前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

百歳学入門(110)世界が尊敬した日本人ー数百億円を投じ仏教を世界に布教した沼田恵範(97歳)

      2019/06/19

百歳学入門(110)

世界が尊敬した日本人

数百億円を投じ仏教を世界に布教した沼田恵範(97歳) 

前坂 俊之(ジャーナリスト)

 

日本だけではなく世界中のホテルの客室に各国語版の「仏教聖典」の冊子が置いてあるのを見かけた人は多いのではないか。

この仕掛け人が世界トップの精密測定器械メーカー「三豊」の創業者の沼田恵範である。

http://www.mitutoyo.co.jp/

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%BC%E7%94%B0%E6%81%B5%E7%AF%84

これまで私財数百億円をつぎ込んで世界中のホテルなどに仏典760万冊を寄贈する一方、欧米の有名大学に仏教講座を開設するなど、仏教を世界に普及させることに97歳の全生涯を捧げた稀有な仏教経営者である。

世の中に金もうけだけの会社はごまんとある。儲けの一部を社会に還元する会社も少なくない。沼田のやり方は全く逆。

まず、最初に仏教を世界に布教させたい。そのためには金がかかる。では、会社を興して、もうけた金を世のため人のためにつかう。そう考えて独創的な会社を作って、世界のトップ企業にのしあげ、その利益を仏教伝道につぎ込んだのである。

沼田は1897年(明治30)4月、広島県東広島市の浄土真宗の寺の三男として生まれた。19歳で本願寺が募集したアメリカ留学生として渡米し、ハワイ、ロサンゼルスなどで苦学生活を経験、1928(昭和三)年 31歳でカリフォルニア大学バークレ―校(UCB)大学院(景気変動・統計経済)を修了して帰国した。

内閣資源局の役人となり、昭和11年 39歳で本格的なマイクロメータの国産化を目指し「三豊製作所」(現・ミツトヨ)を設立した。その創業理由がおもしろい。「日本で出来ず、百%米国からの輸入品で同業者の仕事を奪うこともないから」

数多くの困難を克服して精密測定機の開発に成功、昭和戦後は高度経済成長の波に乗って、「工業・機械輸出王国日本」の基盤を支える総合精密測定機器メーカーのトップに成長、国内では90%以上、世界では40%以上のシェアを占める売上高1千億円の大会社に発展させ、「世界のミツトヨ」と呼ばれるまでになった。

この成功をバックに1965(昭和40)年、68歳の沼田は満を持して、世界に仏教を布教するための財団法人「仏教伝道協会」を設立した。「仏教だけが他宗教の国を攻めたことのない平和な宗教です。仏教の不殺生の教えを世界に広めたいのが沼田の念願でした」と同財団事務局長・古澤勝浩氏は語る。

同協会には三豊の商標権と特許権を寄付して、年間売り上げの1%から3%が自動的に入る仕組みを作った。沼田は三豊の経営から、同協会の運営に99%の力を注いだ。

それから40年余。仏教聖典は44ヵ国語に翻訳、世界63ヵ国、11,000軒以上のホテルに累計約760万冊を寄贈した。昭和57年からは「大蔵経」(85巻、8万ページ)の英訳出版の事業を開始し、現在までの英訳は36巻。世界の伝道拠点も世界各地12ヵ所に。海外寺も米国ワシントンDC,メキシコ市、ドイツ・デュッセルドルフ市に計4寺建立するなど、大きく浸透している。1990年には仏教の不殺生戒による、植物性のタンパウ食品を普及するために湯葉の製造工場まで作った。

沼田も健康長寿、生涯現役を自ら実践した。90歳すぎても元気一杯で、鶴見の自宅から、車には乗らず、なるべく電車、バスを乗り継いで、伝道協会まで歩いて通勤していた。

93歳の当時の日課は「起床すると5,6分体操。今度は真っ裸になって冷水摩擦。パンツ1枚で庭でラジオ体操。この後10分から20分は読経する」と雑誌で紹介されている。身近で接してきた古澤氏は「生活は質素そのもの、食べ物も不殺生で、トウフが大好きでしたね。仏恩報謝で仏教を広めたいという悲願が健康長寿につながったと思います」という。

