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*

速報(185)『日本のメルトダウン』☆『3/11福島原発の半年後の真実に迫る-―小倉志郎、後藤政志氏との座談会(下)』

   

速報(185)『日本のメルトダウン』
 
3/11福島原発の半年後の真実に迫る-
―小倉志郎、後藤政志氏との座談会(下)
 
季刊「日本主義」2011年冬号(1115日発売)
 
 
 
福島原発事故から半年――
リアリズムと文明論の複眼を持て()
 
あらゆる工業製品は、耐性実験、破壊実験を経て商品化される。原発は、それができない。いわば巨大なシミュレーション、バーチャル実験の産物であり、失敗を前提としない商品である。私たちは、今そうしたシステムを存続すべきか否か――文明論的な選択の岐路に立っている。
 
《座談会出席者》
 
小倉(おぐら)志郎(しろう)(元原子炉格納器設計者)
梶原(かじわら)英之(ひでゆき)(経済ジャーナリスト)
後藤(ごとう)政志(まさし)(元原子炉格納器設計者・評論家)
前坂(まえさか)俊之(としゆき)(ウェブジャーナリスト)
渡辺(わたなべ)幸重(ゆきしげ)(科学ジャーナリスト)
 (50音順。敬称略)
 
 
 
 
放射性廃棄物問題が解決すれば核問題の半分は解決する
 
前坂 循環装置で放射性物質が減衰するというような報道が出ていますが、実際には、ゼオライトとかとの素材で、吸着しているだけで、放射性物質そのものが減るものじゃないですよね。
 
小倉 そうです。放射性物質というのは、放射性同位元素といわれる元素なのです。その原子核が、放射線を出しながら変わっていく。
この現象は人間が変えることはできない。ですから、人間が手を加えることによって、その元素の性質が変わるのではなくて、元素が持っている固有の半減期をもって、その半減期ごとに放射能が半分に減っていくということなのです。放射能をなくすには、それを待つしかないのです。
 
ですから、今やっている冷却水から放射能を減らすというのは、放射性物質を水の中から吸着して集める、つまり()すということですね。濾して集めた放射性物質は、なくなるのではなく、むしろ高レベル放射性廃棄物のような形で集まるのです。
ゼオライトを使うとか、あるいはイオン交換樹脂等を使った浄化装置に、放射性の粒子、イオンが集まって、高レベル放射性物質になる。だから全体としては減らない。そこは誤解のないようにしておかなければならない。
 
後藤 放射性廃棄物は、一端外界に放出したら、ほとんど半永久的に人間が管理しなければいけないものです。
 
それは大量のドラム缶に入れようと、どういう格好にしようと永久に存在するのです。ですから、もし放射性廃棄物問題が解決できるのだったら、核の問題の半分が解決するわけです。最終処分場がどうだとかいう議論がなくなり、放射性物質がなくなるのだったら、それは随分幸せですよね。
 
しかしそれは、小倉さんがおっしゃったように不可能なことで、必ずどこかにあって、ババ抜きのような押し付け合いになる。これをどうするか。「集めたけど誰が持つの? とりあえず中に置いておくの? 福島に置いておくのは嫌だよ。ほかに持っていく? ほかは嫌だよ」と、この関係がずっと続くのです。
小倉 環境の中の除染も同じことすね。例えば
、学校の校庭とか、幼稚園の遊び場の土の表面を、3cm、4cmとか削って、その庭はきれいになったかもしれないけれども、剥ぎ取った土は放射能がなくなったわけではないわけです。結局それはまたどこかで保管しなければならないわけですから、同じことなのです。放射能全体がなくならないのです。
 
前坂 そうなりますと、問題解決の前作業の段階でまだ右往左往していると。なかなか復興を前に進めるのが難しいということですね。
 
後藤 事故収束の工程表といっても、東電が作業がやりやすい環境を作るとかどうするか、と言った話で、放射性物質の全体除染は別次元のことですね。これから深刻になっていくと言ったほうが、私は正しいのではないかと思います。
 
