前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本風狂人伝⑭ 頭山満・大アジア主義者の「浪人王」

   

              2009,07,07
 
 
 
                                                                                前坂 俊之
 
(とうやま・みつる/1855-1944)国家主義者。福岡県生まれ。明治14年に大陸進出を唱え、右翼の結社玄洋社を組織、国家主義運動のリーダーとなる。大アジア主義を掲げ“天下の浪人″と称し、右翼の大御所的存在であった。
 
                          
 
 頭山満は大アジア主義者で、明治、大正、昭和を通じて右翼の巨頭、大御所であった。〝壮士の親分〃〝浪人王〃〝国士の典型〃〝政界の黒幕″〃巨人″右翼の親玉″とさまざまなレッテルがはられ、恐れられた。
 ジョン・ガンサーは『アジアの内幕』の中で「わずか二時間で、五万人の人々を集められるのは、日本では頭山だけである」と書いた。
 また、頭山は大塩平八郎の『洗心洞箚記』を愛読し、知行一致を実践していた。「平素は眠っているが、一度び目を開けてある人物を名指すと、その人の家庭はたちまち不幸になる」とフランスの新聞は紹介した。
l
 頭山の命令一下、命を投げ出す「玄洋社」の社員がゴロゴロしていた。大隈重信に爆弾を投げつけた来島恒喜も頭山の配下で、そのテロリズムに政治家はおびえた。しかし、物腰はいたってやわらかで、血を吸った蚊を殺さずに逃がすほどの、やさしさが同居していた。
 
 頭山は自らを「俺の一生は大風の吹いたあとのようなもの。あとには何も残らん」と評したが、中江兆民は「頭山満君、大人長者の風あり。且つ今の世、古の武士道を存し得て全き者、独り君あるのみ」とその著『一年有半』の中で高く評価した。奇人は奇人を知るといったところ。
 
 頭山のエピソードを二、三紹介しよう。
 
  ある時、玄洋社社長の進藤喜平太と一緒に大阪市長を訪れた。頭山はこの時、サナダ虫がわいていたために下剤を飲んでおり、キキ目があったのか、お尻がムズムズしはじめた。
頭山は会談するのも忘れて、いきなり手を尻にあて、尻の穴から出てきたサナダ虫を引っぱり出した。それをていねいに目の前の火鉢の上に並べた。次々に出てきたので、引っぱり出し、とうとう火鉢に二回り半も、白いグニャグニャしたサナダ虫を並べてしまった。
  市長は少しおくれて現れたが、火鉢に手をのせると、白く冷たいものが当たり、ニオイをかいでみると臭い。頭山が「それは僕の尻から出たサナダ虫たい」と言うと、市長は「ワァ」と驚いて、応接間から飛び出していった。
 
頭山の率いる玄洋社の壮士と、相対立する壮士連が、福岡随一の料亭で偶然、大広間のフスマ1つへだててぶつかり合った。
明治の血なまぐさい時代のこと。予期した通り、フスマがサッと開かれ、白刃が入り乱れる大立回。となった。ロウソクの燭台が次々と倒されていったが、床の間正面に端然と座っている頭山の両側のロウソクだけが残った。血の雨を降らしている壮士連も、頭山の放つ威厳に圧倒され、近づけなかった。
逃げまどった芸者、仲居が安全地帯とばかり、頭山の回わりに避難してきた。頭山は別に興奮するでもなく、活動写真の大立回りを、ごく静かに眺めているといった調子だった。
 そのうち、自分の足元にひれ伏している芸者が、お気に入りのお常とわかると、片手でその背中をなぜながら、口説いた。「オィ、今夜、俺と一緒に寝るか」
 
 頭山が持っていた北海道の炭坑が七十五万円で売れた時のこと。全国の頭山ファンと称する者たちが聞きつけて押し寄せてきた。東京・霊南坂にあった頭山邸は押すな押すなの超満員。借金の申し込みから、寄付金、運動費、社会事業とあらゆるインチキを並べたてて、頭山に頼み込んだ。
 
頭山はどんな頼みごとでも決してイヤとはいわない。黙って聞いて、金なら金を、印形なら印形を押してやる。七十五万円はアッという間になくなった。
 それでもまだ、押しかけてくる者には何にも言わず無理算段して、金を都合してやり、印形を貸す。大富豪が一転して、明日食べる米もない状態に転落してしまったが、頭山は平気の平左。
 見るに見かねて、ある人が、何とかして、あんな恥しらずな連中を追い出さないと、先生の御一家は野たれ死にですぞ」と言うと、頭山はニコ二コ笑って答えた。「まあ、そういそいで追い出さんでもええ。食うものがなくなったら、どこかへ行くんじゃろ」
 
 
頭山の大アジア主義は日本が中心となり、植民地化された中国やインドを助け、英米の勢力を駆逐して独立し、自由を獲得することにあった。わが身を捨てて、大アジア主義実現のために戦った。
 このため、頭山邸は〝亡命客引受所″といわれるほど、本国の独立に邁進するアジアの革命家や志士が庇護を求めてやってきた。金玉均、孫文、インドのラス・ビバリ・ボースらである。
  頭山は「来るものは拒まず⊥で、命がけで彼らを援助した。頭山の思想と行動を端的に表したのがインド独立の志士のボース事件である。
  ボースはインド王族の高い身分の家に生まれ祖国独立の夢に燃えた。インド革命党員となり、一九一一(大正元)年、インド総監に爆弾を投げつけ、英国から追われる身となった。
  このため、日本への亡命を決意。大正四年六月、インドの詩聖タゴールの来日に際してその付け人になりすまし、ピー・エス・タゴルという偽名で来日。英国官憲は大物革命家として執拗に追及した。そのためボースの身元がばれ、日本政府へ退去命令の要求がきた。
  十一月二十八日、ボースは警視庁へ呼び出され、五日以内に退去するよう言い渡された。この間、船便は上海しかない。上海に行けば、ただちに英国官憲に捕まえられ、処刑されることは目に見えている。
満 「せめて米国行きが出るまで待ってほしい」とボースは日本政府に要請したが、拒否された。犬養毅や日印協会会長が政府に何度か交渉したがダメで、「日本の外務省は、英国の手先か!」とボースも憤慨した。
 八方ふさがりとなったボースは、頭山のところに頼みに行った。静かに聞いていた頭山は「何とかしましょう」と答えた。

