前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

渡辺幸重のメディアウオッチ(安倍政権誕生)「年の初めに<戦争への道>を憂う」―“戦争への道”が現実味を帯びてきた

   

渡辺幸重のメディアウオッチ
 
(安倍政権誕生)「年の初めに<戦争への道>を憂う」
―“戦争への道”が現実味を帯びてきたー
 
渡辺幸重(ジャーナリスト)
 
◎人の世の真実-「柿愁庵雑記」
 
 
 
 新年早々泊まった宿で「産経新聞」を目にして驚いた。
 
一面に大きく「陸海空一元化『統合防衛戦略』に着手」「中国の野望にくさび打て」とおどろおどろしい見出しが躍っている。
 
内容は、中国の日本への侵攻を想定したもので、防衛省が極秘に検討したという3つの対中国の有事シナリオが紹介されていた。これまではこういう内容は「一部メディアの論調」として無視してきたが、そうもいかなくなった。安倍晋三・自公政権ができたからだ。
 
安倍首相は就任するやいなや陸海空3軍をたばねる「統合防衛戦略」の策定に着手し、さらに「国家安全保障会議(日本版NSC)の創設」「集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈の見直し」「政府の歴史認識に関する新たな首相談話の作成」を行う方針を固めている(毎日新聞1月6日朝刊)。
 
自民党は今回の総選挙で大勝したが、得票数は大敗したときと同程度で、国民に支持されているわけではないことは誰でも知っている。
 
自衛隊を「国防軍」とすることも、憲法9条を改定することも国民が求めているわけではない。国民は、雇用と生活の安定、東日本大震災・原発事故からの復興、そして原発のない安全・安心な社会を求めているのだ。
 
 “戦争への道”を進もうとする安倍政権を、私たちは監視し、平和を守らなければならない。
 
防衛省が想定する中国との紛争シナリオ
 
 産経新聞1月1日朝刊の1面トップは「新帝国時代 2030年のアジア」と題する連載企画の第1回で、次のような防衛省の想定シナリオを示した。
 
(シナリオ1)尖閣侵攻/尖閣諸島周辺海域で、海上保安庁の巡視船と中国の海洋・漁業監視船が衝突したのをきっかけに、中国の空挺部隊と水陸両用戦車が上陸、一気に尖閣諸島を奪取する。
 
(シナリオ2)尖閣と石垣・宮古同時侵攻/中国が尖閣諸島・石垣・宮古周辺海上を封鎖し、空からもレーダーサイトをミサイル攻撃し、混乱に乗じて特殊部隊が宮古空港・石垣空港を占拠する。
 
(シナリオ3)尖閣・石垣・宮古と台湾同時侵攻/中国側が、尖閣と石垣・宮古だけでなく、台湾へも海上封鎖や戦闘機・ミサイル攻撃、特殊部隊や水陸両用の上陸作戦を行う。対艦弾道ミサイルや長距離爆撃機、大陸間弾道ミサイルなどで米軍の介入を阻止し、これらの地域を押さえる。
 
 記事は、(シナリオ2)で「陸上自衛隊の部隊を常駐させていないことが致命的」と付記し、(シナリオ3)には「想定しておくべき最悪シナリオ」という防衛省幹部のコメントを付けている。
 
“戦争への道”が現実味を帯びてきた
 
 筆者(私)は、この記事を見て2つのことを考えた。一つは、政府の責任であり、もう一つはメディアの責任である。
 
 政府は、国民の生命・財産を守る義務がある。そのために平和で、安全で、安心できる社会を作るよう努力しなければならない。それは、自国民を戦争に駆り立て、他国民と殺し合いをさせることではない。
 
 いま安倍政権がやろうとしていることは、東日本大震災や原発事故、格差拡大、少子高齢化、財政難などに現れた社会の質を問う問題を経済回復問題として矮小化し、内政問題に対する不満を、ナショナリズムを高揚させることでそらすことだ。そして、利益を一部で独占し、国民を貧乏にし、安定した生活と自由を奪うことになるだろう。外国と力と力の闘いになり、やがて戦争に突き進むのではないだろうか。
 
