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速報(46)『福島原発事故2ヵ月、100年廃炉戦争へ②』悲惨を極める原子力発電所事故』(小出裕章講演)

   

速報(46)『福島原発事故2ヵ月、100年廃炉戦争へ②』
悲惨を極める原子力発電所事故―
終焉に向かう原子力講演②
<小出 裕章(こいでひろあき):京都大学・原子炉実験所>
 
<菅首相は東電に任せるのではなく、国家総動員態勢で放射能阻止、
原子炉廃炉の100年戦争に当たれ>
 
3・11福島原発事故以来、2ヵ月が経過した。チェルノブイリと同じレベル7の最悪の事故の収束の見通は全く見えていない。やっと中の一部の場所に作業員が入れる状態になったが、水素爆発の原因も特定できていない。
燃料プールの状態も少し判明してきたが、建屋の中の状態、原子炉、格納容器の状態などがどうなっているのかも、まだわからない状態だ。中の高濃度の放射能汚染で作業員が入れない状態が続いているためだ。東電が示した工程表は実現の見通はない。
原発事故は核戦争と同じである。核爆発した後の処理をやっているわけで、一旦放出された放射能、放射線物質を回収することは困難であり、チェルノブイリの10分の1、広島型原爆にかん算すると50個分の放射能が排出されたのだ。いまだに福島原発では完全に閉じ込められていないので、風、強風、台風によって放射性物質は大気中にまき散らされており、燃料棒や原子炉を冷やすために放水して放射能汚染水がたまり続けている。
この処理も大変だ。アレヴァ (仏:AREVA SA、Euronext: CEI ) が処理を1手に引き受けているが、1トンの汚染水処理に2億円かかる。合計すると、15、6兆円という国家予算を食いつぶす汚染処理費用となる。
しかも、原子炉の廃炉、水棺、石棺にするにしても、海外の専門家の話では、50年、100年はかかるという途方もない事故なのである。
そして、今回の福島原発の水素爆発はどうして起こったかも、まだまったくわからない状態である。爆発原因がわからなければ技術対策は立てようがない。封じ込めも出来ない。東電の工程も単なる希望的な観測にすぎないことがわかる。
このように一旦破壊された原子炉、燃料棒の処理は大変難しいという話しだが、周辺の避難地域、汚染地域が今後どうなっていくか、住民の健康被害がどうなっていくかはーチェルノブイリのケースを徹底して学ぶ必要がある。その面で、日本の原子力専門家で、早くから原発の危険性と恐るべき被害の実態について警告を鳴らし続けてこられた小出裕章氏の論文が、今後の福島原発処理の対策にとっては必読となる。
以下で、2011年4月29日(金)「終焉に向かう原子力」 第11回~チェルノブイリ原発事故25周年 東海地震の前に浜岡原発を停止させよう~ 明治大学アカデミーホールでの講演のレジメ全文を2回にわけて転載さしていただいた。(前坂俊之)
 
 日本の遅れた核=原子力技術

日本は第二次世界戦争で負け、日本を占領した米軍はまず第一に日本国内の核 =原子力研究施設を破壊して回りました。日本の原子力(核)研究が許されるようになったのは、 1952年のサンフランシスコ講話条約が締結された後で、幸か不幸か、核 =原子力に関する限り日本の技術レベルは欧米諸国に比べて大幅に遅れてしまいました。
世界で一番初めに商業用の原子力発電所を作ったのはソ連で、 1954年でした。オブニンスク原発という出力 5000kWという小さなものでしたが、それ以降、ソ連は一貫して黒鉛減速軽水冷却型(RBMK)と呼ばれる原子炉を独自に技術開発しながら作ってきました。続いて米国が 1957年に加圧水型(PWR)と呼ばれるシッピングポート原発を稼動させました。日本で原発が動いたのは、1966年の東海 1号炉が初めですが、それは日本が作ったのではなく、英国から買ったものでした。
その後、 1970年になって敦賀原発、美浜原発を動かし始めましたが、それらも自分で作ったのではなく、米国から買ってきたものでした。世界の主要な原子力発電利用国、米国、フランス、日本ソ連、英国、ドイツ、カナダの中で、日本だけは独自に原子力発電の技術を開発してこなかった特異な国です。ところが 1979年に米国スリーマイルアイランド原子力発電所(TMI)が事故を起こした時には、「米国の運転員は質が低い」とか、些細な型の違いを強調して「型が違う」と言い張りました。

