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日本リーダーパワー史(185)『世界一の撃墜王・坂井三郎はいかに鍛錬したか』ー<超人(鳥人)百戦百勝必勝法に学ぶ>

   

日本リーダーパワー史(185)
『世界一の撃墜王・坂井三郎はいかに鍛錬したか』
<坂井三郎の超人(鳥人)百戦百勝必勝法に学ぶ>
 
前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
8月15日の今日は、真珠湾攻撃(1941年)から70週年目にあたる。「大空のサムライ」を読んで感動してので紹介する。

坂井三郎(さかいさぶろう)いうまでもなく太平洋戦争における日本海軍のゼロ戦(戦闘機)のエースパイロットである。日中戦争から太平洋戦争を通じ、激戦のガダルカナル島や硫黄島上空の最前線の戦闘を含めて200回以上の出撃し、敵機64機を撃墜した日本の撃墜王、世界一の撃墜王といわれた。
 
敗戦後は海軍時代の経験をふまえ、太平洋戦争や人生論の本を多数執筆した。自ら自伝とも言うべき「大空のサムライ」は各国語に翻訳され、100万部を突破する世界的ベストセラーとなった。
 
言うまでもなく、陸軍、海軍の集団戦闘と違って戦闘機乗りは1対1の個人技的な色彩が強く、サムライの決闘、アメリカなら西部劇のガンマンの決闘に匹敵する近代兵器を駆使した殺し合い、死を賭けての戦いである。
 
究極の死を賭しての勝負の世界での心の持ち方はどうすればよいのか。
 
戦争、殺し合いという非常時態を如何に切り抜けてゆくのか。
戦闘時に要求される心の平静さをいかに保つことができるのか、
 
坂井は生活のすべてで工夫、研究、きびしい自己鍛錬と訓練をかして、死を賭けての空中戦に挑んで、連戦連勝を続けた。
 
日本最強の剣士『宮本武蔵』の「鍛錬」の「千里の道もひと足宛(ずつ)はこぶなり。……千日の稽古をもって鍛とし、万日の稽古をもって錬とす」『五輪書』を思い出すすさまじさと自己鍛錬と工夫である。どのようなポジションにいても問題意識をもって、生活を訓練の場にして「セルフコントロール」すれば、高くとべることができるのである。
 
 
 
坂井三郎の必勝法―『空戦に学んだ自己統御法』
(坂井著『大空のサムライ』昭和41年刊、光人社、あとがきより)
 
空中で敵と戦う任務をもった私たち戦闘機操縦者は、まず第一に優秀な視力をもっているということが絶対的な条件である。
 
戦闘機乗りの視力というものは、広い果てしない空中の1点に、あるかないかわからない霞のようなものを、〇・一秒でも早く発見?感じとらなければならない。
 
 そのためには、私は日頃から自分の目を大切にした。夜ふかしや深酒のような、目の能力を低下させるようなことは、できるかぎり避けた。
 
私は朝起きるとすぐ、緑色のものを数分間じっと見つめた。たとえば、窓の外の芝生とか、樹木とか、麦畑とか、なんでも線色のものをじっと見つづけた。
 
それに、遠目をきかす訓練も怠らなかった。遠い山の境界線にある樹木の恰好を、その細かい枝ぶりまで見きわめる訓練や、群れ飛ぶ鳥を見ても、その数を、できるだけ確実に早くかぞえる練習もやった。
 
 
最後には、私は昼間の星を探しはじめた。これはなかなかむずかしいことであった。
私はまず日の暮れに、その1番星を、1秒でも早く見つける練習をした、昼間の星は青空にとけこんで、かすかに青白く光っている。この昼間の星を見つける訓練の目的は、遠距離で敵をつかまえる場合により早く見つけることができるこのような訓練の結果、私の視力は、坂井の視力は二・五だ」といわれるほどになった。たゆまぬ修練を行なった結果である。

 私は長い期間にわたって、数えきれないほどの空中戦を経験したが、この視力のおかげで、ただの一度といえども、敵から先に発見されたという気配を感じたことはなかった。

昔から飛行機乗りの六割頭といって、空中では人間のもっている能力が著しく低下する。戦中戦後を問わず、数々起こった飛行警故の中で、地上においては考えられないようなミス、空中でなされるのも搭乗員の判断、処置力が減退しているからである。地球との緑を切って空中に上がった瞬間から、意識すると意識しないとにかかわらず、己れの生命の危険を感じているのである。
 

