前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

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『リーダーシップの日本近現代史』(99)記事再録/『今から10年前の日本の状況は!・』★『2009年4月(麻生内閣当時)のーリーダーと知識人不在の日本の悲劇―脳死状態の日本』

   

 

   /日本興亡学入門⑤ の記事再録   

   前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
 
1・・敗れ続ける日本のミステリー
 
 
今年は1929(昭和4)年10月の米ウオール街の「暗黒の木曜日」からちょうど80年目に当たります。CNN,BBC,アルジャジーラなどでリアルタイムの世界のニュースをみていると、「世界大不況から世界恐慌へ」といよいよ経済は悪化し、社会は混乱し、人々が苦しんでいる深刻な様子が伝えられ、80年前のやるせない「既視感」(すでに見た)=フランス語でデジャ・ヴュ」に胸がしめつけられます。
 
そんな世界史の転換点に、ブラック・オバマ(47歳)第44代代米国大統領が誕生したことは何とも象徴的です。米国建国以来220年にして初めて黒人大統領が誕生したのです。19世紀後半から20世紀の「パックス・アメリカーナ」(米国支配の国際秩序)の源泉はアフリカからの奴隷や世界中からの移民労働力による産業振興で巨富を築き、強大な軍事力とあいまった国力であり、それで世界を支配してきました。
 
軍産複合体が米国を牛耳っていますが、その暴走でアフガン・イラク戦争では手痛い失敗を喫し、世界の信用を失墜し、金融、経済政策の失敗というトリプルミスで、アメリカの一国支配の終わりの始まりを迎えたのです。
 
4年前まで全く無名の存在だったオバマの「アメリカを変えよう」(チェンジ)、「やればできる」(イエス・ウイー・キャン)―という情熱と勇気が帝国没落の不安をもった国民の心を揺り動かして巨大な変革の流れを生み、圧勝したのです。
 
圧倒的な富と繁栄と自由と夢と希望。その裏で長年の超えがたい人種差別と偏見、貧困と暴力、宗教対立が根強く残る世界一の格差社会、他民族国家、多文化国家の矛盾を抱えた米国民主主義のダイナミズムとスピード、変革、米国民の意識の変化を改めて感じました。
米国民が歴史的にも人種的にも寛容になった表れであり、人種問題を乗り越え、一国中心主義を転換し、個人の利己主義、企業の利益至上主義を排して、他民族・多文化・共生主義の新しい時代に入ったことを示しています。
 
オバマ大統領は国務長官にヒラリー・クリントン、財務長官にはティモシー・ガイトナー・ニューヨーク連銀総裁、ホワイトハウスの国家経済会議(NEC)の委員長にはローレンス・サマーズ元財務長官ら民主党政権下の実力者を起用して、1月20日に正式に政権が発足して「視界ゼロ、大恐慌の荒海」に船出しました。
 

2・・「チェンジできない沈む国」―「インテリジェンスゼロの日本」

 
こうした「新生オバマ丸」の米国のダイナミズムと、日本の政治の迷走ぶり、外交能力ゼロ、国家戦略不在などをみると、「日本は死につつある国である」(連載1回目)から「チェンジできない沈む国」「脳死国家」であるとつくづく感じます。
 
米国の大変革に対して、EUはサルコジ仏大統領らがリーダーシップを発揮して、新興国を取り込んで、米国の金融資本主義に歯止めをかけるべく金融・投資機関の規制、国際通貨基金(IMF)、世界銀行の改革・機能強化などを打ち出して、米国との激しいつばぜり合いを演じています。ロシアも中国、インド、ブラジルなどを巻き込んでIMFに対抗する新たな機関の創設をもくろみ、中国は最大の貿易黒字国として、大規模な内需拡大策を打ち出し、各国との経済連携を強化し、米国とも一歩距離を置いています。チャイナマネーの必要な米国はいち早く米中の経済トップ会議を行いました。
 
ところが、日本はどうなのでしょうか。昨年11月のG20では、各国とも米国にきびしい注文をつけたのに、日本はいち早く米国の態度とドル体制の維持を表明して、相変わらずの米国追髄主義ぶりを発揮し、中長期の国家経済戦略は不在のままです。
 
昨年10月にスタートした麻生内閣は当初、早期の解散総選挙で民意を問うはずが、金融危機にあおられて選挙対策用の『二兆円の給付金』をばらまきを発表して国民の大反発を受け、選挙も先延ばし。年末までに景気対策を打ち出したのを、これまた先延ばし、地方への1兆円の交付金支給問題も麻生首相と、自民党道路族の意見が食い違い迷走、景気対策も後手後手、先延ばしが繰り返される、賞味期限のとっくにきれた自民党、麻生政権は末期症状を呈しているのです。
 

3・・・国がつぶれるかどうかという百年に一度の世界危機

 
国家非常時なのに、国民のための政治を忘れた日本の政治は世界情勢にはまるで無知で、霞ヶ関、永田町のコップの中の嵐に終始しているのです。
 
オバマは当選した最初のスピーチで、有名な「人民の、人民による、人民のための政府」という奴隷解放の途中に倒れた1863年のリンカーン大統領の民主主義の原理を引用していましたね。この言葉が発せられたのは「明治維新」(1868年)より、5年前のことです。当時、日本は徳川幕藩体制下で、士農工商の身分、階級制度がありました。その封建鎖国国家を薩摩・長州の藩閥が中心となって倒し、明治維新を実現して四民平等という近代市民国家への第一歩をしるしたのです。
 
