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『Z世代のための日本戦争学入門④』★『平和時に戦争反対はやさしい。戦争時に平和を唱えて戦った軍人は・③』★『日米戦争の敗北を予言した反軍大佐/水野広徳』★『日米非戦論・軍縮を唱え軍部大臣開放論を唱えた』

   

日米戦争の敗北を予言した反軍大佐、ジャーナリスト・水野広徳③記事再編集

前坂 俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)

⑪ 海軍大佐で海軍と訣別、軍事評論、ジャーナリストに

帰国後、思想的に葛藤を続けていた水野は一九ニー年(大正十)正月、「東京日日新聞」(現・毎日)の依頼に応じて五回連載の「軍人心理」を書いた。第一次大戦後のヨーロッパの軍隊の威力を保持するために、「神聖純潔なるデモクラチックな軍国主義を実現せよ」と軍隊の民主化、軍人の参政権を主張した。
自らの軍人心理を大胆率直に吐露したものだが、一般からは「ついに海軍内にも社会主義にかぶれた軍人が出現した」とがぜん注目を集めた。しかも、水野は上官の許可を受けずにこの論文を発表していたため、三十日間の謹慎処分を受けた。同年八月、水野は軍服に永久の別れを告げた。

大佐で海軍と訣別した水野は一九ニー年(大正一〇)以来、剣をベンにかえ軍事評論家となり、当時、日本を代表する論壇誌「中央公論」「改造」などに軍備撤廃論や軍縮論を精力的に執筆し、キャンペーンを張った。

昭和戦前に政府が軍部に牛耳られた要因の一つは軍部大臣武官制にあり、「統帥権の独立」による軍部の独走を許した。昭和十二年の宇垣一成の組閣が流産したのは、軍部大臣武宮制をタテにとって、軍部が陸海大臣を出すことを拒絶したためだが、水野はこの武官制の問題点を早くから見抜いており「軍部大臣開放論」(中央公論・大正十一年八月号)の中で、「武官制を廃止し、文武官の出身いかんにかかわらず、適材を任用せよ」とシビリアンコントロールの重要性を訴えていた。


●「統帥権の独立」についても、

多くの憲法学者が「続帥権の独立」を認めた中で、水野はただ一人「統帥権の独立否定論」を主張した。
「国防は国家のための国防であり、軍人のための国防ではない。軍人の政治介入を防ぐため、軍部大臣を文官にまで開放し、国防方針の統一を内閣の手に収め得た時、政府は初めて軍閥の妨害と拘束より脱せられる(「現内閣と軍閥との関係」(『中央公論』大正一四年十一月号)とズバリとその本質を指摘した。
一九二二(大正十一)年にワシントン軍縮会議が締結され、海軍主力艦の保有量が英米の六割に抑えられた。二四年(大正十三)五月に、米国で排日移民法が可決され、反米感情が一挙に高まり、日米戦争がクローズアップされてきた。

「アメリカを撃て」のムードの高まりを背景に軍事評論家・石丸藤太(一八八一九四二)が日米戦争未来記の『圧迫された日本』(大正十一年)、『日米戦争・日本は敗れず』 (同十三年)などを出版し、「日米戦わば、日本は必ず勝つ」と主張したのに対し、水野は真っ向から反対の論陣を張った。

⑫「日米戦わば、日本は必ず敗れる」

一九二三年(大正13)二月に加藤友三郎首相、上原勇作参謀総長らはアメリカを仮想敵国とする新国防方針を作成した。水野は早速「新国防方針の解剖」を「中央公論」(同年6 月号)に発表、日米戦争を徹底して分析した。
水野は現代戦は兵力よりも経済力、国力の戦いであるとして、鉄鉱石、鉄製品、綿花、石油などのほか貿易へのはね返りなどを検討、わが国は米国に圧倒的に劣り、長期戟に耐えられないと判定。 石丸が日米戦争は「双方の一大消耗戦となり、海軍力、その練度、精神力などの軍事的観点から分析して、日本が勝つ」と結論づけたのに対して、水野は国家、経済の総力戦となり国際的なパワーポリティックスの観点からみても、「日本は必ず敗れる」と正反対の結論を出した。

