前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本リーダーパワー史(685)『吉田首相と新憲法』ーマッカーサーは 憲法は自由に変えてくださいといっている。 それを70年たった現在まで延々と「米国が新憲法を 押しっけた」「いや日本が押しっけられた」と非難、 論争するほど無意味なことはない。

   

日本リーダーパワー史(685)

『吉田首相と新憲法』ーマッカーサーは

憲法は自由に変えてくださいといっている。
それを70年たった現在まで延々と「米国が新憲法を
押しっけた」「いや日本が押しっけられた」と非難、
論争するほど無意味なことはない。

前坂俊之(静岡県立大学国際関係学部名誉教授)

 

新憲法が作られたいきさつは1945年(昭和20)10月、GHQは憲法改正を日本側に指示、幣原内閣の松本烝治(憲法改正国務大臣)が中心となって憲法草案(松本試案)を作成した。

しかし、その内容が明治憲法と同じ保守的にすぎるとして翌年2月3日マッカーサーの緊急指令で、GHQが極秘裏に1週間で改正草案がまとめ上げた。この英文草案は13日に吉田外相、松本国務相、白洲次郎終戦連絡事務局次長らが出席した外相官邸での憲法問題の協議会で、突然GHQ案が提示され、民生局(GS)局長のホイットニーは「マッカーサーは天皇を支持する者であって、この案は天皇personを守る唯一の方法である」と説明した。

英文案を見た日本側は「天皇の象徴化」「戦争放棄」など改革案の多くに驚愕し、特に松本国相は猛反対しGHOと激しくやり合った。その後、GHQの矢の催促を受けて幣原首相、吉田外相は天皇の意向を拝聴したが、昭和天皇は賛成を示したので、26日の閣議でGHQ草案を基に日本案を作り、松本国務相、佐藤達夫法制局第一部長、入江俊郎法制局次長らが案文を作成することになった。

当時、天皇の戦争責任追及の国際世論が強く、吉田はマッカーサーの言う如く天皇さえ助かれば、その他の項目はあまり重要でないと判断したのである。

吉田は「わが国の当面の急務は講和条約を締結し、独立・主権を回復すること。1日も早く、民主国家、平和国家の実を内外に表明し、信頼を獲得する必要があった。憲法改正は大事だが、立法技術的な面などにいつまでもこだわるのは得策ではない」と「回想10年」(中公文庫、2014年)と語っている。

第9条の戦争放棄については、吉田自身が戦争中に東條英機内閣に抵抗した反軍容疑で憲兵隊に逮捕、2か月も拘留された英米派の自由主義者であり、9条には反対ではなかった。

鈴木貫太郎前首相の『負けっぷりを良くせよ』「まな板の鯉となれ」を胸に、「戦争に負けても、外交でかつ」との決意で68歳で首相となった吉田は外交力とジョークを発揮して、マッカーサーと強い信頼関係を結び、一刻もはやい独立、国権回復を目指したリアリスティックな政治家だった。

GHQと吉田も協力して作ったこの憲法はどれだけ民主的な条文が盛り込まれるかに連合国は重大な関心をもった点で、国際条約的な性格があったが、一部の議員や国民はその点が理解できなかった。

このために「押し付け憲法」という批判が吉田内閣退陣後(昭和29年12月)後、鳩山内閣の下で憲法改正論議として高まってきた。

吉田は「押しっけ憲法論」について昭和32年(1957)12月に開かれた第八回憲法改正総会で書簡を送り反論した。

「この憲法については、それが占領軍の強権によって日本国民に押しっけられたものだとする批評が近頃、強くなっている。

しかし私はその制定当時の責任者としての経験から、押しっけられたという点に、必ずしも全幅的に同意しがたいものを覚えるのである。

なるほど、最初の原案作成の際に当っては、終戦直後の特殊な事情もあって、かなり、せきたててきたこと、内容に関する注文のあったことなどはあるが、さればといって、その後の交渉経過中、徹頭徹尾〃一方的″もしくは〃強制的〟というのではなかった。わが方の専門家・担当官の意見に十分耳を傾け、わが言い分、主張に聴従した場合も少くなかった。

われわれの議論がなかなか決しない際などには、先方としてよくいったことは『とにかく実施して成績を見ることにしてはどうか、日本側諸君は、旧憲法の頭で考えるから、とかく異存があるのかもしれぬが実施してみれば、案外うまくゆくということもある、やってみて、どうしても不都合だというならば、適当の時機に再検討し、必要ならば改めればよいではたいか』ということであった・そういう次第で、時の経過とともに彼我の応酬は次第に円熟して、協議相談的となってきたことは偽りなき事実である』と否定した。(回想10年)

