<2冊の書評>日本の新聞ジャーナリズムの構造的問題点を鋭く見据える
2015/01/02
2000年6月30日付『読書人』掲載の<書評>
・池田一之著「記者たちの満州事変」 人間の科学社, (2000年、2000円)
・池田龍夫著「新聞の虚報・誤報―その構造的問題点に迫る」創樹社(2000年、1800円)
以上の2冊の書評
日本の新聞ジャーナリズムの構造的問題点を鋭く見据える
前坂 俊之
(静岡県立大学国際関係学部教授)
長年の自らのジャーナリズムの営為を通して、日本の新聞ジャーナリズムのもつ構造的な問題点を鋭く見据えた新聞記者OBの労作が相次いで出版された。
『記者たちの満州事変-日本ジャーナリズムの転回点』の著者・池田さんは31年間の毎日新聞記者生活の後、明治大学教授として、ジャーナリズム研究に携わってきた。1998年に難病を患い亡くなったが、残されていた遺稿がこれである。
十七歳で敗戦を迎えた池田さんは侵略戦争を聖戦と信じ込んできた自らの愚かさと、ウソを報道してきた新聞の戦争責任に強くこだわりながら、ジャーナリストとして生きてきた。新聞記者となっても、毎年の行事と化した八月一五日のジャーナリズムの姿勢を一貫して問い続けて『新聞の犯した戦争責任』を81年には出版している。
大学を退職後も病をおして十五年戦争の発端となった満州事変の現場である中国の柳条湖の取材に出かけて、調査してきた。この遺稿では満州事変の9・18と8・15の報道を新しい視点から、多角的に検証している。
満州事変が関東軍による謀略で仕掛けられたことは.戦後に明らかにされたが、勃発当時に関東軍の自作自演をいち早く見抜いていた現地の奉天新聞、新聞連合奉天支局長の佐藤善雄、大阪毎日新聞門司支局員・野中盛隆らのジャーナリストがいたことを明らかにし、その足跡を詳細に追跡している。
植民地・満州の新聞ジャーナリズムは戦争との関わりでどのような役割を果たしたのか。従来の研究での欠落部分だが、後藤新平によって満鉄の機関紙ではなく「文装的武備」の目的で創刊された満州日日新聞はその後、満州日報となり、「白虹事件」の関係者が集ったーなど満州ジャーナリズムにスポットを当てている。
特に、満州事変発生時に、満州日報主筆・竹内克己が「中国側が襲撃したものでない」と報じて、筆禍事件を起こして辞任したことや、事変後の錦州攻撃の報道で殉死した大阪毎日の茅野栄記者が、新聞の激烈な競争の陰で実は密偵と間違えられて殺されていた新事実なども、克明な取材によって明らかにしているなど、「戦争と新聞」の裏面史としても興味深い。
著者は「新聞の死んだ日」、歴史の苦い教訓として、自らの報道によって既成事実を次々に容認し、それに金縛りにあっていくジャーナリズムの宿病を問いかけているが、これは現在にも引き継がれた課題である。
・一方、『新聞の虚報・誤報-その構造的問題点に迫る』の著者・池田さんも同じく毎日新聞記者三〇年後も、生涯、ジャーナリストとして新聞をウオッチし、その体験を適して新聞社のおごりを告発している。
朝日のサンゴ事件、毎日のグリコ事件の犯人取り前べ誤報事件、読売の宮崎勤の幻のアジト発見の平成の三大誤報事件や、松本サリン事件で第一発見者の河野義行さんがなぜ犯人にされてしまったのか、などをケーススタディーしながら、誤報がなぜ再生産されて、容易にただせないのか詳しく分析している。
誤報の原因として犯罪報道における裏づけ取材の不足、記者の思い込みの危険性などが指摘できるが、その底にあるものとして著者は記者の過度な特ダネ意識、新聞社の過剰報道への傾斜、横並び意識と他社見合いの弊害、脆弱なチェック体制、新聞社のおごりの体質などを挙げている。
どうすれば誤報を防ぎ、新聞の品質管理を向上させることができるか、デスク陣の拡充、強化、ジェネラリストとしての整理部のチェック機能の強化、縦割り組織の弊害の排除など具体的で、説得力のある提言をしている。
(まえさか・としゆき氏=静岡県立大学教授・マスコミ論専攻)
