前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『 明治150年★忘れ去られた近現代史の復習問題』―『治外法権の国辱的な条約改正案』●『ノルマントン事件の領事裁判権の弊害ー英国人船長、外国人船員26人は救難ボートで助かり、日本人乗客25人は溺死した』

   

 『 明治150年★忘れ去られた近現代史の復習問題』

―『治外法権の国辱的な条約改正案』●『ノルマントン事件の

領事裁判権の弊害ー日本人乗客25人の溺死は無視』

 

  郵便報知新聞(明治十九年十一月七日)報道のノルマントン号難船事件

 

 明治191024日午後7時頃、紀州大島沖にて神戸行きの英国汽船ノルマントン号が暗礁に衝突して沈没、その船長、水夫合せて26名は無事に端船にて生命を逃れたが、乗客日本人23名と水夫13名は助かるべき便もなくことごとく溺死したとの奇怪なる悲報は去る二日の本紙に乗せた。

、昨日のメールを見るに5日発の神戸電報によると、「ノルマントン号難船に関する事情審査済の船長ドレーキ氏は一切、咎(とが)なしと決せらる」と云い、又、社説に左の一諭を掲げたり。

英人自ら筆を執りて、英国汽船乗組員の挙動を議したるものなれば、左に要訳して、世人の感は如何なるかを問わんと欲するものなり。

 海上の事変については昔より、船長及び乗組員が己れの職分責任を堅守して、己れ等は船と共に沈んでも、つとめて乗客を助けようとした美談は多く、又、何も弁明しない水兵にても、乗客を全うしてしまわぬ内は、寧ろ死すとも我身のみで逃げないのが通常の話なり、此度のノルマソトン号の如く乗客は二十三名をことごとく棄て殺しとなり、船長水夫は三十九名のうち二十六名まで逃れたという事はメッタに聞かないことだ。

「乗客二十三名は悉く日本人にしてその中には婦人も三名(註、中山きん、竹内ふく、大竹かじ)あったが、不幸にも一人の英語を話せる者がなく、本船の乗組員も一人も日本語を話し得る者はなかったので、水夫等が色々と骨折って乗客をして端舟に乗移らせようとしたのにも、二十三名は頑固にこれを拒みて、入ってくる海水に身を浸すのも顧みず、ただ船上で一の固まりとなっていた」との事なり。

 

又、聞くところでは「二十三名はその際、少しも恐怖の色なく平気に構えいた」ともいう、普通の人情を以てみれば、如何に言語が不通であっても船長以下屈強の手脚をもつ二十六人の乗組員がありながら、二十三名の乗客を強いて端艇に誘導することが出来なかったのはおかしい。

海上の乗組員は平生には荒々しき行動を常とする者なのに、今や一瞬、生死の間に立ち何を心配してこれを遠慮したのか、いま神戸の英国領事館は、船長を無罪放免に処したれども、現在明白になった事実だけでいえば、この判決は世論の甚だ認めがたい所である。

ノルマントン号事件の領事裁判の不当審理

 明治十九年十月二十四日、イギリス汽船ノルマントン号が紀州沖熊野灘で難破した。西洋人乗組員は大部分は救助されたが、日本人乗客二十五名は、救助されないまま、全員溺死した。この事件を審理した神戸駐在イギリス領事館海事審判所は、イギリス人船長ドレイクの措置に何らの過失を認めなかった。そこで日本政府は殺人罪をもって同船長を神戸駐在イギリス領事館に告発した。

横浜イギリス領事館裁判所において裁判された結果、船長は、有罪とされたが、その判決は職務怠慢の罪によるわずか三か月の禁錮刑にすぎなかった。

当時、わが国の世論はこの差別的な裁判に悲憤慷慨し、領事裁判制度の弊害「治外法権」の不平等条約の実態ををまざまざと感じたのである。

ノルマントン号は1500トンの英国貨物船である。前年の明治十八年にアントワープを出港し、極東貿易に従事するため、棟浜に来着した。船長はイギリス人ドレイクといい、乗組員はインド人、清国人などを含めて三十人であった。

