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日本リーダーパワー史(590)『世界が尊敬したグレート・マン』現代日本の指針となる2人―イチローと孫正義(上)『指針のない人間に成功の扉は開かれず、戦略のない国は亡びる」

   

日本リーダーパワー史(590) 

『世界が尊敬したグレート・マン』現代日本の指針となる2人―

イチローと孫正義(上)

前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授)

『指針のない人間に成功の扉は開かれず、戦略のない国は亡びる」

 

今回のテーマは『指針』である。手元の「広辞苑」で引くと、『磁石盤の針』「時計の針」「物事の進め方」『手引き』などとある。

別の辞書には方位磁針などについている針のことであり、進む方向という意味として使われる。また、「基本的な方針」という意味として使われることが多いともある。

私の解釈では、『指針』とは問題解決の方法、方針であり、個人にとっては、どう生きていくか、生き方の方針、人生観であり、会社にとっては経営の方針、指針、経営学であり、国家にとって国家の指針、国家戦略の基本方針と考えている。

私は10年ほど前から『世界が尊敬した日本人』という連載をある雑誌で続けて、明治以降の代表的日本人100人選び、その成功の秘訣、信条、人生観を調べてきた。

また、2011年の3,11東北大地震、事故をきっかけに、今こそ「国難突破のリーダーシップ」が求められている思い、明治以降で真のリーダーシップ(指導力)を発揮した人物を調べて『日本リーダーパワー史』なる連載を私のブログで500回以上も書き、今も書き続けている。

こうした連載で考えたことは、人生の成功の失敗も、会社の経営、国家の運営の成功、失敗も根本には法則があるということだ。

何事も計画なくして、『成り行きまかせ』では成功しない。人生でも旅でも、会社、組織の運営でも、計画を立てて、方針を示して、調査、研究、準備して事に当たらないと、出たとこ勝負では成功はおぼつかないのは言うまでもない。

まず、『基本的な戦略思考』に基づいて、『情報収集・調査分析・シュミレーション』の指針をたてて、長期・短期の時間軸に合わせて実行プログラムを組んで、着実に実行していく行動力とが一体となって、目的地、成功地にたどりつくことができる。

一番大切なのは「戦略プログラム」とその果敢な実行、継続であることは言うまでもないが、このプロセスで、周囲の状況変化に合わせ、目標への軌道修正を絶えずしながら、計画を進めていくことだ。しかし、これは言うは易く、行いは難しいのは言うまでもない。

多くの人が人生の指針を立てる。指針を立てない人の方が少ないであろう。

誰もが自らの指針、哲学によって人生を渡るが、まず学校の進学問題、会社、組織に入ればその中でのきびしい生存競争が待ち構えている。人生は無事平穏ばかりではない、戦いの連続である。さまざまな4人間関係の困難、荒波にもまれて溺れ、挫折、失敗し、最終の目標地(成功)までたどり着ける人は数少ないのではなからろうか。

そんな中で、途方もない成功の彼方に到達した人を私は天才と呼ぶ。『世界が尊敬した日本人』の中の、私が尊敬する2人の天才―イチロー選手、ソフトバンクの孫正義氏のその「指針」「哲学」『人生観』から学ぶ。

 

「天才・イチローの誕生秘話」

2010年9月、イチローは10年連続200本安打の大リーグ(MBA)新記録を作った。あの小さな体で、打撃眼、打撃技術、俊足をフルにいかした内安打という「イチローマジック」を量産し打撃王に輝いた点では、まさに「打撃の発明王」という名がふさわしい。

「天才とは一パーセントのひらめきと99パーセントの努力である」(エジソン)そのものなのだ。

 

イチロー(本名は鈴木一朗)は昭和48年(1973)10月、愛知県西春日井郡豊山町生まれ。小学三年生から、一年間全く休まず、360日少年野球に明け暮れ、夜は父と近所のバッティングセンターで時速140キロのボールを打っていた。中学でも200球以上の打ち込みを毎日欠かさなかった。愛工大名電高校で平成2年に甲子園に左翼手として出場し、同4年ドラフト4位でオリックスに入団した。

「音楽の英才教育に一万時間」という法則 がある。

物心ついた幼児から一日3時間、10年間休むことなく稽古すれば、約1万時間の練習になる。ピアノやバイオリンの世界コンクールに入選する人の多くが、この手の若き音楽家である。イチローはこのスポーツマンの部類で、ダントツの世界新記録を作ったのである。

日本の武道をさかのぼれば、宮本武蔵が『五輪書』で強調した「鍛錬」という言葉が思い浮かぶ。

『鍛とは千日(3年間)の稽古、錬とは1万日(30年間)の毎日欠かさずの練習』なのである。

「野球道―アメリカの舞台へ」

イチローの野球道は日本刀をバットにかえた剣豪・宮本武蔵の生まれかわりをと思う。オリックス入団3年目の平成6年(1994)からパリーグ首位打者を7年間続けて、タイトルを総なめにして念願の大リーグに挑戦する。

