世界史の中の『日露戦争』⑤『一触即発の危機迫る』<日露戦争開戦40日前>英国『タイムズ』
2015/01/01
世界史の中の『日露戦争』⑤-英国『タイムズ』
米国「ニューヨーク・タイムズ」は「日露
戦争を
どう報道したか」を読む⑤
『一触即発の危機迫る』<日露戦争開戦40日前>
<戦争を回避する方策は1つしかない。ロシア側が10月の日本提案を
もし再考する用意があるのなら,平和は確保されるかもしれない>
英国『タイムズ』
1903(明治36年12月30日付)
極東の帰趨が和戦いずれとも定まらない微妙な局面にあることは日増しに明らかになっている。なんらかの理由でロシアの影響下にある一部の国際的な新聞が,平和は危機に瀕していないと盛んに請け合い,そして,平和は危機に瀕しているとだれかが言うと,びっくりしてみせるのは本当のことだ。
しかし,西ヨーロッパ人であれアメリカ人であれ,普通の知性の持主ならば,現在の単純で明白な事実に照らすとき,1つの仮定を立てる以外にそれらの主張をまともに取り上げることはできない。
判断力の及ぶ範囲で言えば,戦争を回避する方策は1つしかない。日本が持ち出したと考えられている提案にもし応じる用意がロシアにあり、10月の日本提案に対する最近の回答をもし再考する用意があるのなら,もちろん平和は確保されるかもしれない。
情報源も言語もまちまちだがロシアに味方している各紙には,ロシアがこの方策を検討していること,ロシアが土壇場になってこれを採用することが,なんらかの理由で分かっているのかもしれない。
彼らが自信たっぷりな理由の説明がこれでつくのなら,これらの新聞が確かに全く正しく,それ以外の全世界の論調は誤りということになる。しかし忘れてはならないが,この情報を握っているにしても,それを握っているのはこれらの新聞だけに限られるので,その持合せのない他の新聞が,日々見聞することを常識的に解釈しても,これらの新聞はびっくりすべきではない。
現在回答を待っている日本の覚書は,形式が全く丁重で適切である。この点については親露的な筋から言わずもがなの確証を得ており,われわれにはいささかの疑念もない。
しかしまた,この覚書が言逃れや引延しを許さぬ性格のものであることも等しく確かだと思われる。ロシアは明確で率直な回答を出さなくてはならない云期限ははっきり定められていないが,妥当な期間のうちにその回答を出さなくてはならない。回答がないか,実質的に不満足なものであれば,日本は適当と見なす手段で中国と朝鮮における重要な利益を維持する行動に直ちに出ると思われる。
するとロシアは,日本のとる手段を黙認するか,天皇の軍隊に対して攻撃に出る重荷を背負わなければならないだろう。ロシアの回答は,たとえまだ文案が作成されていなくとも,何日も引き延ばすことができない。
それが手渡されたときに,ペテルプルグから世界中に広められた融和的な主張は,ロシアが折れるということを承知した上で唱えられたか,それともこれ以上決裂を引き延ばせなくなったときに,これほど友好的で平和的な国家にたてついたという理由で日本に汚名を着せるための単なる策略に過ぎなかったのかが,われわれにはっきり分かるだろう。これほど見え透いた手管が合衆国国民の間で成功を収める見込みはどの程度のものかは,ニューヨークから本紙へ最近打電された報告に示されている。
ヨ一口ッパの偏見のない各国民に,この手管がそれほどの効果を与えることはまずないだろう。彼らは,よく実情を見きわめた上でこの争いを判断しようとするだろう。
日本政府の最新の処置から明らかなように,日本は.きたるべきロシアの回答が交渉の継続の余地を残すものであってほしいと切望しているにしても,一方ではあらゆる非常事態に備えるのが適当と判断している。昨日公布された勅令によって,皇帝が主宰する最高作戦会議が設置された。この方策が講じられた目的は,陸軍と海軍の効率的で迅速な共同行動を実現することにあるという。
この会議には,海軍と陸軍の参謀本部の首脳,陸海軍大臣,そして皇帝が選出した高級将校が参加する。同じく重要な意味を持っ別の勅令が月曜の夜に公布されたもようだ。これは,防衛のために事実上無制限の公債を募る権限を政府に与えるものと伝えられる。
