前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本風狂人伝⑯ 宮武外骨・予は時代の罪人なり(中)超オモロイで、日本最高のジャーナリスト、パロディトだよ、ホント! 

      2018/04/28

(2009/07/12)
日本風狂人伝⑯宮武外骨『予は時代の罪人なり』(中)
                     前坂 俊之
                      (静岡県立名誉教授)
外骨のその後の反逆の運命をきめたのが一八八七年(明治二十)四月一日のエイプリルフールに発刊した雑誌『頓智協会雑誌』である。月二回の発行で、定価は一〇銭。人生で一番大切なのは「機に応じて働く知恵、すなわち頓智である」と考えて出版したもの。創刊号は四千部を売り切る大ヒットになった。
当時、雑誌で千部も売れれば大成功といわれた時代。一ケ月に二十円もあれば雇人二三人を使ってぜいたくな暮らしが出来たころに、二十一歳の若さの外骨に毎月二、三百円の思わぬ大金が転がり込んできた。すっかり調子に乗った外骨は妾(めかけ)を囲ったり、月に二十回以上の吉原通いをするなど遊興三昧にふけった。
一八八九年(明治二二)二月十一日、大日本帝国憲法が発布された。明治天皇が憲法を下賜する光景や、祝典の模様を描いた錦絵も売り出された。発布された憲法は主権在民や言論の自由など基本的人権が盛り込まれておらず自由民権論者らには不満だらけの内容だった。
この憲法発布式から約二週間後の二月二八日付け28号で「頓智(とんち)研発布式附研究」と題しパロディーを掲載した。
明治憲法の発布式で、明治天皇が一段と高い所に座って憲法を授ける式典の模様のパロディー化して、白骨のガイコツ(外骨)が頓智協会会員に頓智研法を授けているイラストと一緒に、「研法発布の芸語」の文と明治憲法の条文をもじって大日本帝国憲法を「大日本頓智研法」として掲載した。
御名御璽」のかわりに「宮武外骨」の名前、憲法第一条の「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」のかわりに、「大頓智協会ハ讃岐平民ノ外骨之ヲ統轄ス」と書き、続けて「天皇ハ神聖二シテ侵スヘカラス」(第3条)は「会主ハ尊重ニシテ侮ルべカラズ」といった具合。憲法の条文にそっくり対応させたパロディの「研法」の条文をダジャレのオンパレードに仕立てたもの。
フランス憲法を知っている中江兆民はこの帝国憲法をみて苦笑して、ポイと投げ捨てたといわれるが、外骨は帝国憲法に国民が頭を三拝九拝してまで、そんなに有難がるものなのか、とからかったのである。
これが「明治天皇をガイコツにたとえるとは何事ぞ!」
 
  と三月七日に旧刑法一一七条(不敬罪)で発行人の外骨と画工、署名,
印刷人の三人が警視庁に
逮捕された。 
 外骨はこの原稿は危ないと思ったので、事前に警視庁の検閲官の所に持  ち込み、チェックしてもらい「問題ない」ということなので掲載した。にもかかわらず逮捕されてしまった。逮捕の直前に、その検閲官が来て「ワタシが許可したことだけは黙っててほしい。さもなければ免職にな

