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NHK「花子とアン」のもう1人の主人公・柳原白蓮事件(8)『安田(善次郎)は刀で、俺は女の筆で殺された』「東京日日(現毎日)」

      2015/01/01




伊藤伝右衛門の白蓮の決別状に反駁―

安田(善次郎)は刀で、俺は女の筆で殺された』

「東京日日(現毎日)」

 

 

柳原白蓮

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B3%E5%8E%9F%E7%99%BD%E8%93%AE

白蓮事件

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BD%E8%93%AE
%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 

宮崎龍介

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%AE%E5%
B4%8E%E9%BE%8D%E4%BB%8B

 

 

 

 

 


1921年(大正l01024日、東京日日(現毎日)〕

 

銀行王・安田(善次郎)は刀で、俺は女の筆で殺された 

 

京都に滞在中の伊藤伝右衛門氏は燁子の絶縁状なるものを読んで、それに対する考えを発表したいとて、燁子との結婚当時から同棲10年の今日に至るまでの生活内容に就き、縷々陳述する所があった。記者は氏の許可を得てこれを筆記したものが、左の絶縁状を読みて燁子に与える一篇である。因みに同氏は23日京都発、幸袋に帰った。

 

燁子!よ、お前が俺に送ったという絶縁状はまだ手にせぬがもし新聞に出た通りのものであったら、随分思い切って侮辱を与えたものだ。見る人によったら、安田は刀で殺されたが、伊藤は女の筆で殺されたと云うだろう。妻から夫に絶縁状を叩き付けたと云う事も始めてなら、それに本人の手に渡らない前に堂々と新聞紙に現われたと云うのも不思議な事だ。

 

俺はその記事を新聞で見て一時はかなり昂奮した。しかし今は少し落ち付いて静かに考えると、お前という一異分子を除き去った伊藤一家が、いかに今後円満に一家団欒の実を挙げ得るかという事を思うと、かえって俺自身としては将来に非常な心易さを感じて居る。

 

来年は俺も還暦だ。だんだん年を取やたから、伊藤家を合資組織にしてお前に対する俺の没後の財産処分方法も考えていた処であったが、これはもう要らぬ事になった。

俺の一生の中に最も苦しかった十年を一場の夢と見て生れ変わった心算ですべてを立て直そう。

 

今後は誰か一家の取締りをするに好い人を探し出し女中に使い、いっさい家庭上のことを一任して静かに子供の行く末でも眺めようと思って居る。

お前から送くったと伝えられる絶縁状を見ると、俺としての言い分もなんらかの機会に云って了いたくなって来る。

 

そもそもお前との結婚問題が不自然なものであった

 

十年以前の記憶を辿ると、その時の事がまざまざと俺の頭に浮かんで来る。当時妻を亡くした俺には、お前より前に京都の某家との結婚問題が起こって、その方がほとんど纏まりかけていた。

 

そこへふとお前の話が持ち上がリ京都の北小路—あまり豊かでない華族に嫁いでいて、貧しい生活から逃げるように柳原家へ帰った出戻りの娘ではあるが、貧しさには馴れて居る、妾腹の子で母は芸者だからと云う申し込みで上野の精養軒で見合いをした。

 

その時お前はまだ幼なかったふく子さん(柳原伯嗣子夫人)、とく子さん(吉井勇氏夫人)の2人を連れて来て、そこで初めてお前というものに会った。お前はこの日、見合いという事を気付かなったらしい。

 

 

 それからその晩、有楽座に来てくれと云う事で、この劇場では柳原伯夫妻に初めて会ったが.追って話を進める事にして、九州に帰って来ると幸袋に着かぬ前に、初めの橋渡し人であった得能さんから電報が来て居て、話は纏まったから直ぐ式を挙げたいとあったので全く狐を馬に乗せたような気がした。

 

それほどお前の結婚は何でもかでも押し付けよう、それでないともし断わられたらという懸念があったものだったのだ。そうして結納の取り交わしを済ませたが.この結婚談は最初あまり好い都合に運ばれなかった。当時若松に居た某某が、ここの縁談を種に金にしようとして俺の処に暴れ込み、今度の黄金結婚を東京の新聞が書くと云っておるとて、口止め料として相当の金高を要求した。

俺はこれを一も二もなくはね付けたが、その結果はその男がいい加減の材料を東京の某新聞社に売って、そこで燁子の身代金として何万円かを柳原家に送った.それは義光伯の貴族院議員選挙の運動費に使うのだった。伊藤は金によって権

 門を買うのだ等と書かれた。俺はあまり好い気がしなかったので急に嫌気がさして、直ぐ破談を申し込んだが、間に居る人々に宥められて到頭結婚式を挙げた。

 

今考えるとあの時少し俺が言い張ったら、十年と云う永い問の苦しい夢も現われなかったのであろう。柳原家には俺としてお前のためにびた一文送った事はない。この風説は柳原さんにお気の毒な事と思って居る。

 

結婚式の第一日に於いて一平民のーお前から云うと一賤民の俺の頭に不思議に感じた事があった。式が終わって自動車で一緒に旅館に引き揚げて来た時、お前はどうしたか室の

片隅でシクシクと泣いた。附添いの者達がめでたい時に涙は不吉だと言って諭したが、お前はなかなか止めなかった。

俺は実家を離れた小娘心の涙と思った。

 

当時出戻りとして、柳原家ではかなり厄介視されて居たお前である。ところがその涙は自動車に乗る時、一平民たる俺が華族出の妻を後にして、少しも尊敬せず労わらず先に乗ったと云う事が、お前の自尊心を傷つげ、そのために落とす悔し涙という事が判った。実際これはたいへんな妻を貰ったと思った。

 お前の雅号にして居る白蓮?はお前は或る人に、伊藤のような石炭掘りの妻にこそなれ、伊藤の家のような泥田の中に居れ、我こそは1人り染まぬ百蓮という意味で付けたのだと云う?

その自尊心、そういう結婚式の第一日に見せられた自尊心乃至持病のヒステリーで、この十年間どのくらい俺を苦しめた事と思うか。

 

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