前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための百歳学入門』★『江戸城の無血開城で百万人の江戸ッ子を救った勝海舟(75歳)の胆識』★『『長寿法などない」「南光坊天海(107歳)を論ず」』

   

百歳学入門(58)/再録、編集

 人間長寿の法というものはない。
② 余裕をもって、物事に執着せず、拘泥せず、円転解達の妙境に入れ
③ そうすれば、連動も食物もあったものではないのさ
④ 人間は身体が壮健でなくてはならぬ。精神の勇ましいのと、
 根気が強くなければ天下の仕事はできぬ。
⑤ 60歳で定年、隠居だとか何だとか言って、世の中をから逃げるな。 
⑥ 身体と心の余裕さえあれば、五十、六十になっても、血気の盛んな若武者だ。
⑦ 昔の武士は、武芸を修業して身体をいつまでも鍛えたものよ。
⑧ 学問はその割にはしなかったが、一旦、緊急の場合は命を投げ出した。
⑨ 学問にこり固まった今の人は、小理屈で声ばかり大きく、肝っ玉は小さい。
⑩ まさかの場合に役に立つものは稀だ。みんな縮み込んでしまうよ。
 

 以下は勝海舟『氷川清話』より。

人間長寿の法

 

人間長寿の法というものはない。俗物には、飲食を摂して、適度の運動を務めなさいと言へば、それでよいが、しかし大人物にはそうはいかない。見なさい、おれなどは何程寒くつても、こんな薄っぺらな着物を着て、こんなせんべいのような蒲団の上に座って居るばかりで、別段運動ということをするわけでもないが、それでも気血はちゃんと規則正しく循環して、若い者も及ばないほど達者ではないか。

さあ、ここが、いはゆる、思慮の転換法というもので、すなはち、養生の第一義である。つまりしゃくしゃくたる余裕を存して、物事に執着せず、拘泥せず、円転解達の妙境に入りさえすれば、連動も食物もあったものではないのさ。
 
 勇猛の精神と根気をもて
 

 なにしろ人間は、身体が壮健でなくてはいけない。糖神の勇ましいのと、根気の強いのとは、天下の仕事をする上にどうしてもなくてはならないものだ。そして身体が弱ければ、この精神とこの根気とを有することが出来ない。つまりこの二つのものは大丈夫の身体でなければ宿らないのだ。

 
ところが、日本人は、五十になると、もうじきに隠居だとか何だとか言って、世の中を逃げ去る考へを起すが、どうもあれでは仕方がないではないか。
 
しかし、島国の人間は、どこも同じことで、とにかくその日のことよりほかは、目が付かなくつて、五年、十年の先きはまるで黒暗(くらやみ)同様だ。それもひっきょう、器量が狭くって、思量に余裕がないからのことだよ。
 
もしこの余裕といふものさえあったなら、たとへ五十になっても、六十になっても、まだなかく血気の若武者であるから、この面白い世の中を逃げるなどというような、途方もない考へなどは決して出ないものだ。
 
 それであるから、昔の武士は、身体を鍛えることには、よほど骨を折ったものだよ。弓馬槍剣、さては柔術などといって、いろいろの武芸を修業して鍛へたものだから、そこでおれのやうに年は取っても身体が衰へず、精神も根気もなかなか、今の人たちの及ぶところでないのだ。
 
 もっとも昔の武士は、こんなに身体を鍛えることには、ずいぶん骨を折ったが、しかし学問はその割にはしなかったよ。それだから、今の人のように、小理屈を言うものは居なかったけれども、その代り、一且、国家に緩急がある時は、命を君の御馬前に捧げることなどは平生ちゃんと承知して居たよ。
 
しかるに、学問にこり固まって居る今の人は、声ばかりは無暗に大きくて、胆玉の小さきことは実に豆のごとしで、空威張りには威張るけれども、まさかの場合に役に立つものはほとんど稀だ。みんな縮み込んでしまう先生ばかりだよ。

南光坊天海(108 歳)

 

南光坊天海は、非凡な奴であったらしい。あれが、今しばらく頭を円(まる)くせなかったなら、きつと家康にむかって弓をひいたであろうあの男はもと、宗家の葦名家が滅亡したために、流浪、落はくして、とうとう比叡山の坊主になり、そこで非常に苦学したるものだが、-朝、家康公の知遇に感激してからは、赤心を捧げて徳川氏のために画策、経営の労を執ったのだ。

なかなか今時の懶惰な書生が、十分の学資がありながら、それで何事をもしでかさないで、空しく一生を過ごしてしまうのとは、頭から較べものにならない。ところで家康公が天海をなぜ用いられたかということについては、おれにも一説がある。

 
それはほかでもないが、家康公は幼少の時に今川家の人質となって、駿河の臨済寺で読み書きの稽古をせられたが、その寺の住職は、よほどな高僧であったと見えて、始終、今川家の枢機に参与して、今川家のためにはずいぶん功労があったらしい。
(家康が今川家に人質となっていたときに習った禅僧は、雪斎で、今川義元を後見していた)
 
 
家康公は明け暮れそれをみておられたから、出家というものは、政治上、至極大切なものだというお考へが、深く脳髄にしみ込んでいたに相違ない。そこで彼の天海が非凡な坊主であることを見ぬかれて、あの通り重く用いられたのだ。
 
