前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本一の「徳川時代の日本史」授業⑧福沢諭吉の語る「中津藩での差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く⑧

   

 日本一の「徳川時代の日本史」授業 ⑧

 

「門閥制度は親の仇でござる」と明治維新の立役者・

福沢諭吉の語る「中津藩で体験した封建日本の

差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く

 

前坂俊之(ジャーナリスト)

 

 

徳川封建時代の武士はどのような社会、政治。経済環境の中で、

生活をしていたのか、福沢諭吉の「旧藩情」を読み解く⑧


「旧藩情」⑧

 

 余輩(福沢)の所見をもって、旧中津藩の沿革を求め、まさに三十年来、私の目撃と記憶にある事情の変化を観察すると、その大略はこのようなもので、たとえ僥倖にもせよ、または明らかに原因があるにもせよ、今日、旧藩士族の間に苦労や争論の痕跡がないことは事実において明白である。(今年数十名の藩士が脱走して薩摩に入ったことは、全くその脱走人限ったことで、その他の藩士に関係はない。)

そうはいっても、今日の事実はこのようなもので、果して明日の患なきを期すことができるか。これを考えねばならない。今日の有様をもって事の本位(本質)と思って、これより進むものを積極的とし、これより退くものを消極的とし、私はその積極派が望ましいと思う。

 すなわち今の事態を維持して、門閥の妄想を払い、上士は下士に対してあたかも格式ばった居座りを行わず、昔年の居座りは家を護り、面目を保つの楯(たて)となり、今日のりりきみ(居座り)は身を損じ、愚弄(ぐろう)

http://kotobank.jp/word/%E6%84%9A%E5%BC%84

を招くことをしり、早々にその座を切上げて不体裁の跡を収め、下士もまた上士に対して旧怨(きゅうえん、昔からの恨み)を思わず、執念深きは婦人の心なり、すでに和睦するの敵に向うは男子の恥るところ、執念深きに過ぎて進退窮するの愚を悟り、興に乗じて深入りの無益なることを知り、双方共にさらりと前世界の古証文(ふるしょうもん)

http://kotobank.jp/word/%E5%8F%A4%E8%A8%BC%E6%96%87

に墨を引き、今後、心がけるところは士族に固有する品行の美なるものを残し、良い点を伸ばし、物を費す(消費)する古吾(こご、古い自分)を変えて物を造(生産)するの今吾(今の自分)となって、あたも商工の働を取て士族の精神に配合し、心身共に独立して日本国中の文明の魁(さきがけ)となることを期望する。

 

 しかし、その消極を想像してこれを憂えれば、また憂うべきものもある。数百年の間、上士は圧制を行い、下士は圧制を受け、今日に至ってこれを見れば、甲は借主のごとく乙は貸主のごとくであり、未だ明白な差引を行っていない。

また上士の輩は、昔日の門閥を本位に定めて今日の同権(四民同権)を事変とみて、自からまた下士に向て貸すところがあると思うなれば、双方共にいやしくも封建の残夢を忘却して、精神を高尚の地位を保つことができない者であり、到底この貸借の念を絶つことができない。

現に今日にても士族の仲間が私にのところに集まると、その会の席順は旧の禄高または身分に従うというということは、他に席順を定める目安なければ止むを得ないが、残夢(封建残滓)の未だ醒覚していない証拠である。

或は市中公会等の席にて旧套の門閥流を通用させないことは無論なれども、家に帰れば老人の口碑(こうひ・言い伝え)

http://kotobank.jp/word/%E5%8F%A3%E7%A2%91

も聞き、細君の愚痴もやかましいため、残夢から醒めんとしてまたウトウトしている状態だ。これ等の事情を考るると、今の成行きで事変(事件)なければ幸いだが、万に一も世間に騒動を生じて、その余波が近く旧藩地の隣傍に及ぶことがあれば、旧痾(きゅうあ、持病)

http://kotobank.jp/word/%E6%97%A7%E7%97%BE

 

がたちまち再発して、上士と下士とその方向を異にするだけではなく、針小の外因(小さな原因)から棒大の内患(大きな内乱)を引起す可能性もある。


 また、たとえいかかる急変もなくして、通常の業務に従事して、双方互に利害感情を別にし、工業には力を共にせず、商売には資本を合せず、かって互に対立、紛争するようなことがあってはならない。これがすなわち私のいわゆる消極の禍にして、今の事態の本位よりも一層の幸福を減ずるものである。けだし人事の憂患(ゆうかん、心配して心を痛めること)、消極的である間は、未だその積極策をとるいとまはない。


