榎本鉄也副委員長に今回の水害についての話を聞いた。
榎本氏は語ってくれた。
「今回のような規模の水害は1947年(昭和22年)の大水害以降は一件もなかったですね。あの水害でも今回のような死者は出なかった。市議会は今回の水害の後で、ダム対策特別委員会発足の前に、電源開発のダムの放水が災害を激化したという市民の意見が非常に強かった。其のダム放水に対する市民の怒りを受けて、ダムの放水状況などの詳細を聞くということで電源開発を呼びまして、大阪の支店長や、ダム操作の責任者等数名を呼びまして、説明::、というよりは市議会としての抗議を行いました。」
榎本さんは至って冷静に話す人である。
(写真上、前田委員長、   写真下、榎本副委員長)
「ダム操作に問題はなかったのか?と。もう一つは事前放流をしていなかったじゃないかと。」
今回の水害では、新宮市内で13名の方が亡くなった。一名はまだ行方不明だ。そのうち6名が水死である。後の六名は土砂災害による圧死である。
「新宮市には熊野川町という町が市役所西北約12キロの十津川上流にありますが、そこの市民が異口同音に言っているのは、増水してくるスピードがものすごく速かった。逃げ遅れて亡くなったと言っておられる。これはダムの放水による異常な増水のために亡くなったということです。」
実は、この町のものすごい災害事情を前田委員長や、榎本副委員長から聞いた後に早速ご案内願って熊野川町を訪れ、現地で非常に痛切な町の人の話を聞くことが出来たのだが、その話は後にする。
榎本さんの話は続く。
「ダムに関しては、私、予備知識が有りませんでした。だが熊野川(十津川)の流域にある11基のダムはすべてが発電用のダムだということを知り(写真右、新宮市日足地区付近の深層崩壊) 新宮市議会としては、『電発も国も、十津川の治水を全く考えていなかった』と思わざるを得なかったですね」。
電源開発のダムが六基ある。そのダムは利水ダムではあるが、ある程度は治水の努力もしております、ということを電発は言っていました。
しかし、和歌山市議会は、この電源開発等の説明に納得せず、2011年(平成23年)10月6日、抗議の意味も含め,市議会としての次のような決議を行った。
 
ダムの弾力的な運用を求める決議書
 
このたびの紀伊半島を来襲し台風12号は、新宮市に大規模な洪水および土砂災害等をもたらし、尊い人命や家屋等の財産を奪い、道路、水道等のライフラインが途絶える等、過去の災害に比して類をみない甚大な被害を生じさせた。
また復興の見通しが立たない中、住宅の流出、水没、破損等により、市民生活が著しく損なわれ、農林漁業等においても多大な影響を生じた。よって生活の糧を失った市民も多く、市民不安が日増しに強まっている状況にある。
この時局に鑑み、本市議会は、災害対策及び復興対策に関する調査研究を行い、住民の安全安心を確保するために、全議員をもって構成する『災害復興対策特別委員会』を設置し、あらゆる機会を通じて議会一丸となって取り組んでいくこととなった。
なお、今回の洪水被害は、熊野川上流のダム放流に起因すると予想されたことから、電源開発に対して、ダム操作の説明を実施し説明を求め、先般実施したところであるが、電源開発の回答は『各ダムは洪水調整の目的を持たない発電専用の利水ダムで、事前放流は規定上できない』『放流量は流入量を超えず、適正』『台風時は通常より水位を下げて対応した』等々ダム操作の正当性の主張に終始したものであり、市議会および熊野川下流域の住民には到底納得できるものではなかった。
よって、本市議会は、人命最優先を念頭に、今後二度とこのような不幸をくりかえすことのないよう、電源開発及び、電源管理者である和歌山県、国土交通省、経済産業省等、政府に対してダム操作規定の見直しを含めてダムの弾力的な運用を強く要望し、熊野川下流域の安全安心に努めることを此処に決議する。
以上、本会議において決議する。
平成23年10月6日
 
