前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

新刊 『日本外交に必要な最適のテキストブックー日露戦争外交秘録』を刊行しました。

   

日本外交に必要なテキストブック
明治三十七年のインテリジェンス外交―戦争をいかに終わらせるか』
             <前坂俊之著 祥伝社新書、2010年4月刊 820円>
 
 
はじめに
 
日本の外交敗戦が続いている。
 
北朝鮮による拉致問題と核開発疑惑問題、中国との東シナ海のガス田問題、餃子事件、韓国との竹島問題、ロシアとの北方領土返還問題など、いずれも暗礁に乗り上たまま。失地挽回の絶好のチャンスだった、小泉内閣当時の国連安保理常任理事国入りのアプローチは、アジアに巨額ODAをばらまきながら賛成票が集まらず完全に失敗。民主党・鳩山政権になってからの沖縄普天間基地問題でも、素人外交を展開している。この結果、要の対米外交は迷走中だ。
 
 世界史は、絶えざる国家間の武力による戦争の歴史であり、大国の興亡の歴史である。戦争の時代が終わると、次は外交の時代になり、また戦争の時代へと歴史は繰り返す。
 
 したがって、外交と戦争とはコインの両面でもある。対外交渉の手段として武力を行使するのが戦争であり、言葉による戦争が外交である。平和時における戦争が外交で、その外交が失敗すれば戦争へとエスカレートする危険が大である。その面で、国際関係は、戦争と外交と経済、貿易の競争の絶えざる歴史となり、昨日の勝者は今日の敗者になる。勝敗の分かれ目は、武力と同時に外交力にかかっており、平和時に外交力を磨いておかなければ、国力は衰退して明日の敗戦国となり果てる。 今日の日本のように、武力には頼らない、しかも外交も下手-となると、とても生き残れないのである。
 本書は、日露戦争開戦決定すぐに、伊藤博文によって密使として米国に派遣され、ついにルーズベルト米大統領を説得し、米国世論を日本の味方につけた金子堅太郎の外交工作の全容に迫ったものである。
 
日露戦争では明石元二郎による対ヨーロッパ工作「明石工作」がよく知られているが、「金子工作」は、それに優るとも劣らない見事さである。外交で最も重要なのは、情報と戦略とそれを合わせたインテリジェンスであるが、明治のトップリーダーというのは揃いも揃って、いかに高いインテリジェンスを誇っていたかを、この金子の対米工作は示していた。それが、「世界史の奇跡」といわれた明治日本の発展の起爆剤となる。
 この明治人が営々と築いた大遺産を食いつぶしたのが首相、陸相、参謀総長など一人四役を兼ねたカミソリ宰相といわれた昭和の軍人官僚の東條英機首相。事務能力は抜群に優れていたが、国際政治や外交、情報には全く音痴の東條首相は、事務処理能力はを敵性語として、その研究を禁止するなど、マクロの眼を持つことができなかった。昭和陸軍の情報部門にも米国研究者は一人もいなかったほどである。
 
「このくらい対手国の実情を知らずに戦争に突入した例は世界戦史上まれではないか」 (陸軍参謀本部作戦課参謀・井本熊男大佐) というほどのお粗末さであった。
 日本は今、明治維新の 「第一の開国」、太平洋戦争後の 「第二の開国」 に次ぐ、「第三の開国」を迎えている。この難局を突破できるかどうか。これは、一にかかって政治家、外務勘竜官僚らのトップリーダーたちの外交インテリジェンス、決断力と、それを押し上げる国民の危機意識にかかっている。
 かつて、それをものにした日本人がいたのである。今こそ金子堅太郎のリーダーパワーに学ぶべき時機であろう。
二〇一〇年三月
前坂俊之
 
明泊三十七年のインテリジェンス外交   目次を紹介
 
はじめに
序 章 日本インテリジェンス外交の礎
ナポレオンからモルトケヘ 
川上操六の登場 
モルトケに弟子入りした日本人 
日露戦争の勝利に大きな役割を果たした『戦争論』 
参謀本部を大改革する 
川上、師団増設を見事に実現 
田村 怡与造(たむらいよぞう、- 川上の知恵袋 
情報戦を制する海底ケーブル 
海軍の通信力
「武器は無線電信機」 - 情報戦の認識 
 