前坂 しかし、報道では、一応循環冷却をやっているので、もう解決の方向に向かっていっているじゃないかという気になってきますよね。
 
小倉 私はテレビを見ないので、新聞だけですけれども、確かにそういう雰囲気が感じられるのです。9月初めから、5ヵ所ぐらいで講演をしたのですが、よくお母さん方から、相談されるのです。例えば、千葉県の松戸市の2、3歳くらいのお子さんがいるお母さんの話ですが、「心配で心配で、ガイガーカウンターを買って、家中を調べて回っている。
 
それで、2階の部屋の中が、0・13マイクロシーベルト、1階はちょっと低くて0・12で、庭は云々。それで子どもは1階に住まわせたほうがいいでしょうか、庭で遊ばせたらまずいでしょうか」と聞いてくる方がいらっしゃるわけです。
正直どうお応えしていいか。簡単に答えられないですよね。東京都内に住んでいる、小さいお子さんがいるお母さんたちも、同じように心配されていて、毎回そのような相談を受けるのです。全然いい方向へなんか向かっていません。安心できる状態に近づいているわけではないです。
 
後藤 本当に私もそういう話を聞くとたまらない気持ちになります。結局われわれはやはり、放射性物質がそこに撒き散らされた状態で、もしかしたらここにあるかもしれないという危機感、心配を常にしながら生きているのです。私は、こんな酷なことはないと思います。こんなものは人間の生きられる環境ではありません。
 
汚染につきましては、環境全体の状況の把握と、ローカルな汚染の把握をしっかり行い、放射線の管理がきちんとできること、そして人とどうやって隔離するか、植物とどう隔離するか、そういう体制作りを行うことだと思います。かなりきめ細かい、技術的な問題がありますが、それをきちんとやらなきゃいけない。
 
ただ、最初の頃、東電の人が、線量計をつけているといって、バシャバシャと水の中に入って、高濃度の汚染に遭いましたね。つまり放射性物質がそこにあっても、事前に検出し、防御できないのです。そういう態勢になっていなかった。
 
ある意味で、今東日本の多くの地域がそういう状況下にある。かといって手の打ちようがないというのが正直なところですけれども。だから、そういう厳しい状況になっているという認識の上で、とにかくできる限り、その汚染をどうしようかという議論になる。それが、今回の福島の原発事故の教訓だと思うのです。
 
第二次大戦敗戦の愚を繰り返すな
 
梶原 経済屋の私の視点から言うと、東京の不動産など、この数ヵ月ものすごく動きが悪いですよね。不況に輪をかける大きな懸念がある。もうひとつ、自民党などが、「風評被害」という昔の言葉を使って、政府を攻め立てているけれども、風評といっても、明確な原因のある話ですからね。その背景には、国民の大きな不安があることは事実です。
 
文明が終わるときは、すべて経済の変調が原因だと私は思っています。日本のポリシーミックス、財政、金融、これだけもう壊れているというのに、テレビに出てくるようなエコノミストは全く心配している様子がないのが、不思議です。
 
とにかく普通の人が考えないようなシビアアクシデントが起こった。いろんな復興政策やら、経済対策も大変です。しかし一番問題は賠償責任です。当初は天変地異ということで、原子力賠償法に基づいて議論されている。しかし、今後10年間、もっといろいろな形で責任論が出てくるでしょう。賠償をめぐる民事訴訟が各地で無数に起きるでしょう。
 
ただ、こんな国家的な大事故が、なんで起きたのだろうかということ、また、起こさないような技術的なことをしてこなかったということは、天変地異は免責という損害賠償法と全く無関係なことだと僕は思っているのです。
 
というのは、普通の化学会社だったら、地震で施設に不具合が生じたら、そこを直せばいいのです。しかし、原発ではそうは行きません。原子炉建屋の中に入って直そうにも、人が15分もいられないようなところに、普通の化学会社よりもたくさんのSF映画的な配管があるわけです。
 
