日中北朝鮮150年戦争史(6) 日清戦争の発端ー陸奥宗光『蹇々録』の証言②『頑迷愚昧の一大保守国』(清国)対『軽佻躁進(軽佻浮薄)の1小島夷(1小国の野蛮人)』(日本)と互いに嘲笑し、相互の感情は氷炭相容れず(パーセプションギャップ拡大)が戦争へとエスカレートした。
2016/07/05
日中北朝鮮150年戦争史(6)
日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む。
何時もその効なく』(パークス英公使)無益に終わる。
『話せばわかる』ではなく「話してもわからない」
①明治維新以後、日本は西欧的文明を代表し、清国は東亜的習套(アジア的旧弊システム、習慣、風俗)を保守する正反対の異観を呈した。
②日本は清国『頑迷愚昧の一大保守国』と侮り、清国は日本を『軽佻躁進(軽佻浮薄)、欧洲文明の皮相を模倣する一小島夷(1小国の野蛮人)』と日本人を嘲り、両者の感情は氷炭相容れず(パーセプションギャップの拡大)、いずれの日か戦争が起きる状態になっていた。
陸奥宗光
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B8%E5%A5%A5%E5%AE%97%E5%85%89
『蹇々録』(けんけんろく、蹇蹇録)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B9%87%E3%80%85%E9%8C%B2
≪以下は『蹇々録』の第5章の現代訳である>
第五章 朝鮮の改革と清韓宗属との問題に関する概説
朝鮮内政の改革、清韓宗属(宗主・属国)の問題は日清両国が朝鮮における権力競争の結果であり、、今この問題が如何に進展してきたかを論考する前に、日清両国のこれまで関係を概説する必要がある。
そもそも日清両国が友隣の邦国として互いに往来、交際したのは大昔からであり、政治、典例(法令、前例、手本)、文学、技芸、道義、宗教など数多くの文明の元素たるべきものは殆どその淵源を同一にし、かつ往昔にはわが国は常に彼の国の文明により誘導された恵みを蒙ったことが多かった。彼(清国)は自ら先進国の地位を占め、わが国は自ら後進国の状態だった。
ところが、近来、ヨーロッパ列強国がその勢力を東洋にのばして、西欧的文明の元素もまた極東の町々までに流入してきた。特に我が国は維新以来ここに二十有七年、政府も国民も汲々として西欧的文明を採用することに努め、これによって百般の改革を実行し長足の進歩をとげ、ほとんど古来の日本の面目を一変して新日本の勃興を見て、時の先進国たる欧米各国をして驚嘆させた。
ところが、清国は依然、昔ながらの習弊習慣、旧体制を墨守し、すこしも内外の形勢に応じてその旧弊を改革する所がなく、わずかに一衣帯水を隔てる両国で、日本は西欧的文明を代表し、清国は東亜的習套(アジア的旧弊システム、習慣、風俗)を保守する正反対の異観を呈した。
かつて我が国の漢儒者たちは常に彼の国を称して中華または大国といって尊敬し、清国がすこぶる日本を屈辱するのを異一顧だにせず、しきりに彼を崇慕(崇拝)した時代もあった。
今は、我(日本)は彼(清国)を称して『頑迷愚昧の一大保守国』と侮り、清国は日本をみて『軽佻躁進(軽佻浮薄)、みだりに欧洲文明の皮相を模倣するの一小島夷(1小国の野蛮人)』と日本人を嘲り、両者の感情は氷炭相容れず(パーセプションギャップの拡大)、いずれの日かここに一大争論(紛争)を起きる状態になっていた。
外面の争論は如何なる形跡にでても、その争因は必ず西欧的新文明と東亜的旧文明との衝突』となることはとは明らかであり、国土を相接し国力の均等した隣邦の間には常に存在する相互の功名心、相互の猜疑心は日に日にエスカレートして両者の憎悪と嫉妬とが燃え上がり、両国が互いに実態のない不信感、疑念、軽蔑感を増幅し、いまはまだ兆候はないものの、いつ何時、ちょっとした契機で爆発するかわからない。