1986年にチェルノブイリ原子力発電所で事故が起きた時には、「ロシア人は馬鹿で、日本人は優秀だ」「ロシア型は日本が使っている米国型と型が違う」と言って、日本の原子力発電所だけはいついかなる時も安全であると言い続けました。もし、本当に日本の原子力推進派の人たちが、ロシア型の原発は危険だと思っていたならば、事故が起こる前にこそ、それを警告すべきでした。しかし実際には、米国のスリーマイル島原発事故の後、ソ連の原発を視察に行った日本原子力産業会議は、「ソ連において、広大な基礎研究の上に着々と原子力開発に取り組んでいる様子」に感激し、RBMK型のレニングラード原発と日本の東海 1号炉を姉妹発電所にして欲しいと申し入れていたのでした(4)。

もちろん、RBMK型の原発にはそれなりの危険がありますし、日本で使っている PWRにしても沸騰水型(BWR)原発にしても固有の危険があります。しかし、ウランを核分裂させ、発生したエネルギーでタービンを回して発電するという原理はどれも一緒です。当然事故はどの原発でも起こります。日本でも信じられないような事故が続いてきました。 1995末には、高速増殖炉「もんじゅ」が試運転開始直後、出力が定格出力の 40%に達した時点で事故を起こしました。1997年には、東海再処理工場が爆発事故を起こして、周辺に放射能をまき散らしました。
そして 1999年には核燃料加工工場 JCOが、最低限の注意さえしていれば防げたはずの臨界事故を起こし、2人の労働者が悲惨な死を強いられました。日本国内では当初驚きを持って迎えられたその事故は、海外では「やはり日本だから起きた事故」と言われていたのでした。さらに、2001年には浜岡原発 1号炉で非常用炉心冷却系の配管が水素爆発と思われる爆発で砕け散りました。2004年には、美浜 3号炉で 2次系の配管が大破断し、5名の労働者が熱水を浴びて死にました。
 慢心は常に人の心に忍び込みやすいものです。「日本人は優秀だ」「日本の原子力技術は進んでいる」「日本の原子力発電所だけは安全だ」という宣伝は、国や電力会社の積極的な宣伝も手伝って、いつしか日本人の心深くに住みつきました
。しかし「神国日本」が戦争に負けたように、「大和魂」では戦争に勝てなかったように、事実は冷徹に進行します。ましてや日本は原子力技術後進国です。これまで日本の原子力安全委員会は根拠のない安全宣伝を繰り返し、「原子力安全宣伝委員会」と呼ばれました。その安全委員会もJCO事故後、2000年度の「原子力安全白書」では以下のように述べました。
――――――――――――――――――――――――
 多くの原子力関係者が「原子力は絶対に安全」などという考えを実際には有していないにもかかわらず、こうした誤った「安全神話」がなぜ作られたのだろうか。その理由としては以下のような要因が考えられる。
 ・外の分野に比べて高い安全性を求める設計への過剰な信頼
 ・長期間にわたり人命に関わる事故が発生しなかった安全の実績に対する過信
 ・過去の事故経験の風化
 ・原子力施設立地促進のためのPA(パブリックアクセプタンス=公衆による受容)活動のわかりやすさの追求
 ・絶対的安全への願望
――――――――――――――――――――――――
 しかし、原子力安全委員会は本当は何の反省もしていません。どんなに起こらないようにと願っても、そしてどんなに人間が注意を払っても、原子力安全委員会がはっきりと認めたように、事故が絶対に起きないと言うことはできません。そして、起きた時の被害が破局的であるのであれば、その時の対策を準備しておくことは必要です。しかし、原子力安全委員会は、日本の原発では 8~10㎞範囲を超えて被害が出るような事故は決して起こらないと言い続けてきました。そして、今回の事故が起きてしまいました。原子力安全委員会はほとんど姿をかくしてしまいました。彼らは、来年度の「原子力安全白書」に一体どのように書くのでしょうか?
福島事故で起きたこと
起きたことはいたって単純です。発電所が全所停電したことで、私たちはそれを「ブラックアウト」と呼び、原発で破局的事故を引き起こす最大の要因であると警告してきました。
 原発とはウランの核分裂反応で発生するエネルギーでお湯を沸かして発電する装置です。しかし、実際には、原子炉内で発生しているエネルギーには 2種類あります。その一つが核分裂のエネルギーですが、もう一つが「崩壊熱」と呼ばれるエネルギーで、ウランの核分裂によって生み出された核分裂生成物と呼ばれる放射性物質そのものが出すエネルギーです。
原発が長期間運転された場合、原子炉内で発生しているエネルギーの7%分は、「崩壊熱」です。今回地震が発生した時に、原子炉内には制御棒が挿入され、ウランの核分裂反応自体は止められたものと思います。しかし、崩壊熱はそこに放射性物質自体が存在する限り、止めることはできません。