それが壊れたら、もう修理しようがない。事故を絶対起こさせないようにするか、万一事故が起こったことに備えて普通の化学工場とは桁違いの防御体制を敷いておくしかありません。だから私は、損害賠償法で法理を立てるなと言いたいのです。天変地異なんて、江戸時代の話ではあるまいし、そんなことより、これはただの一般法上の準備不足だというのが、私の考えです。
 
小倉 これは、原子力、つまり放射能を伴う原子力産業に共通の問題なのです。今、事故を起こしている原発のみならず、過去に何度も事故を起こした六ヶ所村、去年の夏に重大な事故を起こした「もんじゅ」、みんな、今おっしゃったように、放射能があるために、事故を起こした装置に近づけないのです。「もんじゅ」も六ヶ所村も、それから福島も普通の産業とは全く違うのです。
 
普通の産業ならば、そこに近づいていって、詳しく破壊の、破損の状況、原因を調査できるのです。ところが六ヶ所村も「もんじゅ」も、福島もできないのです。
したがって今も事故がどういうふうに推移したか、つまり地震がきて、津波がきて、そしてメルトダウンしていったかという物理的な現象の過程が未だに解明されていない。だから、「何を間違えたのか」ということが分からないのです。設計的に何かを間違えたのか、あるいは製造的にどこかを間違えたのか、あるいはセンサーの問題があるか、メルトダウン過程のシミュレーションを間違えたのか、材料の選定を間違えたのか……。つまり、普通の今までの科学技術、工業界でいろいろなトラブルを乗り越えてきた、そういうやり方ができない。ですから、原因が本当につかめないのです。
 
だから僕は、そういうチェック&フィードバックの利かない原子力発電はもうやめたほうがいいという意見です。
 
今までのやり方、従来の産業におけるような発展の仕方はできないのですから。私も本当のことを知りたいのです。何を間違えたのかということを知りたいのです。解明したいのです。だけど、放射能があるために、それができないのです。
 
後藤 「もんじゅ」の場合、核燃料を取り出す装置が壊れてしまったから、修復作業をしようとしても、何もことが始まらない。かと言って、中を覗くためにナトリウムを抜くわけにもいかず、蓋を開けようとすると、中に不活性ガス、アルゴンガスか何か入っていて、空気(酸素)と触れると爆発しますから開けられない。普通の機械系のプラントの中でトラブルが起こっても、蓋を開けてパッとやって3日あったらすぐ直せます。「もんじゅ」の場合、それが半年かかるのです。
 
 その絶対的な違いの感覚が大事なのです。「放射性物質があって、こうなってこうなって」というようなことを、修理できない理由に並べ立てる――いったい、それを技術と呼ぶのかと思います。「あくまでも高度な技術だから」などと言いますけれども、私に言わせると設計すらできていないものが、高度な技術なんてとんでもない、と言いたい。
 
再処理工場でも同じです。溶融物をろ過する装置があるのですけれども、そこが止まってしまう。そうしたら手の打ちようがない。何もできない。放射能が強すぎて、ろ過装置まで近づけないから。
 
小倉 最後は、高レベル放射性廃棄物をガラスに溶かし込んで管理すると言う。ところが、そのガラス固化体製造装置が重大な故障を起したが、調査しようにも人が近づけない。
 
これは要するに太平洋戦争のときに、もう全く勝てないということが分かっているにもかかわらず戦争を止められなかったのと同じですね。結局、広島・長崎に原爆を落とされて無条件降伏することになる。本当は勝てる見込みがないと分かった時点で、戦争を止める行動にでなければいけなかったのに、できなかった。
 
今回は、放射能という敵に負けているのです。勝てる見込みがないのです。にもかかわらず、「まだ勝てる、まだ勝てる、われわれが持っている日本の技術をもってすれば、なんとかなる」という幻想、これはもう第二次世界大戦の際の敗戦の精神構造と同じです。
 
梶原 チェルノブイリのときは、共産主義的・強権的に、「収束」にもっていったわけですね。今はそうじゃない。今日の日本では、そうはいきませんね。
 
小倉 チェルノブイリ型という意味は、要するに共産主義のもとで、多大な人的な犠牲をはらいながら、強権発動で強制移住をさせたことを指すのでしょうか?
 
