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梶原英之の政治一刀両断(6)『3・11以降、先進国から落第するということーツイッター情報監視に七千万円だした資源エネルギー庁』

   

梶原英之の政治一刀両断(6)
 
『3・11以降、先進国から落第するということー
ツイッター情報監視に七千万円だした資源エネルギー庁
 
 
                      梶原英之(経済評論家)
 
 

●中国の鉄道事故を嗤えない
 
 中国の鉄道事故は中国が先進国とは程遠いことを示した。技術的なお粗末さは、説明の仕様もないが、事故後、中国政府のとった被害者家族隔離、被害者家族への公安当局による監視が、共産党指揮下の官制マスコミにさえ反鉄道省感情を呼び、<国家問題>に発展しているのである。
 
中国は先進国となるという辛亥革命からの夢を二十年はお蔵入りにせざるを得ない。今年は辛亥革命から百年。辛亥革命の祝賀行事は続くだろうが、辛亥革命が清朝の鉄道国有化、増税の失敗による軍隊の暴動であったことは中国人の常識である。それだけに胡錦濤政権はショックが大きいのだが、因縁話は字数が惜しいから今触れない。
 
 一方、日本のフクシマ原発事故は3・11から後、日本が技術的に先進国でないことをいといや言うほど露呈させてきた。ところが7月の最終週になって、プルサーマルの公聴会で原子力保安院が情報操作しようとしていたことや、経済産業省エネルギー庁がツイッターの原発世論を監視しようとしていことが明らかになった。
 
●科学技術が民主主義のルールから外れていた
 
 つまり日本は科学技術が民主主義、法治主義の下になかったのである。近代国家以前だったのである。中国の高速鉄道事故の結末を嗤うことなど出来ないのである。
 
 
●IAEAの報告書も意図的な誤訳
 
原発情報の問題では東京新聞がリードしている。
7月29日各社が報道したIAEAが07年報告書で指摘した日本の原子力保安院の役割の問題点について、東京新聞は日本政府の和訳による発表文が日本の原子力行政に「好意的に評価された部分のみを和訳して公表していた」と明確に指摘した。日本政府訳では「日本は原子力安全のために法的、行政的枠組みを備えている」と発表されていたが、ウソの誤訳だった。IAEAの原文では「保安院と安全委の役割を明確にすべきだ」とマ逆だったのである。
 
さらに「人的資源の管理計画を戦略的に策定すべきだ」「産業界と一定の距離を保った関係を築くべきだ」とIAEA注意されたのを、政府訳では日本の原子力体制がIAEAから認められたと”意図的誤訳”をしていた。IAEAの真意は狭い原子力ムラだけを優遇するな、電力業界と癒着しすぎ!と警告を発していたのである。
 経済産業省の英語力はこの程度なのかもしれないが、要はマズイことを国民に報せないうちに、3・11の未曾有の事故が起きたのである。
 
●エネ庁がツイッター情報監視へ
 
 前日28日の東京新聞朝刊では興味深いトクダネが一面に載っていた。見出しは「エネ庁の原発情報監視 本年度700万円で契約」
 原文に近い形で紹介する。「資源エネルギー庁が多額の税金を使い原発に関するメディア情報を監視してきた問題で、一般市民が発するツイッターなどネット情報を監視する本年度の事業は広告代理店『アサツーディ・ケイ』(ADK、東京都中央区)が約七千万円で落札・契約したことが二十七日、同庁への取材で分かった」
 
 資源エネルギー庁が「昨年までの三年間に計約四千七百万円をかけ新聞や雑誌など原発記事をチェックする事業を、原発と関わりの深い公益法人などに発注してきたことも判明」した。
 
 そこで東京新聞は海江田経済産業相に取材。「海江田万里経産相は『予算があるからといって使い切る必要はない』と細野エネ庁長官に指示し、事業の見直しの可能性も示唆した」。  一方「ADKの担当者は『福島第一原発事故の風評被害防止になる事業だと判断した。事業内容については委託された立場なので、同庁の出した事業を進めるだけ』と話している」
 
