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終戦70年・日本敗戦史(104)再録<ネット時代の社説論説『本質に迫るための検証報道ーメディアは速報性のワナにはまるな①」

      2015/07/04

 

終戦70年・日本敗戦史(104

再録 <ネット時代の社説論説『本質に迫るための

検証報道ーメディアは速報性のワナにはまらず、

その背景に迫れ』① 『新聞研究』2007/6(No,671)

 

             静岡県立大学国際関係学部教授 前坂 俊之

ジャーナリズムの「生活習慣病」

ジャーナリズムの語源はローマ帝国での「Diurna」(ディウルナ)で「日々」とか「日刊」とかいう意味のラテン語である。毎日書くことから「日記」「航海日誌」や新聞などに転じる英語の「Journal」(ジャーナル)となり、十七世紀のイギリス市民革命の中で近代新聞を意味する「Journalism」(ジャーナリズム)となった。

新しいニュースを日々、出していくためには常に、新鮮な感受性と「日々新たなり」の気持ちが欠かせない。

ところが、毎日、ニュースを出し続けるのは大変なことだ。スピーディーに記事を書くにはどうしても表現、思考も「ステレオタイプ的」(紋切り型)で、似たりよったりにならざるを得ないし、ジャーナリズムの反対概念であるマンネリズム、画一化に陥りやすく、保守化して、自己改革が難しくなる。

人間、年をとると自覚症状なき「生活習慣病」の「肥満」「高血圧」「糖尿病」など「死に至る病」になりやすい。

グローバリゼーションの大津波に襲われている中で「ジャーナリズムの衰退」「新聞がなくなる日」などの論議がかまびすしいが、メディアに携わるものとしてジャーナリズムの本来の役割である「権力批判機能」「アジェンダセッティング(議題設定機能)」「情報公開機能」「外国の出来事を正確に伝える機能」「国民の知る権利の代行」など果たしているかどうか、自己検証が欠かせない。それこそジャーナリズムの「生活習慣病」のチェックである。

ジャーナリズムに対する世の不満の多くはこの生活習慣病にある。その権力批判機能が衰退していないか、メディアが恐竜化して時代の変化に取り残されているという不満である。日本独自の記者クラブ制度の弊害や政府、行政、企業の広報活動の強化でメディアはPRニュースや広報ニュースを流すだけのものになっていないかとの批判である。

ニュースの背後に隠されているもの、世の中で起きている本当のことと、その意味を一向に伝えてくれない。少し前には小泉メディア劇場のプロデューサーたちによってメディアはコントロールされて、メデイアの武器である「アジェンダセッティング」を奪われてしまっていたが、その傾向がますます強まっていないか、という危惧である。

筆者は最近、『太平洋戦争と新聞】(講談社学術文庫)という本を出版した。昭和の初期から太平洋戦争敗戦までの戦争について、その報道と社説をチェックしたものだが、この百年、日本のジャーナリズム(主に新聞)のスタイルは変わっていないな、とつくづく感じた。

そのセンセーショナリズム、センチメンタリズム(感情主義)、マンネリズム、集団的画一報道、予測報道(見込み違い報道)から、結果を重視しない報道、不検証報道となり、前に前に追っかけるだけの中身の薄いスープジャーナリズムである。ジャーナリズムの生活習慣病の重症化、そして「誰も読まなくなって」終わりである。

たとえは悪いかもしれないが、可愛いペット犬が公園で主人から木切れを、左に投げられると尻っぽをふりながら喜んでくわえてくる、

また、右に投げられると、急いで拾って返ってくる。次々に発生するニュースは、この「ペットドッグ(愛犬)」と主人の関係。重要なのは投げられたその意図、背景は何なのか、その本質を報道すべきなのに、前に前に素早くニュースを持ってくるだけのメッセンジャーボーイ、「ペットドッグ」化しているのである。

