前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための米大統領選挙連続講座⑤』★『トランプ氏暗殺未遂事件の衝撃(7月13日)★『トーマス・クルックス容疑者(20歳)犯行のプロセス』★『1インチの奇跡が歴史を変えた。助かったトランプ氏』

      2024/07/24

前坂俊之(ジャーナリスト)

トランプ前大統領の暗殺未遂事件を見た瞬間、私は60年のケネディ暗殺事件の世界初のテレビ日米衛星中継の衝撃的な映像を思いだした。 1963年11月23日午前5時28分、NHKのテレビの衛星中継が初めて行われ、テキサス州ダラスでケネディ米大統領がオープンカーでパレード中、道路沿いの高いビルから犯人がライフル銃で狙撃し暗殺の瞬間が映し出された。この犯人はすぐ逮捕されたが、2日後に別の男に暗殺され、事件は迷宮入りした。

今回はトランプ氏の演説台から約150メート離れた工場の屋根上から犯人は狙撃しており、米大統領警護隊(シークレットサービス)によってその場で射殺された。狙撃された状況は酷似している。

私は犯人の身元、動機が分かるのかどうか危惧したが、連邦捜査局(FBI)の捜査では、犯人は白人男性のトーマス・クルックス容疑者(20歳)で、事件現場から約70キロ離れたピッツバーグ近郊の閑静で裕福な住宅地ベセル・パークに住んでおり、地元の介護施設の栄養補助員として働いていた。犯行に使用したのは傷能力が高いライフル銃「AR15」で、父親が合法的に購入したものとわかった。クルックスの犯罪歴は確認されておらず、介護施設の幹部の話では、採用時の身元調査でも問題はなかったという。

父親は政府の不介入を重視する小政党リバタリアン党支持者で、母親は民主党を支持。クルックスは18歳で共和党員として有権者登録をしていた。2021年には民主党系の組織に15ドル寄付していたことが判明、過激派組織とのつながりについては捜査中だ。

クルックスは地元のベセルパーク高校を卒業したが、2022年には理数系科目の成績優秀者とし全米数学・科学賞「スター賞」を受賞したが、友人は少なく、昼食時は1人で座り、服装をばかにされ毎日のようにいじめられていたという。

高校1年の時に学校の射撃部に入部を申し込んだが「射撃の実力が足りず落ちた」(同主将の話)といい、その後、卒業まで二度と志願しなかったという。犯行当時に着ていたTシャツには、拳銃やライフルを撃つ動画を投稿する人気ユーチューブ番組の名前が記されていた。このチャンネルは人間のマネキンなどの標的に向けて拳銃や突撃銃を撃つ映像を主に掲載している。

FBIは、クルックス容疑者が犯行の動機、信条、その声明文をSNSで発信していないかどうか確認、捜査したが、見つからなかったので、クルックス容疑者の単独犯行説も浮かんでいる。

  • フェイクニュース戦争勃発

AP通信(7月14日配信)などによると、暗殺未遂事件が発生してから数時間でSNSに投稿されたトランプ氏と関連した言及は、これまでの1日平均値の最大17倍まで激増。狙撃犯を防ぐことができなかった「警護ミス」や共和、民主両党から「陰謀論」のフェイクニュースがあふれ返っている。

共和党のマイク・コリンズ下院議員はX(旧ツイッター)を通じ「(暗殺の試みは)バイデン大統領が指示した。彼は起訴されなければならない」と主張した。また、「トランプ氏の暗殺はCIAが指揮し、オバマ元大統領、クリントン元国務長官、ペンス元副大統領らがかかわったという投稿も拡散し、470万回に達した」(BBC)。

一方、民主党派は「トランプ陣営が演出した事件」と主張する。BBCは「トランプ氏が血を流しながらも米国の国旗を背景に拳を振り上げている写真は「タイムの表紙」を飾ったが、写真の中の被害者トランプ氏はあたかも米国を救う英雄、殉教者、戦士のように祭り上げられ誇張された」と伝えた。

マイケル・コリンズ共和党下院議員は「バイデンは「2025プロジェクト」(第2次トランプ政権実施戦略)を議題とした点で暗殺扇動容疑で起訴しなければならない」という主張した。その結果、米国のイベントベッティングサイト「ポリマーケット」ではトランプ氏の大統領選挙勝利の可能性が70%で前日より10ポイント上昇。バイデン大統領勝利の確率は16%にとどまったと「トランプ勝利!」と報じた。

14日、ミルウオーキでの共和党大統領指名大会に出席するため飛行機の中で銃撃後初めてトランプ氏は「ニューヨーク・ポスト」の取材を受けた。

「私はここにいるはずではない。死んでいるはずだった。病院の医者は『奇跡だ』と言っていた」。そして「不法移民のグラフを見るために頭をわずかに右に向けたことで、致命傷となるはずの弾が右耳に当たるだけで済んだ」と狙撃された瞬間を明らかにした。