梶原 事故原発をコンクリートで固めてしまうやり方ですね。まあ、ピラミッドを造ってしまう。
 
小倉 いわゆる「石棺」方式ですね。つまり、溶けて形をなしていない核燃料を、スリーマイル・アイランドのように取り出すのか、それともチェルノブイリのように、そこを“墓場”として固めてしまうのかというのは、これから決めることになると思うのです。石棺のようにしてしまったら、もう取り出せません。だからどのようにもっていくのか。スリーマイル・アイランドのように、安全に溶けた燃料を取り出すことができれば、そこをまた更地にすることはできるのです。そこが、これから判断する分かれ道だと思います。
梶原 福島に住んでおられる方にとっては、重大な問題ですよね。
 
小倉 もちろんそうです。
 
梶原 除染土壌の仮置き場の問題でもあれほどの反発がありましたから「石棺」にせよ、そこに永久に置いておかなければいけないというのは、抵抗があるでしょうね。
 
前坂 最終的には、チェルノブイリと同じように「核の墓場」にする、石棺か水棺か、そういう方向しかないわけでしょう? それよりも前の段階として、原発内にある汚染水の処理をどうするかという問題があります。それすら数年かかるのか、何年かかるのか、はっきりしないと言っているのですよね。
小倉 数年はかかると思います。
 
文明論の転換のとき
 
前坂 世界の専門家チームを大結集して、対応しなければならないときだと思うのですが。最後に、専門家として、お二人は、東電や政府に対して、最優先してこれをこうやるべきだというご提言、できれば、将来に明るい展望を開くためのご提言をいただきたいと思います。
 
小倉 悲観的なようですが、私はもう、あのような事故が起きてしまっては、はっきり言って明るい展望があるとは、言いにくいですね。
 
その上で、今やるべきことは、要するに無駄のない道を選ぶ。つまり、その場しのぎの対策をやると、結局無駄になる、ということです。だから厳しくても、無駄にならない道を選ぶべきだと思うのです。それは決して明るい道ではないです。例えば、福島のほとんどの領域が、人の住めない地域になる可能性があるわけです。そういう現実をきちんと直視して、今のように中途半端なことでなく、例えば年間の子どもたちの被ばく量が何ミリシーベルトでも、そこで授業を受けさせるというようなことは止める。そうしないと人的に大被害が出てきますよ。
 
これはお金の問題ではないです。何万人という人が大被害を受ける。だからやはり、いちばん大事にすべきことは何なのかということ、人の命であるということを、腹を決めて政策を断行する。無駄のない政策をやるということだと思います。とにかく今は無駄なことをやっている暇は一刻もありません。
 
後藤 私も、未来は明るいとはちょっと言いにくいのですが、前を向くという意味では、やはり、今まで起こったこと、現実をとにかく見据えることだと思うのです。
 
現実を直視して、曖昧な願望や推測、こうであったらいいのにな、という感覚を捨てる、ということです。そして、いちばんベストな方法、例えば人に対する被曝を最低にするには何がいちばんいいかとか、そういうことをきちんとやる。そういう姿勢で取り組むことに尽きると思います。
 
そのときにぜひお願いしたいのは、私は、こうした事故は絶対二度と起こしてほしくないので、事故に関わる情報だけは、全面的に出していただきたい。それがいちばんの当事者の誠意だと思います。それがなかったら、今後のことも私は全く信用できません。
 