 産経新聞の記事にあるシナリオは、そのことを暗示している。
 
 メディアは、権力をチェックし、国民のために平和な社会を守ることに貢献する義務がある。とすれば、産経新聞は防衛省の想定シナリオを垂れ流すのではなく、その意味と危険性を指摘し、戦争への道を進まないよう警鐘を鳴らすべきではないか。にも拘わらず、産経新聞は「中国の野望にくさびを打て」と対決姿勢をあおり立てている。
 
 同じ面で、中静敬一郎・論説委員長は、「長期安定政権で国難打破を」と題して、憲法が平時の自衛権を認めていないことや憲法9条を“不備”とし、明治時代は軍事力で中国の威圧と挑発に立ち向かい、成功したとして日本人の団結心と愛国心を絶賛し、今回の総選挙では「多くの有権者は、強い経済力とともに対中抑止力を働かせるとした安倍氏に国の未来を託した」と書いている。しかし、過去の日本は国を滅ぼす無謀な戦争に突入した。
 
また、今回の総選挙では、得票数からみてわかるように、国民は安部氏に無条件に国の未来を託したわけではない。そのことをメディアは冷静に分析し、権力の暴走を押さえなければならないのに、産経新聞は逆だ。誤った方向にリードしていると言ってもよいだろう。もはやそれはジャーナリズムとは呼べない。
 
 これを「産経新聞だから」「いつものことだから」と聞き流していると、いつのまにか私たちは“物言えぬ民”に成り下がってしまうような強い危機感を抱く。安部・自公政権と産経新聞が完全にダブって見えるのだ。
 
民衆レベルで抵抗できるか
 
 では、私たちはどうすればいいのだろうか。
 
メディアは軍縮キャンペーンを展開すべきだが、権力のチェック機能が弱まったメディアに、私たちは大きな期待はできない。とすれば、自分たちの生活や活動の中から“戦争をしない社会”を築き上げるしかないだろう。
 
 産経新聞の連載企画では、中国も少子高齢化など日本が直面してきた社会問題にぶつかり、それを克服できないとして将来の危機を展望している。
 
筆者も、中国が少子高齢化や格差拡大、環境汚染、水不足など多くの問題に次々に直面し、経済混乱が起きるのではないか、と危惧しているが、私たちのとる道はパワーゲームでも陣取り合戦でもない。
 
私たちは、中国と日本が民衆レベルの交流を活発にして、ともにこれらの問題克服に取り組むべきだろう。
 
翻って考えるに、私たちの生活スタイルも、大量生産・大量消費・大量浪費のモノ中心のシステムから脱却し、自分たちが管理する小規模で地産地消の再生可能エネルギー施設を多数作り、経済成長よりも命と健康を守り、平和な生活を優先する仕組みに変えなければならない。それは異なる価値観を持った人たちにも受け入れられ、世界に広がりうる価値を持つ。
 
 当然、核兵器につながり、事故や軍事攻撃で一瞬のうちに日本列島が放射能で汚染されてしまう原発は受け入れられるものではない。私たちが非核原発ゼロ社会を民衆レベルでめざし、中国や韓国、東南アジアの国々の人々とつながることが、戦争を阻止する道につながると信じる。威丈高に“強い国”を求める好戦的な人たちは一番それを恐れるだろう。
 
 私は、安倍政権が軍備を強化し、愛国心教育を進め、労働者を踏み台にした経済成長をめざしたとしても、それを認めない持続する志を持ちたい。
 
正直言って、戦前のような社会になったとき、どこまで抵抗できるだろうか、と不安にもなる。しかし、私は、弱々しいと言われようとも、平和を求める記事を書き続けようと思う。生活の中でもできるだけ人にやさしく、命と心を大事にするように心がけようと思う。それが“戦争への道”を拒否する私の一つの行動なのである。

 - IT・マスコミ論 , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
知的巨人の百歳学(118)ー『米雑誌「ライフ」は1999年の特集企画で「過去1000年で最も偉大な功績をあげた世界の100人」の1人に葛飾北斎(90歳)』(下)★『北斎の生き方を尊敬し、「Silver Yutuber」となってビデオ片手に鎌倉、全国をぶらり散歩しながら1日1万歩目標に「現代版富嶽百景」を撮影、創造力アップ、長寿力アップに努力』

