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世界/日本リーダーパワー史(915)-『米朝首脳会談(6月12日)で「不可逆的な非核化」 は実現するのか(下)

      2018/06/16

世界/日本リーダーパワー史(915)

一方、日本の対応と、日中のパワーバランスの急変化

              「月刊公評」(2018年7月号掲載)

(C)「安倍首相とトランプ米大統領の日米首脳会談は4月17日から2日間行われた。

安倍首相は、米朝会談で拉致問題を取り上げてもらうことだった。トランプ氏は了承したが、日本などをターゲットにした中短距離ミサイルの全廃問題には言葉を濁したという。また通商問題では同盟国のいずれもが対象外となっていいるアルミ、鉄鋼についての関税問題では日本だけが外されたままです。

しかし、その後もトランプからは頻繁に電話があり、米朝会談の経過と対応のすり合わせはやっているようですね。日本が蚊帳の外におかれている状態とは言えないと思います。

日本側も5月9日に李克強首相を招いて8年ぶりに日中韓サミットを東京で開催して北朝鮮の「完全な非核化」に向けて連携することを確認。日中韓の経済協力を進める考えでも一致、日中関係は雪解け状態です。」

(A)「2016年大統領選の直後、将来の世界史の本には『パックスアメリカーナ(米国による平和)』は1945年に始まり、⒛16年に終わった」と書いたと国際政治評論家のイアン・プレマー氏は「10年後に振り返れば、「習近平終身国家主席の今年の演説こそパックスアメリカーナの終わりに向けた転換点となったとわかるだろう。

自由民主主義や多国間主義、歴史に培われた米国の価値観に無関心なトランプ氏に投票する米国人の考え方自体が米国の政治システムが深刻に壊れていることを示している」(サンケイ5月1日)と書いていますね。

この通り、トランプの暴走ばかりに注目していると、米国の覇権失墜と中国への覇権移行、習近平の独裁確立が見えなくなる」

 

(B)「特に中国の急速な台頭、中国へのパワーバランスの変化が日中関係だけでなく、世界に大きな影響を与えている。この点が日本はよくわかっていない。私もそうですが、40代以上の年配層の日本人はこの30年の大逆転がよくみえていない。

平成が始まった89年に日本の9分の1ほどだった中国の経済規模は、2010年に日本を追い越し、今や日本の2倍以上に膨らんでいる。国防予算も公表されているだけで、日本の約3倍に達しているのです。この日中の力関係の逆転と中国の巨大化が互いの見方に大きなズレを生じたのです」

 

(C)「ロバート・ジャービス(コロンビア大学教授)らの『誰も望まない戦争はどのように始まるか』(フォーリンアフェアーズ、2018年5月号)は米朝首脳会談のリスクについて分析しており、大変参考になる。

➀両国には大きなコミュニケーションギャップ(国交、外交関係が半世紀以上途絶)とミスパーセプション(相手へのイメージ、認識の間違い)によって、ともに望んでいない開戦、戦争へのエスカレーションを引き起こしかねない。

②人間は自らの行動が、自分が意図する通りに他者からもみなされると誤解しがちだ。人間は自分の見たいものを見がちで「北朝鮮にアメリカがどうみられているか」、ワシントンが送るシグナルを北朝鮮の指導者はどのように解釈するかの方こそ検証する必要がある。

③交渉の内容の評価、決定事項を守るか、守らないか、の判断はそのワシントンの官僚ではなく、平壌の高官たちにゆだねられる。

④トランプ政権は、先ず、平壌の目的とボトムライン(収支決算、純益、要点)、が何かを徹底分析する。

現在の政策決定者はこれまで北朝鮮との交渉経験のある元米政府高官や専門家を交えて全面的な非核化よりも限定的な目的を定義することを含めて、外交戦略を新たに考案する必要がある、と提言しているのです」

  • トランプ大統領はイラン核合意を一方的に破棄

(B)「トランプ米大統領は5月8日、欧米など6カ国(米英仏独ロ中)が2015年にイランと結んだ核合意からの「離脱」と発表した。発表では核合意に基づいて米国が核開発を制限する代わりに解除していた制裁を再開し、最高レベルの経済制裁を科す」と強調した。

イラン産原油輸入目的でイラン中央銀行と取引する外国金融機関などへの制裁はこの合意で解除されていたが、最大180日間の猶予期間を設けた後に再発動する。

この一方で、ICBMの開発などを含めた新たな合意を目指して、核合意離脱に反対した英仏独との間で協議始するという。」

 

(A)「これに対し、イランのロウハニ大統領は8日に即座に声明を発し「(米国を除く)5カ国と協議して核合意の目的が達成されるなら、イランはとどまる。

イランと違い、米国こそ国際的義務を順守してこなかった」と激しく非難した。再び中東でキナ臭いにおいが立ち込めてきたが。これは北朝鮮に対する不十分な非核化合意は受け入れないぞ、という強いメッセージですね」

 

(C)「このイラン核合意破棄には伏線がある。イランを目の敵にしているトランプ氏はこんなひどい核合意はないと前々から破棄を宣言していたが、破棄決定期限の2週間前の4月30日にイスラエルのネタニヤフ首相は国内のすべてのテレビに、イランの核兵器開発計画の「極秘ファイル」を暴露した。