皆さんが自動車を運転中にタイヤが外れる事故が起きたとしましょう。もちろんブレーキを踏む、エンジンを切ることによって、車を停止させることができます。しかし、こと原発の場合には、事故が起きても7%分のエネルギーは止めることができないまま、走り続けなければいけないのです。

原子炉の中で発生するエネルギー(熱)を冷やすためには、水を送らなければいけません。水を送るためにはポンプが動かなければいけません。ポンプを動かすためには、電気がなければいけません。しかし、福島原発の事故では一切の電源が断たれてしまったのでした。原発が運転中なら自分で電気を起こすことができます。しかし、地震で原子炉を停止させたため、自分で電気を起こすことはできなくなりました。通常なら、外部から送電線を通して電気を得ることができますが、地震によって送電線が被害を受け、外部からの電気もたたれてしまいました。
そのために、発電所には非常用発電機が複数用意されていましたが、それらは津波でやられてしまいました。こうしてすべての電源が断たれてしまい、東京電力は多数の電源車を現場に集めましたが、電源車を構内の電力系統に接続する場所は水没してしまっていて、電源車も使えませんでした。こうなれば、原子炉は溶けるしかありません。東京電力は、思案の挙句、消防用のポンプ車を連れてきて、原子炉内に水を送る決断をしました。それも、真水が利用できなかったため、海水を原子炉の中に入れることになりました。原子炉内に一海水を入れてしまえば、その原子炉は 2度と使えません。そのため、この決断は福島原発の主島にはできず、東京電力社長の決断を待たねばなりませんでした。そして、その間にも原子炉の損傷は進んでしまいました。
今現在、福島事故で進行していること

私は、当初、この事故が破局に至るか安定化できるかは 1週間で決まると思っていました。しかし、その予想は全く外れ、事故後すでに 1ヵ月半以上経た現在もなお苦闘が続いています。原子炉はいまだに溶け落ちていませんが、冷却を続けない限り溶け落ちて破局に至る可能性が今でもあります。従ってやるべきことはただ一つ、原子炉に水を入れ続けることです。ただ、事故後ずっと続けてきたように、外部から水を入れる限り、入れた分は外に溢れてくることになります。その水は放射能で汚染した水であり、発電所の敷地内のあちこちに溜まってしまい、作業員を被曝させ、環境に漏れ出ていっています。

 すでにその水が 7万トン近くに達し、処理の方策が見えません。何とか、こうした外部からの水で原子炉を冷やす方策から抜け出さねばいけませんし、そのためには原子炉を冷やす水を循環式にし、途中に熱交換器を設置して、熱だけを環境に捨てるようにしなければいけません。そのためには大掛かりな工事が必要です。そしてそれができるまでは、今まで通り外部から水を入れ続けなければいけませんが、それを続ける限り汚染水があふれてきて、工事を妨害します。

行くも地獄、帰るも地獄の膠着状態の中で、作業員は必死の作業を続けていますが、彼らの被曝はどんどんと蓄積してきています。もともと、日本人は 1年間に 1ミリシーベルト以上の被曝をしてはいけないことになっています。私のように放射線を取り扱って給料を得ている人間は「放射線業務従事者」と呼ばれて、1年間に 20ミリシーベルトまでの被曝は我慢するよう法律で定められています。

しかし、今回のような異常事態になってしまえば、そんな限度を守ることはできず、事態に対処する為に、 100ミリシーベルトまでの被曝は我慢するようにとの法律の定めもありました。しかし、それすら守ることができず、その限度は一気に 250ミリシーベルトへと引き上げられ、おそらく今後 500ミリシーベルトまで引き上げられてしまうのではないかと私は危惧しています。それでも、事故に立ち向かうための作業員を確保できるかどうか、私には分かりません。

福島事故の今後のシナリオ

今後の展開を予測することはできません。私の最悪シナリオは、原子炉の冷却に失敗し、炉心の大部分が溶けて落ちる、いわゆるメルトダウンが起きることです。そして、その時に原子炉圧力容器と呼ばれる、炉心を格納している巨大な圧力がまの底に水が残っていると水蒸気爆発と呼ばれる爆発が起きる可能性があります。
そうなれば、原子炉圧力容器を格納している、放射能を閉じ込める最後の防壁であるか原子炉格納容器も壊れるはずだと思います。そうなってしまえば、炉心は溶けている、圧力容器も破壊され、格納容器も破壊されているということで、原子炉の中に存在していた大量の放射性物質が何らの防壁もないまま環境に出てくることになります。何とか、その最悪シナリオを避けるために今現在、福島原発で作業員の苦闘が続いています。その苦闘が実を結んでくれることを私は願います。

