前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『中国紙『申報』が報道した『明治日本』―『朝鮮対策(上)朝鮮の壬午事変で、日本をどうなだめるか』(明治15年8月)❸

      2015/01/01

 


『中国紙『申報』が報道した『明治日本』―

日中韓150年パーセプションギャップの研究』❸

 

130年前の以下の記事は、現在のアジア情勢と何と似ていることか。

日中韓の対立と紛争、清仏戦争、藩屏の安南(ベトナム)と清国との戦争、
中華思想により属国視されていた朝鮮、琉球をめぐる日本との対立と、
<核心的利益政策>によって大清帝国時代の領土を奪還したいと
膨張政策をとる現在中国の行動のルーツがこの論説に表れており、
日中韓150年対立のパーセプションギャップの原点がここにある。

 

      1882年(明治15)817日、光緒8年、壬午74日  『申報』

 

 

『朝鮮対策(上)-朝鮮の軍乱(壬午事変)で、日本をどうなだめるか

 

朝鮮は中国の属国であることは,もとより天下万民の知るところだ。したがって.朝鮮に一朝事あるときに中国が朝鮮のために計ってやらなければ.いったいだれが計るだろうか?

 

このたびの朝鮮の軍乱(壬午事変)は実は大院君が後ろで糸を引き,朝鮮の国政を乱しし、王妃や大臣を殺害したのだ。この軍乱に際して朝鮮人は日本公使館を攻撃し.使節に危害を加え随員らを殺した。

 

日本公使は窮地に置かれたが.ようやく身をもってこれを逃れた。これは実際に公使だけの辱めではなく,日本国家の恥辱だ。今や日本は戦備を整え兵士を集結させ.併せて定員外の兵士をも一律に集め,朝鮮の罪を問いただすべく大挙して兵を起こそうとしているが.これによって日本を一方的に非難することはできない。

 

日本がすでに通商を開き,使節を派遣して朝群に駐留させたからには,朝鮮人は当然使節を保護することが道理であるにかかわらず.ひとたび騒乱が起きるとその混乱の中,使節は危害に遭った。

 

このため.日本人は官員から商人,さらには一般庶民に至るまで悲憤憤慨しない者はなく.一丸となって敵憮心を抱くことになった。民心がこのようなら.兵士の士気は推して知るべきだ。日本人はかねてから朝鮮に野心を抱いていたが,まさにこの時期、朝鮮は内乱状態にあり,加えて国益を図る有能な中心人物もいない今.どうして日本に手向かうことができるだろうか?

 

勝敗の帰趨はおのずから予見できる。しかしながら.朝鮮は本来中国の属邦であり,朝鮮が日本に対して罪を犯したからにはその過失は全く自ら招いたものではあるが,日本がこの機に乗じて急きょ戦端を開き併呑の非望をとげようとするのは.かって琉球が打ち滅ぼされたことの再演であり,これを中国がどうして手をこまねいて見過ごすことができようか?したがって,中国が急きょ軍艦を派遣し.朝鮮に赴かせても当然だろう。

 

ただし.現在の朝鮮保護政策は簡単なものとは言えない。中国と朝鮮との関係は父子の関係以上のものだ。たとえば子供が他人に被害を与えたため殴られそうになれば,父としてはこれを手をこまねいて傍観するには忍びないものだ。そこでこっぴどく子供をしかって相手を慰めるよりはかなく,礼を尽くして罪を償えばまずは円満に一件落着するだろう。

 

現在日本は朝鮮の罪について問責しているが,日本側の主張は理にかない,朝鮮は理に欠けるとはいえ,中国はなんとしても日本軍の侵冦を阻止しなければならない。

 

思うに,まず朝鮮人の罪を明らかにし,日本人をなだめるとともに朝鮮人にも日本人の気分を和らげさせ,そうしてとりなせば,事態はなんとか好転するだろう。そこで日本人が自分の意見を捨て相手に従うならば,それはそれでまたよしとしよう。

 

もし,日本人がかえってこの環みにつけこんで拒むとすれば.必ずや朝鮮人を死地に追い込むこととなり,中国がたとえ尽力して調停に努めたとしても.日本がこれを無視して顧みないとなれば,またどのような手だてを講ずればよいだろうか?