これはイスラエルの情報機関(モサド)がテヘランにある秘密施設から入手したという極秘文書「アマド計画」(核兵器開発に関する書類、CDの11万ページ)の資料です。イラン政府は直ちにこの資料を否定。IAEAもEUのモゲリーニ外交安全保障上級代表もこの資料に対して懐疑的な考えを示た。

ところが、ポンペオ前CIA長官は「資料は本物だ」と断定しし、ホワイトハウスも「イランは合意に違反して秘密裏に核兵器計開発していた証拠だ」と激しく攻撃した。これが合意破棄の理由にされた』

(B)「イラク核問題の背景の1つはペルシャ湾岸の覇権を争うサウジアラビア(イスラム教スンニ派国)とのイラン(同シーア派国民族対立です。サウジアラビアは2016年1月にイランとの外交関係を断絶した。両国の対立はシリア、イラク、カタール、イエメン、レバノンなど周辺国々を巻き込んで拡大している。

トランプ政権は、サウジアラビア側に肩入れし、イスラエルなどとともに、イラン包囲網を築こうとしてドロ沼状態に陥っている。」

 

(A)「イランや、レバノンの「ヒズボラ」(シーア派組織)などの武装組織は2012年に勃発したシリア内戦に参加、現在、ロシアとともにアサド政権を支援し、2千人の軍事顧問と2万人の民兵を同国内に配置してきたといわれる。

シリアと境界を接するイスラエルとヒズボラは交戦が続いている状態です。米国のイラン核合意の破棄以来、戦闘は一層激化しイスラエルは10日、シリア国内のイランの(軍事)インフラのほぼ全てをロケット攻撃し、一方、イラン革命防衛隊が、イスラエルの占領地ゴラン高原にロケット弾を発射するなど軍事衝突がエスカレートしている。」

(B)「トランプの説得に失敗した英仏独3ヵ国の首脳は「我々は合意の履行を続ける」と声明を出し、イランのザリフ外相も「参加国がイランにとって利益を保証できるかどうか、外交努力を続け離脱をしない」と冷静に反応していて、平和を維持している状態でね」

  • 米朝首脳会談の落としどころとは・・

(C)「米朝会談への思惑は北とトランプと金委員長では全く正反対だ。トランプは北との取引で歴代大統領が失敗していた朝鮮半島の平和化を実現した点を中間選挙の最大のポイントにしたいと考えといる。

一方、金は自己のサバイバルと体制保持のためには、対米交渉を決裂させなこととが最優先で、後がない。首脳会談での失敗は許されないので、会談決裂はあり得ないでしょうね」

(A)「不動産王のトランプはニューヨークでプロレス興行をプロデュースしていた経歴やテレビの司会役を経験しショウマンシップにたけている。

この歴史的な会談をテレビ、Youtube,snsマスメディアを総動員した劇場型の一大大統領政治ショウに仕立てあげ、中間選挙に勝利したいのではないか。解放された3人の人質を出迎えたトランプニュースでは彼を人質救出のヒーローに祭り上げたエンターテイメント報道になっていた。

シンガポールでは習近平国家主席、文大統領も同席させて、ド派手な情報操作をやり、ロシアゲート事件の捜査などから米国民の目をそらすためのショウアップにつとめるのではないか」

(B)「米国は北朝鮮の「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)、を求めると主張して交渉を進めているが、核廃棄の時期、成果までの期間、制裁緩和の時期をめぐって両者の隔たりは大きくあと1ゕ月で埋めることはできないでしょう。

そのため、会談では北朝鮮の非核化の具体論は先送りしする公算が大きい。具体論を今後の事務レベル協議に委ねるとして決裂を避け、会談の成功を演出するのではないか。

共同声明では非核化に向けた大きな行動原則や朝鮮半島の平和を実現する意志を確認する程度、朝鮮戦争の終戦宣言を入れるかどうかのせめぎあいです。

中距離核ミサイルの保有を米国が黙認する結果になれば「日本にとって最悪の事態」と外務省は危機感を募らせている。」

 

(C)「軍事評論家の田岡俊次氏はブログで、「北朝鮮の非核化が完全で検証可能、不可逆的なものになるなら満点だが、現実的に考えればそれは極めて困難だ。

北朝鮮が中距離核ミサイルを保有し続けることを米国が黙認する結果になるのではないか。外務省の言う「日本にとって最悪の事態」とは首脳会談が決裂し、米国の先制攻撃で核戦争が起こり、日本が巻き添えを食うことではないかと指摘している。」

 

(A「以上のような論議を一蹴するのが北朝鮮ウオッチャーの李英和氏で、「北朝鮮は絶対に核を放棄しない」とか的外れな論議をしている評論家は「北朝鮮の国力を買いかぶり過ぎている」と批判している。

北朝鮮の究極目標は世襲独裁体制の「生き残り」にある。核開発はそのための手段であり、核保有自体が目的なのではない。北朝鮮経済は現在、国連による強力な経済制裁によってどん底の危機にある。

ドルも元も底をついた。核を即時に捨てなければ経済が持たない。そのために金氏は核廃棄を決断しドルと交換して、一刻も早く経済再建、改革開放路線に転換したいのだ。時間稼ぎなどする余裕はない、という。、

さらに、この金正恩氏の米朝会談の成功後の路線変更によって、リビアのような国内不満分子の革命が起きるのではないかと、予測しているのです。果たしてどちらに転ぶか、来月の首脳会談がみものです」

つづく

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

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