ただ、作業員の苦闘が実を結ぶ場合でも、彼らの被曝は避けられませんし、すでに環境に放出され、そして今後長期間にわたって環境に漏れ出てくる放射能によって一般の人々が被ばくすることも避けられません。すでに原子力安全委員会は、普通の人々の被曝限度を 1年間に 20ミリシーベルトに引き上げるとしています。
低線量被曝の影響

 福島原発事故を受けて、各地で空間ガンマ線量が増加しましたし、水道水や野菜などの食べ物も汚染しました。それを前に、政府はしばしば「ただちに影響が出るレベルではない」と言ってきました。逆に言うなら、それは、ただちには出ないがやがて影響が出るということの裏返しです。すでに述べたように被曝に安全量はなく、「急性障害」は出なくても、いずれ「晩発性障害」と呼ばれる被害が出ます。
原爆被爆者などの長年の疫学調査に基づき、いくつかの評価がなされてきました。国際放射線防護委員会(ICRP)、先にも述べた米国科学アカデミーの電離放射線の生物影響(BEIR)委員会、私が信用している故 J.W.Gofmanさんの評価などがあります。それらの評価を表1に示します。
 10人・シーベルトという概念は分かりづらいでしょう。たとえば、1シーベルト被曝した人が 10人いれば合計の被曝量は10人・シーベルトになりますし、一人が 100ミリシーベルトの被曝しかしなければ、合計の被曝を 1万人・シーベルトにするには 100人の人が必要になります。

また、被曝量(Dose)が低い、あるいは被曝線量率(Dose Rate)が低い場合には被曝の影響が小さくなるとして、被ばく影響を小さく評価するという考え方があり、それが「補正(悪)後の値」として示したものです。しかし、もともと低線量あるいは低線量率での被ばく影響の効果が小さいとする主張には根拠がありませんので、J.W.Gofmanさんはそのような効果を含めることは正しくないとしています。
そのため、表1の「LNTモデル」の欄に示した人数だけがんで死ぬと考えるべきでしょう。

一人ひとりが 1ミリシーベルトしか被曝しないのであれば、10人・シーベルトの被ばくにするまで1万人が集まることになります。そして、最低の評価値を与えている ICRPの評価でも 10人・シーベルト当たり1人、Gofmanさんの評価では 4人が、がん死することになると評価されます。日本の法令は ICRPの勧告を基に作られていますので、一般人の被曝限度である 1年当たり 1ミリシーベルトは、1万のうち 1人ががんで死ぬことを 1年ごとに容認する基準です。

子どもの被曝は何としても避けなければならない
すでに述べたように、私たち人間と言う個体の始まりは、精子と卵子が結合して生まれたたった一つの細胞、いわゆる万能細胞です。そのたった一つの細胞が持っている遺伝情報を、細胞分裂によって複製しながら、目ができ、手ができ、頭ができ・・・といったように人間が作られます。人間の成人の身体はおよそ 60兆個の細胞でできています。もし遺伝情報に傷が付けば、傷を持った遺伝情報が複製されることになります。
そのため、ガン死/1万人・シーベルト細胞分裂の活発な時に被曝をすると、狂った遺伝情報がどんどん複製されることになってしまい、若く、生命活動の活発な子どもほど放射線感受性が高いことになります。したがって、同じ量の放射線を浴びるのであれば、大人よりも子どもの方が被害を多く受けます。

 放射線の年齢別の感受性を図7(5)に示します。20歳代、30歳代の大人に比べれば、赤ん坊年齢の放射線感受性は 4倍も高いし、逆に 50歳以上の大人は、1桁も低くなります。
 この点と評価の違いを考慮に入れただけでどれだけの被害が出ると予測されるかを、表2に示します。仮に、一般の人たちの被曝が 1ミリシーベルトとであるなら、1万人のうち 1人ががんで死ぬのは仕方がないとするのが今の日本政府の基準です。その値は、 Gofmanさんの評価では 4人となります。また、子どもの場合にはその約5倍の被害が出ると考えなければいけません(表2参照)。福島事故を受け、政府は緊急時として現場の作業員、そして避難指示を出す地域の被曝線量を決めました。それらによる危険度も併せて表3に示します。

今回、避難区域の基準として出された20mSv/yという値は、通常時であれば、放射線業務従事者に対してのみ許されるという被曝限度です。それを子どもたちにもあてはめるとすると、通常時に一般の人たちに許される危険度の 100倍もの危険を子どもたちに押し付けることになります。 
汚染への向き合い方
チェルノブイリ事故後、ソ連国内とヨーロッパの食べ物は強い汚染を受けました。それを知った日本人は、放射能汚染した食品は食べたくないとして、国に輸入規制を求め、日本の国は、セシウム 134と137の合計で 370ベクレル /kg以上汚れているものは日本国内に入れないと規制しました。しかし、日本人が食べないからといって汚染した食料がなくなるわけではなく、それは原子力の恩恵などまったく受けず、貧しく食料にも事欠いている国々へと押し付けられました。

