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『Z世代への昭和史・国難突破力講⑱』★『アジア・太平洋戦争下」での唯一の新聞言論抵抗事件・毎日新聞の竹ヤリ事件の真相」★『極度の近視で徴兵検査で兵役免除になっていた37歳の新名丈夫記者は懲罰召集され、丸亀連隊へ』★『内務班の実態』

      2025/08/31

 

名記者が自ら語る『竹槍事件』(「沈黙の提督、井上成美 真実を語る」
新名丈夫著 新人物文庫(2009年)によると、

  東条首相ににらまれたら、懲罰召集を食らって、最前線の死地に追いやられることは、覚悟の上だった。しかし、私は三十七歳。大正十五年、二十歳のとき徴兵検査で近視のため不合格となり、兵役免除の一札をもらっていた。戦争とともに動員が拡大され、片っぱしから兵隊にとられだしていたが、まだ昭和の兵隊が多くとられている段階で、大正の、しかも兵役免除の者に、突然一人だけ召集令が下るとは、異常なことであった。

  •  海軍は私を救おうとした。

陸軍の召集日よりもさかのぼった日付で、私を海軍報道班員に徴用して、パラオに送ろうとした。そして陸軍に交渉した。陸軍は肯かなかった。海軍の徴用令よりは、陸軍の召集令の方が上だといった。交渉は最高首脳都の間にまで持ちこされたが、ラチがあかなかった。

  軍令部の血気さかんな士官たちは、私が陸軍に殺されるだろう、どうせ殺されるくらいなら、白昼、海軍省内で自刃して、問題を天下にさらけ出す方がよいと、いきりたった。

海軍省の士官は「新聞記者に腹を切らせて何になる、それよりは報道班員として前線に行って、ペンを手にして華々しく死んだ方がよい」と反対した。

私一人をめぐって陸海軍の大騒動となった。海軍報道部長栗原少将が沈痛な面持ちで私に語った。

「君は新聞記者として、死んでもよいだけのことをした。海軍は君を陸軍に渡すことはできない。敵はやがてパラオへやってくるだろう。願わくばパラオで報道班員として華々しく死んでほしい」。そういって、少将はハンカチーフで涙をふいた。

海軍は、中央の交渉でラチがあかないので、問題を地方にうつした。海軍の高松地方人事部長から、陸軍の高松連隊区司令官に交渉させた。連隊区司令官は中央でそんな問題がおこっているとは知らず、即座に召集を解除した。

私が高松市役所に召集令状を受け取りに出頭したら、召集は解除されていた。

ところが、帰京しようとしていたら、そこへ連隊区司令部から毎日新聞社の高松支局に、電話で再召集を知らせてきた。ちょうど東京へ着いたら、すぐひき返さなければならぬだけの日数がとってあった。海軍地方人事部は連隊区司令官にねじこんだ。中央から絶対に帰すな」という厳命がきているのだということであった。

その指定の日、私は海軍省からかけつけた一軍務局員に見送られて、たった一人、丸亀連隊に入隊した。前代未聞の一人入隊であった。

  • 極度の近視で徴兵検査で兵役免除になっていた37歳の新名記者は懲罰召集され丸亀連隊へ
  • 新名は海軍省からかけつけた一軍務局員に見送られて、たった一人、丸亀連隊に入隊した。前代未聞の一人入隊であった。
  • この新名の家庭事情、社内でのやりとりについては森日記ではこう書いている。

三月一日 晴れ

 「心ばかりの品々を持って、松沢の新名の家を訪ねてゆく。案外簡単に家のありかはわかったが、行ってみると小さい子供が四人もいて、そのうちの一人は重い病気にかかっているという。これを残して行くのかと思うといいようのない気持ちが湧く。彼の家の酒も飲み干してないので、そういうこともあろうかと用意していったウイスキーで、南の日当たりのよい縁側で別盃を飲み交わし、一緒に社に出かける。八幡山の駅までは、彼の家族と隣組の人たちのさやかな見送りがあった。彼は今夜の汽車で四国の丸亀に向かい、そこの連隊に入るはずである。

三月二日 曇り、晴れ、やや風強し

 新名が召集解除になったという報あり。よくもそういう運びになったものだと驚く。他の場合とは違って、今度の入営は決してめでたくはなかったのである。帰ることができてよかった。

 三月三日 曇り、風やや強し 

新名の召集解除命令が取り消された。丸亀の連隊区司令部で入営には及ばぬといったものを、今度は陸軍省から、そんな命令は効果なしといってきたのである。問題はいよいよ紛糾してきた。昨日社でも今度の問題と関連するごとく、せざるがごとく、編集人に異動を加えた。吉岡、加茂が退き、阿部賢一(その後、早大総長)が主幹と編集局長を兼ねることとなった。しかしこんなことでは及ぶまい。押してくる手がただことではない。こちらももっと根底から対策を立てなければならぬ。

 以下は

新名記者が自ら語る『竹槍事件』(「沈黙の提督、井上成美 真実を語る」新名丈夫著 新人物文庫(2009年)による新名の独白である。

  特別扱いの二等兵

  身体検査で、衛生兵が軍医に報告した。「この眼ではダメです」、だが、軍医将校は私にささやいた。「ご苦労だが、つとめて下さい」

すぐ重機関銃中隊に配属され、中隊長滝川大尉が私をよんで、身上調査となった。連隊では表面でこそ事件のことは口にせず、素知らぬ顔をしていたが、私を特別扱いの二等兵にした。ひそかに内命が出ていたにちがいない。士官、下士官、古兵(一等兵)がことごとく、私に親切にした。

どこでも新兵は殴られるものにきまっていた。ところが丸亀連隊では、厳重な私的制裁禁止の命令が出ていた。幹部がくりかえし、そのことを口にした。たまたま一人の下士官が部下を殴って、営倉に入れられたりしていた。

重機関銃隊の練兵はつらいものである。垂機関銃の分解搬送は、一人が三〇キロの機関銃の一部を担ぐのだが、弾薬箱も同じ重さだ。 毎日、練兵場から出発して付近の山へ演習に出かける。見習士官が命令を出す。「これより前進開始!」といって、つづけるのであった。

「新名はこの場にのこって、付近の情況偵察!」やがて伝令がやってくる。「適当な時間がきたら、兵舎に帰って休んでおれ、という命令だ」一

練兵場で銃剣術がある。私には「見学」の命令が出る。しかも、「木陰の涼しいところへ行って休んでおれ!」というのだ。

内務斑で辛いのは、毎朝の厩(かわや・便所)掃除である。軍曹が大声で中隊に呼出しをかける。

「各班から七名、厩掃除!」

みんな、おっくうがって二の足をふむ。古兵がどなりたてる。それを見かねて私が飛び出そうとしたら、古兵が、「おっと、新名は機関銃手入れ!」

機関銃手入れが、一番簡単なのである。

私は艦隊従軍中、湿気の多い艦内生活がたたって、坐骨神経痛にかかっていた。入隊後、それがひどくなった。

滝川中隊長がそれを知って、「灸をすえてやろう」といった。「中隊長室へ来い」というのを遠慮していたら、「俺を信用しないのか」といって、灸の本を二冊持ってきて、

「こんなに勉強しているのだ」と納得させようとした。それでも、新兵が尻をまくって中隊長に灸をさせるわけにはいかないと辞退したら、「古兵をつけてやるから、町の灸師のところへ通え」と、いってくれるのであった。

とうとう、ある日、全員集合のとき、中隊長は壇上から私に、「帰るまでに一度、俺の灸をうけろ!」とまでいった。除隊になるということを、私に知らせたのである。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

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