第一章 特使・金子堅太郎、米国へ 
賽は投げられた 
金子とルーズベルト大統領 
伊藤博文の依頼 
米国とロシアの親密な関係について四つ挙げる
成功、不成功などは眼中にない 
無官で臨む決意 
勝てる見込みは、五分五分か、四分六分 
 
第二章 米国人は日本とロシアをどう見ていたか
「局外中立の布告」に迎えられる 
ロシアが手段を選ばず宣伝 
日本は宗教自由の国である 
警備を断る 
再会を心待ちにしていたルーズベルト
「日本を勝たせなければならない」 
真に頼るところのものは、その国の友 
ロシアが勝てない理由 
価値ある二つの忠告 
日本に同情を寄せる米国民 
日露の軍隊の違いを説明する 
                        
第三章 武士道と黄禍論 
活動拠点をニューヨークに移す 
敵将の死を悼み、称賛される 
大盛況だったハーバード大学での講演
この戦争で滅びても構わない 
演説の効果は
ルーズベルトと武士道 
日本が勝っても、誇ってはならない 
黙っていれば承諾したもの ー反論せよ
日本がいつまで武士道の精神を保持できるか
英仏に中立の手本を示したルーズベルト 
日本の財政力に危機
黄禍論に反論する 
なぜ、金子は米国民の心をとらえたか 
 
第四章 正義と勝利 
旅順陥落 
ロシアの鉄道力 
最初は偉いが、終いの方が卑劣 
ドイツ皇帝からルーズベルト大統領へ親書あり 
ついに親書の内容を聞き出す
ルーズベルト、熊狩りへ行く
天皇とルーズベルトの贈物交換
文明の原則は正義である
東洋と西洋とを融合する
ルーズベルト、艦隊の陣形を語る 
日本海軍大勝利に、米国中が狂喜雀躍 
外交の根っこにあるべき信条 
第五章 講和に郡部するルーズベルト大統領 
馬車の御者までが
ルーズベルトの講和工作始まる 
開催場所が決まるまでの紆余曲折
私人ルーズベルトを見てほしい 
石油ランプとロウソクの夜 
第四の生活費 謝
日本はアジアの盟主になるべき 
「償金」を「払い戻し」に改める
樺太占領まで提案 
ウィッテ、米国に入る 
交渉決裂か? 
樺太の半分をロシアに渡して、平和をとる
ルトスベルトの真意 
 
第六章 外交の勝利者 
対立する総司令官と軍司令官 
その国の外交インテリジェンスが試される講和談判
講和全権という仕事 
ウィッテ、全権を引き受ける 
軍関係者の意見を聞く 
賠償金の支払いを勧めるフランス首脳 
複雑なヨーロッパの国際関係 謝
日本人が撃破したのは、ロシアの愚劣きわまる政治体制 
航海中に講和の外交戦略を練る 
米国で、日本全権が不人気だった理由
ルーズベルトとの初対面
冴えない外見の小村全権
講和を控えたポーツマス
講和とその後 
サンクト・ペテルブルクの陰謀 
ドイツ皇帝と米国大統領 描「立派な」軍司令官 
敗戦国全権の苦悩 
 
 
終 章 外交は誰のものか
世論と新聞を味方につけよ
「金欲しさに戦争をする日本」 - ウィッテの仕掛けた罠に、小村がはまる
歴史的な外交の敗北 〟
外交下手は、「日本病」の最たるもの 
矯り、われを忘れた日本 
 
 

 - 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本メルトダウン脱出法(693)「日本の安全保障観はガラパゴスであるという事実」「いつか来る「日米安保がなくなる日」に備えよ」

