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日本リーダーパワー史(591) 『世界が尊敬したグレート・マン』現代日本の指針となる2人― イチローと孫正義(下)「人生50年計画を着実に実行する「インターネットの帝王」孫正義」の世界制覇の野望は実現するか

   

 

日本リーダーパワー史(591 

『世界が尊敬したグレート・マン』現代日本の指針となる2人―

イチローと孫正義(下)

前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授)

「人生50年計画を着実に実行する「インターネットの帝王」孫正義」の世界制覇の野望は実現するか

さて、もう1人の『スーパーマン』にも「異名」が山ほどある。

「情報社会の風雲児」

「日本のビル・ゲイツ」

「インターネットの帝王」

『孫悟空』

「総務省、NTTにケンカを挑んだ男」

「『一丁二丁』とトウフを勘定するように『一兆円、二兆円』と売上高を数える」

「日本の大企業に成り下がりたくない、 世界のソフトバンクに生まれ変わる」

「後継者に165億5600万円の報酬を出した男」

「ソフトバンクの企業戦略は『丁半バクチ』」

『奇想天外な経営者』「ネットの天才・超人」

「『世界一の企業をめざし、実践している経営者』などなど、毀誉褒貶が絶えない。

ネットバブルがはじけ、消えたベンチャーが多い中で、孫悟空よろしくデジタルワールドを駆けのぼり、「ソフトバンクをGoogLeに次ぐネット企業」に発展させたその行動力は超人的である。

「奇人こそ社会を変える」とは孫にピッタリの言葉である。戦後日本経済の立役者であるソニーの井深大、パナソニックの松下幸之助、ホンダの本田宗一郎にならぶ21世紀の「デジタル情報革命の覇者」であることには間違いない。

 

1957 (昭和32)年生まれの孫は、福岡県出身の在日韓国人三世。子供の頃、

家は貧しかった。祖母と一緒にリヤカーを引っ張って残飯をもらいに行った。いわれなき差別を受けた。貧しさと屈辱から抜け出そうと必死で頑張り、天才的な頭脳に磨きをかけた。島国で、狭くて閉鎖的な日本と日本人への反発から、広い世界をめざした。生まれも育ちもグローバルなのだ。

1974(昭和49)年、16歳で久留米大学附属高校を中退してサンフランシスコのセラモンテ高校に留学。ほぼ一週間に一度のペースで飛び級した。さらにその勢いで試験官を説き伏せて米ホーリーネームズ大に入学したエピソードは、その天才的な行動力を示してあまりにも有名。

1980(昭和55)年には名門カリフォルニア大学バークレー校を卒業した。

織田信長、坂本龍馬を尊敬し、世界一の企業家を夢見て、19歳の時「人生五十年計画」を立てた。

「二十代で名乗りを上げ、三十代で1000億、2000億規模の軍資金を貯め

る。四十代で1兆円、2兆円規模の勝負をする。五十代である程度、事業を完成させ、六十代で後進にバトンタッチする」という壮大な計画である。

孫のエライのは、「大風呂敷」だが、着実に実行する有言実行のタイプであることだ。

世界一の発明家エジソンを追い抜いてやろうと「指針」を決めて、一日一件の発明に挑戦した。アイディアは泉のごとく湧いてきて、一年365件はできなかったものの、二年間に260もの発明、アイディアを生み出した。

その中の一つを具体化して、大学在学中に音声装置付きの自動翻訳機を開発し、シャープ専務佐々木正に持ち込み、一億円で売ることに成功。この資金を元手に事業を計画、世界一のデジタル企業を目指して「日本ソフトバンク」を設立したのは弱冠24歳の昭和56年のことである。

人生スケジュールを一1つ1つ確実に実行した。

それから13年、病気治療で三年ほど足踏みしたものの、平成6年(1994)、37歳で株式を店頭公開し、人生計画第2ステージにアップした。

孫は信長の「国とり物語」「天下取り」ならぬ、M&A(企業買収)で攻めまくる。

時代は『孫悟空』の強い追い風となった。1990年の冷戦崩壊により、インターネットが民間商用に解放されはじめた時期と重なる。21世紀のデジタル情報革命戦国時代を迎え、孫大将は疾風怒涛の勢いで先陣をきって世界を駆け巡った。