る」と泣きつかれたため外骨はその点は一切言わなかった。

  裁判で外骨は不敬罪には当たらないとして、大審院まで争ったが、結局、同年十月二十五日、重禁錮三年、監視一年、罰金百円の有罪が確定した。この時、外骨は二三歳。
 
初めての筆禍事件で外骨は、石川島監獄に三年間服役することになった。もし、この事件がなければ、外骨はただの穏健で楽天的な風刺ジャーナリストで生涯終わったかもしれない。これ以来、外骨は藩閥官僚政治に対してうらみ骨髄となり、徹底的に攻撃し、これに少しでもつながる資本家、役人にも筆誅を加えて、容赦しない戦闘的なジャーナリストに生まれ変わった。
重禁錮刑で入獄した外骨は国事犯並みの特別待遇を受け、獄中で活版印刷の校正係をとなったが、転んでもただでは起きない外骨のこと、宗教雑誌の校正のかたわら密かに『鉄窓詞林』という詩集雑誌を発行するという広告を出して見つかり、製本工場に変えられた。
「監獄は精神修養の大道場、大学なり」として、外骨は獄中で哲学、心理学、思想書などを読み漁って、彼の思想、学問は一層深まっていった。落ち込むどころか、ますます意気軒昂の外骨は出獄後も、その好奇心と反骨ぶりを発揮して雑誌を出し続ける。
後年、獄中で「何をしていましたか」と聞かれた外骨は「せんずりばかりをやっていました。せんずりでもやらぬと体が保ちませんよ」とケムにまいたが、人一倍の精力を持て余した外骨はマスターベーションしているうちに、研究熱心からいろいろな方法をあみ出した。
転んでもタダでは起きない外骨流がここでも発揮され、出獄後に『千摺(せんずり)考』として出版し、大評判となった。「ざこね千摺」「尻堀り千摺」「コンニャク千摺り」など四十八手を考え出して、千摺百科を紹介した。
『往来の千摺には二つあり。その一つは、途中であった女の美しさに淫心を起こして、ひそかにへのこ(ペニス)をかきて、独楽を試みる。また一つは道路の雪隠(トイレ)などに入り、往来をのぞき、通りかかる女の姿に目をとめて、千摺をかくのがコツなり』『女のあとをつけ、二,三町従いゆき、右の手を懐中に入れ、得手もの(ペニス)をひねくべし・・・、先のべっぴんの後姿を見ることゆえ、得てのもの造作なく、気をもちおーやけいづ(勃起してくる)』
『かくしてようよう気のいきそうな気分にならば,凡そにぎり××(ペニス)にて、早速に先に出かけて小便するふりにて立ちどまり、首を横へむけてその女の顔かたち、とりわけ股ぐらの窪みへ目をうつし、スカリ、スカリとかくべし』
「スカリ、スカリ」に千摺りの何とも気分がよく出ていておもしろいね。
さて、この「頓智研法」事件にはおまけがある。この時の法制局長官だった井上毅は新聞条例や讒謗律などで新聞を弾圧した張本人だが「検察官、警察官の弊害」と題して伊藤博文へあてた意見書の中で、「謂ハレナキ獄ヲ起シ、到底政府ノ信用ヲ隋スヨリ、他アラザルノ結果ヲ生ズ」つまり、「無智、無責任の記者がその言論を世に吐露するも、実際の治安上恐るべきものでないにもかかわらず、取り調べる役人がおおげさに受け取り無実のものを獄につなぐが多い」として、冤罪の具体例としてこの事件を取り上げている文書があることが、昭和九年になって判明した。
外骨の同志の尾佐竹猛(大審院判事)がみつけたものだが、事件から何と四十五年後のことである。外骨はすでに六十八歳になっていたが、早速、「外骨筆禍雪冤祝賀会」が開催され、尾佐竹猛(大審院判事)、伊藤痴遊(講談師)、今村力三郎(弁護士)、白柳秀湖(作家)、穂積重遠(法律家)らそうそうたるメンバーが集まって外骨を祝った。
一九〇一年(明治三十四)、外骨は三十四歳で『滑稽新聞』(月二回発行、A四判二十頁)を大阪で創刊した。この雑誌は最盛期には約八万部にもなり、外骨が発行した雑誌の中ではもっとも成功した。油の乗り切った外骨は以後八年間この雑誌で縦横無尽のペンと独創的な表現スタイルで戦った。