 いま、福島原発事故で、福島県内や周辺の食料は汚れています。もちろん、誰だって放射能など食べたくありませんし、私も同じです。しかし、私たちが汚染した食料を拒否すれば農業と漁業が崩壊します。私たちはエネルギーを厖大に使える社会があたかも豊かであるように思い、農業と漁業を崩壊させてきましたが、その象徴が原子力だと私は思います。その原子力が事故を起こした時に、さらに農業と漁業を崩壊に追いやってしまうことは、事故から何の教訓も汲み取らないことになります。

 「原子力だけは絶対安全」と偽りの宣伝を流してきたのは国と電力会社、巨大産業群です。一般の人々が騙されても仕方がないと思います。しかし、騙された者には騙されたことに対する責任があります。子どもたちは少なくとも原子力を選択したことに責任はありませんし、放射線の感受性が高いので、何とか彼らを被曝から守らなければいけません。すべてのデータを鯉表紙汚染した食料は日本人の大人が引き受けることこそ必要だと思います。
  Ⅳ.都会で引き受けられない危険
地球という星と地震

 私たち日本人にとって地震は身近なもので、地震を経験しないまま一生を終えることはできません。しかし、この地球という星では、地震が起きない所の方がむしろ普通です。図8に示すように、この地球という星で地震が起きるのは、いわゆるプレートと呼ばれる地殻の境界だけです。日本は「太平洋プレート」「フィリピン海プレート」「ユーラシアプレート」「北米プレート」の4つのプレートがひしめく地震発生地帯にあります。国土面積では世界全体の 0.25%しか占めませんが、マグニチュード6以上の地震のうち20.5%が日本で発生するという世界一の地震国です(地震情報サイト JIS、http://j-jis.com/data/plate.shtml).。
人知を超えた地震

 その日本では、私たちが望むと望まないとのに拘わらず、地震は突然に起こります。昔から現在に至るまで、大小さまざまな地震に襲われ、さまざまな被害を受けてきました。平安時代末期に、京都下鴨神社の神職にあった鴨長明が「方丈記」を書きました。「ゆく河の流れは絶えずして・・・」の名文で始まるその方丈記には当時起こった5つの厄災についての記述があります。そのうち1つだけが人災(清盛による福原遷都とその失敗,1180)で、残りの4つは天災(火の災い(安元の大火,1177)、風の災い(治承の旋風 ,1180)、水の災い(養和の飢饉 ,1181-82)、地の災い元暦の大地震,1185))です。このうち元暦2年の地震のマグニチユードは 7.4でした。その被害を「方丈記」は右のように記しています。
地震の規模とマグニチュード

 地震は地下で岩盤が崩れ、岩盤同士が擦れ合う時にエネルギーを放出します。その時に生じたエネルギーの量を数式を使ってマグニチュードという値に換算します。マグニチュードと放出されるエネルギーの量の関係を表4に示します。
 マグニチュード 6の地震が放出するエネルギーは、広島原爆が放出したエネルギーに換算すると 0.92発分、つまり約 1発分です。つまり、マグニチュード 6の地震が起きた場合、地下で広島原爆約 1発が爆発したと思えばいいのです。ただし、このマグニチュードという値は少しおかしな数式で換算していて、例えばマグニチュードが 6から 8に 2上がると、地震が放出したエネルギーは 1000倍になります。

