『オンライン講座・日本戦争外交史①』★『決裂寸前だった日露戦争・ポーツマス講和会議①―戦争で勝って外交で敗れた日本』★『ロシア外交に赤子の手をひねられるようにやられた』
2022/12/01
前坂 俊之・静岡県立大学国際関係学部教授
<山川書店MOOK『坂の上の雲と日露戦争』(2009年11月刊)に掲載
ルーズベルト米大統領の斡旋が実って講和会議の席に着いた日露両全権は、いかなる交渉術を発揮したのか-
-
メディア対策で負けた日本全権団
軍事力による戦いが戦争であり、言葉による戦いが外交である。外交の最大値としての講和談判はその国のコミュニケーション能力が最も試される知恵の戦いでもある。日露戦争は軍事力では勝利をおさめたが、戦争の総決算である講和会議ではロシア全権セルゲイ・ウィッテの巧妙なメディア戦略によって、赤子の手をひねるようにやられてしまった。
日本は初の国際外交の大舞台での対外交渉能力、異文化コミュニケーション能力の失敗によって、戦争では勝ちながら、外交交渉では大敗北を喫した。今も日ソ間の懸案である『北方領土問題』は、さかのぼれば約百年前のこのポーツマス講和会議に突き当たる。
ルーズベルト米大統領の斡旋、根回しによって、講和会議の場所はボストンから北約八十キロの米国ニューハンプシャー州のポーツマス軍港と決まった。
日本が派遣する講和全権団は当初、伊藤博文が候補に上ったが、小村外相となった。ハーバード大出身の小村は金子堅太郎特使、ルーズベルト大統領とも同窓生であり、米国メディアからは歓迎された。首席全権には小村外相が座り、次席が高平小五郎駐米公使、佐藤愛麿駐オランダ公使、随員は山座円次郎外務省政務局長、本多熊太郎(外相秘書官)らで、外国人は外務省顧問デニソン一人という布陣で、メディア関係者は一人も含まれなかった。
ロシアに圧倒される外交テクニックと新聞工作
一方、ロシア全権ウィッテ(ロシア蔵相、首相)は政府関係者、陸海軍トップに加えて、世界的公法学者マルテソス、国際政治評論家デイロン、前ロンドン・タイムス政治部長、フランスの新聞記者ら三人を加えたメディア重視の布陣で臨んだ。
「アメリカは民主主義、世論の国であり、新を味方につけた方が勝つ」との戦略から情報工件に積極的に取り組んだ。ウィッテ一行は豪華客船でパリから六日間かけて大西洋を渡り米国に入ったが、船内で
①ロシアが講和会議に来たのは、列強の平和の希望に応じたまで、ロシアの連敗の事実にはこだわらず、超大国代表としての堂々たる態度で臨む。
②アメリカは新聞の国なので、記者に最大限、情報を提供して味方につける。
➂民主的な態度で米国市民と接して人気を得る」など五つの基本戦略を立てた。
小村外相は有名な新聞嫌い
対する日本側はメディア工作(情報操作)などまるで頭になかった。小村は有名な新聞嫌いで、日本の新聞はもちろん外国メディアの取材にも一切応じなかった。この両者を比較して『大阪朝日新聞』(十月二十日付)は書いている。
「『われわれはポーツマスへ新開の種を作らんがために来たのではない。談判するためなり』とは小村男の言なり。一方、ウィッテはポーツマスで新聞記者を集め『今回平和の成立を見るにいたれるは一に諸君の力なり』」とリップサービスに努めた。
●超大国・ロシア対小国・日本の講和会議は、八月九日から始まった。
日本政府は奉天会戦で勝利した後に講和条件を決定しており、小村全権に指示した。その内容は甲乙丙の優先順位をつけた十二項目からなっていた。
①甲の絶対必要条件。つまり、交渉で絶対勝ち とるべきとして要求していたのは戦争の目 的を達して帝国の地位を永久に保証するため「ロシアは韓国における日本の優越権を 認める、ロシア軍は満州から撤退し、遼東半島の租借権を、日本に譲渡すること」の三条件であった。
