福島清のマスコミ時評(1)『宮澤・レーン・スパイ冤罪事件」の悪夢― 秘密保護法がもたらす弾圧の具体的な警鐘
福島清のマスコミ時評(1)
◎『宮澤・レーン「スパイ冤罪事件」の悪夢―
秘密保護法がもたらす弾圧の具体的な警鐘
福島清(元毎日新聞労組書記長)
絶対多数の自公政権は昨年暮、「特定秘密保護法」を強行可決した。戦前の「治安維持法」を想起させる言論弾圧を危惧する声が高まっている。国民の知る権利、情報公開が疎外される恐れがあるからで、秘密保護法廃案に向けての粘り強い世論喚起が必要である。
秘密保護法を契機に、戦前の軍機保護法下での「宮澤・レーン・スパイ冤罪事件」がクローズアップされてきた。秘密保護法がもたらす弾圧の具体的な警鐘として取り上げた新聞に、北海道新聞、十勝毎日新聞、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞、週刊金曜日、しんぶん赤旗などがあった。読売新聞、産経新聞には報道した形跡がない。
極寒の刑務所に収監され、死去した北大生
【事件の概要】太平洋戦争開戦日の1941年12月8日、スパイ嫌疑(軍機保護法等違反)で検挙され、引き続く拷問と暗黒裁判によって桁外れの重罪に科されたのが北海道帝国大学生・宮澤弘幸と同大学英語教師だったハロルド・レーンと同・妻ポーリンである。
宮澤弘幸は網走刑務所に収監され、酷寒と劣悪な食糧事情で衰弱し、戦後釈放されたが1947年2月22日27歳で死去した。レーン夫妻も収監されたが、1943年9月の日米交換船で送還された。北海道大学は、自大学の教官と学生が検挙されたことに対して当時の総長以下何らの救援努力もしなかった。
冤罪被害者の数は多い
【スパイ冤罪事件の深刻さ】1993年に制作された告発ビデオ「レーン・宮澤事件―もうひとつの12月8日」で、藪下彰治朗・朝日新聞記者(故人)は「当時貼られた売国奴、スパイというレッテルはいまだに人間をすくみ上がらせている。(中略)国家秘密法の法律の怖さが骨身にこたえて分かってきた。あれから半世紀も経っているのにまだ震えている。隠れている。そこで本気で取材を開始したが、そんな状況だから例証が出てこない」とスパイ冤罪事件の抱える問題点を指摘した。
現に宮澤弘幸の妹・秋間美江子さん(87歳)も、国家秘密法阻止運動で立ち上がるまでは「スパイの家族」とされてきたことをずっと秘して生活していた。藪下記者が指摘するように、スパイ冤罪被害者はまだ数多く存在することは間違いない。隠れたスパイ冤罪事件の発掘報道が切に待たれる。
マスコミは監視機能を怠るな
【マスコミの責任】今回、自公政権が衆参で絶対多数を占めていたとはいえ、政府案の強行可決を許してしまったのは、マスコミが上程に至る大事な時期に警鐘記事を書かなかったことに責任がある。昨年11月8日付朝日新聞、とりわけ同紙大阪本社版は、社会面の大半を使って「軍機保護法 戦前からの警鐘」と題して秘密保護法の本質を報道している。過去を教訓に未来の安心・安全を引き寄せるのが報道だった。秘密保護法を廃棄させるためには、さらなる運動とともに、マスコミの存在意義を再確認してほしい。
(ふくしま・きよし)毎日新聞OB。「北大生・宮澤弘幸 スパイ冤罪事件の真相を広める会」事務局長。
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