前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

世界が尊敬した日本人ー『日本海軍の父』山本権兵衛―日露海戦に完勝したその『リーダーパワー』に学べ

   

世界が尊敬した日本人

(再録)『日本海軍の父」山本権兵衛―日露海戦に

完勝したその「リーダーパワー」に学べ

前坂俊之(ジャーナリスト)

以下の原稿は月刊「歴史読本」(2009年3月号に掲載)

初の黒人・オバマ米大統領の誕生(2009年1月)で、世界は今、「リーダーパワー」が問われる時代になった。相次ぐ首相、大臣の辞任で政治が沈没中の国難・日本にとって、国運を賭けた日露戦争を勝利に導いた「海軍のオーナー」・山本権兵衛の「リーダーパワー」にこそ学ぶ必要がある。

日露戦争はアジアの国がはじめて西欧の大国を破った世界史を変えた事件で、250年の鎖国をやぶり明治維新でスタートした近代日本は、わずか30余年で日露戦争で勝利して三等国から一等国の仲間入りを果たした。

その日本海軍のトップリーダーが山本権兵衛。

日露戦争といえば東郷平八郎や秋山真之、乃木希典らの戦った軍人ばかりに焦点があたるが、真に国家の興亡のカギを握ったのは山本権兵衛であり、陸軍建設者の山県有朋と比べてもその国家戦略、実力ははるかに上であった。

山本は嘉永5(1852)年10月、に鹿児島市加治屋町で薩摩藩士の六男で生まれた。西郷隆盛、大久保利通らと同じ町内で西郷に進められて、海軍の道を歩んだ。明治10年(1877) 25才で、ドイツに留学して、海軍術を学んで帰国、海軍内でメキメキとその頭角を現した。

山本はトップリーダーに必要な①一貫した強い信念②国家戦略、作戦の作成③マネージメント能力④スピーチ能力⑤グローバル・リテラシー(国際的視野)⑥タフネゴシェーター(外交能交渉術)、それに、戦争の仕方、引き際の勝負脳のすべてを持ち合わせていた。

ロシアを仮想敵国とし、戦闘艦六隻、一等巡洋艦六隻の六六艦隊の国家戦略をまとめて海軍省官房主事時代に西郷隆盛の弟の西郷従道海軍大臣を縦横に動かして厳しい国家財政の中で短期に整備増強した。

人事でも辣腕をふるって、派閥、年功序列をやぶって大将、将官ら古手97人をバッサリと首にした。中でも、病弱で舞鶴鎮守府長官として予備役寸前の東郷平八郎については逆に首にせず、日露開戦の直前にいきなり連合艦隊司令長官に大抜擢した。

明治天皇が心配すると「東郷は運のいい男ですし、命令を必ずやりとげる男です」と答えた。東郷は日本海海戦で空前絶後の戦果をあげ山本の期待にこたえた。

しゃべるのが苦手な日本型リーダーが多い中で、山本は抜群の弁舌で、1度話し出すと、自説を主張して譲らない信念の人だった。海軍省軍務局長の時には「権兵衛大臣」といわれ、西郷海相を手玉に取ってプロジェクトを実行し、陸軍大将・山県有朋にむかい、「山県君」と呼び、山県を激怒させたこともあった。

外国でも「日本海軍の父」として、その名は轟いていた。ドイツのカイゼルのウイルヘルム二世に会ったとき、「ドイツでなにか見たいものはないか?」と聞かれて、「クルップの機密工場をみたい」といって度肝を抜いたり、アメリカ大統領ルーズベルト(日露講和の仲介者)に会ったときも、英語で日露戦争の勝利についてまくし立てて驚かせた。

山本のすごさは戦争で勝利の方程式を作って、勝ったあとの幕引きも完全ににやってのけたことだ。大山厳が満州軍総司令官に任命されると、海軍大臣だった山本を訪ねて懇願した。

「この戦争は三年、五年ぐらいはかかる。戦争終結が難しい。軍配を振る(戦争を止める)のは一身を犠牲にする覚悟がなければできない。この大役は貴方しかできない」

山本はこう答えた。

「私はその機会到来すれば、適当の措置をとることに躊躇しないのでご安心いただきたい」

山本は奉天会戦を最後として終戦に導き、乾坤一擲の大勝負で日本側の勝利を確定した。太平洋戦争でのリーダーパワーと比べると雲泥の差である。

最後にエピソード。傲岸不羈の山本は当時では全く珍しいフェミニストであり、結婚の際に「夫婦むつまじく、生涯不和にはならない、離縁をしない」などの誓約書を交わしており、終生夫人を大事にしていた。