★いけだ・かずゆき氏はジャーナリスト。明大卒。一九五三年毎日新聞に入社。八三年毎日新聞退職。一九八四年明治大学教授。九四年退職。著書に「風の中の十代」など。一九二八(昭和3)年生、一九九八(平成10)年没。
★いけだ・たつお氏はフリー・ジャーナリスト。成蹊大卒。一九五三年毎日新聞社に入社。整理本部長、中部本社編集局長、新聞研究室長などを歴任し、八五年退職。一九三〇(昭和5)年生。
関連記事
-
-
『Z世代へのための<日本史最大の英雄・西郷隆盛を理解する方法論>の講義⑳』★『「敬天愛人」民主的革命家としての「西郷隆盛」論(<中野正剛(「戦時宰相論」の講演録より>)』★『西南戦争では1万5千中、9千人の子弟が枕を並べて殉死した天下の壮観(中野正剛)』
2014/01/15   …
-
-
『日経新聞(2月10日)は「日銀の黒田総裁の後任に、元日銀審議委員の経済学者、植田和男氏(71)の起用を固めた」とスクープ』★『政治家の信念と責任のとり方の研究』★『<男子の本懐>と叫んだ浜口雄幸首相は「財政再建、デフレ政策を推進して命が助かった者はいない。自分は死を覚悟してやるので、一緒に死んでくれないか」と井上準之助蔵相(元日銀総裁)を説得、抜擢した』
2019/10/23 『リーダーシ …
-
-
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 世界、日本メルトダウン(1040)>『トランプ大統領の就任100日間(4/29日)が突破した』③★『トランプ政権の黒幕/スティーブ・バノン大統領首席戦略官が外された。』●『 「もっと簡単だと思っていた」、トランプ氏が大統領の職を語る』★『オバマケア改廃法案、米下院が可決 トランプ氏に追い風』
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』< 世界、日本メルトダウン(1040)> …
-
-
『テレワーク、SNS,Youtubeで快楽生活術』★『鎌倉カヤック釣りバカ日記( 2018/4/29am6)-鎌倉海の大異変!キスにふられて、怪魚、珍魚、人でなしの爆笑3連発!』★『鎌倉バカ仙人の「材木座海中温泉」入浴の巻「いい塩湯かげんじゃよ!」』
鎌倉カヤック釣りバカ日記(2018 /4/29am6)-鎌倉海の異変!キスにふら …
-
-
『ニューヨーク・タイムズ』「英タイムズ」などは『ペリー米艦隊来航から日本開国をどう報道したか」★『『日本と米合衆国ー通商交渉は武力を 誇示することなく平和的に達成すべし(NYT)』
1852 年(嘉永4)2月24日付 『ニューヨーク・タイムズ』 『日本と米 …
-
-
『Z世代のためのウクライナ戦争と日露戦争の共通性の研究』★『国難がいよいよ切迫、万一わが軍に勝利あらざれば、重大なるご覚悟が必要です。ロシアの侵圧を許せば、わが国の存立も重大な危機に陥る』
『オンライン講座/日本興亡史の研究 ⑭ 』021/09/01/記事転載2017/ …
-
-
『葛飾北斎の「富嶽三十六景」を追跡―富嶽を撮影する湘南絶景ポイントを紹介する』①『逗子なぎさ橋珈琲店テラス、葉山鐙摺(あぶずり)旗立山、逗子海岸から撮影』
暮れも押し迫り木枯しが舞う今日このごろの12月。湘南 …
-
-
●「日本の新聞ジャーナリズム発展史」(上)『 日本での新聞の誕生・明治期』『 大新聞と小新聞の発展』★『日露戦争と新聞 』★『大正デモクラシーの担い手となった新聞』★『関東大震災と新聞』
「日本の新聞ジャーナリズム発展史」(上) 2009/02 …
-
-
『世界漫遊/ヨーロッパ・パリ美術館ぶらり散歩』★『オルセー美術館編』★『オルセー美術館は終日延々と続く入場者の列。毎月第一日曜日は無料、ちなみに日本の美術館で無料は聞いたことがない』
2015/05/18 『F国際ビジネスマンのワールド・ …
-
-
世界/日本リーダーパワー史(954)ー米中間選挙(11/6)の結果、上下院議会の“ねじれ現象”はトランプの国内、対外政策にどう響くか、暴走は一層エスカレートするのか(上)
世界/日本リーダーパワー史(954) 米中間選挙後のトランプの暴走はブレーキがか …
