前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

 ★『アジア近現代史復習問題』福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む』(8)「北朝鮮による金正男暗殺事件をみると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」●『京城釜山間の通信を自由ならしむ可し』(「時事新報」明治27年6月12日付』★『情報通信の重要性を認識していた福沢』●『朝鮮多難の今日、多数の日本人が彼地に駐在するに際して、第一の必要は京城と我本国との間に通信を敏速にすること』

      2017/03/07

 ★『アジア近現代史復習問題』

福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む』(8)

「北朝鮮による金正男暗殺事件をみると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」● 

 

『京城釜山間の通信を自由ならしむ可し』(「時事新報」明治27年6月12日付〕)

 

 朝鮮の内乱につては日本政府に於ても、公使館、領事館、居留人民保護のため出兵の議に決し、天津条約の明文に従ひ、支那政府に向て其旨を通知したるよし。

兵隊軍艦の数、及び其兵の所向の如きは、軍機の秘密にして素より知るを待ざれども、京城(ソウル)は公使館所在の地にして、居留の人民も少なからざることなれば、我兵の保護を要すること最も多きは、第一に此方角なる可し。

聞く所によれば支那に於ても朝鮮政府の請求に応じ共内乱を鎮圧するがためなりとて数千の兵を牙山浦に向はしめ、其公報は既に我政府に達したるよしなれば、日清両国の兵は何れ相前後して朝鮮の地に上陸することならん。

我出兵は元来、彼地に在る我人民を保護するためにして他に目的あるに非ず。若しも彼国の内乱にして全く鎮定して危険の虞なきに至るときは、速に撤退す可きは勿論にして、支那兵とても同様の次第ならんと錐も、果して全く鎮定したるや否を認めていよいよ兵を撤するに至るまでは、実際に幾多の時日を要することならんと思はるるは外ならず、彼の政府は支那に援兵を請求したりと云へば、支那兵は必ず其鎮定に従事事することならん。

我国とても時宜に由りては、彼れにカをかすこともある可し。他国の兵力を以てすれば彼の烏合の暴徒を圧伏するは一挙手一投足の労にして、数日を出でずして事は定まることならんと錐も、之を以て直に内乱鎮定、兵隊撤去の時機とは認む可らず。

朝鮮の現状を見れば政府の実力甚だ微弱にして、自から其内乱を始末すること能はず、他の助力を要する程の次第なれば、若しも一時の鎮圧を見て直に兵を引揚ぐるときは、忽にして暴徒の再燃を致すやも図る可らず。

誠に不安心の次第なれば、いよいよ真実に鎮定して、彼の政府のカにても其無事を保証するに足るの安を確めたる上に非ざれば、容易に手を引くこと能はざる可し。

左ればいよいよ、其実を確むる迄は、保護のため出兵したる兵は一人たりとも減ず可らざること勿論にして、支那兵とても亦同様の手段を執ることならんなれば、日清両国の兵は今より凡そ数個月の間は両々相対峙して彼地に屯在することならん。

兎に角に朝鮮多難の今日、多数の日本人が彼地に駐在するに際して、第一の必要は京城と我本国との間に通信を敏速ならしむるの一事なる可し。

今日の有様を見るに、京城釜山間の電信は明治十五年の変乱後、日本政府が彼政府と約束して架設せしめたるものなれども、其取扱甚だ不始末にして、何か必要の場合にはかって実用を為したることなし。

況(ま)して。内地の騒動以来は全く不通の姿にして、止むを得ず彼の義州線に由りて用を弁ずる次第なれども、義州線は支那の内地を経過して其政府の所有に係るものなれば、日本の力を以て自由にす可らず。

必要の場合に通信を誤らるるも致方なかる可し。即ち其場合には海路の船便に由るの外なけれども、一方は電信を利用して坐ながら事の消息を知り、又その命令を伝ふるの便利あるに引換へ、一方は海路の往復に数日間を費さゞるを得ずと云ふ。

瞬間の遅速を争ふ火急の場合などには、其利害得失言はずして明なる可し。

左れば、今岡我公使の彼地に到着したる上は、朝鮮政府に談列して一時釜山線を借受け、日本人の力を以て其沿道の障害を防塵して通信の便を謀る可し。或は其電信にしていよく用をなさゞるものならんには、自から京城より釜山に至るまで至急軽便電線を架設して通信を敏速ならしむるの工風肝要なる可し。

