前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『リーダーシップの日本近現代史』(65)記事再録/ 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(55)『三国干渉』後に川上操六はスパイ大作戦をどう組み立てたか『日英同盟締結に向けての情報収集にエース福島安正大佐 をアジア、中近東、アフリカに1年半に及ぶ秘密偵察旅行に派遣した』

      2019/09/30

 

    日本リーダーパワー史(673)

 

前坂 俊之(ジャーナリスト)

『三国干渉』という一大国難に張り倒された日本はこの失敗を猛反省して、西欧各国への情報収集の強化、今後の防衛政策と長期国家戦略の立案が緊急課題になった。その戦略情報立案は、いうまでもなく陸軍参謀本部・川上操六次長の任務である。早速、腹心の福島安正大佐を呼び、協議検討した。

川上「露独仏の三ヵ国の威力の前に屈服させられたわが国が、これに対抗するには英米の二ヵ国と組んでいく以外にはないとみるがどうか」

福島「そのとおりと考えます」

川上「しかし、英米とわが国が何を条件に協力できる可能性があろうか」

福島「たしかに容易ではないことは明瞭です。まず日英両国の協力態勢を獲得するための戦略企画のため、その戦略情報を集めてくることが先決と信じます」

川上「そうか、シべリヤ鉄道建設予定が今後10年先と考える場合、どうしても対露戦略上からみて欧米強国の戦略情報支援を仰がずしては成立しないな」

(以上、「島貫重節『戦略・日露戦争【上】』原書房、20P)

福島大佐は明治28年9月初旬に川上次長に次の詳細、壮大なプランを提出した。三国干渉から3ヵ月後、単騎シベリア横断からかえって、わずか1年半後のことである。時に福島大佐は43歳。今度の偵察プランは約1年半かけて、イギリスのアジア、アフリカ、中近東における植民地の実態を調査し、特にロシアに対するイギリスの弱点を探し、イギリスを日本に振り向かせるためには何が必要かを探るスパイ大作戦。

福島が『亜欧旅行』と呼んだこのプランは明治28年10月5日に東京出発ー明治30年3月まで18ヵ月間かけて、明治30年3月25日東京帰着する。全行程、約7万キロ(地球1周半)、全日数は538日という壮大無比、破天荒なものである。

その最終目的は「日英同盟締結」に導くための情報収集、関係ある諸情報を取得し、これらの情報収集要領について現地を踏査していく極秘偵察旅行であった。

もともと、川上は福島安正を参謀本部のエースにし、国際的にも一流のインテリジェンス・オフィサーに育てあげた。川上の「片腕」というよりも『超長耳』であった。英、仏、独、ロシア、中国の五ヵ国語を自由にあやつる語学の天才で、明治7年に22歳の時、陸軍通訳として勤務して以来、大正3年退官するまでおおむね情報一筋に勤めあげ、最後は陸軍大将にまでなった。

その陸軍在職40年間のうち27年間は主として海外情報収集のため歩きまわり、しかも彼は英、仏、独、露、中の五力国語の会話を自由に使い、いつも通訳抜きの単独行動を得意とし、日本の国家戦略に見合う長期情報の獲得に最大の実績を挙げた、

いわば『戦略情報の開祖』といえる。

福島の情報学は「真の情報とは相手が秘匿しているものを頭脳と足でせしめてくるものであり、他人の話や文書などで適当に作文されたものとはまったく似て非なるものだ。

もっとも歴史、地理、社会、経済等の、すでに公表されてある資料などが情報の価値判定等の前提であることはいうまでもない。

しかし、これらの前提資料の不勉強の欠を補う類のものをもって情報と勘違いしているのがよくあるが、これは能力の低劣を物語るに過ぎない」と断じていた。

明治25年、福島は破天荒な1年4ゕ月にも及ぶ単騎シベリア横断冒険旅行(ベルリンからウラジオストックまで約1万8000キロ) に出発するが、その狙いは川上の指示による対ロシア戦争に備えた軍事情報収集、特にシベリア鉄道建設情況の把握の任務を遂行させ、成功した。

ただし、今回は無名の福島の「単騎シベリア横断」(1年4ヶ月)の時とは違い、日清戦争勝利後の諸外国の日本に対する関心は飛躍的に高まっている。『ビッグネーム』となった福島大佐の行動を各国はきびしく監視している。この亜熱帯、熱帯、乾燥、砂漠、酷暑地域の偵察難行は果して身の安全と危険が保障されるかどうか、川上にとっては危惧の念もよぎったが、即、ゴーサインを与えた。明治のトップリーダーのこの速戦即決、スピード決断力と実行力こそが昭和前期のリーダー、現在のリーダーとの