それから140年余の日米関係の中で、麻生首相も語ったように、「世界で最も重要な2国間関係である」「互いに長い民主主義の理念を共有している国である」と日本側からしばしば強調されます。これは日本の一方的な思い込みで、オバマが当選した段階で、麻生首相と首脳として電話会談したのは9番目なのです。オバマの外交チームの専門家をみてもチャイナウオチャーが大半で、日本通は少なく、中国重視の姿勢をとっています。日本はすでにカウンター・パートナーではないのです。
 
日本の政治風土ではオバマのような若くてマイノリティーの政治家が生まれず、まして首相には決してなれないことが問題なのです。「人民の、人民による、人民のための政府」という理念を共有している国どころか、その正反対の国だからなのです。

4・日本の国会議員の4割は2世3世の世襲議員。こんな既得権益死守の政治屋に何ができる。

徳川時代の大名のような政治家の世襲化が現在の政治の世界まで続いているのです。明治維新の元勲たちは薩長派閥で確かに、政権をたらい回しをしましたが、息子に世襲させようとはしませんでした。真のリーダーシップと実力のある政治家が国の舵取りをやらない限り、国を興すことができません。政治家、総理大臣の世襲化は国力衰退の最大のガンなのです。
 
毛並み,カバン、カンバンで選ばれた政治家によって明治以来の官僚内閣制、中央集権的な官僚統制主義国家が延々と続いています。政権交代がほとんどなく、自民党単独支配が半世紀以上続き、政治家も固定し、さらに強固な官僚組織が政治、行政を百年にわたって牛耳っているのですから、政治・行政のチェンジが簡単にできる訳がありません。
 
明治期最大の思想家・福沢諭吉は「人の上に人を作らず、人の下に人を作らず」という民主主義の原点となる言葉を残しました。福沢は「門閥制度は親の仇でござる」と徳川の身分、封建制度を生涯批判し、1860年、遣米使節団の一員として咸臨丸に乗って初めて米国を訪問した際、「ワシントン大統領の子孫はどうしているか」と尋ねても、誰も知らなくて驚きます。
遣米使節団の幕府トップは米大統領の歓迎レセプションに招かれダンスパーティーをみて、男女が手を握りあってはしたなく(?)踊る姿に眉をひそめ、にぎやかなパーティーは「とび職、人足の酒盛りだ」と悪印象を記しています。
 
また、議会を見学して、議員の激しい演説に目を丸くして「まるで、日本橋の魚河岸のおやじのようにハッピ姿(ズボンの服装)が大声で怒鳴りあっている」と、ナンセンスな理解しかできなかったのです。それから約150年。日本には「国民の、国民のための、国民による」の民主主義、議会主義がどこまで根強いたのでしょうか。
 
国力、民力の差は、政治家のモチベーション、市民の改革力によります。オバマのようにアメリカを「変えたい」「差別をなくしたい」という強烈な意志の持ち主と、なりたくてなったのではない世襲議員や総理大臣の場合は、リ-ダーシップに差が出てくるのは当然です。
 
大統領制と比べて、議院内閣制の日本の総理大臣ほど権限の弱いものはない、といわれます。総理大臣の権限は閣僚の任免権しかなく、行政権は内閣にあって総理にはありません。首相官邸はわずか約30人のスタッフだけ。官僚が行政権を握っており、ボトムアップでタテ割りの各省庁から政策が上がり、閣議前に事務次官会議で決まったものを閣議では形式的に花押を押すだけ、議会では首相は施政方針演説として各省が分担して書いた官僚の作文を棒読みするだけ。「トコロテン式」の形式的、先例踏襲の日本型官僚主導型政治が百年一日のごとく続いているのです。
 

5・・日本沈没の「売家と唐様で書く三代目

 
その結果は、日本沈没の「売家と唐様で書く三代目」です。明治世代(創業者)が苦労して日本を興したのに、大正・昭和戦前の2代目がつぶし、苦労知らず、歴史知らずの三代目はすべてをなくし、家まで売りに出すという古事です。日本の財政赤字はすでに800兆円を大きく突破しており、米国以上の借金をかかえて、先進国では最悪の財政状態なのです。
 
国家の興亡は国家の大借金とトップの情報判断のミスによって起こります。ブッシュの失敗はネオコンたちによる誤情報(CIAは完全否定)を丸のみしたことです。オバマの当選が決まった段階で、日本でも自衛隊トップの暴走が発覚しました。航空自衛隊の田母神俊雄・前航空幕僚長の「日本が侵略国家というのは濡れ衣だ」という論文が問題化して自衛隊トップのインテリジェンスが問われました。
 
事実誤認、歴史誤認の空疎な内容の論文といい、自らの地位、職責に対する無自覚といい、そのインテリジェンスのなさといい、日本を破滅させた戦前の無能な軍人、政治家と全く同じ体質に唖然としました。亡国の一例が次々に出てきます。日本ではリーダー、知識人が一番必要とされる時に、立ち上がって行動する知識人がいないことがいないことが最大の悲劇なのですね。
 
         

 - IT・マスコミ論, 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

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