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書評『明治お雇い外国人とその弟子たち―日本の近代化を支えた25人』片野勧著・新人物往来社

      2015/01/01

書評
『明治お雇い外国人とその弟子たち―日本の近代化を支えた25人のプロフェッショナル』(片野勧著・新人物往来社、本体価格2600円)
 
     師弟の交流から浮かび上がる和魂洋才の系譜
 
     
                             静岡県立大学名誉教授  前坂俊之)
 
明治期、日本政府は西洋諸国から多くの技術者や学識者を招へいし、積極的に先進文化や技術を採り入れた。それは近代化=富国強兵を進め、先進諸国に追いつき、追い越すためである。
明治政府から高い給料をもらい、招へいされた西洋の技術者や学識者を「お雇い外国人」と呼ぶ。その数は明治期全体で三千人以上といわれている。

 
本書はその「お雇い外国人」が明治日本の建設や日本の近代化に対して、どのように寄与したのか。また、彼らから日本の若い青年たちは何を学んだのかを描いたものである。
たとえば、身分制の撤廃や平等の思想を説いたフルベッキ。彼はオランダに生まれ、ユトレヒト工科大学で学んだあと、アメリカに渡り宣教師となる。二十九歳の安政六年(一八五九)、宣教師として来日し、長崎の済美館と佐賀の致遠館で聖書と米国憲法を説いた。
大隈重信や副島種臣は、人間の平等と人民の抵抗権を認めている米国憲法の講義をフルベッキから聴いて日本の政治体制もアメリカのような共和制が理想と考えた。米国憲法は大隈や副島らの政治活動の理論的支柱になったことはいうまでもない。
またイギリス出身のジョン・ミルンは工部省工学寮(のち工部大学校をへて東京大学に)で地質学、鉱山学を教えていた。しかし、明治十三年(一八八〇)の横浜を中心とした東京湾北部を震源とするマグニチュード五・九の地震がきっかけで地震の研究に入り、日本地震学会を立ち上げた。
ミルンは『日本地震分布論』など地震に関する論文を多数、発表。また『安政見聞録』など過去の文献の収集も行う。これが地震史研究の第一歩といわれ、現代につながる地震学の基礎となっているのである。
ミルンに師事した人に大森房吉や小藤文次郎らがいる。大森は東京帝国大学教授となり、「日本地震学の父」といわれる。小藤も東京帝国大学教授を歴任した。もちろん、ミルンは地震学だけでなく、地質学、鉱山学、人類学も講じた。その教え子から的場中や神田礼治、山下伝吉、坪井正五郎など優れた鉱山学者、地質学者、人類学者が輩出した。
日本画の魅力を訴えたフェノロサ、不平等条約改正に尽力したデニソン、日本初の鉄道建設に従事したモレル、紙幣・切手のデザインを手がけたキヨッソーネ、地方自治制度を創設したモッセ……。
 
正確には以下の25人を詳細に分析している。
1 フルベッキ――近代日本建設の父
  2 ポンペ―日本近代医学の父
  3 ヴェルニー―日本造船所建設の父
  4 ヘボン―医療伝道宣教師
  5 ワグネル―日本の近代窯業の父
6 デニソン―不平等条約改正に尽力した男
  7 エドモンド・モレル―日本の鉄道建設の父
  8 ウィリアム・グリフィス―理化学教育の恩人
  9 ヒルゲンドルフ―博物学の道を開いた恩人
  10 ヘンリー・ダイアー―工業技術教育の父
  11 ボアソナード―日本近代法の父
  12 キヨッソーネ―日本の印刷文化の発展に貢献
  13 ベルツ―日本の近代医学の父
  14 クラーク―北海道開拓の指導者
  15 フォンタネージ―近代日本洋画の基礎を築いた恩人
  16 ラグーザ―西洋彫刻を日本に紹介した男
  17 コンドル―日本近代建築の父
  18 モース―大森貝塚を発見
  19 フェノロサ―日本美術の恩人
  20 ミルン―近代日本地震学の父
  21 メッケル―帝国陸軍の父
  22 モッセ―地方自治制度の父
  23 バルトン―わが国衛生工学の父
  24 ハーン―古きよき日本を愛しつづけた男
  25 ケーベル―西洋古典学と美学美術史の恩人
巻末には次の「資料編」のまとめも丁寧である。
1 お雇い外国人の総数、職務・国籍別推移
2 開成学校・東京大学法理文学部の外人教師
3 お雇い外国人の給与
4 墓の中の外国人
5 お雇い外国人の年表
 
これら25人のプロフェッショナルなお雇い外国人が、新生日本を築くために奮闘した足跡を一つひとつ掘り起こし、これから進むべき日本の将来像を追う。そして、日本は外国人を雇い入れて懸命に近代化を図りながら、「和魂洋才」の心――西洋の才は謙虚に吸収するけれども、和魂は決して見失わない――を持っていた青年たち。文明国の様式や制度を受容しながらも、強い独立国を希求し続けた明治人の苦悩と気概を描く。
 
各分野の学者が協力して昭和43年にお雇い外国人」(全17巻)(鹿島出版会 )の決定版がでている。これ以来、ほぼ40年たつが、大学の研究者も細かい専門のタコつぼにはいってこうした学際的な研究が行われていないし、また、学者にはできないしごとであるともいえる。その意味で、在野のジャーナリストにしかできない仕事だが、改めてこれだけ幅広い分野の先駆者とその弟子の調査と的確な分析をおこなった著者の取材力と筆さばきは見事である。

 

 
西欧の先進技術を伝えたお雇い外国人と魂を失わなかった明治人たちの師弟の交流から浮かび上がる「和魂洋才」の系譜を探った本書は、近代日本を考える上で貴重な1冊である。
また、それ以上に平成国難で沈没しかけている日本にとって、国を変えるヒントと慧智が詰まっている。
日本を開国するための外国人移民の受け入れ問題はいまや棚上げにされているし、外国人の高度技術者に限っての受け入れの論議は少し行われている。
こうしたお雇い外国人によって誕生した東大そのものが、外国人教師そのものが少ない氏、外国人留学生の比率も驚くほど少ない。英米の大学に合わせての9月入学生も本気で論議されていない。日本の国力、競争力の低下、人口減少などすべての衰退の原因の1つが、この人材倒産である。
これを人材開国し、世界中から優秀な人材を集めて教育し、教育されて、学歴から学力、実力本位へ切り替えて、イノベーションを高めていく以外に方法はないのである。
明治の若きリーダーたちが高給を出して「お雇い外国人」3300人を招いて『富国強兵』「殖産振興」の2大近代化スローガンと掲げて、必死に「坂の上の雲」を目指して頑張った結果が、今日の日本の繁栄を築いたのである。
そのお山の上で、大借金をして、たらふく食べて、昼寝して、バブルで乱痴気騒ぎしていたのがわれわれ、50歳以上の日本人たちではないのか。
明治の大先輩たちの叡智と行動力にいまこそ学ばねばならない。
 
          
 

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