前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

「トランプ関税と戦う方法論⑮」★『ルーズベルト米大統領の斡旋が実って講和会議の席に着いた日露両全権は、いかなる交渉術を発揮したのか-』★『ロシアに圧倒される外交テクニックメディアコントロール』★『小村寿太郎外相は有名な新聞嫌い』

   

メディア対策で負けた日本全権団

軍事力による戦いが戦争であり、言葉による戦いが外交である。外交の最大値としての講和談判はその国のコミュニケーション能力が最も試される知恵の戦いでもある。日露戦争は軍事力では勝利をおさめたが、戦争の総決算である講和会議ではロシア全権セルゲイ・ウィッテの巧妙なメディア戦略によって、赤子の手をひねるようにやられてしまった。

日本は初の国際外交の大舞台での対外交渉能力、異文化コミュニケーション能力の失敗によって、戦争では勝ちながら、外交交渉では大敗北を喫した。今も日ソ間の懸案である『北方領土問題』は、さかのぼれば約百年前のこのポーツマス講和会議に突き当たる。

ルーズベルト米大統領の斡旋、根回しによって、講和会議の場所はボストンから北約八十キロの米国ニューハンプシャー州のポーツマス軍港と決まった。

日本が派遣する講和全権団は当初、伊藤博文が候補に上ったが、小村外相となった。ハーバード大出身の小村は金子堅太郎特使、ルーズベルト大統領とも同窓生であり、米国メディアからは歓迎された。首席全権には小村外相が座り、次席が高平小五郎駐米公使、佐藤愛麿駐オランダ公使、随員は山座円次郎外務省政務局長、本多熊太郎(外相秘書官)らで、外国人は外務省顧問デニソン一人という布陣で、メディア関係者は一人も含まれなかった。

ロシアに圧倒される外交テクニックと新聞工作

一方、ロシア全権ウィッテ(ロシア蔵相、首相)は政府関係者、陸海軍トップに加えて、世界的公法学者マルテソス、国際政治評論家デイロン、前ロンドン・タイムス政治部長、フランスの新聞記者ら三人を加えたメディア重視の布陣で臨んだ。

「アメリカは民主主義、世論の国であり、新を味方につけた方が勝つ」との戦略から情報工件に積極的に取り組んだ。ウィッテ一行は豪華客船でパリから六日間かけて大西洋を渡り米国に入ったが、船内で

①ロシアが講和会議に来たのは、列強の平和の希望に応じたまで、ロシアの連敗の事実にはこだわらず、超大国代表としての堂々たる態度で臨む。

②アメリカは新聞の国なので、記者に最大限、情報を提供して味方につける。

➂民主的な態度で米国市民と接して人気を得る」など五つの基本戦略を立てた。

小村外相は有名な新聞嫌い

対する日本側はメディア工作(情報操作)などまるで頭になかった。小村は有名な新聞嫌いで、日本の新聞はもちろん外国メディアの取材にも一切応じなかった。この両者を比較して『大阪朝日新聞』(十月二十日付)は書いている。

「『われわれはポーツマスへ新開の種を作らんがために来たのではない。談判するためなり』とは小村男の言なり。一方、ウィッテはポーツマスで新聞記者を集め『今回平和の成立を見るにいたれるは一に諸君の力なり』」とリップサービスに努めた。

 

 ●超大国・ロシア対小国・日本の講和会議は、八月九日から始まった。

日本政府は奉天会戦で勝利した後に講和条件を決定しており、小村全権に指示した。その内容は甲乙丙の優先順位をつけた十二項目からなっていた。

①甲の絶対必要条件。つまり、交渉で絶対勝ち とるべきとして要求していたのは戦争の目 的を達して帝国の地位を永久に保証するため「ロシアは韓国における日本の優越権を 認める、ロシア軍は満州から撤退し、遼東半島の租借権を、日本に譲渡すること」の三条件であった。

