世界史の中の『日露戦争』⑭<インテリジェンスの教科書としての日露戦争>『ノース・チャイナ・ヘラルド』
英国『タイムズ』米国「ニューヨーク・タイムズ」
は
『日露戦争の進展』
<インテリジェンスの教科書としての日露戦争>―
英国系『ノース・チャイナ・ヘラルド』
1904(明治37)年2月12日<開戦4日目>—
この記事を読むと「戦争、外交記事はこのように書かねばならぬ」というお手本的な記事と思う。
① 戦争とは外交の一手段である。<恫喝、罵倒、脅迫、強圧の激しい言葉のケンカ外交で相手は参ると思って、日本を侮っているロシア側の油断大敵>と<日本側の礼を尽くし、臥薪嘗胆、無言・沈黙・知にいて乱を忘れず、天機至れば『一戦居合斬りも辞さぬ』とのサムライ外交との決戦が日露戦争であり、この両国の戦略論をよく示している。
② また,ランズダウン卿がロシアをピシリと叱ったコメント力に英国外交のインテリジェンスの高さを強く感じた。
③ 北朝鮮恫喝外交、絶望外交、周辺国との外交に関しても、いまこそ日本の政治家もトップも明治のトップの<知行合一>のリーダーシップとコメント力に学ばなければならない。
日本が突然行動を起こしたので,ロシア軍ほとんど麻痺しているという発言を疑う理由はないようだ。
当地のフランス紙は,そうしてよい完全な権利を持っているのでロシア側の肩を持っているが,日本軍の旅順港外のロシア艦隊襲撃を「憶病で卑劣な」行動だと,ためらいなく公然と決めつけている。
無数の探照灯と,それに加えておそらく魚雷防御網によって守られたロシアの大艦隊を,日本の小さな水雷艇が攻撃したことを憶病と思うかどうかは,見解の問題だ。しかし,フランスの水雷艇がシープー・ロードに進入して,停泊中め中国船に攻撃を加えようとしたとき,あるいは,クールベ提督が平和を装いながら艦隊を率いてミン江をさかのぼり,停泊中の中国艦隊を撃滅したとき,フランス人がそれらの行動を憶病と呼んだという記憶はない。
実際,億病や卑劣という非難は,ばかげている。いかなる意味でも,卑劣という表現は当たらない。日本は,これ以上ロシアの回答を待つことができないことおよび今後自由行動をとることを宣言したが,これはまさしく宣戦布告には他ならなかった。この宣言は2月6日になされた。日本は8日までいかなる敵対行動も行わなかったので,ロシア側に2日の準備期間を与えたことになる。日本の正式の宣戦布告は10日に行われたが,その目的は,他の国々に開戦の事実を公式に知らせ,中立宣言などを出すことができるようにするためのもので,現行の国際法では.日本が作戦行動を開始するのを正当化するために必要なものではない。
ロシア人は愚者の楽園でのうのうとしていた.というのが真相だ。最後の瞬間まで彼らは日本人が本気だとは思っていなかったようだ。つまり日本人も自分たちと同様に,値引交渉をしているだけで,この値引交渉のあげくに何か協定ができると信じていたようだ。旅順のロシア艦隊の士官たちが,月曜日の夜,日本の水雷艇を警戒しているべきときにオペラを見ていたとすれば,準備ができていなかったことで責めるべきは自分たち自身しかないだろう。ロシ
ア軍には.日本軍の編成が完璧で準備が完了していることを報告する諜報将校が中国にも朝鮮にも日本にも十分にいるのだ。
ロシア軍が済物浦に2隻の艦を残しておいて瓜生提督の護送戦隊につかまることになったのは,日本の罪でないことは確かだ。
われわれも,プール戦争委員会の記録を見れば,ロシアの油断を批判できるような立場にはないが,ただ,日本の行動が迅速だったのが悪いように批判するのは根拠のないことだけは明らかにしておきたい。
作戦開始からまでだ4日しかたっていないが,この短い期間に日本はすでにロシアの大型艦8隻を戦闘不能にしてしまった。すなわち,装甲艦ポルタヴァ,レトゲィザン,ツェザレヴィッチ,迩洋艦アスコルド,ディアナ,ノヴィーク,ノールラダ,ヴァリャーグの8隻だ。
それに加えて砲艦コレーツも戦闘不能になった。言い換えれば合計6万7000トン以上を戦闘不能にしたことになる。ロシア側の報告では,これらの軍艦は単に一時的に使用不能になっただけだというが,日本側の報告によると,沈没または大破したということだ。ともかく当面のところ戦闘不能であることは確かで,その修理は旅順の物資に重い負担をかけることになるだろう。
ロシア側が損害を認めているのに対して,日本側が1つの損害も認めていないことが注目されるだろう。旅順における日本の指揮官東郷提督は,公式報告の中で,今月9日の戦闘において,戦死者4人,負傷者54人を出したことを
認めているが,軍艦の損傷は軽微で.乗員はあたかも演習に臨んでいるように冷静に戦ったと付け加えている。
今週公表された電報の中で,特に重要なものが2本ある。ロシアの行動が2つの偉大な英語国民の政府にどのような感情を引き起こしたかをまさに示すものとして,今回の戦争を研究する者たちが記憶にとどめておくべきものだ。第1の電報は,最近発表された青書に出ているが,内容は次の通りだ。
ロシアがチベットへのヤングハズバンド使節団に抗議した際,ランズダウン卿はいささかぶっきらぼうに「世界中で隣国に対する侵略を1度もちゅうちょしなかった国が,このような抗議をするのは測りがたいほど不思議なことだ。もしロシア政府に大英帝国のチベット進駐について苦情を言う権利があるとするなら,ロシアの満州、トルキスタン,ベルシアの侵略について,大英帝国が使う資格のない言葉は,どういう種類のものになるのだろうかと答えた」。