これに類する決議は和歌山県の各市町村で行われている。後に逐次報告しよう。
私は榎本さんに確認した。
「電源開発(電発)の言い分は『電発のダムは治水ダムではなくて、利水ダムだ。ダムが洪水によって壊れたらいかん。だから但し書き操作によって放水するようにできている。だから但し書き操作という規則通りにやっているのだから問題はない』、という電発の話ですね。それに対して『放水によって人の命が奪われている』。規則通りなら人の命を奪ってもよいのか?社会の安全、安心を守るのは企業の社会的責任だ』というのが市議会の言い分だということでよろしいんですね?」
 榎本さんは『全くその通りです』と答えた。
新宮市は、このたびの水害によって市民がどのような被害を受けたかを次のように明らかにしている。
 
死者13人、行方不明一人。
家屋被害、全壊77、半壊175、
床上浸水1434、
床下浸水1161、
そのほか水道断水
停電、土砂崩壊による交通遮断、通信途絶等々であった。
 
この抗議決議までの顛末は前田さんが語ってくれた。
「被害を受けた後に市当局に電源開発に抗議したかと聞いたら、抗議電報も売っていないという。私は『それはあかん。被災者がダムの所為や』と怒っておる時に、市長がどういう態度をとるのかが重要だ」と批判した。それで市長の電源開発に対する申し入れをファックスで見たら『早急に来て現地を見て説明されたい』というような甘い態度で申し入れている。
市議会は「説明してくださいですって?そんな弱い態度ではあかん」と言ったら、『そんなことは議会の方でやってくださいよ』というそんな弱腰だ。それで議会から決議のようなきつい態度で申し入れをしたら、電発は二時間後に『日程調整させてくださいよ』と、言ってきた。
9月14日に説明に来た。
それは「法的な責任はないですよ」という説明に終わった。
ですから私は申し上げた・
『それならダムを撤去してくださいよ』と。
このように、ダム撤去の話まで課題に上ったのである。
 
ダム害の正体は何か?
 
私の従来からの調査では、ダムの害は,放水による被害だけではない。
 
(1)周辺地質の大きな激変、
① その結果として地質崩壊(深層崩壊)
②  上流の堆積、下流の河床削減
③ 海辺の激変
④ 地域社会への打撃
(2)水質汚濁
① ダムに堆積したヘドロの常時微量流出による河川の汚濁
②  魚介類、海草の死滅
③  観光業界、林業、漁業業界などへの社会的打撃
  などなどである。また、より広く視野を広げれば、
(3)裁判の嘘、
ダム裁判の特徴は、意図的にダム操作による加害者・電力会社やダムを管理する国、県の言い分のみを取り上げ、被害者である住民の証言は取り上げずに敗訴に持ち込む役割を露骨に担っていることである。
(4)電力業界を中心にする財界の社会専制支配
福島第一原発事故によって明らかにされ始めたように、電力業界は、平然と事実を捻じ曲げることに掛けては、政治的、社会的専制支配を行ってきた。
本来、住民のための『公共事業』であるはずの電力事業を、私企業の利権として9電力に寡占支配させることが専制支配の一歩である。
しかも、私企業が利益を得る行為である発電を行うことを政府が無条件に容認し、住民の命や財産まで奪ってざえもこれを許容し、被害者である住民が抗議しても、規則などを盾に住民に反撃するという状況になると、まるで「王のために命をささげるのが当然」という専制支配そっくりである。
しかも、民衆による『命を守れ』という当たり前の抗議が裁判によって、ほとんど却下されるという事態は、裁判が財界と専制政治の番人であること証明している。
電力業界による政治資金の提供や、電力業界労使による政界進出、天下り、マスコミ支配は、ダム操作の問題にとどまらない非常に広範な歪みを地域社会全体に及ぼしている。
新宮市議会がそれらの末端のダム操作の問題について鋭い指摘を行ったことは、今後のダム問題についての住民の側からの最初の進歩をもたらすものだろう。
 