沼田は1994年5月 97歳で大往生した。日本では企業倫理、哲学をもった経営者は数少ないが、明治の渋沢栄一や、大正期の大原孫三郎らに匹敵する独創的な仏教経営者である。今、ますます「ものが栄えて、心が滅ぶ」時代になった。平和を念願し、長寿を達成した達成した沼田の人生は見事というほかない。

  2008,10,10 月刊「歴史読本」に発表

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

片野勧の衝撃レポート(79)★『 原発と国家―封印された核の真実⑫(1985~88) 』 チェルノブイリ原発事故30年(下)

 片野勧の衝撃レポート(79)★ 原発と国家―封印された核の真実⑫(1985~8 …

no image
世界史の中の『日露戦争』⑲ 『日本軍、日本人は祖国存続のために戦う』『ノース・チャイナ・ヘラルド』(開戦25日目)

   世界史の中の『日露戦争』⑲  英国『タイムズ』米国「ニューヨーク …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(172)』『都知事 M氏のこと、雑感ですー久し振りにセコイ大陸系金権政治家の亡霊が現れた感じです。政治資金規制法の抜け道を狡猾に利用している様ですが・・』

 『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(172)』 『都知事 M氏 …

no image
速報(290)◎『野田首相よ「第3の開国せず」でいいのか』『太陽光買取42円は高過ぎる』●『恐ろしいほど「日本化」したユーロ圏』

速報(290)『日本のメルトダウン』 ◎『野田首相よ、「第3の開国せず」でいいの …

no image
日本リーダーパワー史(185)『世界一の撃墜王・坂井三郎はいかに鍛錬したか』ー<超人(鳥人)百戦百勝必勝法に学ぶ>

日本リーダーパワー史(185) 『世界一の撃墜王・坂井三郎はいかに鍛錬したか』< …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(114)/記事再録☆『世界が尊敬した日本人(36)ー冷戦構造を打ち破り世界平和を模索した石橋湛山首相』★『世界の平和共存、日本の対米従属から自主独立を盛り込んだ「日中米ソ平和同盟」の大構想を掲げ対米関係は岸、池田首相に任せ、自らソ連に飛んで、日ソ平和条約を話し合った大宰相』

    2015/10/11 &nbsp …

no image
日本リーダーパワー史(156)「小沢一郎と明治のリーダーを比較すー不言実行・縁の下の力持ち・太っ腹・秘密厳守・恩讐を超る」

 日本リーダーパワー史(156) 小沢一郎と明治のリーダーを比較するー不言実行・ …

no image
鎌倉カヤック釣りバカ日記ー2ヵ月ぶりの鎌倉沖で30cmアジを連発、これから最高シーズンだよ①

鎌倉カヤック釣りバカ日記ー 2ヵ月ぶりの鎌倉沖で大アジを連発、これから最高だよ …

人気リクエスト記事再録『百歳学入門(196)』-『超高齢社会日本』のシンボル・『クリエイティブ長寿思想家』の徳富蘇峰(94)に学ぶ②』★『蘇峰先生の日常―78歳・壮者を凌ぐ精励ぶり』★『午後3時、いつもきまって紅茶』★『英書購読、記憶魔、博覧強記!、古書マニア、英国流のガーデニアン』

『百歳学入門(196)』 『長寿思想家』の徳富蘇峰(94)に学ぶ② <以下は『日 …

『鎌倉から見る富士山絶景チャンネル』この冬一番の寒波の中で鎌倉材木座海岸からみた富士山とサンセット富士』2023年1月25日午後5時15分)

鎌倉から見る富士山絶景チャンネル この冬一番の寒波の中で鎌倉材木座海岸からみた富 …