 今、消極を憂いてこれを防ぐにせよ、積極の利を謀ってこれを求めるにもせよ、旧藩地にて有力なる人物は必ずこれを心配することだろう、またこれを心配して実地に従事するについては様々の方法もある、また様々な問題もある、不如意(ふにょい、思い通りにならないこと)

http://kotobank.jp/word/%E4%B8%8D%E5%A6%82%E6%84%8F

 

は人生の常であり、これを如何ともできない。故に私の注意するところは、未だ積極に及ばないにしても、先ずその消極の憂いを除く路に進まんとすることだ。すなわちその路とは他にない、今の学校を次第に盛にすることと、上下士族相互に婚姻するの風習を勧ることと、この二箇条のみである。

 

 そもそも海を観る者は河を恐れず、大砲を聞く者は鐘声に驚かず、感覚の習慣によってそうなる。人の心事とその喜憂栄辱との関係もまたこのようなもの。

 

喜憂栄辱は常に心事に従て変化するもので、その大きく変化するのは、昨日の栄誉として喜んだもの、今日は恥辱としてこれを憂えることある。学校の教は人の心事を高尚遠大にして事物の比較をなし、事変の原因と結果とを求めるものなれば、一聞一見も人の心事を動かすものだ。 

 

              つづく

日本一の「徳川時代の日本史」授業福沢諭吉の語る「中津藩での差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く

http://maesaka-toshiyuki.com/top/detail/2413

 - 人物研究 , , , , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

  関連記事

no image
まとめ「廃藩置県」ー日本史最大の行政改革は山県有朋が申し出ると、西郷隆盛の一言ものとで決定した。即断即決に学べ。

  <まとめ>「廃藩置県」について   政治家はなぜ地方分権 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(254)/『国葬にされた人びと』(元老たちの葬儀)『伊藤博文、大山厳、山県有朋、松方正義、東郷平八郎、西園寺公望、山本五十六、吉田茂の国葬はどのように行われたか』

    2018/01/26 &nbsp …

no image
日本リーダーパワー史(167)『敗軍の将・勝海舟の国難突破力⑥『金も名誉も命もいらぬ。大バカでないと何もできんぞ』

日本リーダーパワー史(167)   『敗軍の将・勝海舟の国難突破力⑥ …

mq2 (3)
『リモートワーク動画』★『京都祇園も春爛漫ー多くの外国人観光客がぶらり散歩、建仁寺へ』(2014/04/06 )★『京都・古寺巡礼ー栄西が開山した建仁寺はオープンマインド(禅心)で最高!』★『建仁寺の内部をゆっくり鑑賞しながら散策する』

京都駅でタクシーにのって「どこのお寺のよいか」を聞いた。   お寺の隅 …

no image
百歳学入門(240)-『生き方の美学』★『死に方の美学』★『山岡鉄舟、仙厓和尚、一休禪師の場合は・・』

人間いかに生き、いかに死すべきか 脚本家の橋本忍氏が7月19日に亡くなった。 1 …

no image
<2018年は明治維新から150年 >「目からウロコの明治裏面史(1)」日本の運命を決めたドイツ鉄相・ビスマルクの1言『大久保利通の「富国強兵政策」はこれで決まった』

2018年は明治維新から150年 目からウロコの明治裏面史(1) 日本の運命を決 …

193914528354a5f202cf2387.35629372476493339
『純愛の日本史』<結婚とは死にまでいたる恋愛の完成である>女性学を切り開いた稀有の高群逸枝夫妻の純愛物語』★『強固な男尊女卑社会の封建国・日本』

    2009/04/09 &nbsp …

41AlHzHlLjL._SX298_BO1,204,203,200_
知的巨人たちの百歳学(172)記事再録/「みんなで『百歳学入門』へ・超高齢社会を元気に長生きする『長寿脳』を鍛えるために』★『『定年なし、年齢差別なし、老人観の全く違う米国では65~74歳はベビーオールド(赤ちゃん老人)、75~84歳まではリトルオールド(小さい老人)、84~94歳はヤングオールド(若い年寄り)、95歳以上がリアルオールド(真の高齢者)』』

  2009/06/06 /みんなで『百歳学入門』へ &nb …

no image
日本リーダーパワー史(33)戦時下の良心のジャーナリスト・桐生悠々の戦い①

日本リーダーパワー史(33) 戦時下の良心のジャーナリスト・桐生悠々① &nbs …

no image
知的巨人の百歳学(114)徳富蘇峰(94歳)の長寿人生論「体力養成は品性養成とともに人生の第一義。一日一時間でも多く働ける体力者は一日中の勝利者となり、継続すれば年中の勝利者、人生の勝利者となる』★『世界的作家の執筆量ベスト1は一体だれか。『近世日本国民史』(百巻)の徳冨蘇峰か?!』

 知的巨人の百歳学(114) 体力養成は品性養成とともに人生の第一義。 …