2001年に入団したマリナーズのキャンプでは「日本の野球は3Aクラス。イチロの振り子打法でヒットが打てるのか」と監督から疑問視されたが、いざフタを明けると、いきなりア・リーグ新人王、首位打者(3割5分)、盗塁王(56回)、新人最多安打記録(242本)の鮮烈なデビューを飾った。

それから10年。「小さいことを重ねることが、とんでもないところに行くただひとつの道」(イチローの指針)を証明し、次々に金字塔を打ち立てた。

2004年には、1920年にジョージ・シスラーが記録した年間最多安打記録257本を更新して262本安打という大リーグ記録を塗りかえる。2010年には連続10年の200本安打達成と記録づくめである。

もともと、MBAベースボールはベーブルース、タイ・カップ、ハンクアーロン、ボンズらの西欧や中南米出身者の肉体的に優れた選手たちのホームランを競うパワースポーツだったが、そこにイチローはスピード、テクニック、頭脳、ストレッチを加味して、日本の「武道」の進化系の「野球道」を吹き込んだ。

「天才バッターは努力・継続の人」

世界記録を作ることは超難しい。その記録を伸ばすことは超超難しい。至難の極致は10,20年と連続してトップを維持することで、肉体的には非力なイチローは宮本武蔵流の「努力の継続、継続、30年継続」で野球道の頂点に立った。彼の人生の不動の指針の武蔵流の「鍛錬」なのである。

バッターボックスに入る前に必ずおこなうヒザの屈伸、足腰の筋肉のストレッチ、バットを垂直に立てる一刀流の構え、という不変のイチロー流儀は、人間の生き方、仕事術にも応用できる方法論である。けがをしない身体の入念な管理と筋肉ストレッチを毎日欠かさない。超高齢化社会で『寝たきり』『認知症』のお年寄りの体力作りにも広く応用できるのである。

イチローの指針10ヵ条件は大いに参考になる教訓である。

  • ①シーズン休まず150試合に出場するように心がける。
  • ②グローブその他の道具の手入れを丁寧に毎日欠かさない。
  • ③合前後の入念な筋肉トレーニング、バッティング練習も30年欠かさない。
  • ④カレーを常食にする。

⑤(打率でなく)ヒットを一本増やしたいとポジティブに考える。そうすれば打席に立つのがたのしみになる。

⑥何かを達成した後は気持ちが抜けてしまうことが多いので、打った塁上では『次の打席が大事だ』と思う。

⑦自分の持っている能力を活かすことができれば、可能性が広がる。

⑧打てない時期にこそ、勇気をもってなるべくバットから離れるべき。

⑨打線が苦しいときには、守備とか走塁で流れをつくるのが野球の基本。

⑩小さいことを重ねることが、とんでもないところに行くただひとつの道。

あれから5年、マリナーズからヤンキース(2012-2014)、マイアミ・マリーンズ(2015-)に移籍したイチローはすでに42歳となった。42歳といえば多くの選手が現役を引退する年齢をとっくに過ぎている。ライバルのヤンキース・松井秀喜選手は2012年に、38歳で現役を引退した。しかし、マーリンズでのイチローの活躍は続いている。

イチローは、マリナーズの本拠地セーフコ・フィールドなどにも設置していた鳥取のトレーニング施設「ワールドウィング」開発の8つのトレーニングマシーンをマーリンズにも持ち込んでいる。関節などの柔軟性を高め、肩甲骨や骨盤部分に刺激を入れる『イチロ―流』のストレッチは毎試合前に欠かさず続けているのだ。

この『よき生活習慣』が全盛期の圧倒的なスピード、「レーザービーム」を生み出す強肩を、今なお維持している要因なのである。

「継続こそ力なり」「初心貫徹」「一心不乱」「鍛錬」によってイチローは前人未到のメジャー記録を更新し続けている。

8月15日には日米通算4193安打とし、メジャー歴代2位、タイ・カッブ(タイガースなど)の通算4191安打を日米通算で超えた。歴代トップのピート・ローズの持つ4256安打まで、あと63本と射程距離にとらえた。

来年には達成できる数字である。

8月25日にはMLB史上81人目となる通算1万打席に到達した。15年での1万打席は、MLB最多安打のピート・ローズ氏が達成したキャリア14年目に次ぐスピード記録である。

8月31日には日米通算2000得点を達成した。イチロー選手はオリックス時代に658得点、メジャーで1342得点をマークし、日米通算をメジャー記録に相当すれば歴代8位となる。

メジャーの記録を一体どこまで伸ばすか、『スーパーマン・『イチロー』の活躍が楽しみだ。

つづく

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