 今年 2月 22日にニュージーランドのクライストチャーチで発生した地震はマグニチュード 6.3でした。表 1でわかるように、その地震で発生したエネルギーは広島原爆 2.6個分でした。そのため、100人を超える人々が死に追いやられました。
 1995年 1月 17日に発生し、6500人近い死者を出した兵庫県南部地震のマグニチュードは 7.3でした。そのエネルギーは広島原爆が放出したエネルギーに換算して 82発分に相当します。その日の朝、淡路島から神戸にかけての地下で広島原爆が 82発、次々と炸裂したと考えれば、その地震の規模を想像できるでしょう。
 それまで、日本の耐震工学の専門家は、たとえば以下のように言って日本の建築物だけは壊れないと豪語していました。しかし、阪神淡路大震災を受けたあと、彼らは「予想を超える揺れだった」と言ったのでした。
 ノースリッジ地震の後も、サンフランシスコの被害が大問題となった 1989年ロマプリエタ地震の後も、日本の建設技術者は、『ところで日本の構造物は大丈夫なんですか』という質問をあちこちで受けるはめとなった。『あれくらいでは日本の構造物は壊れません』というのが、我々の答えである(中略)設計で使う力は、世界の地震国で使われている力の数倍は大きい(中略)なんと言っても最大の理由は、地震や地震災害に対する知識レベルの高さであろう。
 片山恒雄東大教授、「予防時報」第 180号(社)日本損害保険協会(1995年 1月)
 2004年 10月 23日に起きた中越地震のマグニチュードは 6.8でしたが、多数の集落が根こそぎ破壊されて生活できなくなりました。2007年 7月 16日には、マグニチュード 6.8の中越沖地震が起き、世界最大の原子力発電所である東京電力柏崎・刈羽原子力発電所を襲いました。東京電力がこれ以上の地震は決して起きないとして想定した最大の直下地震はマグニチュード 6.5で、中越沖地震はその 3倍もの大きさでした。2004年暮れに起きたスマトラ沖地震のマグニチュードは 9.0、広島原爆3万発分のエネルギーに達しました。そのため、地球の回転軸がゆがみ、1年の長さまでもが変わったほどの巨大な地震でした。そのため 20万を超える人たちが死にました。 2010年 1月 12日にハイチで起きた地震はマグニチュード 7.0でしたが、その地震でも 23万もの人が死んでしまいました。そして今回の東北地方太平洋沖地震のマグニチュードも 9.0でした。
危険な浜岡原発

 今、怖れなければならないのは東海地震です。古くから本州、四国の耐変容沿いでは、巨大な地震が周期的に起きてきました。四国沖から紀伊半島西側にかけて起きる南海地震、紀伊半島先端から東にかけての東南海地震、そして駿河湾付近の東海地震は、 100年から 150年に一度は起きることを歴史が示しています(図9参照)。しかし、 1854年に起きた安政東海地震、安政南海自身の後、東南海地震と南海地震がそれぞれ 1944年と 1946年に起きたにも拘わらず、東海地震はすでに 160年近く起きていません。
政府の地震調査委員会は、「東海地震」は今後 30年以内に 87%の確率で起き、その規模はマグニチュード8程度と予測しています。そして、その予想発生震源域の中心で中部電力浜岡原子力発電所が動いています。1号機(54万 kW、1976年運転開始)、2号機(84万 kW、1978年運転開始)は、耐震補強工事にカネがかかりすぎるとの理由で 2009年 1月 30日に運転を終了しました。しかし、未だに 3号機(110万 kW、1987年運転開始)、4号機( 113.7万 kW、1993年運転開始)5号機( 138万 kW、2005年運転開始)の 3基が運転中です。今日、この後に広瀬さんが詳しく話してくださるでしょうが、もし東海地震が起きてしまえば、浜岡原発で破局的事故が引き起こされる可能性は十分にあると考えておくべきでしょう。マグニチュード8の地震では広島原爆 920発分のエネルギーが放出されます。
その上、当南海地震と連動する場合にはその規模はマグニチュード 8.5になると言われ、その場合に放出されるエネルギーは広島原爆 5200発分に相当します。国や電力会社は原子力発電所だけは何時いかなる時も絶対安全だと言い続けて来ましたが、事故は何度もおきてきて、その都度、彼らは「予想を超えた事態であった」と言ってきました。広島原爆数千発が直下で炸裂してなお安全だといえる構造物とは一体どのようなものなのでしょう?そこに危険物があるかぎり、事故が起こるかもしれないことは覚悟しておかなければいけません。
超危険な物質を内包した原発は地震地帯を避けなければならない

 世界の原子力発電所はほとんど例外なく地震地帯を避けて建設されています(図10参照)。米国には 100基の原発がありますが、それらは地震が起きない東海岸に建てられています。ヨーロッパには 150基の原発がありますが、ヨーロッパは安定した地殻の上にあり、地震の心配をする必要がありません。しかし、世界一の地震国日本に、今現在、 54基の原子力発電所が動いています。何故、そのようなことをするかといえば、電気が欲しいからだそうです。発電方法には原子力だけではなく、火力、水力、さらに太陽光、太陽熱、風力、波力、潮力、地熱などなど他にもさまざまなものがあります。仮に何もないとしても、たかが電気のために、これほど馬鹿げた選択をする必要があるのでしょうか?
浜岡原発での破局的事故シミュレーション

 浜岡には 1976年に運転を始めた 1号炉以降、これまでに 5基の原発が建設されました。しかし東海地震がいよいよ切迫して来ていることが明らかになり、また敷地が劣悪な地盤で、地震の揺れが増幅されることも分かってきました。そのため、中部電力は 1号炉と 2号炉については耐震補強工事にカネがかかりすぎるとの理由で、2009年 1月末に運転を停止しました。それでも 3号炉、4号炉、5号炉は未だに運転を続けていますし、あろうこと6号炉を増設するなどという計画も出されています。