 以上が東京新聞の報道だが、この記事を受けてのことだろうが、28日には、東京弁護士会の対応が報道された。東京弁護士会の声明では、原発や放射線に関連したインターネット上の情報を経済産業省・資源エネルギー庁が監視する事業に対し、「自由であるべき情報流通に対する過度の干渉にならないか、極めて強い懸念がある」としている。
 
●公益法人が監視していた過去
 
 経過に分かりにくい部分がある。まず原発・放射能情報を監視するための公益法人が存在した。その資金が税金からなのか電力業界なども入っていたのか不明。理事などに、どの省から人が来ていたのかも、不明。政府以外の人もいたのか、いまだ不明だが、3・11以後、解散したようだ。
 
しかしその分、税金が余ったので、今度は民間企業を入札で選定したらアサツーディ・ケイに決まったのである。ただ金額的には、明らかに公益法人時代より増額されている。フクシマ事故に危機感を感じたエネ庁は監視を強めようとしたのであろう。ここは解明されねばならない。
 
●情報監視、操作に関心が集まっていた
 
 この話が広まった時、マスコミではアサツーディ・ケイに出来るのか、と言う反応が多かった。またアサツーディ・ケイは第三位の「広告代理店」となっているが、他にどんな仕事をしている企業なのか、という問い合わせがあった。広告代理店は業務範囲を定款で決めていないのか。
 
 また、それ以前3・11のあと、テレビから「危機管理」とか「情報戦略」の指南を仕事にしていたコンサルタントが消えた、という話が話題になった。一番危機管理が必要な時期にコンサルタントどこにいったのだろう。また近年コンサルタントはコンプライアンス(法令順守)が最も大切だとといていたはずだ。筆者の知るコンサルタントは今、原発だの電力だのから仕事を請けることはビジネスとして危険と夏休みを取った。
 
● 民間企業に「監視」が出来るのか
 
 全体の事態をどう見るかは、後で書くが、アサツーディ・ケイも契約した以上、この仕事を遂行するだろう。
 
 しかし公益法人という法律を背負った組織では、社会から指弾される可能性のある状況になったので、資源エネルギー庁が発注先を変更させたのである。しかしそんな難しい情報監視事業を、コンプライアンスに触れることなく民間企業が出来るものだろうか。
 
 まず経産省エネ庁は、入札書類で(発注内容として)個人情報保護法にふれず、憲法にも触れないやり方を、指示していなくてはならない。そして発注内容と法令順守の注意書きを今から国会に公表すべきである。どんなやり方でも、反原発派を探せというのでは憲法から許されない。
 
エネ庁は情報監視できるのか
 
 しかしこの話は、本当に真面目な情報監視なのだろうか。ウンカのごときツイッター情報から原発に対する発信者の情報を調べ、分類できるのだろうか。どうせ米国ではやっていることをエネ庁が聞きかじって発注したのだろうが、言語構造がイエス・ノーの米国とは違う。川端康成ではないが「曖昧な日本語」に翻弄されるだろう。
 
 だいたい現在、文字情報、文字になったインターネット情報、テレビなど放送情報については、財界団体の経済同友会でさえ縮原発なのだから資源エネルギー庁が監視するまでもない。国民全体が脱原発か嫌原発なのだから監視しても仕方がないのだ。
ツイッターの情報を監視するということは、有名人の情報を監視することに他なるまい。しかも反原発グループの情報も不要だろう。
 
ツイッターが好きなのは政治家である。さらにツイッターを使って政策情報を発しているのは国会議員である。
 つまり、この監視計画では、ツイッターで本音を漏らす政治家を監視しようとしているのではないか。これは筆者の推測だが、官僚が選挙で当選した議員の情報を監視することは民主主義への挑戦である。
 くだらないことをツイッターで流す政治家が政権交代以後急増。中身がくだらないことは嘆かわしいことだが、法制度上は別のことで、情報監視はイエローカードである。
 
