前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

●「H3ロケットの大失敗」(23年3月7日)ー『宇宙開発は一国の科学技術のバロメータ。H3初号機の度重なる失敗は、日本の科学技術力、イノベーション力、ものづくり力の「低落」を象徴するもので「日本経済復活」は危機的な状況にある。追い込まれているー

      2024/04/01

 

 

「H3ロケットの大失敗」-日本沈没加速

 

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は23年3月7日、新たな大型基幹ロケットの「H3初号機」の打ち上げに再度失敗した。

宇宙開発は、一国の科学技術の総合力のバロメータである。H3初号機の度重なる失敗は、日本の科学技術力、イノベーション力、ものづくり力の「低落」を象徴するもので「日本経済復活」は危機的な状況に追い込まれている。

 

JAXAは8日、事故原因について「2段エンジンの着火に関わる電源系統に異常が確認されたが、着火信号を出す機体側と信号を受け取るエンジン側のどちらで発生したかは解明できず、さらに原因究明を続けている」と発表した。

 また同日、日本記者クラブで講演したJAXA名誉教授の的川泰宣氏は、「半導体がうまく作動しなかったのか、機械部品(約80万点)に不具合があったのではないか」などと語り、今後の影響について「この失敗で火星衛星探査機をH-IIAで打ち上げ(24年度予定)がなくなるとらなると、「火星探査のせっかくのチャンスを逃しかねない」と懸念を表明した。

JAXAと三菱重工業は、低コストで高頻度の発射が可能な次世代の主力ロケット機として、2014年にH3の開発を始めた。民間や海外の衛星打ち上げの受注増加を狙うためで、総開発費は2197億を計上した。

現在、世界中の宇宙ビジネスは急拡大しており、スタートアップ企業、ベンチャー企業が続々と参入して、米起業家イーロン・マスク氏が率いる「米スペースⅩ」は大型ロケットの一部を再使用する方式で打ち上げ費用を1回約60億円に抑え22年は約60回も打ち上げた。「アマゾン」のジェフ・ベゾス氏らビリオネア(億万長者)がロケットなどで価格破壊を仕掛け、業界を大変革している。

米モルガン・スタンレーは、宇宙産業の世界市場は2040年に1兆ドル(約130兆円)超えると予測している。内閣府は17年に「宇宙産業ビジョン2030」を策定し、国内の市場規模(約1.2兆円)を30年代の早期に2.4兆円まで倍増させる計画を発表している。

そうした宇宙ビジネスのカギを握るのが「H2」「H3ロケット」の開発で「JAXA」は2030年までに地球観測用のレーダー衛星「だいち4号」(23年度~)、「国際宇宙ステーションなどに物資を輸送する無人補給船」(24年度~)、「火星の衛星から試料を持ち帰る「MMX探査機」(24年度~)、「安全保障分野の情報収集衛星」(26年度~)など毎年のように打ち上げを予定していた。

ところがH2、H3の開発の歴史は失敗に次ぐ失敗の『負の歴史』である。「1998年のH2-5機」、「99年のH2-8機」、「2003年のH2A6号機」、「22年のイプシロン6号機」、「今回のH3・1号機と打ち上げ相次いで失敗した。

その原因究明も「イプシロン」の指令破壊については未だに解明されていない。今回の「H3初号機」の原因究明もこれまでのように長引き、失敗の原因を突き止められないのではないかとの危惧が出ている。

  • 中国が宇宙開発をリード

勢いにのる中国は、2030年までに世界をリードする「宇宙強国建設」を目標を掲げ、「制宙権」の確保を狙っている。「宇宙を制する者が世界を制する時代」に突入した。2019年の中国のロケット打ち上げ回数は、2年連続で米国やロシアを抜いて世界一となった。

主要国の2018,19年合計のロケット打ち上げ回数を比較すると①中国73回②米国48回ロシア45回④欧州14回インド13日本8回である。

中国は、米国、ロシア、日本などが協力している国際宇宙ステーションに対抗して、中国一カ国のみで宇宙ステーション天宮の建設に成功し、2022年にはその運用を開始した。またカーナビなどに広く利用される衛星測位システムは、米国がGPSを1980年代に導入したが、中国も北斗衛星測位システムを独自に構築して、2020年からすでに運用を開始している。

「宇宙強国建設」に中国は膨大な予算をつぎ込んだ。ロケット開発を含む各国の研究開発費とその増加倍率(2000~2016)をみると①米国56兆円(1,9倍)②中国 25兆円(21,3倍)日本18兆円(1,1倍)だ。2000年には中国での研究開発費は米国の30分の1、日本の14分の1しかなかったのが、2016年までには何と約21倍にも増やして世界第2位にのし上がり、研究費は米国の半分近くになってきた。

宇宙開発予算に限ってみても、2017年では①米国約4兆7000億円②欧州(ESA)約6200億円中国約4600億円④日本約3400億円ロシア約1700億円となっている(米国宇宙財団調べ)。