かの琉球問題および台湾問題は今ここに詳述する必要はないが、明治十五年の後は日清両国がその競争の焦点を朝鮮国内に集めたる形となり、以来。朝鮮の事といえば日清両国とも互いに嫉妬の眼をもって相にらみあうじゅおたいとなった。
今回の事件においても、また当初より朝鮮の内乱を機として彼我共にその権力を該当国に張り自家の功名心を満足させたことは事実である。
さて帝国政府の提案した共同委員の説は清国の拒絶する所となり、わが政府は独力を以て朝鮮を改革することになったこれが衝突のきっかけとなることはある程度、覚悟していたが、騎虎の勢いは如何ともしがたい情勢となった。
そもそも日清両国の争点は、第一に朝鮮内政の改革を実行する手段方法、第二に滑韓宗属の決定如何にあった。宗属の関係は牙山勝利の後、朝鮮政府はわが政府の勧告に従い自ら独立国であることを言明し、その独立の資格に妨害のある清韓通商章程等の諸定約を公然廃棄することを宜言したために、問題は死滅した形になった。
更に下関条約において清国政府が自ら朝鮮を一個の独立国であることを確認したので、この一点については我が政府は全く当初の目的を遂げた。
朝鮮内政の改革については従来から複雑な事情があり、今なお満足なる成果を上げていない。そもそも、我が国の独力を以て朝鮮内攻の改革を担任すべしとの論議が世間でおきるや、我が国の朝野の議論は騒然となり、「朝鮮は我が隣邦なり、我が国は多少の難難に際しても朝鮮との友好を助ける義侠国の帝国としてこれを避けるべきではない」というもの多く、その後、両国が交戦に及んだ時では、『我が国は強国を抑え弱国を扶けて仁義の軍隊を起すものなり』といい、
殆ど勝敗を度外視し、この一種の外交問題をあたかも政治的必要よりも、むしろ道義的必要より出たものの如き見解を下した。
かかる議論をなす人々の中にも、その胸奥を探ると、陰に朝鮮の改革を名として漸く我が国土の拡張を企図し、朝鮮を以て全く我が保護国とし常に我が権力の下に屈服っさせようと企図したものもあり、また朝鮮をして適応の改革を行わせ、小さいながらも一個の独立国たるの体面を具えさせて、他日、我が国が清国もしくは露国と事(戦争)のある時には、中間の保障とすると思惑をしたものもあった。
また、大早計にもこの際、直ちに我が国より列国会議を招集し、朝鮮を以て欧洲大陸のべルギー、スイスのような列国保障の中立国となすべきである、と論議したものもあったが、これいずれも大概、個々人々の対話私語に止まり、その公然たる世間、社会の世論は『弱を扶け、強を抑える義侠論』に外ならなかった。
余はもとより朝鮮内政の改革の政治的必要以外は、全く意味のないものと思った。また、いささかも義侠心を押し立てて十字軍を興す必要をみとめていなかったため,朝鮮内政の改革は、第一に我が国の利益を主眼とする程度に止め、敢えて我が利益を犠牲とする必要は認めなかった。
今回の事件としてこれを論ずれば、朝鮮内政の改革とはもともと日清両国の間で紛糾した解けざる難局を調停するために案出した一個の政策であった。
事局一変して我が国の独力でこれを担当せざるを得なくなったので、余は初めより朝鮮内政の改革、その事に対しては格別重きをおかず、また、朝鮮のような国柄が果して善く満足なる改革をなし遂げることができるかどうか疑問があった。
しかし、朝鮮内政の改革は今や外交上の死活問題となり、我が政府はともかくこれを実行をせざるを得なくなった。
余はこの問題を、己に一回破裂したる日清両国の関係を再び調和し得べきか、もしこれを調和できなければ、むしろその破裂の機を促進すべきか、ともかくも陰々たる曇天を一変して一大強雨を降らすか、一大快晴を得るかの風雨針としてこれを利用したのである。