②乙の比較的必要条件。絶対的条件ではないが、小村の交渉の経過に任せる - としていた項目で「軍費の賠償は最高額十五億円として、談判の内容によって適宜定めること。中立港に避難した軍艦を日本に引き渡すこと、サハリン(樺太)、付属諸島を日本に割譲すること、沿海州沿岸の漁業権を与えること」など四項目となっていた。

③丙の付加条件は「ロシアの極東の海軍力を制限すること、ウラジオストク港の軍備を撤廃すること」などで、小村の取捨選択、裁量に任せていた。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
★『地球の未来/明日の世界どうなる』 < 東アジア・メルトダウン(1074)> ★『第2次朝鮮核戦争の危機は回避できるのか⁉④』★『「クリスマスまでに…」トランプが安倍首相に告げた北朝鮮危機限界点』★『アメリカは北朝鮮の「先制攻撃」を、いまかいまかと待っている 国連安保理の制裁決議で起こること』★『北朝鮮より大きな危機が、5年以内に日本を襲う可能性 中国に「乱世」がやって来る』

★『地球の未来/明日の世界どうなる』 < 東アジア・メルトダウン(1074 …

no image
速報(36)『日本のメルトダウン』(49日目)ーー『日本のメディア、ジャーナリスト、学者の責任と良心を問う』

速報(38)『日本のメルトダウン』49日目 『日本のメディア、ジャーナリスト、学 …

no image
下村海南著『日本の黒幕」★『杉山茂丸と秋山定輔』の比較論

2003年7 月 前坂 俊之(静岡県立大学教授) 明治国家の参謀、明治政府の大物 …

『日中台・Z世代のための日中近代史100年講座③』★『宮崎滔天の息子・竜介(1892―1971、弁護士)による「孫文回想記」』★「1966年11月12日、朝日新聞講堂での孫文先生生誕100年記念講演の抜粋』★「現代中国と孫文思想」(岩村三千夫編 講談社、1967年刊に掲載)

  2010/06/25    …

no image
<裁判員研修ノート⑩>冤罪を生み続ける構造は変わったのか―裁判官・検察官・警察官の冤罪天国の実態は?

<裁判員研修ノート⑩> 冤罪を生み続ける構造は変わったのか― 裁判官・検察官・警 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(90)記事再録/★『地球環境破壊、公害と戦った父・田中正造②ー 「辛酸入佳境」、孤立無援の中で、キリスト教に入信 『谷中村滅亡史』(1907年)の最後の日まで戦った。

2016年1月25日/世界が尊敬した日本人(54)記事再録 月刊「歴史読本」(2 …

『リーダーシップの日本近現代史』(126)/記事再録★『世界が尊敬した日本人ー『欧州連合(EU)の生みの親の親は明治の日本女性、クーデンホーフ光子』★『戦争を防ぐためにできたEUが今,大量の難民流入とテロで危機にさらされている」★『ヨーロッパと日本の混血児が「EU」(価値観の多元的共存・地域共同体)を生んだ。』

    2015/11/25 &nbsp …

no image
速報(239)『欧州危機は全治2年、時間必要』『「日本のようにはならない」移民受け入れ・シンガポール』

速報(239)『日本のメルトダウン』   ★『欧州危機は全治2年、リー …

『巣ごもり観光動画/日本の代表的古寺百選』ー『京都・東寺の『金堂」(国宝)、講堂(重文)「五重の塔」を拝みに行く

    日本の代表的古寺百選(12/28)ー京都・東寺の『金 …

no image
日本リーダーパワー史(889)-NHKの『西郷どん』への視点<自国の正しい歴史認識が なければ他国の歴史認識も間違う>●『今、日中韓の相互の歴史認識ギャップが広がる一方だが、明治維新、西郷隆盛、福沢諭吉への日本人の誤認識がそれに一層の拍車をかけている』

日本リーダーパワー史(889)- NHKの『西郷どん』―自国の正しい歴史認識が …