同号は、十月二十三日、日本人乗客二十五名を載せて横浜を出港し、神戸に向かった。途中紀州沖熊野灘において台風に遭遇し、翌二十四日午前八時、同船は難破した。

さてこの事件が表に知れわたると、日本国内の世論は激昂した。

「時事新報」の論説は、「国際法に従えば、乗客全員が救助されない場合は船長も死をともにするのが通例である、しかるにこれに反して今回の事件は、日本の乗客全員が死亡しているのに船長以下船員は無事避難している、このような措置は、まったく日本人を畜類(動物)と同一視した結果とられたものにはかならない」

と論じて船長らの行動を激しく非難した。

この事件は当時の日本国内に高まった憤激をあらわした数々の歌や芝居が流行したが、その歌では次のような文句がある。

「岸打つ浪の音高く、夜半の嵐に夢醒めて、捜せど尋ねど影はなし」

青海原を眺めつつ、わが同胞は何処ぞと、叫べど呼べど声はなし、」

海事審判では船長、船員たちは以下を主張した。

➀同船は客船としての免許状を持っていなかった。乗客を載せる資格がないのに、同船長は、船主の利益を図るために時折乗客を乗せていた。しかも、乗客が今回のように多数ははじめてであった。

②船長は船客に対し乗船に際して注意すべき事項を、何ら指示していなかった。水夫らも船客の取り扱いについて、船長からの指示を受けていなかった。

③しかも、遭難の際に必要な右舷の救命ポート一般が破損していたにもかかわらず修理しないまま放置しいた。

④日本人乗客への避難ボートへの誘導については船員の1人は「英語で、手招きしてボートに乗るように指示したが、船客は少しも感じていなかった。

⑤乗客中には英語を理解できるものがいなかつた。

⑥ボートに乗り移らなかった理由については、危急の場合に手をつかねて死を待つ日本人の気風にある。

――などと証言したが、遭難した日本人乗客が一人も生存していないため、これ以上の真相は不明であった。

この事件を審理した神戸駐在イギリス領事館海事審判所は、イギリス人船長ドレイクの措置に何らの過失はなかったと『無罪』と認定し、船長以下全乗組員に航海免状を返還、再交付したのである。

伊藤内閣に『弱腰外交』『軟弱外交』の非難殺到

軟弱外交と国民から批判された伊藤内閣は、この問題を放置できないと考え、井上外相は、イギリス駐日公使プランケットと交渉を開始した。しかし、当時は条約改正交渉の途中だったので、日本政府としてもイギリス側を刺激しないように配慮しなくてはならず、困難をきわめた。

そこで政府は内海兵庫県知事に対して、ドレイク船長らを神戸駐在イギリス領事館に「日本人乗客二十五名を故意を以て死に致し、及び殺害し、英国女皇陛下の治安を乱した」という殺人罪で告発させた。

横浜領事裁判所で本審が開廷し、英国人裁判官1人、英国人陪審員5人により「怠慢殺人罪」の審理が行われた。結果はドレイクを執行猶予3ゕ月の有罪と認定した。

陪審員5人の判定は日本人船客が一名も救助されなかった事実を全く重要視せず、単にイギリス人海員の「剛毅二反シタ」という点をイギリスの誇りを傷つけたものとして認定し、有罪判決を下した。やはり領事裁判ゆえに、自国民の被告に有利な裁量が行なわれたのである。

この事件で国民はまざまざと『治外法権』の屈辱を味わって、世論は激昂した。

(参考文献 「日本政治裁判史録」(明治、後期)第一法規出版 1969年)125-140P)

 