三代将軍が、沢庵和尚を座右におかれて、始終、民間の事情や何かを聞いて居られたのも、つまり家康公が、天海におけるのと同じ筆法だ。
 
それはさておき、天海はあれほどの人物であって、そしてあれほど重く家康公に用いられたとすれば、天海の事蹟といふものが、それ相応には伝わっていなければならないのに、それは一向に居ないのは、なぜだろうと疑うものがあるかも知れない。
 

 が、しかしその伝わっていないのが、すなわち天海の天海たる所以なのだ。今日やつた事をすぐに明日、しかも針ほどの事を、棒のように吹聴するのが今時の流行だが、天海などのはそれと違って、家康公の枢機(参謀)に参与しても、どんな事を計画したのか、世間へは少しも吹聴しない。この吹聴しない、少しも分らない底に、叩くと何だか大きく響くものがあるのだ。そこがすなわちえらいというものよ。

 

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(244)/記事再録★『日本の「戦略思想不在の歴史⑮」ペリー来航45年前に起きたイギリス東洋艦隊の「フェートン号」の長崎港への不法入港事件」★『ヨーロッパでのナポレオンの戦争の余波が<鎖国日本>にも及んできた』

  記事再録 2017/12/10  「 …

no image
★10 『F国際ビジネスマンのワールド・ カメラ・ウオッチ(176)』 2016/5『ポーランド・ワルシャワ途中下車 ~ワルシャワ中央駅周辺』②観光客誘致に地道に取組み『静かで落ち着いた街並み』②

 ★10 『F国際ビジネスマンのワールド・ カメラ・ウオッチ(176)』 201 …

no image
 『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争カウントダウン』㉚『開戦37日前の『米ニューヨーク・タイムズ』の報道』-『「賢明で慎重な恐怖」が「安全の母」であり,それこそが実は日本の指導者を支配している動機なのだ。彼らは自分の国が独立国として地図から抹殺されるのを見ようなどとは夢にも思っておらず,中国が外部から助力を得られるにもかかわらず,抹殺の道を進んでいるかに見えるのとは異なっている。』★『日本はロシアに対する「緩衝地帯」として朝鮮を必要としている。半島全体が日露のいずれかの支配に帰さなければならない。分割は問題外だ』

  『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉚『開戦1ゕ月前の 『米ニ …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(87)記事再録/★『単に金もうけだけの頭の経済人はゴマンとおり、少しも偉くない。本当に偉いのは儲けた金をいかに遣ったかである。儲けた金のすべてを社会に還元するといって数百億円以上を社会貢献、フィランソロフィーに遣いきったクラレ創業者・大原孫三郎こそ日本一の財界人だよ①

  2012/07/15    …

no image
日中北朝鮮150年戦争史(11) 日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む。日本最強の陸奥外交力④『陸奥が徹底したこだわった宗属関係の謎とはー』李朝は、宗主国「清朝」の代表的属国。 朝鮮国王は、清国皇帝の奴隷のまた奴隷である。

日中北朝鮮150年戦争史(11)  日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む。 …

no image
日本リーダーパワー史(112)初代総理伊藤博文⑧伊藤の直話『下関戦争の真相はこうだ・・』

    日本リーダーパワー史(112)   初代総 …

no image
 世界も日本もメルトダウン(964)『東大よりプリンストン 渋幕・渋渋、国際人の育て方 渋谷教育学園理事長 田村哲夫氏』●『やばいぞ内申書優等生、仕事がなくなるかもー またもやらかした文科省、改善のはずが改悪に』●『ドゥテルテ大統領の超法規的殺人に隠された真実』●『トランプは負けた。アメリカ民主主義も負けた。』●『  石原慎太郎、伸晃、宏高親子は「永田町で終わった人」』●『ボブ・ディラン氏、ノーベル賞の熱狂と距離』

   世界も日本もメルトダウン(964) 東大よりプリンストン 渋幕・渋渋、国際 …

no image
『オンライン/田中角栄のリーダーシップ研究』★『昭和戦後宰相列伝の最大の怪物・田中角栄の功罪』ー「日本列島改造論』で日本を興し、金権政治で日本をつぶした』★『日本の政治風土の前近代性と政治報道の貧困が続き、日本政治の漂流から沈没が迫っている』★「土光臨調」で示した田中角栄の最強のリーダーシップを見習えー『言葉よりも結果』』

 田中角栄×前坂俊之=71件   『オンライン/新型コロナパ …

no image
日本リーダーパワー史(706)安倍首相は『日露領土交渉』で再び失敗を繰り返してはならない。<安倍多動性外交症候群ー『日中外交』「北朝鮮外交』 「日韓外交」に次いで、3度目の外交敗戦はないか。

日本リーダーパワー史(706) 安倍首相は『日露領土交渉』で再び失敗を繰り返し …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(35)記事再録/『憲法第9条と昭和天皇』ー<憲法9条(戦争・戦力放棄)の最初の発案者は一体誰なのか>「マッカーサーによって押し付けられたものだ」、「GHQだ」「いや,幣原喜重郎首相だ」「昭和天皇によるもの」―と最初の発案者をめぐっても長年論争が続き、決着はいまだついていない。

 2006年8月15日/『憲法第9条と昭和天皇』       …