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日本リーダーパワー史(419)まとめ 『「海賊とよばれた男」のモデル・出光佐三-石油メジャーと1人で戦った男』

      2015/01/01

  日本リーダーパワー史(419


百田尚樹の「海賊とよばれた男」(100万部突破)の

モデル・出光佐三-石油メジャーと1人で戦った男

 

<歴史読本(20088月号)に掲載>

 

前坂俊之(静岡県立大学名誉教授)

 

http://maesaka-toshiyuki.com/tag/481

 

〔 俯仰(ふぎょう)天地に恥じず 〕

 

 今(20086月現在)、原油価格の暴騰が世界経済を直撃しているが、日本にとって忘れられない歴史的事件がある。昭和二十八年(一九五三)五月九日、出光興産(出光佐三社長)の「日章丸二世」(一万九千トン)が、イランからの石油を満載して川崎港に帰港し、世界をアツといわせたのだ。

 

 当時、石油争奪戦争が勃発していた。世界有数の産油国イランは、一九五一年に突然、「石油国有化法」を議会で可決、イラン石油の全権を握る英国アングロ・イラニアン社(BP

の前身)を一方的に接収して、国際紛争に発展していた。

 

 怒った英国はペルシャ湾に艦隊を派遣、イラン石油の売買は盗品にあたるとして、買いつけた外国タンカーは撃沈するという声明を出して、海上監視を強化していた。これに引っかかったイタリア・スイス共同資本のタンカーは、アラビア海で英海軍に舎補され、国際紛争に発展していた。

 

 世界の石油業界は、欧米の国際石油資本(メジャ1)が市場を牛耳って、国際カルテルを結んで独占支配していた。独立系の民族資本・出光興産は「消費者に安いガソリンを提供する」を企業理念に掲げて、長年、メジャーと闘争を続けてきた。

一方、イランは産出国として初めて石油メジャーに挑戦して、各国に売却を呼びかけたが、英国の報復を恐れて手を出すところはどこもなかった。

 こうした事態に、石油界の反逆児・出光は一挙に勝負に出たのだ。イランと秘密裏に交渉し、世界有数の大型タンカー「日章丸」を、船員には一切行き先を告げずに派遣した。

撃沈、拿捕、浮遊機雷の接触の危険を避けながら決死の航海でイラン・アバダン港に入港し、イラン全国民の熱狂的な歓迎を受けた。

 

 今度は英国の反撃をかわしながら、石油を満載して奇跡的に帰港した。アングロ・イラニアン社は「日章丸」の積荷の所有権を主張して東京地裁に提訴したが、出光は「日本国民として俯仰天地に像じない行動をいたします」と証言し、裁判は出光側が全面勝訴した。

 超大国英国を相手どり、国際正義にのっとった出光の勇気ある行動は、占領下からやっと独立したばかりの日本人に大きな感動を与え、出光は国際的な経営者として、一躍脚光を浴びた。

 

〔「人間主義の経営方針〕

 

 出光佐三は明治十八年二八八五)八月、現在の福岡県宗像市に生まれた。同四十二年、神戸高等商業高校(現神戸大学)を卒業後、従業員三人の石油販売店に丁稚奉公に入り、友人たちから「大学のつらよごしめ」と批判された。

このスタートからして、出光の面目躍如たるものがある。二十五歳で出光商会を設立。人の意表をつく、奇想天外な行動でのし上がっていった。

 

 大正の初めにはいち早く満州に進出して、満州鉄道に不凍油を納入して成功をおさめた。その後、独自の潤滑油や機械油を開発して、メジャーを抑えて、満州、朝鮮、台湾までの幅広い海外市場を押さえた。しかし、敗戦によって、海外資産を一挙に失った。この時、出光は還暦六十歳である。

 昭和二十年九月、中国や海外から千人以上の従業員が次々に引き揚げてきたが、出光は人間尊重を唱え、「一人たりとも首を切らない」と宣言した。しかし、巷には失業者があふれており、出光興産にも何の仕事もない。「まだ仕事は見つからないが、人間しばらく眠る時間も必要、活眼を開いて眠っておれ」「順境にいて悲観し、逆境にいて楽観せよ」と訓示した。

 

 その後、出光興産は石油元売大手に発展するが、「首切りなし」「定年なし」「出勤簿なし」という、どこの会社もやったことのない破天荒な人間主義を実行した。

とにかくやることなすこと奇想天外で、「日章丸事件」の決断が六十八歳の時というのだから、出光は遅咲きの天才なのである。

 その出光の独創性はいったいどこからきたのか。出光は子供のころから病弱で、とくに目が悪く、やっと見える程度だった。「眼がよく見えないために、オレはよく考える。だか

ら、独創的なのだ」と豪語していた。

 

 生涯現役を貫き、米寿88歳でこの悪い目を手術してから、初めてものがはっきり見えるようになったという。それからは、九十歳を過ぎても毎週ゴルフを楽しんでいたというから驚く。 昭和五十六年三月七日、九十五歳で大往生した。

●「日本リーダーパワー史(179)国難突破力ナンバー1の出光佐三の最強のリーダーシップ>『逆境にいて楽観せよ』

http://maesaka-toshiyuki.com/detail?id=848

●「日本リーダーパワー史(180)<国難突破力ナンバーワン・出光佐三を見習う>『石油メジャーに逆転勝利』

http://maesaka-toshiyuki.com/detail?id=850

 

楽天ブックス: 著者インタビュー百田尚樹『海賊とよばれた男』 

http://books.rakuten.co.jp/event/book/interview/20130620-naoki-hyakuta/

 

 

●「海賊とよばれた男」が100万部、百田尚樹が東野圭吾らに並ぶ記録。

http://www.narinari.com/Nd/20130621997.html

 

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