東京よりも商業が発達していた当時の大阪は政治家、悪徳役人のたかり、汚職、商人のワイロ、誇大広告などが横行し、それをネタにユスリ、タカリをする悪徳新聞が数多く出ていた。「威武に屈せず富貴に淫せずユスリ、ハッタリもせず」「癇癪(カンシャク)を経とし色気を緯とす」を編集方針にした外骨は水を得た魚のように次々にヤリ玉にあげていった。
私服を肥やす政治家、インチキ売薬事件、警察警視の収賄容疑事件、西警察署のユスリ刑事、大阪府知事や僧侶の堕落、詐欺広告主、裁判所、検事局の不公平の告発など、誰であろうと情け容赦はしない告発するジャーナリズムの典型だった。
 「滑稽新聞』のすごさは、今の新聞のように活字や写真だけの客観報道ではなく、外骨の独断と偏見と正義感からの、あらゆる表現手段を駆使した奇想天外な告発、風刺ぶりである。
その表現方法の斬新さ、奇抜さ、ユニークさは、今の雑誌や新聞の水準をはるかに越えている。現物を見てもらうのが一番手っ取り早いが、告発相手の似顔絵を思い切り卑小化したり滑稽化して、パロディーにして笑いものにしからかい罵倒する。見出しで特別な大活字で紙面いっぱいに「ユスリ」とやったり。そうかと思うと漫画、イラスト、図表はもちろん、江戸時代からのイロハかるた,洒落やダジャレ、比喩、隠喩、パロディー、ことわざ、諷刺、批評、からかい、おちょくり、冷やかし、罵倒などのあらゆる言葉の遊びを動員して風刺する。
同時に、活字が訴える視覚効果とか、タイポグラフィと呼ぶ活字や版の組み方、鮮やかな色彩の表紙絵など、デザインや編集技術などあらゆる表現手段で雑誌全体が、独創的かつ、ユニークであり、今見ても決して色あせていない。抱腹絶倒、見ても読んでも思わずゲラゲラ笑い出す面白いこと請け合いである。
風俗壊乱の判決文をそのまま掲題して逆に告発したり、告訴されればその経過をまた執拗に紙上で書くので、告発された側はたまったものではない。
初代の総理大臣で明治期の最高権力者である伊藤博文は稀代の女好きで、毎晩、芸者と枕をともにしていた。宮武はではこの伊藤の女癖について「風俗壊乱物語」として告発キャンペーンを行った。『伊藤候の美人観』(第10号)は発禁になり風俗壊乱で発禁になったが、伊藤の好色漢ぶりを告発するキャンペーンを続けていく。
宮武が弾圧されたのに対するしっぺ返しであった。
「伊藤候の美人難」(第十二号、明治三十四年八月二十日付)では「岡山への旅行中、芸者を旅館に一泊させその芸者が取り調べられ裁判沙汰になった」ことを告発、「伊藤候の美人怨」(13号、9月10日付)では「神戸の一夜妻で捨てられた光菊がこの助平爺、動物園のヒヒオヤジとうらみ、ツラミを並べたりもの、「伊藤侯の骨相」(14号、34年9月25日付)では「伊藤の脳内で異常に発達しているのは枕骨で美人を見ればよだれをたらし、助平根性、好色を司る部分である。伊藤の眼底にはいつも美人の映像が大きく写っているのである」として、伊藤のマンガを添えている。
「伊藤侯の夢想」(15号、10月14日付)では「各地の一夜妻となった芸者の思いを勝手に想像しながら書いて、「乃公(オレ)は女には淡白で忘れっぽい方だが、世間は濃情という。妻梅子の方がよほど嫉妬深い・・」と書いたり「伊藤候の没後」(17号、11月五日付)では、伊藤が亡くなった場合の家庭、政治、外交、新聞などへのはね返りの予想記事を載せ「梅子は浮気者のジジいが亡くなってヤレヤレ、新聞界では軟派記者にとってこの艶聞の多い上得意に死なれれば当惑するのみ」とからかったり、あの手この手で追究した。
また、第12号では「『人間死すべき時に死せざれば、死するに勝る恥じあり』としてコテンパンにかいている。伊藤博文は「生きていれば梅毒なぞにとりつかれて鼻の障子を台なしにされてしまう」、板垣退助は「自由は死んでも板垣はしせず、老いての今日社会問題とか何とかいうて、生き恥をさらしまわることこそ憐れなれ、岐阜で刺殺された方が当人のため」、山県有朋は「毒にもならず薬にもならぬ人間ゆえ、何時死んでも差しつかえなし。何ならもう百年も生かしておこうか」とケチョンケチョン。

