終戦70年・日本敗戦史(58) A級戦犯指定・徳富蘇峰の『なぜ日本は敗れたのか』⑩ 支那事変(日中戦争) で日本が犯した2大失策
2015/04/23
終戦70年・日本敗戦史(58)
マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰が語る『なぜ日本は敗れたのか』⑩
●「世界戦史上、最も愚劣な戦争だった支那事変(日中戦争)
で日本が犯した2大失策
- 日本は、少なくとも2つの大なる失策を犯した。その一は、相手国の支那(中国)に対する考え方を全く誤まっていたこと。第二は支那(中国)の指導者・蒋介石その人に対する考え方が、間違っていた。
- 世界で、最も強い民族は、漢民族と猶太民族(ユダヤ)であろう。日本人の如きは、自ら世界第一の、強い民族を以て誇っているが、その実は極めて薄弱なるものである。中国はしばしば外敵に侵略され、例えば、元朝、清朝のように他民族がこれを支配したが、それは唯だ形式だけの事であって、蒙古人も満洲人も、みな漢民族化して了った。
日本の支那事変(日中戦争)での2大失敗
支那事変(日中戦争)は、子供の喧嘩に、親が出たともいうべきもので、初めから戦争を始めるつもりでなく、悪童どもがいたずら仕事に、火を付けたのが、大きくなって、そのために消防組が繰り出し、梯はしごやら、纏(まとい)やら、鳶口(とびぐち)やら、蒸汽ポンプや、大仕掛の大道具でも遂に止めようもなく、大東亜戦争まで、焼け延びて行ったのであるから、初めから何等の方策も、経倫も、なかった事は、言うまでもない。
今さらそれを咎める訳ではないが、ただこれを消し止むる機会は、相当あったに相違ないが、人が火事を消すではなくして、火事が人を炊き殺すというような始末に至ったのは、余りにもふがいない、無責任な当局者であったと、言わねばならぬ。
その当局者は、誰れ彼れと言わず、この間に出入したる1ダース以上の御連中は、皆な何れを見ても山家育ちで、今さら咎めてもその甲斐もない。
この間、日本は、少なくとも二つの大なる失策を犯した。その一は、相手国の支那(中国)に対する考え方を、全く誤まっていた事である。第二は、支那に対して考えを誤まったばかりでなく、支那の指導者・蒋介石その人に対する考え方が、間違っていた。
日本の当局者は、支那そのものについて、その観察を誤まり更に支那の指導者・蒋介石そのものについて、観察を誤まり、全くお先真っ暗ら、向うみずの戦争をしたために、遂に挙句のはては、われ自らわが力に負けて、ほとんど一人角力を取って、ヘトへトになり、眼をくらませて暗中の飛躍し、第2次世界戦争にまで、飛び込まねばならぬに至ったのは、笑止千万の至りである。
支那に関する最も智識ある人の説として、支那人は砂の如きものである。砂そのものは、粉末にして、素より固まるべきものではなく、風が吹けば飛び去る位のものであるが、これを固めるには、他に方法はない。四方から、動かぬように、箱を挿(さ)して、その中に砂を詰めれば、それで固まるが、一度またその枠を外せば、元の木阿弥となる、というような事を言った。
これは清末頃の支那の形勢に於いては、当てはまった言葉であるかも知れぬが、その箱であり、枠である物は、日本人がこれを造って与えた。およそ世界で、最も強い民族は、漢民族と猶太民族(ユダヤ)であろう。日本人の如きは、自ら世界第一の、強い民族を以て誇っているが、その実は極めて薄弱なるものである。
日本人がドイツに行けば、概してドイツ人のようになり。ロシアに行けばまた概して露国人(ロシア)の如くなり。仏蘭西(フランス)に行けばまたしかり。英米二国に行けば、更らに最も然りである。
即ち支那における日本人でも、口では支那人(中国人)と軽蔑しっつも、殆ど支那人化している。かく言えば、日本人は到るところで、日本人の誇りを失うというではない。しかし、とても支那人とは、比較にならぬ。支那人
は、世界のどこに行ても、支那人である。恐らくは、天国に行ても、地獄に行ても、支那人は必ず支那流の生活を、やっているに相違ない。
日本人はいざとなれば、腕まくりをして、日本人ここにありと言うけれども、支那人は黙々として、事実の上に、支那人ここに在りという、動かし難き実際を示している。従って支那は、しばしば外敵に侵略され、例えば、元朝、清朝の如きは、支那の隅から隅まで、他民族がこれを支配したが、それは唯だ形式だけの事であって、蒙古人も満洲人も、皆な漢民族化して了った。
わが日本は、幸に今日まで、外国に征服せられたる例はなかった。しかるに
今回、歴史あって以来の進駐軍なるものが来て、日本を事実上支配している。この進駐軍が幾年日本に滞在するか知らぬが、我々が眼に見る所では、僅かに一箇年足るか足らぬの間に、日本人は思想的にも、殆ど米国化しっつあるのを見る。これに反して支那(中国)の如きは、異民族が百年から数百年、支配しても、統治しても、いわゆる帝(皇帝)の力、我において何かあるというような、気分でやっている。その動かし難き民族的本質に加えて、日本流の国民的精神を焚き付けたから、堪まったものではない。
元来、尊皇攘夷なぞという言葉も、本家本元は支那である。その支那が国民的精神を鼓吹して、あたかも競馬がマムシや人参を食った如くいきり立って来たのは、もちろんだ。
日本人が叩けば叩くほど支那人がいよいよ強くなる事は、あたかかも鉄が鍛えれば鍛えるほど、堅くなるのと同様であった。それを巧みに利用したのが、蒋介石その人である。
(昭和22年1月22日午前、晩晴草堂にて)
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