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
★『オンライン/天才老人になる方法➅』★『世界天才老人NO1・エジソン(84)<天才長寿脳>の作り方』ー発明発見・健康長寿・研究実験、仕事成功の11ヵ条」(下)『私たちは失敗から多くを学ぶ。特にその失敗が私たちの 全知全能力を傾けた努力の結果であるならば」』

 2018/11/23  百歳学入門(96)再録 …

世界が尊敬した日本人(54)ー『地球環境破壊、公害と戦った父・田中正造②「辛酸入佳境」、孤立無援の中で、キリスト教に入信 『谷中村滅亡史』(1907年)の最後の日まで

世界が尊敬した日本人(54) 月刊「歴史読本」(2009年6月号掲載) 『地球環 …

『ウクライナ戦争に見る ロシアの恫喝・陰謀外交の研究②』-★「日露開戦までのいきさつ➂」★『★『児玉源太郎のインテリジェンスはスゴイ!⑨』★『クロパトキン陸相の日本敵前視察に<すわ、第2の大津事件か!>と日本側は戦々恐々』★『児玉いわく、何も騒ぐことはない。クロパトキンに日本が平和主義で、少しも対露戦備がないことを見せけてやり、ロシア皇帝に上奏させるのが上策だ。クロパトキンの欲するものは包み隠さず一切合切見せてやれ、と指示した』』

    2021/09/01  『オンラ …

「トランプ関税と戦う方法論⑪」★『赤沢亮正 経済再生担当大臣は金子堅太郎のインテリジェンスに学べ』★『ルーズベルト大統領はバルチック艦隊の接近を憂慮』★『日本海海戦勝利に狂喜した大統領は「万才!」と 漢字でかいた祝賀文を金子に送った』

以下は金子堅太郎が語る(「日露戦役秘録」1929年 博文館)より ルーズベルト大 …

no image
日本メルダウン脱出法(659)「AIIBに関するレポート4本」「政府の「女性活躍推進」が「少子化推進」となってしまう理由」

   日本メルダウン脱出法(659)   ◎「政府の「女性活躍推進」が …

新一万円札の肖像画となった渋沢栄一翁(91歳)は「日本株式会社の父」ー「すでに150年前に現在の米国型強欲資本主義」を超えた「道徳経済合一主義(仏教的資本主義)を実践した稀有の資本家」★「人生100歳時代の先駆者として、年をとっても楽隠居な考えを起さず死ぬまで社会に貢献する覚悟をもつ』

  日本リーダーパワー史(88)経済最高リーダー・渋沢栄一の『道徳経済 …

no image
日本メルトダウン(926)『資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」』●『仲裁裁判所の裁定に反撃する中国の「情報戦」の中身 本格的灯台の設置で人工島の軍事基地化に拍車』●『沖ノ鳥島問題で露呈した日本と中国の共通点』●『「自動運転バブル」はこのまま崩壊の道を歩むのか?』●『 土俵はできた~今こそ真正面から客観的な憲法論議を 中国、韓国、護憲派の懸念はお門違い(筆坂秀世)など8本』

   日本メルトダウン(926) 資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」 ht …

『オンライン講座/日本興亡史の研究 ⑪』★『児玉源太郎の電光石火の解決力⑦』★『日英同盟によって軍艦購入から日本へ運航まで、英国は日本を助けて、ロシアを妨害してくれたことが日露戦争勝利の要因の1つ』●『児玉、山本権兵衛の『インテリジェンス』と『最強のリーダーシップ』の証明でもあった』

     “Online Lectur …

no image
日本リーダーパワー史(387)本田選手の『個人力』こそ日本人に一番欠ける、グローバリゼーションで日本沈没の原因

 日本リーダーパワー史(387) ◎【Wカップ出場決定戦にみる日本の課 …

no image
速報(387)『日本のメルトダウン』◎『世界の問題を解決に必要なもの=ビル・ゲイツ』●『百害あって一利なしの人間ドック』

速報(387)『日本のメルトダウン』   ◎『世界の問題を解決するため …