知的巨人の百歳学(118)   知的巨人の百歳学(117)ー『米雑誌「 …

no image
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(227)/『日米戦争の敗北を予言した反軍大佐/水野広徳(下)』-『その後半生は軍事評論家、ジャーナリストとして「日米戦わば、日本は必ず敗れる」と日米非戦論を主張、軍縮を、軍部大臣開放論を唱えるた』★『太平洋戦争中は執筆禁止、疎開、1945年10月に71歳で死亡』★『世にこびず人におもねらず、我は、わが正しと思ふ道を歩まん』

 2018/08/20 /日米戦争の敗北を予言した反軍大佐、ジャーナリ …

『リモート京都観光動画』/初春の京都・大原三千院をぶらり散歩(2019/2/23)-大原バスターミナルから茶店の並ぶ参道をゆっくり歩きながら三千院山門までの風情を楽しむ』★『-御殿門を入り、客殿の庭園「聚碧園」、宸殿、有清園、往生極楽院など、青苔の庭園の幽玄の世界に浸る』★『京都大原の来迎寺(2/23)三千院より呂川沿いの山道をしばらく登ると来迎寺はある。』

   初春の京都・大原三千院をぶらり散歩(2/23)-大原バ …

「今、日本が最も必要とする人物史研究/日英同盟を提言した林董(はやしただす)元外相』★『国難日本史ケーススタディー④>『日英同盟論を提言ー欧州戦争外交史を教訓に』 <「三国干渉」に対して林董が匿名で『時事新報』に日英同盟の必要性を発表した論説>』

  2012-03-10 /『リーダーシップの日本近現代史』(56)記 …

「第45回 東京モーターショー2017」-『TOYOTAブースの「GR HV Sports」コンセプトカー』★「DAIHATSUブースのコンセプトカー」

日本最先端技術『見える化』チャンネル  「第45回 東京モーターショー2017」 …

百歳学入門(149)『百里を行くものは、九十里を半ばにす』 ●『心は常に楽しむべし、苦しむべからず、身はつねに労すべし、 やすめ過すべからず』貝原益軒) 』●『老いておこたれば、則ち名なし』●『功のなるは、成るの日に、成るにあらず』●『 咋日の非を悔ゆるものこれあり、今日の過を改むるものすくなし」(佐藤一斎 )

 百歳学入門(149) 『百里を行くものは 九十里を半ばにす』戦国策 …

no image
日本リーダーパワー史(762)名門「東芝」の150年歴史は「名門」から「迷門」、「瞑門」へ 『墓銘碑』経営の鬼・土光敏夫の経営行動指針100語を読む② ー『やるべきことが決まったならば執念をもってとことんまで押しっめよ。問題は能力の限界ではなく執念の欠如である』 ★『六〇点主義で速決せよ。決断はタイムリーになせ。決めるべきときに決めぬのは度しがたい失敗だ』

  日本リーダーパワー史(762)   名門「東芝」の150年歴史は「名門」から …

no image
  日本リーダーパワー史(755)近現代史の復習問題<まとめ記事再録>『日本興亡学入門』/2018年は明治維新から150年目ーリーマンショック前後(20年前)の日本現状レポート(10回連載)ー『日本復活か?、日本沈没か!、カウントダウンへ』★『グローバリズムで沈没中のガラパゴス・日本=2030年、生き残れるのか』

    日本リーダーパワー史(755)  ◎ <まとめ記事再録>『日本興亡学入門 …

no image
百歳学入門(193)―『発明王・エジソン(84歳)ーアメリカ史上最多の1913の特許をチームワークで達成したオルガナイザーの人生訓10か条』

百歳学入門(193) 発明王・エジソンーアメリカ史上最多の1913の特許をチーム …

『Z世代のための昭和史失敗復習講座』★『ガラパゴス・ジャパン・シンドローム(日本敗戦病)の研究』★『国家統治中枢部の総無責任欠陥体制ー太平洋戦争下の『大本営』『大本営・政府連絡会議』『最高戦争指導会議』 『御前会議』のバカの壁』★『今も続く『オウンゴール官僚国家の悲劇』

逗子なぎさ橋通信(24年/7/14/pm800富士山はお隠れ   20 …