つづく
関連記事
-
-
「Z世代のための、約120年前に生成AI(人工頭脳)などはるかに超えた『世界の知の極限値』ー『森こそ生命多様性の根源』エコロジーの世界の先駆者、南方熊楠の方法論を学ぼう』★『「 鎖につながれた知の巨人」熊楠の全貌がやっと明らかに(3)。』
2009/10/04 日本リーダーパワー史 (24)記事再録 前坂 …
-
-
近現代史の復習問題/記事再録/日本リーダーパワー史(87)-『憲政の神様/尾崎行雄の遺言/『敗戦で政治家は何をすべきなのか』<1946年(昭和21)8月24日の尾崎愕堂の新憲法、民主主義についてのすばらしいスピーチ>
2010年8月17日 /日本リーダーパワー史(87) &n …
-
-
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉒『開戦3ゕ月前の「米ニューヨーク・タイムズ」の報道』★『国家間の抗争を最終的に決着させる唯一の道は戦争。日本が自国の権利と見なすものをロシアが絶えず侵している以上,戦争は不可避でさほど遠くもない』★『ロシアが朝鮮の港から日本の役人を締め出し、ロシアの許可なくして朝鮮に入ることはできないということが日本を憤激させている』
『日本戦争外交史の研究』/ 『世界史の中の日露戦争』㉒ 『開戦3ゕ月前の「米 …
-
-
『Z世代のための<日本政治がなぜダメになったのか>の講義』②<日本議会政治の父・尾崎咢堂が政治家を叱るー『売り家と唐模様で書く三代目』②『自民党の裏金問題の無責任・C級コメディーの末期症状!』●『80年前の1942年(昭和17)の尾崎の証言は『現在を予言している』★『『 浮誇驕慢(ふこきようまん、うぬぼれて、傲慢になること)で大国難を招いた昭和前期の三代目』』
2012/02/24  …
-
-
『F国際ビジネスマン・ウオッチ⑥』“中国の太子党は金持ちになる為に家族の繋がりを乱用”』<ニューヨーク・タイムズ5/17>
『F国際ビジネスマンのワールドニュース・ウオッチ⑥』 ★『 &ld …
-
-
日本メルトダウン脱出法(769)「世界初の原発ごみ最終処分場建設へフィンランド」●「米国超大物スパイが明かす、中国「世界制覇」の野望」●「「中国崩壊」論は、単なる願望にすぎないーそれでも中国経済は日本の脅威になる」
日本メルトダウン脱出法(769) 「世界初の原発ごみ最終 …
-
-
梶原英之の政治一刀両断(4)ー『やらせメールが原発再開を遅らせた』
梶原英之の政治一刀両断(4) 『やらせメールが原発再開を遅らせた』 …
-
-
片野勧の衝撃レポート(28) 太平洋戦争とフクシマ① 悲劇はなぜ繰り返されるか「ヒロシマからフクシマへ」❶
片野勧の衝撃レポート(28) 太平洋戦争と …
-
-
日本メルトダウン(1002)-ー [FT]トランプ政権の陣容は大いに疑問(社説)」●『米中関係:嵐の前の静けさ? (英エコノミスト誌)』●『トランプ経済で大打撃を受ける2つの国 通商・貿易政策を見ていくと』●『トランプ政権誕生という「逆説的外圧」は日本を変える大チャンスだ』●『中国一の富豪、トランプに先制口撃「2万人の米国人が失業する」』●『「2025年問題」をご存知ですか?~「人口減少」「プア・ジャパニーズ急増」 …9年後この国に起こること』
日本メルトダウン(1002) [FT]トランプ政権の陣容 …
-
-
●「日本の新聞ジャーナリズム発展史」(上)『 日本での新聞の誕生・明治期』『 大新聞と小新聞の発展』★『日露戦争と新聞 』★『大正デモクラシーの担い手となった新聞』★『関東大震災と新聞』
「日本の新聞ジャーナリズム発展史」(上) 2009/02 …