確かに東電などは組織も大きいし、いろいろプロセス的に大変だろうとは思います。それは私も分かっています。しかし、こうした事故は二度と起こしてはならない、再発させてはならない、という気持ちは、東電も一緒ではないですか? そのためには、データ提出だけは誠心誠意やってほしい。その上で、被曝を最小限にする努力をする、この姿勢を貫くことに尽きるのではないか、そういうふうに思います。
 
確かに事故のプロセスを調べることは大切です。ですけれども、今は、細かいこと、そのときに誰が何をしていたとか、例えばベントをしたことがどうかとか、タイミングがどうだったかとか、そういうレベルの問題を追及している段階ではない、と思います。
 
私から見ますと、シビアアクシデントが起こった途端、メルトダウンが起こった途端に、そんなことを議論をしている暇は吹っ飛んでいると思っています。
 
それよりも、全体像として、事故の再発を防ぐにはどうかとかという観点でだけ事故を見る。そういうものの見方をする必要があると思います。決して明るいとは、言えないかも知れませんが、そういうふうな見方をしております。
 
本誌 お話を伺っていて、この事故は、現代文明を根本的に考え直さなければならない教訓を、私たちに迫っているのだと感じました。
 
これまで、日本とかヨーロッパ諸国、いわゆる先進資本主義国というのは、基本的には経済は右肩上がりで成長・発展するものだということを前提に、政治社会が組み立てられてきたと思うのです。しかし、もう体験的にそういう展開は望めない。特に日本は、経済の成長とか発展とかということから、発想を切り替えないといけないのではないでしょうか。 
 
先ほど、小倉先生が先の戦争の話をされましたが、今回の事故対応は、「勝つための戦争」ではなくて、撤収戦、今はもういかにクレバーに撤収するかという戦い、という考え方で行くべきではないでしょうか。被害を最小限にとどめる撤収戦をどうやって戦うかということに絞らないとしょうがないと思います。利益の無限の拡大とか最大多数の最大幸福とか言っていられない時代ですから、まず生命論、国民の生命を安全に保存する、これがいちばん大事だと思います。
 
そこでみんなで智恵を出しあう。しかしながらかつてのロシアのような強権的な、旧チェルノブイリ型の軍事国家的な収束はできないのですから、やはりそこはみんなが民主的な智恵を絞って、撤収戦を上手に戦うということでしかないと思うのですが、いかがでしょうか。
 
小倉 その通りだと思いますよ。日本は昔から、戦の負け方が下手なのですよね。やはり、上手に負けるというとことに、あまり慣れてない、教えられていないのですね。
 
かつて明治維新のときに、徳川幕府は非常に上手に負けたのです。勝海舟が、結局、西郷に対して、無血開城、江戸城を明け渡して、そして徳川家は生き残ったのです。70万石に減らされたけれども、静岡に移封を認められた。それで、今でも残っているではないですか。だから、原子力産業界も、「まだできる、まだできる」といってしがみつくのではなくて、上手に撤退する。そういうことをしていかないといけない。
 
技術者の知恵を総結集して新エネルギー開発へ
 
後藤 私が思いますのは、小倉さんがおっしゃるように、撤退するためには、政府や電力関係者が、原子力に関して、エネルギー政策に関して、今後どういう方向性を選択するかを、明確に提示することが大事だと思います。
 
それをしないまま曖昧にしていると、また同じことをやる人たちが出てきてしまって、もとの木阿弥になる。その上で、原発事故処理やその他の原発・原子力問題の解決に取り組まなければなりません。
 
同時に新しいエネルギー開発、再生可能エネルギーであるとか、ほかの分野のエネルギー開発に積極的に取り組むべきです。そういうときに、これまで原子炉の設計に関わってきた技術者を含め、プラント設計者など技術系の人間にはいろいろな使い道があるのです。
 
一例ですが、風力発電のことを、みんな分かっている気で話していますけれども、実用化は非常に難しいのです。普通われわれがつくっている回転機械というのは、一定の状態、一定の風速で一定の速度で回転するというように設計しているのです。
 