此際日本人の力を以てかゝる長路間の電信線を保護し通信を自由ならしむるには、其費用と努力とは容易ならざることならんなれども、国事の大計上より見れば其労費は吝(おしむ)に足らず。速に談列して速に着手せんこと我輩の希望する所なり。

             〔六月十二日〕

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
「日本敗戦史」㊴徳富蘇峰が語る『なぜ日本は敗れたか』⑤「昭和天皇の帝王学とリーダーシップー明治天皇と比較」

『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㊴   『来年は太平洋戦争敗戦から70年目―『日本 …

no image
『中国紙『申報』、外紙からみた『日中韓150年戦争(51)「(日清戦争開戦1週間前)-ロシア紙、ドイツ紙の報道

   『中国紙『申報』など外紙からみた『日中韓150年戦争 …

no image
『ガラパゴス国家・日本敗戦史』①『近衛文麿、東條英機の手先をつとめたのは誰か』①「水谷長三郎(日本社会党議員)」

  1年間連載開始―『ガラパゴス国家・日本敗戦史』①   なぜ、米軍B …

no image
「稀有の海軍大佐・水野広徳年譜●『国大といえども戦いを好む時は必ず滅び、天下安しといえども戦を忘るる時は必ず危うし』

●『国大といえども戦いを好む時は必ず滅び、天下安しとい えども戦を忘るる時は必ず …

日本名人・達人ナンバーワン伝ー『イチローは現代の宮本武蔵なり』★『「五輪書」の「鍛錬」とは何か、鍛とは千日(3年間)の稽古、錬とは1万日(30年間以上)の毎日欠かさずの練習をいう』●『武蔵曰く、これが出来なければ名人の域には達せず』(動画20分付)★『【MLB】なんで休みたがるのか― 地元紙が特集、イチローがオフも練習を続ける理由』

    イチローと宮本武蔵「五輪書」の「鍛錬」 の因果関係ー免許皆伝とは!!   …

no image
『アジア開国の父』福沢諭吉の「韓国独立支援」なぜ逆恨みされたか③ー井上角五郎は孤立無援で新聞「漢城旬報」発行にまい進

    「日本開国の父」『アジア開国の父』の福沢諭吉 の義侠心からの「韓国独立支 …

no image
名リーダーの名言・金言・格言・苦言・千言集(16) 『“ダム経営”を行え』(松下幸之助)『朝令朝改をせよ』(盛田昭夫)

<名リーダーの名言・金言・格言・苦言 ・千言集(16)            前 …

no image
日本リーダーパワー史(188)国難リテラシー『東條開戦内閣の嶋田繁太郎海相の敗戦の弁』<戦争の原因、反省と教訓>

日本リーダーパワー史(188) 国難リテラシー 『東條開戦内閣の嶋田繁太郎海相の …

<F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(209)> 『7年ぶりに、懐かしのアメリカを再訪,ニューヨーク めぐり(5月GW)⑥『2階建バスツアーでマンハッタンを一周』ブルックリンブリッジを通過、 イーストリバーを右手に、国連ビルを見上げ、 トランプタワーを見て、セントラルパークに向かう②

<F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(209)> 『7年ぶりに、懐か …

no image
  日本メルトダウン(998)―『 早くも暗雲、トランプ政権に尽くす人はいないのか 「エリート」たちにそっぽを向かれたトランプ次期大統領 』●『偽ニュース攻撃で自滅する米マスコミ』( 12/1, 田中 宇)★『  ネットに広がる「フェイク・ニュース」― 嘘と真実の見分け方とは』◎『中国、金の輸入と人民元の流出を制限 外貨準備高がピークから約25%減少、資本流出に警戒感強める当局 (英FT紙』●『「大きな黒い頭の鼠」が巣食っていた東京都―「大山鳴動して鼠一匹」は間違っている』●『日本はどうする?IoTの“根幹”を欧米2社が制圧–IoTビジネスの序盤戦はすでに決着済みの様相』

  日本メルトダウン(998) 早くも暗雲、トランプ政権に尽くす人はいないのか …