この吉田の証言を裏付けるマッカーサーの手紙がある。

マッカーサーは1947年(昭和22)1月3日、吉田首相への手紙で次のような重要なことを書いているのだ。新憲法施行の2ヵ月前のことである。

「もし必要ならば、憲法改正する自由な機会を完全かつ継続的に日本国民に保証するため、憲法施行の第1年と第2年との間に新憲法はふたたび連合国と国会とによって公式に再検討せられるべきであると連合国は決定した。

もし連合国がその際必要と考えるならば、この憲法に関する日本人の意見を直接たしかめるため、国民投票か、他の適当な手続きを要求するかも知れない。

憲法をたえず再検討することは、いうまでもなく国民に固有の権利であるが、貴下が事態を十分に承知しておられるよう、連合国の立場を特に御報らせする次第である。 敬具」

つまり、結論はでている。

マッカーサーは憲法は自由に変えてくださいといっている。それを70年たった現在まで延々と「米国が新憲法を押しっけた」「いや日本が押しっけられた」と非難、論争するほど無意味なことはない。

 - 人物研究, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

「トランプ関税と戦う方法論⑯」★『ウィッテは逐一情報をリーク、米メディア操作を行った』★『ウィッテのトリックにひっかかった小村全権の失敗』★『最後まで日本のために奔走したルーズベルト大統領も「日本が樺太の北半分を還付したのは、捨てずに済むものをわざわざ棄てたもの』

  会議はほぼ一カ月にわたって非公式もふくめて十六回開かれた。 &nb …

no image
「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が報道した「日韓併合への道』⑯「伊藤博文統監はどう行動したか」(小松緑『明治史実外交秘話』昭和2年刊)①

  「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など外国紙が報道した「日韓 …

『オンライン講座/日本を先進国にした日露戦争に勝利した明治のトップリーダーの決断力➂』★『日本最強の参謀・戦略家は日露戦争勝利の立役者―児玉源太郎伝(8回連載)』』★『電子書籍ライブラリー>『児玉大将伝』森山守次/ 倉辻明義著 太平洋通信社1908(明治41)年刊』★『「インテリジェンスから見た日露戦争ー膨張・南進・侵略国家ロシア」』★『『黄禍論に対し国際正義で反論した明治トップリーダーの外交戦に学ぶ』

2019/07/27  日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(62) 『 …

no image
日中北朝鮮150年戦争史(10) 日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む④日清戦争の原因の1つとなった『東学党の乱の実態と朝鮮事情』〔明治26年6月4日 時事新報』(朝鮮内政の悪政、無法、混乱と財政の紊乱は極まれり)ー現在の北朝鮮と全く同じ

   日中北朝鮮150年戦争史(10)    日清戦争の発端 …

『Z世代への昭和史・国難突破力講座⑤』★「日本史最大の国難・太平洋戦争に反対し逮捕された吉田茂首相の<国難逆転突破力>①』★『鈴木貫太郎首相から「マナ板の鯉はビクともしない。負けっぷりを良くせ」と忠告され「戦争で負けて、外交で勝った歴史はある」と外交力を最大に発揮した(上)」

「2021/10/01「オンライン・日本史決定的瞬間講座➅」記事再録再編集 吉田 …

no image
梁山泊座談会『若者よ、田舎へ帰ろう!「3・11」1周年――日本はいかなる道を進むべきか④終』『日本主義』2012年春号

《日比谷梁山泊座談会第1弾》 超元気雑誌『日本主義』2012年春号(3月15日発 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(59)記事再録/『高橋是清の国難突破力①』★『日露戦争の外債募集に奇跡的に成功したインテリジェンス

     2011/07/10 / 日本 …

no image
「オンライン・日本史決定的瞬間講座➂」★「日本史最大の国難をわずか4ヵ月で解決した救国のスーパートップリーダーは一体誰でしょうか?」★『インテリジェンス+大度量+長寿決断突破力=超リーダーシップを発揮』

  米ルーズヴエルト大統領(68)死去に丁重なる追悼文をささげた。 鈴 …

『Z世代のための 欧州連合(EU)誕生のルーツ研究」①』★『EUの生みの親・クーデンホーフ・カレルギーの日本訪問記「美の国」①』★『600年も前に京都と鎌倉が文化の中心で栄えていた。それと比べるとパリ、ローマ、ロンドンは汚ない村落に過ぎなかったと、父は私たちに語ってくれた。』

      2012/07/05  日本 …

no image
百歳学入門(180)★『人類が初めて遭遇する「寝たきり100歳社会」の悪夢〈医学の勝利が国家を亡ぼす』●『富士通 経営者フォーラム 「100歳社会への挑戦~リンダ・グラットン教授を迎えて』★『「平均寿命100歳を超える社会」にどう備えるか』

百歳学入門(180) 富士通 経営者フォーラム 「100歳社会への挑戦~リンダ・ …