    日本メルトダウン脱出法(693)   いつか来る「日米安保がな …

no image
日本メルトダウン脱出法(878)『太平洋の両端で巨大地震が起こっても、地球は異常なし』●『オピニオン:消費増税・投資減税はなぜ必要か=ジョルゲンソン教授』●『コラム:新たな景気対策と追加緩和は必要か=岩下真理氏』●『金正恩第1書記は父より攻撃的、不安定化を懸念=米軍高官』●『次世代リーダーは、なぜ「哲学」に注目するのか?』

 日本メルトダウン脱出法(878) 太平洋の両端で巨大地震が起こっても、地球は異 …

no image
『 オンライン講座/東京五輪開幕』★『連日、新競技のスケーボー女子で西矢椛(13歳)が日本最年少での金メダル、スケボー男子では堀米雄斗(22歳)も金メダル、柔道の阿部兄妹の金メダルというメダルラッシュに沸いた。』★『2019年の課題」-『平成30年は終わり、老兵は去るのみ、日本の未来は「Z世代」にたくそう、若手スポーツマンの活躍を見ればわかる』

  東京五輪が7月23日に開幕した。 いざフタを開けると開会式が56. …

no image
『リーダーシップの世界日本近現代史』(280)★『勝海舟の国難突破力に学ぶ 』★『勝海舟の中国・韓国との付き合い方』★『そして、この経済上の戦争にかけては、日本人は、とても中国人には 及ばないだろうと思うと、おれはひそかに心配するよ。』

2012/11/23・日本リーダーパワー史(347)記事再録   &n …

『Z世代のための日中韓外交史講座』 ㉔ 」★『英国タイムズ報道の「日清戦争4ヵ月後―『日本と朝鮮―日清戦争の真実』(上)』1894(明治27)年11月26日付)

2014/10/21 2015/01/01/記事再編集 英国タイムズ報道の「日清 …

『最悪の国難(大津波)を想定して逆転突破力を発揮した偉人たちの研究講座』★『本物のリーダーとは、この人をみよ』★『大津波を予想して私財を投じて大堤防を築いて見事に防いだ濱口悟陵のインテリジェンス②』★『野口恒の震災ウオッチ』東日本大震災の復興策にも生きる「浜口梧陵」の業績ーー復興策の生きた教材-』

2011/08/26  『野口恒の震災ウオッチ』記事再録 野 …

『オンライン/日本農業改革講座」★『植物工場紹介動画』★『最先端企業「パソナ」は会社全体が植物工場に、オフィス内で植物栽培の驚異!』★『エコプロダクツ2014ーFUJITYU『植物工場」(会津若松AKIsaiやさい工場」』★『スマートコミュニティJAPAN2014ー成電工業の植物工場プラント』★『鎌倉長寿仙人朝食ー植物工場のレタスは新鮮、シャキシャキ、超旨いよ』

   最先端企業「パソナ」は会社全体が「植物工場」オフィス内で植物栽培 …

no image
『世界サッカー戦国史』①ー『W杯ロシア大会と日露戦争(1904)の戦略を比較する。西野監督は名将か、凡将か➀ 

  『世界サッカー戦国史』① W杯ロシア大会2018と日露戦争(190 …

no image
◎<名経営者・人を奮い立たせる言葉>『ニトリ』似鳥昭雄会長と『ユニクロ』 柳井正会長の『戦略経営』『人生哲学』に学ぶ 」月刊「理念と経営」2016年7月号掲載)

   名経営者・人を奮い立たせる言葉― 『ニトリ』似鳥昭雄会長と『ユニクロ』 柳 …

no image
日本リーダーパワー史(791)ー 「日清、日露戦争に勝利」 した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス➈』●『明治36年4月、日露戦争開戦9ヵ月前にロシア・クロパトキン陸相が日本を敵前視察に乗り込んできた』★『クロパトキンの「日本陸軍秘密研究書」による日本軍の欠点『西欧的機関を表面的しか理解していない、無能な老将校が存在し、部隊長の決断が遅く変化に対応できない』

 日本リーダーパワー史(790)ー 「国難日本史の歴史復習問題」 ★「日清、日露 …