平成8年、米ヤフーとソフトバンクの合併でヤフーを設立した。わずか社員十五人、売り上げ二億円、赤字一億円のヤフーに「インターネットの大スターにする」と約束して100億円出資を即断して買収する。孫の予想通り、ヤフーはその後、インターネットの巨人に大化けした。

平成8年には「放送と通信の融合」を目指して世界のメディア王リバード・マードックと組んで、テレビ朝日の株を21パーセント買い占めたが、これは早々に撤退した。ナスダックジャパンの設立(平成11年)、あおぞら銀行買収(平成12年)、平成13年にはブロードバンド分野に進出、ADSLのYahooBBを開始、それまでのソフトの卸、出版から通信事業者へ転進した。

 孫は「銀河系のようなイメージのグループ企業にしたい」

平成16年には日本テレコムを買収し、ソフトバンクテレコムに。49 歳になった平成18年にはボーダフォン・ジャパンを2兆円で買収して携帯事業を飲み込んだ。

いち早く世界最大の市場・中国のインターネット事業にも進出した。アリパパグループ(代表ジャック・マー、アリババコム会員2千万人)に出資、同社は世界最大のBtoB、CtoCにのり出し、マーは平成15年にショッピング、オークションサイト「タオパオ・ドット・コム(淘宝網)」を開始、登録者一億人、売上高約1兆3000億円に達するなど勢いは止まらない。

いまや、インターネット全分野にわたり、世界中に関連会社1000社をおさめ、連結売上高8兆6,702億2,100万円(平成26年度)の一大「孫帝国」を築き上げ、その五十年の人生プランを文字通りクリアしてしまった。

孫は「銀河系のようなイメージのグループ企業にしたい。私はコントロールするつもりはまったくない、勝手に自己増殖、自己進化していけばよい」(大下英治著『孫正義-世界20億人覇権の野望』KKベストセラーズ 2009年)と意気軒昂で、「世界の超人」からさらなる飛躍をめざしている。

これから3年後。またまた孫社長のチャレンジ発言が世界を驚かせた。

「我々は、日本からアメリカへの投資という意味で過去最大、日本の経済史で最大の投資を行う。この投資は成功するのか? 答えましょう。自信があります!」―

2012年10月、米移動体通信三位のスプリントを1.8兆円で買収し、傘下に収めた記者会見の発表で孫社長は自信満々で、こう大見えを切った。

孫社長の「世界制覇」の野望は成功の道を進んでいるのか。

<Logmi【全文速報】孫正義氏、スプリント減損に「長く苦しい戦いが始まった」 ソフトバンク決算説明会(15年2月10日>などによるとあれから2年半、スプリント買収が完全に裏目に出て『ソフトバンクはピンチに立っている。命運を懸けたスプリントの赤字は雪だるま式に拡大の一途をたどっており、2013年のスプリントの純損失は30億ドルから14年には33億ドルに膨らんだ。フリーキャッシュフロー(FCF)は2年間で大幅な81億ドルのマイナスを記録した。

当初の孫社長の戦略は米国3位の電話赤字企業の「スプリント」を買収し、次いで4位の「Tモバイル」をも買収して、合併すれば、1位ベライゾン、2位AT&Tとも対等に戦えるようになるとの目論見だった。

ところが、ここで調査不足が露見する。日米の携帯市場の大きな違いである。アメリカの人口は日本の2倍以上だが、面積は日本の25倍もあるので、日本と同じ設備投資をしても、単純計算で投資効率は8分の1で、大幅なコスト高になる。米移動体通信1,2位と同様の設備投資をするとなると10兆円以上が必要という。

結局、規制当局の米連邦通信委員会(FCC)で業界4位Tモバイルの買収が認可されなかったのは、情報通信のカナメを外国企業に抑えられることへの「安全保障上」の危惧があったとみられている。

こうした孫社長の誤算によって、ソフトバンクは2014年8月にTモバイルの買収を断念し、今後はスプリント単独で戦うことになり、事業計画を大幅に修正した。

この間に、Tモバイルのスプリントの猛追があり、2014年12月末の総契約者数は5501万件まで伸ばし、5529万件のスプリントに迫る勢いを示し、ついに15年8月にはスプリントは4位に転落した。

