前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代への百歳学入門』★『知的巨人たちの百歳学(126)『野上弥生子』(99歳)「私から見るとまだ子供みたいな人が、その能力が発揮できる年なのに老いを楽しむ方に回っていてね」

      2024/07/23

  知的巨人たちの百歳学(126)

『野上弥生子』(99歳)の95歳の時の証言ー『私は、自分で本当に自信のあるものはほとんどないの

以下は野上弥生子の『山荘閑談』(『図書』1985年6月号)」より。

 -この6月から先生の全集が出はじめましたけれどども、明治四〇年から今日まで長い間の先生のお仕事がはじめて集大成されるわけですね。

私は、自分で本当に自信のあるものはほとんどないのと、長い間に書いた、初めのものは何としても幼稚でね。全集といったものを世に送る勇気なんでないんで、もし私が、校正から何から自分で目を通さなければならなかったとすれば、片っ端から直したくなったでしょうね。本にしたくなくなって、「もうやめましょう」ということに、きっとなったと思うんですよ。

ところが幸か不幸か、私がこの通りに、どうやらボケはしないっもりでいるんですけれども、目だけは、皆さんにお目にかかったって、ほかの方と見間違えたりして、そんなものですから、校正から何か目を通すことは初めっから諦めたんですの。

書くときは私は一生懸命で、自分のできだけの精魂を尽くして、その点は自分で出鱈目はしなかったと考えているんですけれどやいくらその人が一生懸命書いたところで、書いたものというのは、その人の才能によるわけですから、思うようにいくときもあれば、どうも思うようにいかないときもあるし。

 ——-母親として子育ての仕事をなさりながら、一方で作家活動をつづけられたというのは大変ご苦労だったと思うのですが・・・

でもね、ほっつき歩いているようなことをしなければ、十分にできますからね。

私はドイツ語なんかは子供と一緒に始めたんですよ。法政に関口(存男)さんというドイツ語の達人がいてその先生が家庭教師に来てくれて、子供が大学に行くとドイツ語は、をうやって始めたわけ。

四、五年年前、フランス語をやろうと思って、テレビのフランス語の先生で、半分役者のアンリ・バタイユという人ですが、やりとりがとてもお芝居がかっていて面白くて、あれで私はフランス語をずっと。今度はまた欲が出て、中国語をテレビで勉強した。そ何にでも興味はあるんですよ。

 

いまは何時頃にお目覚めなんですか。

もとはとても早くて六時頃には起きてたんですよ。子供たちを学校へやるから一緒に食事をして、すっかり全部していましたけれどもね。いまはもう自分一人でわがままできますから、寒いときは八時までも寝ていますよ。

 

————毎日原稿2枚をお書きになるそうですね。

2枚いけば上等。そしてあけの日は、また消しちゃってね。消すんじゃなくて、張り紙をするの。私は万年筆だけれどもインクを使うので、インクの壷と糊の瓶をおいてあるのよ。二、三字でも消すのは嫌で、小さい.ハサミがあって、その通りに、きちんと糊で張り紙するの。私があんまり使うので、「母さんは糊なめるんじゃないですか」と、ときどき冷やされるぐらい。

 

 ー-『迷路』は二〇年間にわたって書きつがれたのですが、構成が建築のようにきちんとしていますね。基盤がしっかり作もれている、その土台の秘密は何なのだろうと考えるのですが……。

それはね、書いている間に必然性というものができるでしょう。その必然性の追求というものをどこまでもやっていけば、下に土台を据えれば、どうしたって壁が必要だしその壁をつくろうとすれば丈夫な壁にしたいし、またその壁にどんな彫刻を施そうかというふうに、そうしなければならないようにしていけば、自然にできあがるんじゃやないですか。

私は実際、本当に自信ないのよ。いっぺん満足して、威張ってみたいけれども。どうやらものになっているというのは『秀吉と利休』あたりしかないんじゃないでしょうか。

私は、女性の作家なんていうポーズができなかったのよね。だって部屋だってありやしないから。子供たちが学校へ行くと、その後の部屋を占領しかり、主が留守になれげその審斎を使ったりで……。だから、立派な書斎できちんと座って書いていらしたりする女の方なんか見ると、うらやましかった。