●法令順守は重いぞ
 
 しかし請け負った民間企業としては、どうしてコンプライアンスを守るのだろうか。アサツーディ・ケイは法令順守がとくに強く求められる上場会社だ。作業者がやることはパソコンなど機械の前に座って、監視しているだけである。しかしポイントはササヤキ情報を個人名別に記録集計することである。
 
 そして評論家のダレは反原発だと決めてしまうのだ。
 その監視結果はどの範囲に報告されるのだろうか。
 作業者にはエネ庁からの発注書で守秘義務が課せられているのだろうが。しかし民間企業の社員に完全な守秘義務が課せられるはずもない。しかしまさかアルバイトにはさせられないだろう。
 
社内の内規で守秘義務がハッキリした正社員が月500万円の範囲(年7千万円は月5百万円だろう)でパソコンの前でにらみつけているのだ。大企業の正社員の人件費負担はほぼ月百万だから五人程度の人員しか割けまい。(きっと無限の情報の中から「原発」という文字を拾う外国製の情報監視ソフトがあるのだろう。その購入なくしてできる話だろうか。だれが購入するのか強い関心を持つべきだ)
 
●140字で、反政府的と決めてしまっていいの
 
 筆者が怖れるのは、ツイッターの百四十字以内の答えから「この人は推進派」「反対派」と分かるほどの文章解読者が広告代理店にいるものだろうか。エネ庁が知りたいのは究極的に親経産省、親政府、親東電の人を探し出したいのだろうが、いくら和歌(三十一文字)や俳句(十七字)で鍛えた民族でも、考えてもいないこと表現できない。
 原発の現状を憂いている人が、単純に反原発と分類される大間違い。経済的には原発が要るといっただけで、原発推進派に分類される喜劇。
 
●四面楚歌の声を聞き、原発容認派を探す?
 
 本当のところは監視と言ってもエネ庁がしたいのは、原発容認派という味方を探したいのだ。そして中間派を容認派に転向させるために働きかけたいのだ。情報操作である。
原発推進官庁にとって、この四面楚歌の中、少ない味方を掘り起こしたい気持ちは分かる。
まことに日本的なオルグの方法だが、それゆえ広告代理店が選ばれたのだろう。
 
 なぜか。広告代理店はマスコミに広く広告スポンサーを紹介するのが業務。つまり監視業務のあと、その結果からマスコミ論調に影響を与えやすい業種だからに違いない。
 広告代理店はマスコミの日常的な取引先である。マスコミの社長に直接会ってエネ庁の意向を伝えることが可能な業種である。
 
 このため筆者はどんな業種を対象に入札させたのか、深い関心を持っている。
 広告代理店の数は何千もある。ほとんどの企業がオピニオンに関わることなど考えていない。
 
 広告代理店が「世論調査」を行うのは、請け負った広告の浸透度を調べるだけ。知られていないことだが広告業の倫理規定は、そうとう詳しく定められている。業界三位の広告代理店が不特定多数のツイッター情報の監視を請け負うことは業界でも波紋を呼ぼう。普通の広告代理店が困るからだ。
 
●情報監視と情報操作、どっちがしたいのだ

 
 ツイッター情報などという気の変わりやすく、なにが本音か自分でも分からないササヤキの監視、分類という不可能事に国家が予算七千万円が使うはずがない。官庁は今後、情報操作の作戦を立て、その際の手足になる組織を捜しているのだ。
 
●税金は泰山より重い
 
 海江田経済産業相は、もう契約したのだから、一年とは言わず短時間で事業を終わらせ、結果を国会で公表すべきだ。事業を止めたら違約金を取られモッタイないからだ。
 むしろ発注内容を変更し、九月一日を期して、今後の原発についての世論調査をさせたらいい。そして発表するのだ。それなら税金のムダ使いともいえまい。

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