 

しかし.みすみす朝鮮の破局を座視してどうして耐えられようか?もし1個旅団を編成して朝鮮に援軍を派遣すれば,これまた中日両国の友好開係を失うこととなり.どうしてこれが良策と言えるだろうか?要するに,中国は父が子供に対するようにまず子供を戒めると共に,相手をなだめ慰め,しかる後にひそかに子供を保護することができるのだ。

 

したがって.中国は高官を使節として任命し,精鋭部隊を結集して朝鮮に派遣させ.罪状を取り調べて処罰し,朝鮮王に責任があればその罪を指摘して王位を廃し,さらに賢君を擁立して将来に備えるとともに,反徒に罪があれば彼らを誅伐することによって,朝鮮を日本人に謝罪させることとする。

 

日本がなお正義の怒りにかき立てられているとしても.中国がすでに釈明して朝鮮人の罪を認めて謝罪させ日本人をなだめたのだから.日本人がなおも頑なに自己の主張をまげず,臨機応変に態度を変えず何がなんでも自らの野望をとげようとするならば,むろんその非は日本側にあって,中国側にあるのではない。

 

この道理はだれの目にも明らかだ。そもそも日本は全く朝鮮の国土を領有する必要はない。朝鮮の土地はやせ民衆は貧しく,この不毛の地を奪い取ったところで.全く無用の長物を手に入れたも同様で,かえって日本は国中の兵士と軍費を投入して防衛に当たらねばならない。ひとたび事変が起これば,そのつど奔命に疲れ苦しむこととなる。イギリスは海外に雄飛しているにもかかわらず.ヨーロッパ内部では飯土を拡張しようとしないのは.おそらくこのためにはかならない。

 

今朝鮮は日本とその距離わずか一衣帯水の近きにありとはいえ.琉球のように簡単に併呑することはできない。にもかかわらず,どうしてこの領土をあえて収奪する必要があるのか?

ただ日本が武力を盾にとってさまざまな駆引きを用いて,朝鮮の内乱を平定した上で新しい君主を擁立し,日本の属国とし,ただ日本の指示のみに従わせ,再び中国の属鯖とはしないという大義名分を掲げることが懸念される。

 

また,このときになれば朝鮮人の中にもその恩徳に感じ.またその威勢に恐れをなしよんどころなくすべてが日本の命ずるままとなれば,とりもなおきず中国はこのときから属領の1国を失うこととなり,どうしてこの状況で日本と相争うことができようか?

 

したがって.私はこの時機を逸せず中国は先手必勝の戦法で臨み,いたずらに因襲にとらわれて後れをとることがないよう望むのだ。馬監察吏が朝鮮に赴くにあたり,北洋大臣は1日に5回にもわたって,梱台に急行し軍艦を率いて朝鮮に赴援せよと打電したという。まだその明文を確認したわけではないが.その内容から推測するにほとんど日朝双方がまさに戦端を開く危機に至っているため,このようにあくせくと急いでいることを知ることができる。

 

思うに.眉叔監察【馬建忠】はかつて米英各国と朝鮮との条約締結あたって斡旋の労をとった関係があり,しばしば朝鮮を訪れ国内の実情については熟知しているので,この間題を彼に委任したのであり,監察更が朝鮮に赴けば彼の手腕をもって善処し得るのではなかろうか。

 

その間あるいは談笑のうちに和解が成立して軍隊を撤退し,日朝両国の友好関係を維持できるかもしれない。ただし日本がすでに官民上下一致して共通の敵愾心を抱き,朝鮮征服の野望を達成しようとするその意気込みは一朝一夕に防ぎ止められるものではない。

 

中国は現在まだ日本と開戦する態勢にないが.といって朝鮮の滅亡を座視するわけにもいかない。しかも事態は一刻を争っており,優柔不断では必ずや機を失し,後日挽回を図ってもいかんともしがたいだろう。故に現在朝鮮人の罪を釈明して謝罪し.日本人をなだめてその怒りを和らげ.次いでおもむろに調停の評議を持ち出すという方法こそが上策と言えないだろうか。以上が朝鮮政策案(上)である。