 チェルノブイリ原発( 100万 kW)よりも大きな原発が事故を起こせば、どんな被害が出るか、シミュレーションすることもばかげていると思います。でも、一番小さな3号炉(110万 kW)が事故を起こした時の被害を計算してみました(6)。その結果は、すでに「終焉に向かう原子力(第 10回)」(2010年 12月 12日)で報告しました。ここでは、代表的な結果だけを示します。
汚染を受ける土地の広さ

 すでに記したように、チェルノブイリ原発の時には、セシウム 137の汚染が 1 km2当たり 15キュリー以上になった地域は強制的に避難させられました。また、日本の法令に従えば、1 km2当たり 1キュリー以上の場所はすべて放射線管理区域に指定しなければいけないことになっています。チェルノブイリ事故の場合、東側で風下 700kmの彼方まで、西側でも 500kmの彼方まで 1km2当たり 1キュリー以上に汚染を受けた地域が広がりました。つまり東西に 1200kmにわたる地域が放射線の管理区域に指定しなければならない汚染を受けました。

 浜岡原発で事故が起きた場合に、どのような汚染がどの程度の範囲まで起きるかを図11に示します。風下に入ってしまえば、1200kmの彼方まで、つまり日本中どこでも放射線管理区域にしなければなりませんし、風向きが西から北西方向であれば、韓国はもちろん朝鮮民主主義人民共和国もそのほぼすべてが放射線の管理区域にしなければならない範囲に含まれます。
 強制避難させる場所は 250kmの風下に及びます。つまり風下に入ってしまえば、東京も名古屋も、大阪も人々をすべてその場から追い出さなければならなくなります
長い時間がたった後に生じる癌による死

 ここでの計算では、風下に巻き込まれた地域は、 30日後に避難し、その後は無人地帯になると仮定しています。それでも、避難するまでに受けてしまった被曝、さらには体内に取り込んでしまった放射能からの被曝は続き、それらはやがて長期間たった後に癌で死ぬ被害をもたらします。この場合も、被害を受けるのは風下だけで、例えば放射能の雲が北東方向( 45度方向)に流れた場合には、静岡市さらには首都圏が放射能の雲に巻き込まれることになり、東京周辺だけで 65万人、静岡など他の地域も含めれば 130万人の癌死者が生じます。風が 285度方向に向かった場合には、浜松市と名古屋周辺が被害を受け、癌死者の合計は 120万人になります(図12参照)。原発を過疎地に押し付けてもなお、都会でもたくさんの人々が犠牲になります。
急性死が出る地域

原発事故の被害は、遠く離れた地域でも発生するとはいえ、それでも原発周辺地域が受ける被害は言葉には尽くせません。
短期間に大量の被曝をすれば、JCO事故での大内さん、篠原さんのように、人間は筆舌に尽くせない悲惨さのうちに死んでしまいます。急性死の出る範囲を図13に示します。被害を受けるのは風下だけですが、旧浜岡町を含んだ御前崎市はほぼ全域が 90%の人が死ぬ範囲に含まれています。
.原子力からは簡単に足を洗える  
原子力は即刻やめても困らない

 日本では現在、電力の約 30%が原子力で供給されています。そのため、ほとんどの日本人は、原子力を廃止すれば電力不足になると思わされています。また、ほとんどの人は今後も必要悪として原子力を受け入れざるを得ないと思っています。そして、原子力利用に反対すると「それなら電気を使うな」と言われたりします。福島原発事故が現在進行中であるのに、原発を止めると電気が足りなくなる、豊かな生活ができなくなると思う日本人は多いようです。
 しかし、発電所の設備の能力で見ると、原子力は全体の18%しかありません。その原子力が発電量では28%になっているのは、原子力発電所の設備利用率だけを上げ、火力発電所のほとんどを停止させているからです。原子力発電が生み出したという電力をすべて火力発電でまかなったとしても、なお火力発電所の設備利用率は7割にしかなりません。それほど日本では発電所は余ってしまっていて、年間の平均設備利用率は5割にもなりません。つまり、発電所の半分以上を停止させねばならないほど余ってしまっています(図14参照)。
 ただ、電気は貯めておけないので、一番たくさん使う時にあわせて発電設備を準備しておく必要がある、だからやはり原子力は必要だと国や電力会社は言います。しかし、過去の実績を調べてみれば、最大電力需要量が火力発電と水力発電の合計以上になったことすらほとんどありません(図15参照)。電力会社は、水力は渇水の場合には使えないとか、定期検査で使えない発電発電設備量[100万kW]所があるなどと言って、原子力発電所を廃止すればピーク時の電気供給が不足すると主張します。しかし、極端な電力使用のピークが生じるのは一年のうち真夏の数日、そのまた数時間のことでしかありません。かりにその時にわずかの不足が生じるというのであれば、自家発からの融通、工場の操業時間の調整、そしてクーラーの温度設定の調整などで充分乗り越えられます。今なら、私たちは何の苦痛も(最大需要電力量は電気事業に関するもののみ。)伴わずに原子力から足を洗うことができます。
.何よりも必要なことはエネルギー消費を抑えること
少欲知足