                                                                                                                                   続く

 - 人物研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
  日本リーダーパワー史(774)『金正男暗殺事件を追う』―『金正男暗殺で動いた、東南アジアに潜伏する工作員たちの日常 』●『金正男暗殺事件の毒薬はVXガス マレーシア警察が発表』★『金正男暗殺に中国激怒、政府系メディアに「統一容認」論』●『  金正恩は金正男暗殺事件の波紋に驚いた? 「国際的注目を浴びるはずない」と考えた可能性も』

  日本リーダーパワー史(774)『金正男暗殺事件を追う』   金正男 …

no image
記事再録/2008年3月15日/『藤田嗣治とパリの女たち』①「最初の結婚は美術教師・鴇田登美子、2度目は「モンパルナスの大姉御」のフェルナンド・バレー、3度目は「ユキ」と名づけた美しく繊細な21歳のリュシー・バドゥ』★『夜は『エ・コールド・パリ』の仲間たちと乱ちきパーティーで「フーフー(お調子者)」といわれたほど奇行乱行をしながら、昼間は、毎日14時間以上もキャンバスと格闘していた

    2008年3月15日 藤田嗣治とパリの女たち     …

no image
日本経営巨人伝⑥・広瀬宰平 – 明治初期の住友財閥の『中興の祖』広瀬宰平

日本経営巨人伝⑥・広瀬宰平 明治初期の住友財閥の『中興の祖』広瀬宰平 <『宰平遺 …

「今、日本が最も必要とする人物史研究①」★『日本の007は一体だれか』★『日露戦争での戦略情報の開祖」福島安正中佐①100年前の「シベリア単騎横断」や地球を1周した情報諜報活動こそ日露戦争必勝のグローバル・インテリジェンス』

    2015/03/09 &nbsp …

no image
『世界サッカー戦国史/ロシア大会決勝』⑩フランスが「4-2」クロアチア、20年ぶり2度目の優勝!ムバッペら躍動で4G奪い、粘るクロアチアの夢を打ち砕く/』★『準優勝も胸を張るクロアチア主将モドリッチ「誇りに思うよ。すべての人に感謝したい』★『 「日本は誰にとっても“2番目に贔屓”のチーム」米メディアがW杯出場32か国・最終格付けで特大の賛辞!』

 『世界サッカー戦国史』⑩ フランスが20年ぶり2度目の優勝!ムバッペ …

no image
日本メルトダウン( 981)『トランプ米大統領の波紋!?』★『「米中新秩序」到来!日本はついに中国との関係を見直す時を迎えた 対抗ではなく、協調路線でいくしかない』●『トランプ支持層と「ナチス台頭時」に支持した階層はきわめて似ている』●『麻生大臣を怒らせた、佐藤慎一・財務事務次官の大ポカ なぜこんな人を次官に据えたのか』★『さよなら米国。トランプの「米国ファースト」がもたらす世界の終わり』★『若者が動画で自己表現するのはなぜ? 古川健介氏が語る、スマホ世代の“3つの仮説”』★『スピーチを自在に編集できる“音声版Photoshop”登場か–アドビが開発中の技術を披露』

      日本メルトダウン( 981) —トランプ米大統領の波紋! …

no image
クイズ『坂の上の雲』 英『タイムズ』などが報道する『日・中・韓』三国志・・日清戦争の原因とは・・・

クイズ『坂の上の雲』   英『タイムズ』などが報道する『日・中・韓』三 …

no image
知的巨人の百歳学(105)-「120歳は幻の、実際は105歳だった泉重千代さんの養生訓』★百歳10ヵ条『⓵万事、くよくよしないがいい。 ②腹八分めか、七分がいい。➂酒は適量、ゆっくりと。 ④目がさめたとき、深呼吸。⑤やること決めて、規則正しく。 ⑥自分の足で、散歩に出よう。 ⑦自然が一番、さからわない。 ⑧誰とでも話す、笑いあう。⑨歳は忘れて、考えない。 ⑩健康は、お天とう様のおかげ。』

120歳は幻の、実際は105歳だった泉重千代さんの養生訓  1979年 …

『Z世代への遺言』★『今、日本が最も必要とする人物史研究①」★『日本の007は一体だれか→福島安正中佐』★『ウクライナ戦争と比べればロシアの侵略体質は変わらない』★ 「福島はポーランドの情報機関と協力しシベリア単騎横断でシベリ鉄道の建設状況を偵察した』★「福島をポーランド紙は「日本のモルトケ」と絶賛した』

  2016/04/06 日本リーダーパワー史(556)「知らぬは「自 …

『Z世代のための< 日本議会政治の父・尾崎行雄の日本政治史講義』★『150年かわらぬ日本の弱体内閣制度のバカの壁』★『 明治初年の日本新時代の 当時、参議や各省長官は30代で、西郷隆盛や大久保利通でも40歳前後、60代の者がなかった。 青年の意気は天を衝くばかり。40を過ぎた先輩は何事にも遠慮がちであった』

2012/03/16  日本リーダーパワー史(242)『日本 …