 

 

 

 - 戦争報道 , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

日本リーダーパワー史(634)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(27) 『川上操六参謀次長の田村怡与造の抜擢②<田村は川上の懐刀として、日清戦争時に『野外要務令』や 『兵站勤務令』『戦時動員」などを作った>

  日本リーダーパワー史(634) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 …

no image
『なぜ日中韓150年の戦争・対立は起きたのか』/『原因」の再勉強ー<ロシアの侵略防止のために、山県有朋首相は『国家独立の道は、一つは主権線(日本領土)を守ること、もう一つは利益線(朝鮮半島)を防護すること」と第一回議会で演説した。これは当時の国際法で認められていた国防概念でオーストリアの国家学者・シュタインの「軍事意見書」のコピーであった。

記事再録/日本リーダーパワー史(701) 日中韓150年史の真実(7) 「福沢諭 …

世界が尊敬した日本人ー『日本海軍の父』山本権兵衛―日露海戦に完勝したその『リーダーパワー』に学べ

世界が尊敬した日本人 (再録)『日本海軍の父」山本権兵衛―日露海戦に 完勝したそ …

no image
『リーダーシップの世界日本近現代史』(283)★『新型コロナウイルス戦争について歴史的に参考にすべき日本インテリジェンス』★『日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(22) 『川上操六は日清戦争は避けがたいと予測、荒尾精の日清貿易研究所を設立しで情報部員を多数養成して開戦に備えた』

    2015/12/27日本リーダーパワー史( …

no image
『リーダーシップの日本世界近現代史』(300)★『明治トップリーダーのインテリジェンス』★『英仏独、ロシアのアジア侵略で「日中韓」は「風前の灯火」の危機に!』★『国家危機管理能力が「日本の興隆」と「中韓の亡国」を分けた②』

 2015/07/11終戦70年・日本敗戦史(107)記事再録 <歴史 …

no image
『オンライン/米日豪印対中国の軍事衝突は日清戦争の二の舞となるのか』★『日中韓の誤解、対立はなぜ戦争までエスカレートしたか」ー中国・李鴻章の対日強硬戦略が日清戦争の原因に。簡単に勝てると思っていた日清戦争で完敗し、負けると「侵略」されたと歴史を偽造する」

『 日本リーダーパワー史(614)』記事再録/日本国難史にみる『戦略思 …

no image
『オンライン日本の戦争講座③/<日本はなぜ無謀な戦争を選んだのか、500年間の世界戦争史の中から考える>③『英国、ロシアの東アジア侵攻で、中国、日本、韓国は風前と灯に』★『日清戦争、三国干渉、日露戦争へと発展、日露戦争勝利へ』

再録『世田谷市民大学2015』(7/24)-『太平洋戦争と新聞報道』<日本はなぜ …

『Z世代のための昭和100年、戦後80 年の戦争史講座』★『 日本の「戦略思想不在の歴史」⑵-日本で最初の対外戦争「元寇の役」はなぜ起きたか②』★『モンゴル帝国は計6回も日本に使者を送り、外交、貿易、 属国化を迫ってきた』

2019/10/01『リーダーシップの日本近現代史』(67)記事再編集 『日本を …

no image
明治150年歴史の再検証『世界史を変えた北清事変⑤』-服部宇之吉著『北京龍城日記』(大正15年)より」★『義和団の乱の原因は西教(キリスト教)を異端として排斥した清朝祖宗の遺訓からきている』●『北清事変はキリスト教対中華思想の文明の衝突』

  明治150年歴史の再検証『世界史を変えた北清事変⑤』 以下は服部宇之吉著『北 …

no image
世界、日本メルトダウン(1034)–『朝鮮半島チキンレースの行方はどうなる!』★『北朝鮮攻撃は偶発的な軍事衝突以外にはありえない』●『中国流の「言葉の遊び」「空約束」外交にオバマ政権も日本外交も何度も騙されてきたが、トランプも同じ失敗の轍を踏むのか?』

世界、日本メルトダウン(1034) 『朝鮮半島チキンレースの行方はどうなるのか! …