第2の電報は-合衆国の国務長官へイ氏が,列強にロシアと日本に対する次の申入れに参加する意志の有無を照会する覚書を送ったという発表だ。その申入れは,「交戦期間中,およびその後も中国の中立と保全は認められなければならない」というものだ。ところで,日本がロシアとの国交を断絶した理由の1っは,中国の保全を維持するための相互締約への参加をロシアが拒んだことにあるのだ。
日本における検閲
当地に滞在している外国新聞通信員たちは,最近日本政府当局が彼らの電報文に実施している検閲について,声を大にして不満を訴えている。差し止められることがあるだけでなく,数節をまるごと削除するという改ざんを受けることもある。現地語新聞で・なんの制限も受けずに公表されている記事の転載が禁止された例もある。
当局は国際電信協定の第7条に基づいて動いていると言っているが,その第7条の内容は次の通りだ。「条約加盟国は,国家の安全を危うくすると思われるような,あるいは・その国の法律に違反したり社会の秩序品位を損なうと思われるような私的な電信の送信を差し止める権利を保留する」。
日本の安全や法律を脅かそうという意図を持った外国人や日本人の通信員など,これまでいなかったことは確かだ。すべてが,小役人たちによって非常に愚かに運営されており,小役人たちは自分たちの力をひけらかすのを楽しんでいるのだ。本日の時事新報が,その論説記事で,当局に対しもっと寛容であれと警告し・現在の時点で外国人通信員の反感を買うのは最も好ましくないと注意を促しているのは当然のことだ。領事が弁護のため特にやってきたが,それほど功を奏さなかった。
関連記事
-
-
日中北朝鮮150年戦争史(18)世界史『西欧列強の植民地争奪合戦』の中での日清戦争勃発〈1894年)『ヨーロッパ列強(英、仏、独、ベルギー、ロシア)のアフリカ、アジア分捕り合戦の同時進行」①
日中北朝鮮150年戦争史(18) 世界史『西欧列強の植民地争奪合戦』 の中で …
-
-
片野勧の衝撃レポートー『戦災と震災』⑨『なぜ、日本人は同じ過ちを繰り返すのか』サハリン引き揚げと福島原発<下>
片野勧の衝撃レポート 太平洋戦争<戦災>と<3・11>震災⑨ &n …
-
-
日本リーダーパワー史(691) 『中国/朝鮮行動学のルーツ⑥』『中国紙『申報』 からみた「中国が行っている冊封の儀と 属国の国力強化について」(1884(明治17) 年2月9日付)
日本リーダーパワー史(691) 『中国/朝鮮行動学のルーツ⑥』130年前の『中国 …
-
-
日本メルトダウン・カウントダウンへ(900)『安倍首相の退陣すべきを論じる①」「消費増税再延期」<君、国をつぶすことなかれ、子供たちに借金を残すことなかれ>
日本メルトダウン・カウントダウンへ(900) 『安倍首相の退陣す …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(324)★『日露300年戦争史』(7回連載)-『鎖国・平和一国主義の徳川時代の日露関係 /日露交渉の発端から侵略へ』★『こうしてロシアは千島列島と樺太を侵攻した』★『露寇(ろこう)事件とは何か』★『露寇事件」はロシアの大植民地主義者のレザノフの対米、対日植民地化戦略の一環として生まれた』
日露300年戦争(1)-『徳川時代の日露関係 /日露交渉の発端の真 …
-
-
日本リーダーパワー史(820)『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、 インテリジェンス㉟『日本史決定的瞬間の児玉源太郎の決断力⑦』★『日英同盟によって軍艦購入から日本へ運行するまで、英国は日本を助けて、ロシアを妨害してくれたことが日露戦争勝利の要因の1つ』●『児玉、山本権兵衛の『先見の明』と『最強のリーダーシップ』の証明でもあった。』
日本リーダーパワー史(820)『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」し …
-
-
日本リーダーパワー史(865)『日本の「戦略思想不在の歴史⑰』『世界史の中の元寇の役(文禄の役、弘安の役)7回』★『計6回の使者派遣外交で日本に朝貢を迫ったモンゴルに対して、一貫して対話・交渉を拒否した鎌倉幕府』●『 千年も続く日中外交力格差ー河野太郎外相は外相専用機を要求』★『日本外相の各国訪数は中国の約3分の1』
日本リーダーパワー史(865) 『日本の「戦略思想不在の歴史⑰』 『世界史の中 …
-
-
知的巨人たちの百歳学(183)/記事再録/『中国の沙漠を甦らせた奇跡の男・遠山正瑛(97歳)』★『やればできる、やらなきやできない。それだけのことですよ。世の中、口ばかりで行動に移さない人間が多すぎるんだねえ』
2013/09/26   …
-
-
『Z世代の日本ための日本インド友好史②』★『インド独立を助けた頭山満<ジャパン・タイムス(頭山翁号特集記事)>★『超人としての頭山翁』
2019/11/17 日本リーダーパワー史( …