予備放流をする協定について、各都市との協定が進む
私は、こうした被害は新宮ばかりではなく、奈良県、三重県、新潟県、福島県等々、後半な地域に被害を及ぼしており、これらの地域同士の横の連携・情報交換、一緒の行動等の連携が必要なのではないかと思う。
私は前田さんに聞いた。
「電力会社は放水についての批判を受けて、『じゃあ、事前の予備放流をやりましょう』と協定を各地と結ぶという動きをしているようですね?その点に関してはどうお考えですか?」と聞いた。
前田委員長は、太い声で話す。なかなかの迫力である。
「新宮は、協定は出来ていないんです。田辺市の本宮町が甚大な被害を受けました。御隣の紀宝町の和気(十津川左岸、新宮市田長の対岸)という地域が大きな被害です。ダム下流自治体、議会、住民が一丸となって電力会社と対応しないと良い結果は出ない。一緒に協調してやってもらえませんか?と申し入れたらみな快く『一緒にやりましょう』と。」
この問題は新宮だけの問題ではない。集中豪雨のあるところ、ダムのあるところの共通課題である。今回の私らの調査だけでも、新潟、奈良、和歌山全体を通じる共通の課題である。
前田さんは、一息入れて、相手は電源開発だけではないと言い始めた。
「電発ばかりに抗議してもいかんのじゃないか?これは国策でできたものですからねえ。国、政府、国交省、経産省にも申し入れせなならんのじゃないかと思っております」
私はうなずいた。前田さんの視点に全く賛成であった。
 
委員長いわく、高杉ルポ「ダム難民」を何度も読んだ
此処で前田さんは思いがけないことを言い始めた。
私が新宮市に前もって送って置いた新潟県三条市の水害レポート(「ダム難民①」)について前田さんは「三回も繰り返し読んだ」というのである。私は思いがけない展開に少し驚いた。
私は、二週間ほど前に何気なく新宮市役所の水害担当者にこのレポートを送っていた。私も78歳、年のせいでひどく忘れっぽい。このレポートを送っていたことを忘れていた。前田さんが思い出させてくれたのである。
 
「新潟県の三条市もそうですが、うちもダムが出来て50年もたっています。熊野川《十津川》の河床がものすごく上がっているんですよ。やはり河床の掘削、堤防の強化、これは国の責任としての治水政策の転換を図れというので今運動をしています」
そのレポートは、私なりに全力を挙げて書いたつもりではあった。今回の調査もダム難民シリーズの一環である。新宮市議会の水害対策対委員長の前田さんが繰り返し読んでいてくれ、そのことが運動に反映しているのである。
私は胸が熱くなった。光栄であり感激である。前田さんは力強く語った。
「いずれやってくると言われている南海、東南海地震とダム水害が連動すれば、かなり大きな災害になる。果たしてダムの耐震性は大丈夫なのか?電発で調査したのではお手盛りの調査になる。しかるべき調査機関を、住民が主体になって専門家を入れて作って検証すべきだと9月14日に申し入れました」
こういう見解を前田さんらは電発に申し込んだ。しかし電発の返事は「持ち帰らせてください」というお決まりの逃げ口上だった。
「被災住民は『人災だ』と怒っている。市当局は何となくやわらかな表現で書いているので、それでは具合が悪い。議会は『人災だ』ときつい表現の申し入れを書いた」
 