 しかも、自分の声も聞こえないほどの騒音の中で、確実な飛行を行なうためには、たくさんの計器につねに気をくばり、エンジンの調子や刻々に移動していく自分の位置を確認しながら、指揮官機や僚機との連繋をとりながら飛行する。四方八方、上下左右にいつ、どこから飛びだしてくる敵機発見に全力をそそがねばならない。高度によって気圧の低下と酸素の不足と闘わんばならない。
 
 このように、悪条件を克服しながら、地上でもっている自己の全能力の分留りをいかに多くするかが勝負の決め手である。
 
 このため、同時に2,3つのことをやる訓練し、文章を確実に読みながら数学の計算をし、同時にラジオを聞き、そのうえ、人の会話の内容を聞きとり、それを頭の中で整理することさえ可能になった。
 
 
 また、夏から秋にかけて、トンボの飛ぶ季節は、私にとっては猛訓練のときだ。止まっているトンボ、飛んでいるトンボを素手でつかむ練習、ハエも同様で、この訓練を重ねた結果、しまいには止まっているハエなどはほとんど百発百中つかまえられるようになった。このつかみ方の勘が敵機を撃墜するとき非常に役立った。(まるで宮本武蔵とおなじである)
 
 また、頭脳がいま発射時と判定して左手が発射ボタンを握るまでに、運動神経のオクレがある。このズレを縮小するために、自動車に乗って走っているとき、交互にすぎ去る電柱や二本のエントツが重なるときにすかさず手を握る訓練など行なった。
 
 
 戦闘機乗りは、最後の頼みとするものは自分だけということである。徹底的ながんばりがなくてはいけないのだ。戦いの常として、こちらが辛い場合には向こうも辛い。辛い、辛いと思っているときには戦闘は互角である。
 
むしろこちらが勝っている場合が多い。その辛い最後の一瞬を、かならず勝てるという信念でがんばりぬいた人が、空中戦においても敵に勝つ人であって、その苦しい最後のときにへタぼった人が、かならず落とされる運命にある。そのためには、日ごろから負けじ魂を養うために、夏は水泳を一生懸命にやった。長距離と潜水とをやる。息が切れてももぐっている。私はもぐったまま百メートルぐらい泳いだ。冬はたいてい駆け足をやる。倒れる限度までやる。
 
 またサカダチの稽古をやった。飛行中、宙返りその他の操作で急激に機体に荷重をかける場合に、われわれの内臓器管は垂下してくる。それを元へもどすために、そのサカダチを何分がんばれるか、私は十五分つづけることができた。たいていの人は四分か五分くらいで顔が真っ赤になってはれ上がってくる。目も充血してくる。
 
もうだめだ、そう思ったときに倒れてしまう。ところが、その苦しさを踏みこえてみると、案外その先は楽だった。これも空戦のときのがんばりに役立った。
 
 また息をとめる稽古もした。普通は四、五十秒だが、私は二分三十秒の記録をもっている。一番辛いのは一分目ぐらい、こんなことをしていては心臓がとまりはしないか、このまま死んでしまいはしないかと思うが、それをがまんすると、一分十五秒あたりからずっと楽になってくる。
 
 なんでもこれと同じで、辛いと思ったとき、そこを踏みこえなければ勝てない。生理的にも精神的にも、そういう訓練をやって、非常に辛いときに、まだまだ余裕があるということを発見した。硫黄島の空戦で、十五対一で追い回されたが、あのときにもしも駄目だと思ってあきらめたら、私は落とされていたと思う。そこをあきらめないで最後までがんばりにがんばった結果、死地を脱しえた。
 
 
戦闘撥乗りは、どんなに多くの味方がいてくれても、最後にたよるものは、自分以外にはない。このように考えて、私は、自分の精神、智能、体力をその極限と思われるところまで、鍛えに鍛えてみた。
 
私は思う。普通の人間といわれる大部分の人たちが、果たして生まれてから自然に死んでゆくまでの長い期間に、自分が持って生まれた人間としての性能の何バーセソトを使って、この世から去って行っているだろうか……と。私は、平均三十パーセントくらいだと考えている。あとの七十%は捨てているのである。

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