ところが、自然の風速は、数メートルから数十メートルと幅広く吹きますから、その条件で完全にきちんと発電ができて、しかも安全であって、コストパフォーマンスもよいといったように、全部条件を入れると、技術的になかなか難しい。そうすると逆に、技術屋としては、非常にチャレンジ精神を刺激される、夢を膨らませる、と私は思います。
 
ですから、よく言われる、「原子力をつぶすと、技術がなくなる」というような話は、全くの誤解であって、実際は原子炉の技術それほどのものでもないのです。それよりも、環境がどうしようもない高レベルの放射能に汚染されているこの現実、こんなものを生み出すのは技術ではない、と私は思います。技術力が、余計なこと、というより、マイナス方向に費やされてきた。
そうではなくて、技術力を、将来に向けて明るい展望を切り開く方向に使うべきでしょう。例えば、自然エネルギーは偏在しているけれど、一般的に非常に密度の低いために、それを技術的にどう回収するかというのは、非常に難しいテーマだ、しかし面白い――というふうに考えていくと、いろいろな分野の技術屋が、どっと流れ込んでいく可能性があるのです。
 
ところが技術屋は、なかなか自分から事業が起こせないし、経済的見通しがないと動けないですよね。だから私は、構造的に技術者が動ける環境をつくりこんでいっていただく、そして、みんなで新エネルギー開発の方向に移行していく体制ができれば、結構、日本の技術屋というのは、原発事故の敗戦処理をしながら、再生に向かう方向に力を発揮することができる。そういう意味では、私は、実は楽観的なのです。ものすごく明るく見ているのです。
 
本誌 希望はある。
 
後藤 あります。原子力の道を閉ざし、放射能に対するプロテクトがうまくいけば、私はあとは大丈夫だと思うのです。
 
技術者が力を結集すれば、再生可能エネルギーの実用化は十分可能だと思います。ただ、これまでのようにエネルギーの大量消費文明というものを転換することが必要です。経済成長の問題からいくと、いけいけどんどんで上向きに行くというのは、今後難しい。アメリカだって、ヨーロッパだってそうですよね。
 
ずっと無限に成長することは有り得ないわけですから。そうしたら、何を新しい産業にしていくかということは、われわれが考えればいいわけであって、今までと同じ路線でエネルギーを大量に消費するハードなものだけをゴリゴリやっていく、これからも永遠に行くということは考えられないです。
 
そんな政策は、有り得ないと思います。もっとソフトで、人間的な解決策は何かとか、エネルギーを大量消費しないですむ生活、経済、そこに技術を持っていく、というのが私は必要であるし、そういう方向にならざるを得ないのではないかというふうに思います。
 
リアリズムをもって真実を直視せよ
 
渡辺 野田政権になって、原発を再稼動しようとする動きが見えますね。それから海外に原発を輸出しようという政策はまだ維持していると思うのですけれども、これからの原発政策とか、エネルギー政策について、いかがお考えですか?
 
小倉 私はもう経済のために、原子力を利用するという考え方は、やはり捨てるべきだと思います。私の個人的な考えですけれども、原発によって発電を続ける限り、原子炉の中で核燃料を燃やす、つまりウラン235を分裂させなければいけない。
 
それも継続的に分裂させなければいけない。そうすると、始末の終えない核分裂性成物、放射線のものすごく高いものが生まれる、かつ、ウラン238が核分裂の中で出てきた中性子を吸収して、プルトニウムが生まれる。これまた始末に終えないものです。
 
原発が持っている宿命といいますか、人間には始末の負えないものを生み出す。その始末に負えないものを生み出す行為は、どう考えたって止めるべきです。だって、運転の度に始末の負えないものが使用済核燃料という形でそこに出てくるのです。
 
それはもう、どこへも持っていきようがないのです。そういうものを生みながらエネルギーを得る必要はありませんよ。だから、この問題は、経済成長などということは別に考えたほうがいいと思います。
 