生涯2度も総理大臣になりながら、いずれも不運のうちに辞職して昭和8(1933)年12月、81歳でなくなった。

 - 健康長寿, 戦争報道

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『オンライン/百歳学入門(130 )『百里を行くものは、九十里を半ばにす』 ●『心は常に楽しむべし、苦しむべからず、身はつねに労すべし、 やすめ過すべからず』貝原益軒) 』●『老いておこたれば、則ち名なし』●『功のなるは、成るの日に、成るにあらず』●『 咋日の非を悔ゆるものこれあり、今日の過を改むるものすくなし」(佐藤一斎 )

     百歳学入門(149)記事再録 『百里を行 …

『Z世代のための近代史復習問題』★『<ロシアの侵略防止のために、山県有朋首相は『国家独立の道は一つは主権線(日本領土)を守ること、もう一つは利益線(朝鮮半島)を防護すること」と第一回議会で演説した』(国家リスク管理/「外交政略論)

2016/04/20/日本リーダーパワー史(701)/日中韓150年史の真実(7 …

no image
終戦70年・日本敗戦史(67)大東亜戦争開戦日の「朝日新聞紙面」米英両国に宣戦布告〔昭和16年12月9日朝日新聞(夕刊)

終戦70年・日本敗戦史(67)  大東亜戦争開戦日の「朝日新聞紙面」  米英両国 …

no image
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑳『開戦3ゕ月前の「英ノース・チャイナ・ヘラルド」の報道』★『パーセプションギャップ(思い違い)、エスノセントイズム(自民族優先主義)による憎悪・敵意がメディア(プロパガンダ)で増幅されて戦争を起こす記事の1つ』●『日本と朝鮮、日本の恐怖、ロシアの方針、日本について付け加えるべきこと、日本人の外国人憎悪の程度、日本の孤立』

 『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑳ 『開戦3ゕ月前の「英ノー …

no image
日本の「戦略思想不在の歴史⑽」『高杉晋作の機略縦横と突破力③』明治維新に火をつけたのは吉田松陰、徳川幕府を倒したのは高杉晋作である』★『男子は困ったということだけは、決していうものじゃない』

  明治維新に火をつけたのは吉田松陰であり、230年惰眠をむさ ぼった …

Z世代のための100歳学講座』近藤康男(106歳)の「七十歳は一生の節目」「活到老 学到老」(年をとっても活発に生きよ 老齢になるまで学べ)』★『簡単な健康法を続ける。簡単で効果のあるものでなくては続けられない。大切な点は継続すること。★『驚異の106歳を達成した毎晩、全身を10分間「ぐっすり熟睡できる指圧法」を一挙大公開!

   2018/07/21百歳学入門(237) 『リーダーシ …

no image
 世界、日本メルトダウン(1036)– 『4/25は北朝鮮軍創立記念日、まだまだ続く朝鮮半島チキンレースの行方はどうなる!』●『対北朝鮮「武力行使なら全面戦争」=米専門家にインタビュー』★『北朝鮮危機は金正恩の「怯え」が原因だった 米国のメッセージで彼が感じる「命の危険」』●『トランプ政権がこのままいくと「リーマンショック」が再現されるのではないか』

 世界、日本メルトダウン(1036)– 『4月25日は北朝鮮軍創立記 …

no image
『オンライン講座/日本陸軍・失敗研究』★『大東亜戦争敗因を 陸軍軍人で最高の『良心の将軍』今村均(大将)が証言する②』★『陸海軍の対立、分裂」★「作戦可能の限度を超える」★ 「精神主義の偏重」★「慈悲心の欠如」★ 「日清日露戦争と日中戦争の違い」★「戦陣訓の反省」

 2016/05/25  日本リーダーパワー史(7 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(245)/記事再録★『第2回、Japanドローン展2017』(3/23-25)幕張メッセ)ードローンビジネスの市場規模2016年度は353億円から5年後は2116億円と約6倍に急拡大が見込まれる。(動画版)』③

2017/03/25  日本の最先端技術「見える化」チャンネ …

『 2025年は日露戦争120年、日ソ戦争80年とウクライナ戦争の比較研究①』★『日露戦争でサハリン攻撃を主張した長岡外史・児玉源太郎のインテリジェンス』★『「ないない参謀本部」のリーダーシップの実態>』

2010/09/06/2015/01/02日本リーダーパワー史(91)記事再編集 …