『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉑『開戦3ゕ月前の「英ノース・チャイナ・ヘラルド」の報道』★『ロシアは詐欺の常習犯だと思われていても,それを少しも恥じる様子はない。』●『日本は,ロシアの侵略の犠牲者はほかにもたくさんいるのに,なぜ自分だけがロシアの侵略を食い止めるために孤立無援で戦わなければならないのか.と時おり疑問に思うことだろう。』
2017/08/19
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉑
『開戦3ゕ月前の「英ノース・チャイナ・ヘラルド」の報道』★
1903(明治36)年10月23日
『英ノース・チヤイナ・ヘラルド』
『日露戦争の危機』
戦争か平和か,日本およびロンドンからの電報から判断すべきなら,情勢はきわどいところで揺れ動いているようだ。
しかし.他方現場のすぐ近くで見ているわれわれの目には,戦争が差し迫っているという通常の兆候はまだ見えない。露日間の交渉の場が東京に移されたことは,好感をもって迎えられた。
駐日ロシア公使フォン・ローゼン男爵は平和愛好者として知られているからだ。しかし,交渉の真の主体はアレクセーエフ総督で,フォン・ローゼン男爵は代理人に過ぎない。
総督は決してけんか早い人物ではないが,満州ですでにロシアか得たものは絶対に手放すまいと,固く決意しているのに対し.ロシアの侵略が日本の前途に与える脅威はきわめて重大であり,日本政府がなんらかの一時的で実体のない譲歩でごまかされることはあり得ない,と考えられている。
前にも述べたように,ロシアの満州併合は.当然,ロシアの影響力が朝鮮にまで広がる事態につながり,そして,多少時間はかかろうが,いずれ朝鮮の併合にもつながる。
朝鮮においてロシアの影響力が優勢になるということは,日本の自然な発展にとって,いや,日本の独立にとってすら致命的なことだ。究極の問題は,北太平洋の西側の支配権ということになるが,それはロシアのものになるのだろうか,日本のものになるのだろうか。
昨日の朝,本紙は東京からの電信を掲載したが,それは日本の立場を大変明確に示していた。ロシアはかつて,満州を外国が領有するのは極東の平和に脅威を与えるという理由で,フランス,ドイツの協力を得て,日本を満州から追い出し,代りに自分が満州を取ってしまった。
だが,日本はすでにロシアのこの裏切り行為を罵倒するのをやめている。日本は,クランポーン卿が特別な地位と呼ぶ,ロシアがさまざまな手練手管を用いて満州において獲得した地位を認めているのだ。
そして今では,ロシアの軍隊撤退と門戸開放という条約の約束の実行だけを要求している。皮肉屋は,ロシアが撤退の約束を完全に無視してきたこと,そしてヨーロッパ諸国が,このロシアの無視を平静に受け入れてきたことを見て,くすくす笑っているに違いない。
実際には,ロシアに約束を履行する気があるとはだれも思っていなかったのだ。したがってだれも驚いてはいない。ロシアは詐欺の常習犯だと思われていても,それを少しも恥じる様子はない。
ノーゲイ・クライ紙はアレクセーエフ総督の機関紙だと言われているが.全く傲然たるものだ。
この極東の新しい権力者が採用したモットーは,「私はここを絶対に動かぬ」というものだ。日本は,ロシアが旅順および大連を保有することには反対しないと言われている。東清鉄道沿線の守備兵維持にも反対しないと言われているが.これは,この鉄道が満州の経済的発展,ひいては極東全体の発展にとって歓迎すべき要素であることが認識されているからだ。
しかし,満州のその他の地域をロシアの軍隊が占領していること,すなわち中国の東三省をロシアが実質的に併合していることを,日本は許すことができないのだ。
もし,ロシアが撤退しないことを決意しており,日本が条約による約束を無視したロシアの満州併合を許さないことを決意しているのならば,どのようにして望まれている暫定協定に至ることができるのか予想しがたい。
両国とも戦争を回避しようと本当に思っている場合に限り.暫定協定締結は可能だが,どちらの国が譲歩することになるのかが判別しがたい。本紙の電報によれば,日本は平和をとにかく熱望している。
しかし,いかなる代償を払っても平和が欲しい,というわけではない。
名誉ある平和以下のものを受け入れることは,依然として日本人の血に流れている昔の騎士道精神が許さないのだ。日本はこの問題については多くの国々の意向を代弁しているとロシアに向かって主張しているというが,これらの国々がどこまで,この代弁者を行動によって支援してくれるのかは別の話だ。
これらの国々というのは,中国,大英帝国,合衆国のことだと考えてよいだ
ろう。この中で,中国の利益は全く無視できる程度のものだ。李鴻章が満州をロシアに売り渡し,彼の後継者がその取引を実行してきたからだ。
英語を話す2つの図は東北部における中国の独立と保全の維持に熱意を持っていたが.その熱意は,門戸開放の維持を求めるものに後退してしまった。
もし満州における門戸開放が維持されるだろうと考えているのなら,大英帝国と合衆国はよほどロシアを信用したがっているに違いない。ロシアは自国の生産業者に保護を与えると保証しているからだ。日本がロシアのどのような保証を受け入れるつもりなのかはまだ分からない。
最近のロシアの朝鮮北部における行動は故意に日本の宣戦を挑発しようとするものだ,というのが大方の見方だ。アレクセーエフ総督自身の意図かどうかは断言できないが,鴨緑江の沿岸および河口におけるロシアの行動は,まさに日本を挑発する効果があったと認めざるを得ない。日本が心を痛めているのは,よく理解できる。いかなる国も朝鮮に手をつけることを許さないと,日本が明言しているのも当然のことだ。
日本が朝鮮において特別の地位を持っていることは.広く承認されている事実だからだ。日本は中国と戦って,中国の朝鮮介入を排除したが,ロシアの介入は,中国の介入よりも,日本にとってはるかに深刻な脅威だ。
したがって,露日間の交渉は,どちらかが譲らなければならない.ぎりぎりのところまで来ていると思われる。将来の日本の安全を考えた場合,日本がこれ以上譲歩することは,ほとんど不可能だろう。
残るのはロシアが自分の主張のいくつかを引っ込めることだけだ。ロシアの子分の役を引き受けることは,日本人の国民性にそぐわないことだ。
最悪の事態になった場合,思いやりある人々すべての同情は日本に集まるに違いない。あらゆる遅れは,ロシアに有利で日本自身にとっては不利だったにもかかわらず,日本はこれまでたび重なる挑発に耐えて,比類なき忍耐心を見せてきた。
日本は,交渉の場がペテルプルグ,北京,東京とくくる変えられることを許し.きわめて実践的なキリスト教国民にとっても名誉となるほどの寛容の精神を発揮してきた。
日本は,ロシアの侵略の犠牲者はほかにもたくさんいるのに,なぜ自分だけがロシアの侵略を食い止めるために孤立無援で戦わなければならないのか.と時おり疑問に思うことだろう。
そして.もしついに日本が戦争に追い込まれたなら,日本は次のように思ってよいのだ。必然的結果を回避するために,自尊心のある国としてなし得ることは,すべてなしてきた.と。
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