日本は財政難に陥っているとのうわさが,例の反日的な筋から流されてきた。このうわさは,消息に通じた本紙東京通信員によって直ちに打ち消された。同通信員のあげる数字を見れば,たとえ軍事行動が避けられなくなっても,皇帝政府は自由になる豊富な資金を手に-して戦端を開けることが明らかだ。この資金は,両交戦国の陸海の戦力に決着がつくまで戦争を継続してもまだ余りがある。
さらに3番目の勅令は,本紙通信員のクリスマスの電報を裏づけている。
この電報は朝鮮における日本のもくろみを伝えていたが,その
予想にたがわず,この勅令はソウルー釜山鉄道の建設公債を承認し,竣工の時期を1906年から来年へくり上げた。この意味するところは,すべての当事者にとって誤解のしょうがない。つまり,たとえ極東におけるロシアの利益を強化するために朝鮮は不可欠だと「ロシアの支配政党」が確信していても(この党について本紙は昨日聞き及んだ),やはり日本は朝鮮で権利を主張する決意を固めているのだ。
さらに付け加えると,昨日のロイズ・リストの記事によれば,真偽のほどはともかく,日本は現在イタリア海域にいる2隻のアルゼンチン軍艦.モレノとリヴァダヴィ了を購入するという。これらの自衛処置をとったからといって,天皇の顧問を非難することはできない。これは決して戦争を挑発する性格のものではない。これは,現在の情勢にあって明らかに常識に促されてとられた単なる予防措置だ。
新聞界でロシアに味方する者は,ロシアは危機が円満に解決すると確信していると主張するが,当のロシアは,割ける海軍兵力をほぼすべて極東海域に集中するのが適当と判断した。兵力の集中はまだ達成されておらず,ケルン・ガゼット紙は,日本の海軍力が優勢だとの情報を不意に訂正して,ビゼルトからの航海の途上にある艦船がまだ何隻かあると述べている。
この記事が正確かどうかわれわれは疑問視しているが,ロシアができるだけ早期に完璧な兵力集中を達成するつもりなのは明らかだ。海軍の事情に詳しいと定評のアレクサンドル・ミハイロヴィッチ大公が,南ロシアをたって首都へ向かった。また,合衆国では膨大な量の缶詰が買いつけられている。平和は損なわれないとロシアがそれほど確信しているのなら,何の目的でこのような処置を講じているのだろうか。
ロシアは単なる軍事演習として,あるいは単なる外交的示威運動として,陸と海からアジアの果てへ動員をかけるぜいたくにふけっていられるような財政状態にはない。この動員が,恐るべき「紅顔子」[馬賊]や.「アジア人のためのアジア」を標榜して陰謀をたくらむので,アレクセーエフ提督の新聞,ノーゲイ・クライ紙がきわめて警戒心を募らせてはいる「汎蒙古連合」に対抗するためのものだとはまず考えられない。
もしこれが日本との戦争の準備ならば,ロシアの準備が万端整い,仮面をかなぐり捨てて本心を告げるまで座視するのは,自分の利益にならないと日本が考えるのも全く当然だろう。
ロシアのもくろみがどんなものかをうかがわせる,決して目新しくはないが興味深い別の1節が,アレクセーエフ提督の新聞に載っている。同紙は,ロシアが警戒を怠るべきでない理由として,合衆国が中国との通商条約の批准に成功した事実をあげている。
合衆国は事実これを批准し,本紙通信員の報告によれば,この件ではアメリカ政府の見解を代弁しているニューヨーク紙が,アメリカ政府にはこの条約に盛り込まれている通商特権を放棄するつもりがないと述べている。忘れてはならないが,この特権には,奉天ともう1つの満州の港をあらゆる国との貿易へ開放することが含まれている。ロシアがこの措置を受け入れがたいと見なせば,条約を結んで満州併合の許可を中国から取りつけるか,紛争を挑発して征服によって満州を併合する以上に手っとり早い難局の打開策があるだろうか。
だが野心的なロシアにとって不幸なことに,いずれの企ての実行にも日本が行く手に立ちふさがる。日本の覚書に対するロシアの回答が,ロシアが世界に期待を抱かせようと努めているほど融和的なものになりそうもないもう1つの理由はここにある。
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