日本興亡学入門①日本没落の20年、平成不況から世界同時大不況へ転落か!?
2015/01/02
2008,8,01
日本興亡学入門①
日本没落の20年=平成不況から世界同時大不況への前夜
前坂 俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)
たまたま机のひき出しを整理していると、茶色に変色した古新聞のスクラップが出てきました。
「日本は死につつある国家である」とのショッキングな見出しの記事(1985年(昭和60)年8月7日付毎日)です。
米国の未来予測機関「フォーキャスティング・インターナショナル」社のマービン・セトロン社長がワシントンで開かれた「世界経済未来予測会議で「日本は死につつある国家である」とショッキングな発言をしたのです。
① 日本はエネルギー、原材料を海外に全面依存している。
② 太平洋圏近隣諸国からの競争に直面しているなどの理由で、韓国が日本を破産させることになろう。
③ 1990年までにわずか5千ドルのロボットが6人の労働者にとって代わる。
④ 2000年までに平均的乗用車は全面的にプラスチック製となり、その耐用年数は22年になるーなどと予測しました。
日本没落論が蔓延している今、この記事を読み返しますと、またかと、全く新味は感じられません。韓国が日本を抜くという点も間違っていますが、1985年8月という時点での「日本没落論のファンダメンタルス(基礎的な条件)への驚くべき洞察力、予測のタイミングにはギョッとさせられます。
1989年の大納会では、株価は3万8915円の最高値に
なぜなら、この記事から約1ヵ月後の1985年9月22日、プラザ合意によって、日本経済は未曽有の繁栄期に突入するのです。「死につつある国どころか、まさに日の出の勢いの絶頂期へ」のスタートになり、予測はすぐに、はずれて大恥をかきましたが、長期に見れば日本の終わりの始まりをいち早く予想した恐るべき慧眼だったのです。
このときプラザ合意による衝撃は大きく、短期間でほぼ2倍の円高、ドル安となり、「円高・ドル安・利下げ・原油安」のトリプルメリットによって株価、地価、不動産は一斉に暴騰します。円高不況対策として超低金利政策が継続され不動産や株式への投機でバブル景気が加熱したのです。ウナギのぼりの株価は1989年の大納会では、3万8915円の最高値を付けました。
当時の国内の雰囲気は政府も、経済界も国民も有頂天でした。なにせ、資産は何倍にも膨れ上がり、企業の時価総額の世界ランクでは日本が上位を独占し、一人当たりのGDPでも世界一、世の中は楽観論で充ちあふれ、意気天を突く勢いでした。米国に代わって日本が世界最大の覇権国となり、「パックス・ジャポニカ」「日本の黄金時代」が続くとか、バブル景気にお祭り気分で浮かれていたのです。
忘れもしませんが、90年正月号の経済誌の特集座談会で「株価10万円時代へ」という派手な見出しが躍り、今も活躍している高名な経済評論家がはやし立てていました。半信半疑ながら、すでに高値の株価もまだまだ3合目、これが3倍以上の10万円になると、踊ってボーナスをつぎ込んだサラリーマンも少なくありません。周りの雰囲気につられた「KY」組が大半で、大損をこいてしまうのです。
そして、一挙に大地震に見舞われます。90年1月4日の株式市場の幕開けから、いきなり大幅な下落、4月には2万8000円となり、10月には一時、株価は2万円を割る底割れの事態となりました。ジリジリと下がり続けて、地獄の底を見ることになります。
以後の惨々たる状況は皆さんご存知の通りです。不動産バブル崩壊 (1992年) 金融機関破綻( 94~98年)、公的資金導入の遅れ、不良債権処理が進まず、超低金利政策、建設国債大量発行による景気刺激策の失敗、構造改革の失敗、ITバブルなど無策と負の連鎖が続きます。よくここまでオウンゴール(自殺点)ばかりやるのかというほどの連戦連敗の官製不況によって平成大不況の長いトンネルにはいりました。
オウンゴール(自殺点)ばかりの官製不況・平成大不況へ
この結果が90年以降の日本経済の迷走、長期低迷で「失われた10年」なのか、「失なった10年」なのか、主語のない相変わらず責任主体の不在、問題の先送り、結果責任を問わないなどの重症の「日本病」によって、長期入院の日本経済は今もって元気回復せず、退院できない状態が続いているのです。
ところで、「株価10万円」という歴史的な大外れをした経済評論家も実にアッケラカントしたもの、その後も次々に時流にあわせた、それこそ「KY」の経済評論を続けて今なお大家として君臨しています・・・。予想は反対に読めば、「うそよ」です。大体、予想は外れるものと相場は決まっていますが、政治家、役人天国の失敗の責任は負わない無責任体制が、マスコミ、学者、評論家の世界でも共通の「日本病」として昔も今も変わっていないんですね。
大いに自戒、反省。私のこの評論も「本当かいな!」と?をつけながら読んでいただければ幸いです。ただ、予想が当たったかどうかは、どの時点での発言かそのタイミングと、その結果をつき合わされば簡単にわかります。評論家や、アナリストのコメントでは、あと知恵が多いので、注意する必要がありますね。
国家競争力ランキングでは1位でから22位に大転落
さて、セトロン社長の予測からすでに23年間、ほぼ4半世紀がたちました。
昔、日本が「大日本帝国」と言って満州、広大な中国に戦争を拡大、さらに国力30倍の米国に無謀な戦いを挑んで太平洋戦争で敗北するまでの時間は15年を要しましたが、世界史上での国の興亡は大体30年サイクルで波動を繰り返しています。