ただ、経済効果を言うなら、原発を止めるということは、廃炉にするということですね。つまり50何基の原発を廃炉にするということは、物凄い経済効果があるのです。ということは、言っては悪いけれども、原子力関連の企業は、絶対につぶれませんよ。だって、廃炉にするのは、設計した会社でなければできません。他の会社ではできません。
 
だから東芝も、日立も、三菱も心配することはない。一気に54基を廃炉にしなくてもいい、順繰りにやっていけばいいのだから、仕事の量は非常に安定していて山谷がない。だから、原子力業界にとっても、廃炉という商売が、これから何10年も続くのです。皮肉だけれども、これは安定した商売です。
 
だから原子力関連企業は、安心して原子炉を、原発を止めるという方向に転換した方がいい。経団連も、そういうようなことをなぜ知らないのだろうと(笑)……。
 
後藤 民主党内閣は、この期に及んでも原発輸出を推進したいようですが、原発を輸出するのは、道義的にも技術的にもやばい。日本はまだ原発管理体制にもそれなりの歴史があり、経験も積んでいるが、東南アジアに責任が負えるかというとそれは不可能です。
 
国がつぶれるくらいの事故が起きたとき、企業が責任を負えるのか。それを考えていかないと無責任です。原発輸出は論外であり、許してはならないことです。
 
梶原 原子炉のような施設は、リアリズムをもって管理しなければならないのに、いわば、原子力工学自体がコンピューターで作った「影」を見ているだけですね。
 
私が言いたいのは、やはり、どこかでコンピューターのシミュレーションに騙されてはだめだというシステム科学者がいないと、いつまでもたっても同じことが起こると思うのです。今回の事故原因調査でも、全部シミュレーション、いわばタラレバの世界でやっている。
 
私たちは、日航機事故の時も苦い経験をしましたね。私も当時かなり取材をしました。あの事故調査も、ボーイングからもらったマニュアルと、膨大なシミュレーションでやっていました。しかし落ちたジャンボは、かつて尻餅事故を起こした前歴を持っていた。
 
尻餅で隔壁が傷ついたか歪んだかしていた。隔壁の亀裂に煙草のヤニが(当時は禁煙じゃなかったから)付いていた。それで異常な隔壁破裂の原因は分かったのですが、ボーイング社は資料を持ち逃げした。彼らが尻餅事故の影響をシミュレーションしたかどうかウヤムヤになった。そして彼らの刑事責任を、日本側が「忘れる」ことにしただけなんです。
 
本誌 日航機事故と原発事故には、共通点がありますね。
 
梶原 どちらも、第二次大戦の際の軍事技術を民生用にミニチェンジしたところも同じです。戦略爆撃機のB25がジャンボになり、GEが原爆を原発にした。そしてドル減らしのために自民党の日本が押し頂いて買った。
 
原理原則はブラックボックスで、運転技術しか教えてもらっていないも一緒。理論上事故はないことにして買ったのです。政党か官庁のダレかが、原発の導入は日本に核軍事技術を導入するチャンスと考えたでしょう。しかし米国の方が上手(うわて)だった。原発事故は日本の文明論的敗戦ですね。
 
私は、今度こそリアリズムをもって全てのことをしなければいけない、と思うのです。原発のストレステストにしても、ストレスのシミュレーションでは駄目です。
 
比喩的に言ったら、原子炉を実際にハンマーでたたいてみる、といった検査が必要です。車のテストでも、実際に車をぶつけてみるでしょう。地震の問題でいろいろ言うけれども、原子炉の耐震テストにしても、今度いくつか廃炉になるものを使ってTNT爆薬で実際に試してみたらいいですよ。震度何度ぐらいでどうなるのか、といったね……。
 
日本には、勉強のできる人が、シミュレーションで物を考える人が多すぎる。こういうときにはリアリズムをもって立ち向かう、これですよ。
 
本誌 いささか“過激”なご意見が出されましたが(笑)、確かに、いまこそ、リアリズムが必要な時だ、と思います。本日はありがとうございました。
 
 

 - 現代史研究

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