 - 人物研究 , , , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(493)『長期化する日中韓の対立を 百年前の『アジア諸民族の解放の父』-『犬養木堂伝』を 読んで考える」

       日本リ …

no image
★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 米国、日本、東アジアメルトダウン(1063)>★「第2次朝鮮核戦争!?」は勃発するのか③ 』★『トランプは「もし何かすれば、見たことないこと起きる」と警告、北朝鮮は「日本列島を焦土化、太平洋に沈没させる」 小野寺防衛相を名指しで非難のエスカレート!』

★『 地球の未来/世界の明日はどうなる』 < 米国、日本、東アジアメルトダ …

『リーダーシップの世界日本近現代史』(291)/『陸奥外交について『強引、恫喝』『帝国主義的外交、植民地外交』として一部の歴史家からの批判があるが、現在の一国平和主義、『話し合い・仲よし外交』感覚で百二十年前の砲艦外交全盛時代を判断すると歴史認識を誤る。

    2016/07/07 日中北朝鮮 …

『日経新聞(2月10日)は「日銀の黒田総裁の後任に、元日銀審議委員の経済学者、植田和男氏(71)の起用を固めた」とスクープ』★『政治家の信念と責任のとり方の研究』★『<男子の本懐>と叫んだ浜口雄幸首相は「財政再建、デフレ政策を推進して命が助かった者はいない。自分は死を覚悟してやるので、一緒に死んでくれないか」と井上準之助蔵相(元日銀総裁)を説得、抜擢した』

  2019/10/23  『リーダーシ …

no image
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 世界、日本メルトダウン(1039)>『トランプ大統領の就任100日間(4/29日)が突破した』②「トランプ大統領は『恐ろしいほどのナルシスト』」★『[FT]米大統領選、ツイッターの4分の1が偽ニュース』●『速報、スクープ中心の報道から、BBCが打ち出した『スローニュース』戦略への転換だ』★『ルペン氏、偽ニュースも利用=挽回に必死-仏大統領選』

 地球の未来/世界の明日はどうなる< 世界、日本メルトダウン(1039)> 『ト …

『私が取材した世界が尊敬した日本人⑱ 1億の『インド・カースト』(不可触民)を救う仏教最高指導者・佐々井秀嶺師』★『インドに立つ碑・佐々井秀嶺師と山際素男先生」(増田政巳氏(編集者)』

2009/09/25  日本リーダーパワー史⑱再録 『現代の聖者』『奇 …

『NHK(2023年5年26日午後10時-10時45分)放送の『アナザーストーリー”妖婦”といわれた女「阿部定事件」と昭和』が再放送された★『日本恋愛史における阿部定事件ー「私は猟奇的な女」ですか「純愛の女」ですか』

「以下は 2020年12月23日書いた」。 NHKBSプレミアム(2020年12 …

no image
日本リーダーパワー史(611)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』⑥『1888年(明治21)、優勝劣敗の世界を視察した末広鉄腸の『インテリジェンス』②<西洋への開化主義、『鹿鳴館」の猿まね外交で、同文同種の中国 を排斥し、日中外交に障害を及ぼすのは外交戦略の失敗である>

 日本リーダーパワー史(611) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』⑥ 『188 …

no image
 『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』②ー「戦争の原因となったシベリア鉄道建設の真相』★『ロマノフ家とシベリア鉄道』●『北満洲はロシアによってあらゆる形式において軍事的に占領された』

 『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』 『ロマノフ家とシベリア鉄道 …

no image
名リーダーの名言・金言・格言・苦言・千言集(16) 『“ダム経営”を行え』(松下幸之助)『朝令朝改をせよ』(盛田昭夫)

<名リーダーの名言・金言・格言・苦言 ・千言集(16)            前 …