あの頃ちゃんとした書斎をもっているのは(尾崎)紅葉とか(泉)鏡花、(森)鴎外ぐらいなものでしょう。漱石先生の書斎だって子供たちがわあわあ騒いでいたりして…
だって先生の書斎は客間よ。先生の書斎は客間で、先生が書きものをなさるところへ、お弟子さんだってお客さんだって通すのよ。
百歳学入門(22) 作家・野上弥生子(99歳)の最期まで書き続ける努力
『今日は明日よりより善く生きる』
www.maesaka-toshiyuki.com/longlife/3366.html

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

日本リーダーパワー史(698)日中韓150年史の真実(4)「アジア・日本開国の父」ー福沢諭吉の「日中韓提携」はなぜ「脱亜論」に一転したか」③<日中韓のパーセプションギャップが日清戦争 へとトリガーとなる>

 日本リーダーパワー史(698) 日中韓150年史の真実(4)「アジア・日本開国 …

no image
下村海南著『日本の黒幕」★『杉山茂丸と秋山定輔』の比較論

2003年7 月 前坂 俊之(静岡県立大学教授) 明治国家の参謀、明治政府の大物 …

no image
戦うジャーナリスト列伝・菊竹六鼓(淳)『日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった稀有の記者』★『明治末期から一貫した公娼廃止論、試験全廃論など、今から見ても非常に進歩的、先駆的な言論の数々』

  日本ジャーナリズムの光、リベラリストであり、ヒューマニストであった …

『Z世代のための日本政治がなぜダメか、の講義』①<日本議会政治の父・尾崎咢堂が政治家を叱るー『売り家と唐模様で書く三代目』①『自民党の裏金問題の無責任・C級コメディーの末期症状!」 

   2019/04/21日本リーダーパワー史(2 …

no image
日本最高の弁護士正木ひろし②―ジャーナリストとしての正木ひろしー戦時下の言論抵抗―

―ジャーナリストとしての正木ひろしー戦時下の言論抵抗―   -Hiro …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(82)記事再録/ ★明治日本の国家戦略「殖産振興」「廃藩置県」『官僚制度』を作った大久保利通の最期の遺言①』★『地方会議を開催して、旧体制、無能な役人、官僚をクビにして大号令を発する日に、会議に臨む途中で大久保内務卿(実質的な総理大臣)は暗殺された。今、<超高齢少子化人口減少社会>の危機を前に、その行財政改革失敗の遠因が大久保の作った官僚制度であることを考えると、大久保の決断とビジョンを振り返ることは大変有益であろう。』

2012-04-14 /日本リーダーパワー史(252)再録   大久保 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(151)再録★-『名門「東芝」の150年歴史は「名門」から「迷門」「瞑門」へ」●『墓銘碑』経営の鬼・土光敏夫の経営行動指針100語に学べ』★『日本老舗企業にとって明日はわが身の教訓、戒語です』

       2017/02/ …

『Z世代のための 欧州連合(EU)誕生のルーツ研究』 欧州連合(EU)の生みの親の親は明治の日本女性、クーデンホーフ光子①』★『「EUの父」といわれるのが一九二三年、「汎ヨーロッパ構想」(EUの前身)を提唱したリヒアルト・クーデンホーフ・カレルギーで、クーデンホーフ光子の二男である』

和史電子図書館(著作権フリー) 2015/11/25   『 …

「オンライン・日本史決定的瞬間講座⑫」★『電力の鬼」松永安左エ門(95歳)の<長寿逆転・不屈突破力>が『世界第2の経済大国』の基礎を作った』★『人は信念とともに若く、疑惑とともに老ゆる』★『葬儀、法要は一切不要」との遺書』★『生きているうち鬼といわれても、死んで仏となり返さん』

  ★「松永の先見性が見事に当たり、神武景気、家電ブームへ「高度経済成 …

no image
日本リーダーパワー史(273)『ユーロ、欧州連合(EU)の生みの親の親は明治のクーデンホーフ光子(青山光子)である①』

日本リーダーパワー史(273)   『ユーロ危機を考える日本の視点』① …