続けて、15日には、トランプ氏自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」でオハイオ州選出のJ・D・バンス上院議員(39歳)を副大統領候補に選出したと発表した。バンス上院議員はこれまで鋭くトランプ氏を批判していた立場から一転、トランプ氏のポピュリスト(大衆迎合)的な政策を受け入れた形で、トランプ氏も自身の強硬戦略を薄める狙いの戦略に転換した模様だ。着々と第2次トランプ政権実現をめざして進んでいる。

一方、バイデン政権は後手、後手に回っている。民主党内と民主党への大口寄付者のバイデン撤退論の噴出、候補者選定期限の8月7日に間に合うのかの時間的な問題、トランプ氏の先手を取った反撃、副大統領の決定の三重苦をかかえてきた。バイデン陣営は戦略見直しに迫られている。

                                                                               

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『日中コミュニケーションギャップを考える』(2005/6/30)②―『中国人の行動原理とは‥』★『日中間の戦争/歴史認識のギャップ、中国人の日本観、日本イメージ』

『日中コミュニケーションギャップを考える』(2005/6/30)②   …

no image
  日本メルダウン脱出法(651)「米国は中国に民主化してほしくない?」「再生エネ=最大の電力源、80%の目標に向かうドイツの戦略」など8本

    日本メルダウン脱出法(651)   「中国のAIIB …

『電子書籍 Kindle版』の新刊を出しました。★『トランプ対習近平: 貿易・テクノ・5G戦争 (22世紀アート) Kindle版』( 2019/09/23 ) 

  2019/09/23    米中二大大国の覇権 …

『鎌倉釣りバカ人生30年/回想写真録』㉑★『『コロナパニックなど吹き飛ばせ』★『10年前の鎌倉沖は豊饒の海だった』★『珍味ホラ貝を食べたよ、本当のホラ日記』ー鎌倉材木座沖でとれたホラガイを食す。アワビにおとらず旨

2010-09-16 、記事再録『これが本当のホラ日記」    テーマ …

『オンライン講座・ウクライナ戦争の経過』★『ジェノサイド・ロシアの末路(下)』★『歴史は人類の犯罪と愚行と不幸の記録以外の何物でもない』★『赤い旗(共産主義)の利点は殺人者が血に濡れた手を拭っても汚れないこと』★『「プーチン大統領への道」―その秘密に迫る』★『「チェチェン戦争」をデッチ上げた』

前坂俊之(ジャーナリスト) 「歴史は人類の犯罪と愚行と不幸の記録以外の何物でもな …

「Z世代のための台湾有事の歴史研究」➂★『2023年台湾有事はあるのか、台湾海峡をめぐる中国対米日台の緊張はエスカレート』★『日清戦争の発火点となった「長崎清国水兵事件」の顛末(てんまつ)』★『同事件の死傷者は日本側は死者2、負傷者29。清国側は死者8、負傷者42』

日清戦争の発火点となった「長崎清国水兵事件」の顛末(てんまつ)     …

no image
日本の「戦略思想不在の歴史」⑷『日本で最初の対外戦争「元寇の役」はなぜ起きたか④』★『 文永の役はモンゴル軍の優勢のうち、『神風』によって日本は侵略から助かった』

 文永の役はモンゴル軍の優勢のうち、『神風』によって助かった。  1274年(文 …

no image
日本リーダーパワー史(73) 辛亥革命百年⑫インド独立運動を助けた頭山満(ジャパンタイムズ評)

日本リーダーパワー史(71) 辛亥革命百年⑫インド独立を助けた頭山満 <ジャパン …

no image
日本リーダーパワー史(595)『安倍・歴史外交への教訓(3)ビスマルク直伝のメルケル『鉄血外交』を学ぶ–「1871年(明治4年)岩倉使節団へのドイツ・ビスマルクの忠告、大久保利通、伊藤博文はビスマルクに心酔し、明治国家を建設した

日本リーダーパワー史(595) 『安倍・歴史外交への教訓(3) ビスマルク直伝の …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(200)-記事再録/『日露戦争の勝利が日英米関係の転換となり、日米戦争の遠因となった』★『日露戦争勝利は「日英同盟」、米国のボーツマス講和会議斡旋のおかげなのに日本は自力で勝ったと思い上がり、おごりを生じた。』★『②日米関係を考える上で、〝歴史の教訓″は1924(大正十三)年七月一日に施行された排日条項を含む「外国移民制限法」である。』

    2015/08/05 /終戦70年・日本敗 …