 しかし、私が思っていることは別にあります。原発は電気が足りようが、足りなかろうが、即刻全廃すべきものです。福島原発の悲劇を見ながらそう思うことができない人がいるとすれば、私は不思議です。
 いったい、私たちはどれほどのものに囲まれて生きれば幸せといえるのでしょう?
 人工衛星から夜の地球を見ると、日本は不夜城のごとく煌々と夜の闇に浮かび上がります。建物に入ろうとすれば、自動ドアが開き、人々は階段ではなくエスカレーターやエレベータに群がります。夏だというのに冷房をきかせて、長袖のスーツで働きます。そして、電気をふんだんに投入して作られる野菜や果物は、季節感のなくなった食卓を彩ります。
 現在、地球温暖化問題がとてつもなく重要なものだと宣伝され、それを防ぐためには原子力が必要だなどという途方もないウソが流されています。「
地球温暖化」もっと正確に言えば気候変動の原因は、日本政府や原子力推進派が宣伝しているように、単に二酸化炭素の増加にあるのではありません。産業革命以降、特に第二次世界戦争以降の急速なエネルギー消費の拡大の過程で二酸化炭素が大量に放出されたことは事実ですし、それが気候変動の一部の原因になっていることも本当でしょう。しかし、生命環境破壊の真因は、「先進国」と呼ばれる一部の人類が産業革命以降、エネルギーの膨大な浪費を始めたこと、そのこと自体にあります。
そのため、多数の生物種がすでに絶滅させられたし、今も絶滅されようとしています。地球の環境が大切であるというのであれば、二酸化炭素の放出を減らすなどという生易しいことではすみません。人類の諸活動が引き起こした災害には大気汚染、海洋汚染、森林破壊、酸性雨、砂漠化、産業廃棄物、生活廃棄物、環境ホルモン、放射能汚染、さらには貧困、戦争などがあります。そのどれをとっても巨大な脅威です。温暖化が仮に脅威だとしても、無数にある脅威の一つに過ぎませんし、その原因の一つに二酸化炭素があるかもしれないというに過ぎません。
日本を含め「先進国」と自称している国々に求められていることは、何よりもエネルギー浪費社会を改めることです。あらゆる意味で原子力は最悪の選択ですし、代替エネルギーを探すなどという生ぬるいことを考える前に、まずはエネルギー消費の抑制こそに目を向けなければいけません。

 残念ではありますが、人間とは愚かにも欲深い生き物のようです。種としての人類が生き延びることに価値があるかどうか、私には分りません。しかし、もし地球の生命環境を私たちの子どもや孫たちに引き渡したいのであれば、その道はただ一つ「知足」しかありません。一度手に入れてしまった贅沢な生活を棄てるには苦痛が伴う場合もあるでしょう。当然、浪費社会を変えるには長い時間がかかります。
しかし、世界全体が持続的に平和に暮らす道がそれしかないとすれば、私たちが人類としての叡智を手に入れる以外にありません。私たちが日常的に使っているエネルギーが本当に必要なものなのかどうか真剣に考え、一刻でも早くエネルギー浪費型の社会を改める作業に取り掛からなければなりません。
【参考文献】
(1)    NHK取材班「被曝治療 83日間の記録」、岩波書店(2000)、現在この本は絶版ですが、新潮文庫から「朽ちていった命」として出版されています。
(2) BEIR
-Phase 2、”Health Risks From Exposure to Low Levels of Ionizing Radiation”
http://www.nap.edu/catalog.php?record_id=11340日本原子力産業会議、「ソ連原子力事業視察報告」、1979年9月
(5) J.W.Gofman, “Radiation and Human Health”, Sierra Club Books(1981)
(6) 原発事故のシミュレーションに関しては、以下の本をご覧ください。
瀬尾健、「原発事故、その時あなたは・・・?」、風媒社(1995)

(3) USAEC,”Theoretical Possibilities and Consequences of Major Accidents in Large Nuclear Power Plants”,
WASH-740(1957)
(4)
(本稿は、「終焉に向かう原子力」第11回 (2011年4月29日(金) 明治大学 アカデミーホールで開催)での講演用に作成されたものです。――編集部)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1366:110429〕
                                   (おわり)

 - 現代史研究 , , , , , , , , , ,

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