1989年に『国際経営開発協会(IMD)』(スイス)が初めて、発表した国家競争力ランキングでは日本は断トツの1位で、米国は3位でしたが、今年は日本はなんと22位に後退、1位は米国、2位はシンガポール、3位は香港、中国(17位)、マレーシア(19位)で日本はさらにその後塵を拝しています。この20年間で世界1位から、アジア各国からも抜かれ、先進国ならぬ後進国に転落しているのです。
毎年、ダボス会議を行っている「世界経済フォーラム(WEF)」(スイス)08年のIT野の国際競争力ランキングでは1位デンマーク、2位スウェーデン、3位スイス、4位米国、9位韓国、11位香港、14位オーストラリア、17位台湾、日本といえば19位で前年の14位から大きく後退しました。日本はIT環境では民間は高得点ですが、政府の取り組みが遅れて評価が下げたのです。ここでも政治の無策、官製不況で逆に足を引っ張っているのです。
そして、今は政府、日銀による長年の異常なゼロ金利政策の結果、膨大な金余り資金が「円キャリートレード」の形などで米欧の国の金融、投資ファンドへ流れ巨大な投機マネーとなって石油、穀物、商品市場をかく乱し、日本の首を絞める結果となっています。
この15年間の掛け声だけの内需拡大、公共事業のための異常な国債発行が続き、いまや財政赤字は800兆円を超え国、地方を合わせると1千兆円を突破する巨額に膨れり上がり、「国家破産近し!」との赤ランプが点滅しています。
国家破産は戦争と国の借金のいずれかによって起こります。アダム・スミスは「国富論」の中で、「歴史上、増大する一方の財政赤字で国家破産をまがれなかった国はない」と言っています。それなのに、小泉元首相が2011年に「プライマリーバランスゼロ(財政の基礎的収支をゼロ)」にすると宣言した財政再建計画を、この8月に新任したばかりの自民党の麻生太郎新幹事長は早々に、先送りするなどといっている始末です。
あらゆる面での日本の国力、民力は低下の一途で、セトロン社長の「日本は死につつある国家」との予想は、残念ながらますます現実のものとなっています。
世界から孤立した閉鎖国家のガラパゴス・日本へ
悲しいことに、日本人には越えられない民族的な特性、クセがあります。情報感度が鈍く、コミュニケーション能力が弱いこと、物事を合理的、科学的に考えるよりも感情的に捉える傾向が強いことなどです。また、行動がスローで、リトル[小さい]政策の小出しが多いこと、会議好きで会議は踊る、されど決まらず、問題先送りの体質が強いのです。世界の中で日本が占める地政学的、歴史的な条件の中で培われてきた日本人の特性、国民性といってよいものですね。
日本が他国と大きく違っているのは、世界の多くの国々が大陸国なのに日本は狭い島国で、そこに日本人だけが生活していたほぼ単一民族国家であることです。しかも、地政学的には世界をリードしている米国、ヨーロッパ、紛争の地中近東の各国から遠く離れたユーラシア大陸の一番端にある、なおかつ島国であり、徳川時代250年の鎖国政策など歴史的壁もあって、いまだに門戸開放政策が不十分で、他国との交流、外国人との交際、外交、国際交渉、異文化コミュニケーションがどうしても上手くいかないのです。
「井(井戸)の中の蛙(カエル)、大海を知らず」とか、「島国根性が日本を滅ぼす」とか、昔はよくいわれたものですが、今、世界を襲うグロバリズムの大波によって、未だにこの島国根性から脱皮できていない日本丸は翻弄されて、沈没寸前の状態になっているのです。
借金の膨れ上がり以上に、人類史上最速のペースで、超高齢化を迎えている日本。少子化と高齢化が同時並行で進んでおり、働き手は減る一方の「人口縮小国」で経済を成長・発展させていった国は歴史上ありません。それなのに、移民の本格的な受け入れ、人口増政策の本格的な対策もいまだに立てておらず、座して死を待つのか、と言いたくなります。
さて、さて、暗い話になりましたね。だが、世界はパラダイムシフト(文明の大転換)によってグロバリゼイションという名の大変化の真っ最中にあることだけは確かです。
情報・環境・カネ・ヒト・モノの大放流です。米国のサブプライム問題に端を発して、米欧の金融機関の破綻、救済、経営悪化がインフレと同時に世界的な景気停滞、スタフグレイションに突入しています。1000兆円という巨大な投機マネーが石油、穀物、商品市場に流れ込み、史上最高値を更新し、昨年からでも2,3倍の高騰をするなど、投機、年金マネーが暴れまくっています。今、一時、石油価格は沈静化していますが、世界大恐慌の瀬戸際に立っています。
しかも、グローバリズム(地球規模)の最大のものは地球環境の大変化、CO2,温暖化問題です。この夏の東京の暑さ、異常なカミナリの発生、気象異変は世界各地でも共通した現象でした。地球はまさに燃え上がっているのに、福田さんの洞爺湖サミットでは2050年までに「世界の温室効果ガス半減する」ことを「世界で共有する」などのんきなことを言っています。現在の危機の本質は、あまりにも複雑で未知な難問に取り組む能力のある世界のリーダーがいないということです。1930年代の世界大恐慌に突入した原因について「リーダーたちの無能力と過去の楽観主義が自らを火葬場いきにしたのだ」(ニューズ・ウイーク7月30日号)と分析しています。
現在の危機的な状況をいかにサバイバルしていくか、その情報分析・突破学を読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
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