2014年の米スプリントの最終損失は33億ドル(約4000億円)に上ったため、ソフトバンクは日本の携帯電話事業で挙げた利益を、スプリントに注ぎ込んで経営を続けている状態で、スプリント復活は一層厳しい状況となっている。2月10日の決算会見で、孫社長は「挑戦してみて、山の険しさ、高さを改めて認識している。長く苦しい戦いが始まった」など、自らの失敗を認めるような「弱気」の発言をしていた。

肝心のソフトバンクの財務内容では中国のアリババグループが2014年9月にニューヨーク証券取引市場に上場により、8兆円超の含み益が転がり込んだが。14年末で同社の有利子負債は10兆円を突破し、赤字垂れ流しの自転車操業で「2年以内に現金が底をつく」との金融機関の見方も出ている。

同時に、日本国内で長く1位を続けてきたソフトバンクの携帯電話純増数が、15年に入ってキャリア最下位に転落する逆風に見舞われている。

「スプリント撤退か」「さらなる資金注入か」のギリギリに追い込まれている。

ソフトバンクの栄枯盛衰はインターネットの世界のスピード変化は一層、激烈化しており、そのシーソーゲームに振り回されている感じが強い。

ネットの世界はパソコン、タブレット、スマホからクラウド、ビックデータ、モノのインターネット(Internet of Things : IoT)I、人工知能、ロボットの時代に突入した。相変わらず過去のモノづくり、製造大国にこだわり、デジタルIT経済に乗り遅れて日本の地盤沈下が続いているのだ。

「世界のソフトバンクに生まれ変わる」

次なる1手を模索していた孫正義社長は15年5月11日の決算会見で「世界のソフトバンクに生まれ変わる」と再び高らかに宣言した。

「日経新聞」「CNET JAPAN」「IT medhia」[Soft Bank HP]などによると、元Google幹部のニケシュ・アローラ氏を代表取締役副社長に昇格させ、実質的な後継者に指名。アローラ氏の力をかりて世界のインターネットの企業への投資を加速すると発表した。ニケシュ・アローラ氏にはソフトバンクが165億円の報酬を支払っていたことも判明した。前代未聞の高給である。

孫社長はアローラ氏を「Googleという世界最大のネット企業を実質的に切り盛りした経験があり、テクノロジーやビジネスモデル、人脈は私をはるかに上回る才覚を持っている。アローラ氏は世界中の人脈を生かし、海外のネット業界の人材のスカウトも行っている』と述べた。

今後の会社運営について孫社長の説明では

  • ネット事業のグローバル展開加速に向け、社名変更を行う。ソフトバンクは、7月1日付けで「ソフトバンクグループ」に変更する。
  • 「インターネットに集中投資していたかつての状況に戻し、世界のソフトバンク、インターネットのソフトバンクになる展開をもう一度加速したい
  • 大企業に成り下がることは最大の屈辱であり、最大の失敗である」――創業から30年以上経てもベンチャー精神を持ちつづけ、挑戦を続けるために、世界中の野心的な起業家たちとともに革新的な事業にチャレンジしていきたいーとも宣言した。

さらに、8月には『「後継者には100億円を」 孫氏が語る世界の常識』 (日経新聞(8月10日)の発言が飛び出した。

『100億円くらいもらう』という気概の奴がぽこぽこでると日本の社会はばーっと復活する。民間が勝手に自力で野生の本能を取り戻す仕組みが大事だよ。そういうカルチャーが大事なんだよ。サラリーマン社会もゆとり社会になっちゃったんだよ。横並びに横並びでみんな手をつないで落ちぶれる』と吠えた。

別の講演会では、「国家が危険だといろんな不安を国民が持っている時ほど、30年、50年、100年というスパンで国家としての志高いビジョン、戦略を示す必要がある。いまはその順番を間違えて、右往左往しているに過ぎない。高い志でのビジョン、戦略を真っ先に語って欲しい」と語っている。まさに正論である。

 

 - 人物研究

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