②乙の比較的必要条件。絶対的条件ではないが、小村の交渉の経過に任せる - としていた項目で「軍費の賠償は最高額十五億円として、談判の内容によって適宜定めること。中立港に避難した軍艦を日本に引き渡すこと、サハリン(樺太)、付属諸島を日本に割譲すること、沿海州沿岸の漁業権を与えること」など四項目となっていた。
③丙の付加条件は「ロシアの極東の海軍力を制限すること、ウラジオストク港の軍備を撤廃すること」などで、小村の取捨選択、裁量に任せていた。
つづく
関連記事
-
-
『Z世代のための日本の超天才人物伝③』★『約120年前に生成AI(人工頭脳)をはるかに超えた『世界の知の極限値』ー『森こそ生命多様性の根源』エコロジーの世界の先駆者、南方熊楠の方法論を学ぼう』★『「 鎖につながれた知の巨人」熊楠の全貌がやっと明らかに(3)』
前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授) 奇人貴人2人の裸 …
-
-
日本リーダーパワー史(677) 『日本国憲法公布70年』『吉田茂と憲法誕生秘話 ③『東西冷戦の産物 として1ヵ月で作成された現憲法』③ 『憲法9条(戦争・戦力放棄)の最初の発案者は一体誰なのか』その謎を解く
日本リーダーパワー史(677) 『日本国憲法公布70年』 『吉田茂と憲法誕 …
-
-
★『2018年(明治150年)の明治人の歴史復習問題』-『西郷どん』の『読めるか化』チャンネル ➀<記事再録まとめ>日本歴史上、最大の英雄・西郷隆盛を研究せずして 『日本の近現代史』『最高の日本人』を知ることはできないよ①
2018年(明治150年)の明治人の歴史復習問題― 『西郷どん』の『読めるか化』 …
-
-
野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ①『パナソニックの瀕死の重体の決算内容。事業構造を変革なくして赤字脱却は困難』
野口 恒のグローバル・ビジネス・ウオッチ① 『パナソニックの大幅赤 …
-
-
日本メルトダウン脱出法(825)「小泉進次郎氏激白!補助金漬けと決別し農業を成長産業に」●「なぜ日本の男は苦しいのか? 女性装の東大教授が明かす、この国の「病理の正体」」●「中国経済の足を引っ張る「キョンシー企業」を退治せよ」●「Facebook、マイクロソフト、ソニーも参戦 今年ブレイクするバーチャルリアリティ」
日本メルトダウン脱出法(825) 小泉進次郎氏激白!補助金漬 …
-
-
<まとめ>『日本興亡学入門』2018年は明治維新から150年目ーリーマンショック前後の日本現状レポート(10回連載)
<まとめ>『日本興亡学入門』 5年後の2018年は明治維新から150 …
-
-
世界、日本メルトダウン(1015)「地球規模の破壊力示したトランプ」とガチンコ対決」★目からウロコ名解説『トランプ大統領はプロレス悪役のトリックスターで 『プロレス場外乱闘政治ショウ』に騙されるな!』(動画名解説10分間)
世界、日本メルトダウン(1015)- 「地球規模の破壊力示したトランプ」とガチ …
-
-
日本のメルトダウン(533)●「アベノミクスへの信頼感を試す消費増税(英FT紙)◎「再稼働説を支える3つの神話と1つの真実」
日本のメルトダウン(533) …
-
-
日本リーダーパワー史(680) 日本国難史の『戦略思考の欠落』(59)「日露戦争・日本海海戦の勝因は日英軍事協商(日英謀略作戦)ーバルチック艦隊は「ドッガーバンク事件」を起こし、日本に向けて大遠征する各港々で徹底した妨害にあい、 艦隊内の士気は最低、燃料のカーディフ炭不足で 決戦前にすでに勝敗は決まった。
日本リーダーパワー史(681) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(59) …