放流してもダメ、溜めておいてもダメ、ダムの持つ救い難い危険性  
前田さんは付け加えた。
発電所の担当者が洪水の危険にさらされて逃げた、という話があります。」
前田さんがそう言った。だがこれが本当であってもダム職員の怠慢ということにはならない。
私は「発電所の職員が逃げるのは当たり前ですよ」と言った。
下流を守るという役目を忘れていなくても、その前にダムが崩壊すれば、自分の命が危ないのである。其の場合、自分ならどうする?
「逃げなかったら職員は命が危ない。逃げるな等というなら、それは人命尊重に反する。洪水のときにダムが危険なのは下流の住民だけではない。ダム職員にとってもダムは命の危険にさらされるのが問題です。この意味ではダム職員も下流住民もダムによって同じ人命問題に直面している」。
溜められた水を事前に放流すれば、発電出来なくなる。放流しなければ、ダムが壊れて職員の命が危ない。洪水時に放流すれば下流の人の命を危険にさらす。
ダムとはどうやっても危険な存在なのだ。
私は話を一歩進めた。
「だがダム職員は何をしているのだろうか?そんな危険な状態にあるダムの有り方を告発することを忘れている。ダム職員も、今や命や放射能汚染にさらされて、少しづつ声を上げざるを得なくなっているのにダム職員は自分の命が危ないのに黙っている。なぜなのかと考えます。」
私は9月に行った新潟県三条市で聞いたダム職員の悩みを思い出していた。
その場合、告発すべき立場の電力労組は、告発どころか、ダムの行為を支持する非常に歪んだ考え方になっている。その考え方は『職場があってこそ、従業員はある。だから地域課職場かと問われたときに真っ先に職場を守れという企業と職場至上主義の考え方』を基礎においている。
自分の命や下流住民の命を無視している電力労組も重大な責任を有しているんじゃないだろうか?
 
和歌山知事も電発に激怒!『四年後には水利権更新しないぞ!』
榎本さんが云った。
「11月9日、10日に和歌山県知事に要望をしています」
「そうですか!知事はどう言っていますか」
前田さんは言った。
「知事は電源開発に対して怒っていますよ」
(写真上、洪水直後の日足地区、田長直近) 
2011年11月9日、新宮市正副議長は県知事に水害に関する要望書を提出した。仁坂吉伸知事は次のようにはっきりと答えた。
「電発は国交省OBが副社長で国策会社みたいなものだ。その証拠に人命に関してはダムが加害者だというような発言をしない。『電発が事前放流をしたなら、電力資源を損するのだから、その不利益を電発に国や県が補償しろ』というような事を言うなら電発を潰すべきだ。治水の責任は国にあるが、県としては治水のモデル作りをちゃんとやる。河床の砂利取りは市町村がやれるように検討してゆく。」
この発言は重要な発言である。かなり思い切って突っ込んでいる。だが、「ダム撤去」に関してはかなり限界があるようだ。
知事は「但しダム撤去という話までは困難だ」と付け加えるのを忘れていない。なぜ熊本の荒瀬ダムの撤去は可能で、奈良、和歌山のダム撤去は困難なのか?
前田さんも笑いながら言った。
「知事も、そういうせこい会社は潰さないかんとまで突っ込んで言っている」。
前田さんは力を込めて言った。
「四年後に風屋ダムと二津野ダムの水利権更新があるんですよ。私が知事に『もうこのままでは現状のままでは水利権更新もないでしょうね』と言ったら、『そうだよ。電発には、このやろう、という感じだからね』と言っていましたよ」
四年後の水利権更新の時期に新宮、田辺、御坊、その他の市町村住民が足並みをそろえて『撤去』に踏み切ることが出来るのだろうか?
 
新宮市や周辺市町村に、電発は「五百万円の義捐金」と言った!!!
 
「高杉さんはダム難民に書いていましたな。『ダムが作られた50年前頃は、集中豪雨は20ミリだった。ダムも20ミリに対応できる能力のダムばかりできた。ところが今は100ミリ以上の集中豪雨がざらやと、ダムで水害を防げるということは不可能』。ダムは集中豪雨の被害を余計に悪くする」と。その通りだと思いますね」
 