このほか、科学論文数(2016)の国際比較でも①中国 約43万件②米国41万件インド11万件④ドイツ10万件日本9万件で、日本は中国の約5分の1と少ない。特許出願数(2019)でも①中国約125万②米国52万日本は45万人で、これまた3分の1。科学研究者数(2016)では①EU全体で約188万②中国169万米国138万④日本85万人で中国の約半分で「科学立国」日本の存在感はなくなりつつある。

かつて、日本の国際競争力ランキングでは1989年からバブル期終焉後の92年まで、4年連続で1位の座にあった。しかし、その後、順位は毎年のように下がり続けて30年経った2022年には何と34位となり「中進国」に転落、「貧しい国」「稼げない国」になり果てた。その失敗の原因は「デジタル競争力」「科学イノベーション力」「AI・ロケット競争力」の低落と軌を一にしている。日本の科学技術の展望は開けないままだ。

 

 - 戦争報道, 現代史研究, 最先端技術『見える化』動画

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
百歳学入門(188)★『日野原重明先生(105歳)』★『92歳の時の毎日の生活ぶりだが、そのエネルギーと分刻みの緻密なスケジュールと仕事ぶりはまさに超人的!』

百歳学入門(188) 日野原重明(1911-2017、105歳) https:/ …

no image
日本メルトダウン(951)『リニア新幹線は「第2の国鉄」になる 安倍首相の「ヘリコプターマネー」は昭和型(池田信夫)』●『大前研一の特別講義「オランダが実践する『選択と集中』の農業」』●『いつでも自由に尖閣に近づける状態にしたい中国 米海軍大学教授、トシ・ヨシハラ氏に聞く中国の狙い(古森義久)』●『「考える力」を育まない日本に未来はあるのか 日本の大学はロシアの小中校レベルだった』●『テクノロジーが変える50年後の社会~ビジネス・経営はどのように変わるのか?』

   日本メルトダウン(951)   リニア新幹線は「第2の国鉄」になる 安倍首 …

no image
記事再録/知的巨人たちの百歳学(126) <カルピス創業者・三島海雲(96歳)の健康法> ①『必要な金はどこからか自然に湧いて来る ②一に散歩、二に日光浴、三に食養生。 ③早朝散歩と日光浴を毎日欠かさず実行。 

 2012年8月8日 /百歳学入門(44)    &nbsp …

no image
「稀有の海軍大佐・水野広徳年譜●『国大といえども戦いを好む時は必ず滅び、天下安しといえども戦を忘るる時は必ず危うし』

●『国大といえども戦いを好む時は必ず滅び、天下安しとい えども戦を忘るる時は必ず …

no image
  世界も日本もメルトダウン(965)『日本政治「安定」の謎=河野龍太郎氏』●『  日本の大企業に蔓延する、思考の共産主義[樋原伸彦』●『華人系は嘘っぱち、ドゥテルテに騙されるな!―田中角栄元首相に重なる面が多いフィリピンの新大統領』●『(動画2分)ソ連に愛国的なロシアの歴史教科書 ソ連崩壊の記述は』●『オバマの腑抜けFONOP、“中国の”島に近づかず はるか沖合を通航するだけ、米海軍周辺からは怒りの声』●『トランプ「第3次世界大戦」発言の深層にあるもの』

  世界も日本もメルトダウン(965)     コラム:日本 …

no image
終戦70年・日本敗戦史(119)日清戦争は日中韓認識ギャップ(思い違い)の対立で東学党の乱から日清出兵⑥

 終戦70年・日本敗戦史(119)                   <世田谷 …

no image
日本リーダーパワー史(216)「坂の上の雲」③秋山真之の師事したマハンの『日本海海戦の講評』(英タイムズ掲載)

日本リーダーパワー史(216)   <『英タイムズ』が報道した「坂の上 …

no image
速報(449)『対中国ビジネスの サポートする青木麗子氏の記者会見動画』『官制クールジャパンの評判は最悪―』

   速報(449)『日本のメルトダウン』   ●『中国語通 …

no image
日本リーダーパワー史(864)ー『トランプ政権迷走の丸1年―通信簿はマイナス50点』★『歴史上、重大な役割を演じてきたのは、狂人、妄想家、幻覚者、精神病者である。瞬時にして権力の絶頂に登りつめた神経症患者や偏執狂者や精神病者の名は、歴史の至るところにあらわれるが、彼らは大体、登りついたのと同じくらいの速さで没落した』

日本リーダーパワー史(864) トランプ政権迷走の丸1年―1918年世界はどうな …

no image
片野勧の衝撃レポート(33)太平洋戦争とフクシマ⑥悲劇はなぜ繰り返されるのか「ヒロシマ・ナガサキからフクシマへ」➏

     片野勧の衝撃レポート(33) …