決定的な違いである。

「亜欧旅行」で、福島は明治28年10月5日に東京出発し、続いて上海―香港―サイゴン一カイローアレキサンドリーベイルートーコンスタンチノーブルーポートサイト―スエズ運河―コロンボ―ラングーンーカルカッタ―カラチ(五・二)、ボンベィーマスカットーテヘランーカスピ海、―コーカサスースカパット(中央アジア)-サマルカンドータシケントーコーカンド―テヘランーバグダットープシールーボンベイーカルカッタ―ラングーン―シンガポール―バンコク―ハノイー香港―上海―長崎に帰国。明治30年3月25日に東京帰着した。

視察目的とその行動はー

  • 上海、香港、シンガポールはイギリスをはじめ欧米列国が、まさに東洋の国際都市として、この地に最も有力な極東情報の収集機関を設けている。これら先進国の情報員と連絡してその取得した情報をすみやかに東京に報告する。
  • サイゴン、バンコック、ラングーンは東南アジア諸国の情報はそのつど、各種の方法で参謀本部に報告、写真機(コダック)を利用して適確な資料を送っていた。これらの資料は甲乙丙の三種類に分けられた。
  • 甲は最も機密度の高い情報で参謀本部の川上次長宛に送致、乙は政府高官、陸軍省、参謀本部等の重要幹部に配布。

この福島大佐の超人的な体力と知力によって成し遂げられた『長期秘密亜欧旅行』は日本のインテリジェンス史上に輝く、明石工作と並んで最高度の情報収集成功事例であろう。なぜなら、これが日英同盟締結(明治35年)につながったからである。

同時に、世界をまたにかけた福島の縦横無尽のスパイ活動を指揮したボス・川上操六こそ「日本インテジェンスンの父」であることがよくわかる。

815OrWcimiL.SR160,240_BG243,243,243 (1)

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

  関連記事

ダウンロード
世界が尊敬した日本人ー『日本海軍の父』山本権兵衛―日露海戦に完勝したその『リーダーパワー』に学べ

世界が尊敬した日本人 (再録)『日本海軍の父」山本権兵衛―日露海戦に 完勝したそ …

no image
速報(273)『アメリカ軍の机上演習ではイスラエルによるイラン攻撃の危険性を凝視している(ニューヨークタイムズ)3/19』

速報(273)『日本のメルトダウン』   ◎『『U.S.War Gam …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(269)★日本が真の民主国家(自由平等、男女平等)になれない理由は—日本の前近代的な政治閥、官僚閥のルーツはー「日本の秘密結社としての 陸軍は山県有朋の長州閥(山口閥)が作った」,

2012/05/03日本リーダーパワー史(256)記事再録 『明治の巨大国家プロ …

kindaichi
★『大爆笑、メチャおもろい日本文学史』⑤『アイヌ「ユーカラ」研究の金田一京助はメチャおもろい』講義は人の3倍の情熱、純情一直線の金田一先生』

  ★『大爆笑、メチャおもろい日本文学史』⑤ 「言語学者・金田一京助」 …

no image
<まとめ>『日清戦争,日露戦争』の戦略を立案した参謀総長・川上操六の<最強のインテリジェンス>こそ明治躍進のカギ②

 <まとめ>川上操六について②   『日清戦争』『日露戦争』 …

no image
『知的巨人の百歳学(159)記事再録/ 「シュバイツァー博士(90歳)の長寿の秘訣」★「世界的チェロ奏者のパブロ・カザルス(96歳)」の「仕事が長寿薬」

百歳学入門(104) ー天才老人になる方法— 『会社』には定年があって人生に「定 …

41AlHzHlLjL._SX298_BO1,204,203,200_
知的巨人たちの百歳学(172)記事再録/「みんなで『百歳学入門』へ・超高齢社会を元気に長生きする『長寿脳』を鍛えるために』★『『定年なし、年齢差別なし、老人観の全く違う米国では65~74歳はベビーオールド(赤ちゃん老人)、75~84歳まではリトルオールド(小さい老人)、84~94歳はヤングオールド(若い年寄り)、95歳以上がリアルオールド(真の高齢者)』』

  2009/06/06 /みんなで『百歳学入門』へ &nb …

no image
日本リーダーパワー史(451)「明治の国父・伊藤博文が明治維新を語る③」 明治の奇跡「坂の上の雲」の主人公こそこの人

      日本リーダーパワー …

no image
日本リーダーパワー必読史(742)『歴史復習応用編』ー近代日本興亡史は『外交連続失敗の歴史』でもある。明治維新の国難で幕府側の外務大臣(実質首相兼任)役の勝海舟の外交突破力こそ見習え➊『各国の貧富強弱により判断せず、公平無私の眼でみよ』●『三国干渉くらい朝飯前だよ』』●『政治には学問や知識は二の次、八方美人主義はだめだよ』●『国難突破力NO1―勝海舟(75)の健康・長寿・ 修行・鍛錬10ヵ条」』

2016年10月28日/ 日本リーダーパワー必読史(742) 明治維新 …

no image
知的巨人の百歳学(144)ー「玄米食提唱の東大教授・二木謙三(93歳)の長寿法『1日玄米、菜食、1食。食はねば、人間は長生きする』

    2015/03/28/百歳学入門(54)記 …