前田さんは、渋い声でそう言った。
私も、私の三十年来のダム取材の経験から、電力会社のダム建設の出発点から住民に説明してきた『ダムが出来れば洪水の心配はない』『ダムが出来ればその地域の観光等が栄える』という茶番話の嘘八百を熟知しているから、前田さんの話にうなずいた。
「最初のころは皆さんに『ダムが出来たから水害は無くなった。安心せい』、などと言っていた。ところが今は、『洪水が来たらダムが壊れるから洪水量をそのまま流すんだ』と言い始めた。これで電力会社の意識が『下流の命や財産等は知ったことではない』ということが明らかになった。これでは洪水が激化する。何億トンの水の量で圧力がかかった湖水を放流する。洪水が激化するのは当然だ。下流住民は堪ったものではないですよ。ところで漁業関係の被害はどうですか?」
「瓦礫が海底に沈んで、網が引けないようですね。熊本県の荒瀬ダム撤去という話がある。『それなら我々のところも撤去や!』という話になった。ダムの上流は電源三法で交付金とかいろいろな利益を得たが、下流は水害、川の汚濁など滅びの話ばかりだ。もう50年たった。そろそろダムの問題も限度かな!人命を失われてやっと気が付いた」
私はダムによる被害を受ける住民は、自分の命にかかわる話なのに、今までだまってきたのは、「ちょっと辛抱のし過ぎかなあ!」と思える。
もう一つ、電力会社の神経を疑う事件がある。前田さんは、電源開発が10月26日、新宮に500万円の義捐金を出すと申し出てきたんですよ、と言った。
「ダム撤去という話が出ているのに、500万円という人を馬鹿にした話しかいと突き返しましたがね」
人の地域に大水害を与えた加害者が、命や財産を奪われた住民に、恩着せがましく「義捐金」などと恥ずかしげもない名目を立てるのもさることながら、500万円というふざけた金額を申し出るという神経は末代までの語り草になるだろう。
突き返した程度の対応では甘すぎるというものだ。
 
被害の現地で命がけの「洪水からの脱走劇」を聞く
 
私は前田さんにお願いした。
「時間的に可能ならば、手近な場所で水害がひどかった場所に、これから行って新宮水害途はこんなところだ、という話を、水害を受けた人から直接お聞きしたいと思いますがご案内いただけるだろうか?」
かなり「ずうずうしい」とは思ったが、こういう話はあまり顧慮しすぎては、真実の追求にはならないのである。思い切って突っ込むしかない。
『そうですな。新宮では旧熊野川町ですな』
前田さんは、あっさりと引き受けそうな気配である。
私は、更につっこみをかける。
「自治会長さんや区長さん、いや誰でもいいですよ。御話し願えるならばね」
前田さんは榎本さんを振り返って「奥田さんか?前の市議会議長ですがね」
榎本さんも「そうですね。彼が良いですね」とあいずちをうつ。
『前議長の奥田さんがね。新宮市の市議会議長でしたが、今年の春に引退したんですが、家は熊野川町の高台にあるんですが、すごい被害を受けたんですよ。』
前田さんは話が早い。たちまち熊野川町の奥田勲さんに電話をかけた。連れて行ってもらった先は新宮市熊野川町田長(たなご)である。この田長は熊野古道が世界遺産に登録されたのを機会に、昔あった渡しや、川船が田長で再現されて人気を博している場所だ。
だが洪水の後の田長は渡しや川船で遊ぼうというのどかな光景は残っていないと江。もちろん川船センターも道の駅も流されてしまって面影もない。
熊野川を挟んで三重県との県境になっていて、田長の対岸は三重県南牟婁郡紀宝町和気だ。和気も今回の水害ではひどい被害に遭った。
新宮市の前議長、奥田勲さんは168号線に面した奥田石油店を経営している。
 