情報の本質を見抜いて、もし、「ドロボウ」なら吠えてかみつく「ウオッチドッグ (番犬)」の役割こそ求められているのに。ニュースを投げる側に奪われてしまっている「アジェンダセッティング」を取り戻す必要がある。日本のメディアは速報性のワナにはまっていると思う。

 あいまいで、大甘の日本人の国民性を反映

その一つのパターンがメジャーリーグのレッドソックスに入団した松坂報道に典型的にみられた。オープン戦前から日本のメディアが数百人も殺到する過熱報道には米メディアも仰天する。まだ、登板する以前からスポーツ紙ならいざ知らず、一般紙、テレビもまじえて報道はエスカレートの一方。

やれ、「日本のモンスター」「ジャイロボール、魔球をなげる」「二十勝間違いない」などのセンセーショナルな見込報道で、日本のフアン心理を盛り上げた。

ところが、イザ開幕すると当初の成績はどうだったのか。初回から四死球の山を築いて自滅するパターンが続いた。五月四日までの成績は二勝一敗、防御率五・四五。五回目の先発となった対マリナーズ戦でも初回4四死球などで計五点を失った。

NHKのテレビ中継をみていると、松坂の制球難を指摘せず、「味方のエラーやポテンヒットが松坂には不幸でしたね」など大甘の解説をしていた。

この日、地元ボストンの球場では「一億ドルの買い物が初回からこんな調子じゃ高い買い物についたね」と首をすくめるファンや、地元テレビ局の解説者は「日本のメディアは審判がストライクを取らないと文句をつけているんじゃなかろうね」とも皮肉っていた。

ところが、翌日、松坂の自滅を冷静に論評した日本のメディアはほとんどなかった。新聞は「地元フアン、不気味な沈黙」(日経、五月五日付朝刊)、「イチローさんもがっかりしたと思います」(日刊スポーツ、五月五日付)との大見出し、松坂のコメントをそのまま伝えるのみで、不調の原因をつかず、ボストンのきびしい視線は伝えられない

(その後、松坂は十日のブルージェイズ戦では一点に抑える好投で、十五日には初の完投で勝利するなど不調を脱して、三連

勝をしたが……)。

このような日本人向けのみの視点、視野狭窄的な報道が目立った。視聴者は松坂がメジャーの強力打線とどう対決するかが見たいのに、日本のメディアは日本人対決のみに焦点を当てる。

松坂の視線にも米国人フアンよりも、イチロー一人という「内向きの思考」であり、メディアも給をかけて一極集中的なドメスティックな視点を超えられない。

本番前からのプロセス重視で予測報道、期待過剰報道で突っ走っていざ、結果が出でも、なぜ自滅したのか、その原因を追及、検証しない、責任も問わないスタイルである。

よく、ボストン、ニューヨークの地元メディアは辛口だという。MLBは結果がすべてである。勝つために、松坂のように百億円を払っても世界中から強い選手を集めて、結果を残せばさらに大金を払う。結果がすべてで、負ければすぐ首にする、ヤンキースのオーナーが負け続けるとトーリ監督を解任するのでは、との憶測が即、メディアに流れるように、プロの世界であり、結果よりも人気先行、期待過剰で情実に重きのおかれる日本のベースボールとは一味も二味も違う。

日本は結果より過程でのがんばり、努力、根性などの精神的な面が重視される。勝つか負けるか、白か黒か、をはっきりさせず、結果責任もきびしく問わない、あいまいな日本人の国民性は政治やジャーナリズムの世界にも遠慮している。

松坂の実力を見定めて本質をきびしく報道していく姿勢よりも、応援団的報道、フアン報道の域を脱していないというと酷かもしれないが、その体質は政治部報道、経済部報道、社会部報道にも共通していないか。政治家の政治能力、外交能力をきびしく問う政治報道ではなく、永田町のゴシップ、派閥の内向き報道・応援団的な報道が目立つように、社会部報道は相変わらず夜回り、警察発表のマンネリズムをさして超えられていない。

つづく

 - IT・マスコミ論

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