実際の戦争でも空軍が主体となり、東京全市は米軍による空襲によって、一夜にして灰塵に帰す。戦争は長期戦と化し、国力、経済力の戦争となるため、日本は国家破産して敗北する以外にないーと予想し、日米戦うべからずと警告した。
水野は「当局者として発狂せざる限り、英米両国を同時に仮想敵国として国防方針を策立する如きことはあるまい」と指摘したが、太平洋戦争が起きる二十年前のこの予想は見事に当たった。
軍縮の徹底した推進論者であった水野はワシントン条約の締結を高く評価し「有史以来の人間の為したる最も高尚なる、最も神聖なる大事業。日本財政の危機を救いたるもので(略)日本海軍の危機を救いたるもの」(「軍艦爆沈と師団減少」(『中央公論』大正十三年十月号〉と書いた。
日米の経済関係を重視した水野は「日本は経済生活において、米国に負うところ大なることを知っている。日本潰すには大砲は要らぬ。米国娘が三年日本に絹をストライキすれば足る」(「米国海軍の大演習を中心にして」中央公論、大正十四年二月号)と日米協調が不可欠なことを主張して、軍国主義者の傲慢な態度を批判した。
「今の日本人中に無責任に放言的に、日米戦争を説く者は甚だ多い、彼等は太平洋を泳いで渡り、大和魂と剣付鉄砲さえあれば、ロッキー山を越え得ると思っているであろう。いやしくも、多少なりと日米の事情に通ぜる人間にして、日米戦争など本気で考える者は恐らく一人もあるまいと信ずる。
不幸にして、わが国には日米戦争扇動者が甚だ少なくない。軍人を中心とし、その周囲に巣食う慢性愛国患者や憤慨常習病者である。彼等は今尚、『敵国外患なければ国危し』との侵略御免時代の常套語を金科玉条として、国民の元気を鼓舞する唯一の道は、対外敵愾心を煽るに在りと信じているらしい」

⑬ 日米非戦争を主張、軍縮を、軍部大臣開放論を唱える

一九二四年(大正十三)秋、太平洋上で米国を仮想敵国とした大規模な海上演習を実施した。米海軍もこれに呼応した形で大演習を行い、高まりつつあった日米戦争の論議に一層油を注いだ形となった。
日米対立のエスカレートを憂えた水野は「米国海軍の太平洋大演習を中心として(日米両国民に告ぐ)」(「中央公論」大正十四年二月号)を発表、両国民はもっと冷静になり、軍縮すべきと提言した。
日本は本来、軍国主義的な国民ではないが、「大和魂己惚病と戦争慢心病の熱にうかされている」と指摘、日米双方の対立の原因は「双方の猜疑に基づく恐怖心と誤解に因る危惧心以外の何ものでもない」と分析、
特にマスコミや知識人の態度を「国際情談論者と対外興奮論者」と形容し、「無知の恐怖が国際猜疑心となり、疑心暗鬼をかきたて、対外空言筈、国際神経衰弱病者となる」と帝国主義者や軍国主義者を批判した。日米非戦論を熱心に訴えて、何度も警告を発した。
戦前の日本の政党政治を崩壊させた原因は統帥権独立の問題であった。明治憲法下で軍部の政治的特権を支えていたのは統帥権の独立と軍部大臣(現役)武官制であった。
一九二四年(大正十三)一月、宇垣一成が陸相に就任。宇垣は四個師団の廃止、約三万七千人の将兵の削減など、明治以来初めての軍縮に着手した。
水野はこの軍縮にもろ手をあげて賛成し、軍部が猛反対したことに対して「由来、我国軍人は封建的因襲により国防を我物顔に振舞い、その計画をまでも専断せるは大なる間違いである。

国防はもとむと国家の国防、国民の国防にして、断じて軍人の国防ではない。国防計画を定むるものは国民の信任ある政治的識見高く、国際的眼界広く、経済的知識大なる人々でなければならぬ。いたずらに敵愾心のみ強き軍国主義、帝国主義の軍人のみに任すべきではない」(「軍艦爆沈と師団減少」)と批判した。

政府が軍部の思うままに牛耳られた要因の一つであった軍部大臣武官専任制についても「軍部大臣開放論」(『中央公論』大正十三年八月号〉で「軍部大臣武官制を廃止して文武官の出身いかんに拘わらず、適材を任用せよ」と主張した。
この中で、統帥権独立論にも反対、統帥権の独立をタテに「軍略のために常に政略を犠牲に供する如きことあらば、国家に大害を生ずる虞がある」と批判し、軍部武官制についても「陸海軍人が武官大臣専任制の要塞内に立篭って、同盟拒任を為せば、いかなる人も内閣を組織、もしくは維持することは不可能である」と問題の核心を鋭くついた。

次のブログは素晴らしい。日露戦争関係のブログでは傑出している。引用させていただいた。

水野広徳 小特集

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