一秒間に約9千トン流した上流の二津野ダム
この話と、十津川上流のダムとの関係をみると、この河川の最上流の猿谷ダム(奈良県五條市と十津川村の境界付近(五条市猿谷)では、9月2日の午後四時に最大放流量1322㎥/秒を流している。
9月3日午後四時に1350㎥/秒を流している。1350トンは小型貨物船の大きさである。一分では八万一千トンになる。かなりな巨船が狭い熊野川に押し寄せるのである。
其の下流では風屋ダムが9月3日の午後五時に最大放流量4781㎥/秒を流した。一分で約28万7千トンである。
この重量は巨大タンカーに相当する。1時間ではこの巨大タンカーが、60隻も熊野川2流れたことになる。
其の下流には二津野ダムがあり、最大放流量は8、942㎥/秒である。1分あたり5約53万7千トンである。1時間あたりにすると3千2百2十万トン。三十二万トンクラスの超巨大船舶が100隻、熊野川に殺到したことになる。
この威力をみると巨大なタンクローリーが無残に叩き潰されるのは当然である。168号線の道路は通常の熊野川よりははるかに高い。
奥田勲さん《70歳・新宮市議七期、市議会議長を務め今年3月引退、ガソリンスタンド経営、今は息子が社長》に田長のガソリンスタンドの事務所で話を聞く。
その熊野川の背後の丘に建つ民宿の屋根さえも見えなくなるほど、増水は激しかった。
(写真上、新宮市日足地区、田長地区上流のプロペラ観光船発着場付近の国道168号線わきの崖に洪水で流された軽自動車がぶら下がっていた。)
168号線の丘側はかなり高くなっている。その一角に奥田勲さんの家がある。その天井も隠れるほどの増水となった。
「ここの熊野川は普段でも流れがものすごく速いところです」。
『9月2日、朝のうちはそんなに水は大したことはなかったんですよ。四時、五時頃は国道も通れたんです。それからガソリンスタンドの壁のところまで水が増えていったん止まりました。日が暮れてからそれで夕刻五時頃、流れがいったん引いたが、次の瞬間、あっという間に流れが増えた訳ですね。あそこに民宿があるでしょう」。
下流の168号線の山側の5―6メートル上に民宿がみえた。
「あの民宿の屋根まで一気に浸かって見えなくなったですよ。屋根の上まで::」
「ええ!?あの民宿が水没した?」
奥田さんは言った・
『私の家(ガソリンスタンドの前は168号線だがその国道を挟んで奥田さんの家は向かい側にある。国道よりは5―6メートル高い)も玄関の廂の上まで沈んだ。明自治22年にも大きな水害があった。
「親父に聞いた話と比べると、その時よりも今回は40センチ水位、高かったな」
奥田さんは孫を含めて家族六人を連れて少し高い納屋に逃げた。それでも水が迫ってきたので、ブルーシートを持ち出して上の山の御墓の石塔の前で六人並んでシートを皆でかぶって水が引くのを待ってましたわ」
水が引いたのは9月4日の午後3時頃であった。その頃、自衛隊のヘリコプターが救助に駆けつけてくれた。
 
命がけの脱出劇、石油トラック、屋根、流出家屋を飛び移りながら、瞬間の判断で命を守った岡本さんら
 
「流された」と言われた岡本哲司さん(61歳)をタイヤガーデンに訪れた。タイヤガーデンは奥田さん石油スタンドの隣にある。その店の所長が9月3日から、9月4日に掛けて命がけで洪水からの脱出劇を演じた人、岡本さんだ。
私が彼に話を聞いた12月13日午後はかなり寒い日だった。タイヤガーデンの店内もすっかり洪水にさらわれてがらんとしている。店の背後は熊野川(十津川)に面している。店の外で立ち話をする。
店の正面右側は空き地になっている。その空き地の奥に運転台を押しつぶされた巨大なタンクローリー《写真》がフロントを洪水で叩き潰された無残な姿をさらしている。岡本さんは店の従業員と屋根に逃れた。水位はどんどん上がってくる。どうやってこの危機を逃れるかと頭を巡らせていた。
「9月3日の日は朝のうち、あまり雨は降っていなかったんですよ。夕方4時、5時頃は168号線も通れたんですけどね。日が暮れてから一挙に水が増えてきたねえ。防火塀の高さまで水がきてから一旦水が引いたんですよ。ああこれで大丈夫だなと思ったら其れから一気に増水しましたね。」
一気の増水、一気に引く水、これはダム操作の特徴だ。大まかに言って、今回の電発による放水は次のような経過をたどっている。
 
                               (続く)

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