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池田龍夫のマスコミ時評③「核持ち込み密約」元外務省高官の相次ぐ証言(2)

   

2009,08,01
 
「核持ち込み密約」元外務省高官の相次ぐ証言
揺らぐ「非核3原則」(2)
                     
 
           ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
         
28年前、ライシャワー元駐日大使の重大証言
 
 「非核3原則」は、1967年12月11日の衆院予算委員会で核兵器の有無が問題化した際、佐藤栄作首相が「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」と答弁したのが最初。沖縄の本土復帰に政治生命を賭けた佐藤政権にとって、「核抜き」を国民に約束して悲願を達成したいとの強い思いがあり、1971年11月24日の衆院本会議(沖縄変改国会)では「非核兵器ならびに沖縄基地縮小に関する決議」が採択された。
 
それは、「1、政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずの非核3原則を遵守するとともに、沖縄返還時に適切な手段をもって、核が沖縄に存在しないこと、ならびに返還後も核を持ち込ませない措置をとるべきである。 1、政府は、沖縄米軍基地についてすみやかな将来に縮小整理の措置をとるべきである。 右決議する。」という画期的な決議だった。さらに1976年6月8日、衆参両院外務委員会は核不拡散条約(NPT)批准に合わせ、「非核3原則を国是として確立されていることに鑑み、いかなる場合も忠実に履行、遵守することに政府は努力すべきだ」と決議している。ところが、1981年5月、「核持ち込みの密約があった」という「ライシャワー発言」が明るみに出て「非核3原則の虚構」が表面化した。
 
駐日大使だったライシャワー氏が毎日新聞特派員のインタビューに応じたもので、5月18日朝刊に衝撃的特ダネとして報じた。1面トップに「米、核持ち込み寄港/60年代から『日本政府も承知』/ライシャワー元大使が証言」の大見出し。長文の記事冒頭に、「ライシャワー米ハーバード大学教授は、毎日新聞記者とのインタビューで、核兵器を積んだ米国の航空母艦と巡洋艦が日本に寄港してきた事実を明らかにし『日本政府は(核兵器米艦船の寄港、領海通過の)事実をもう率直に認めるべき時である』と語った。
 
この発言は、1960年の日米安保条約改定以来の歴代自民党内閣が『米国による日本への〝核持ち込み〟はない』と国民に説明し続けてきた公式見解を真っ向から否定するものである。同教授は、安保条約上、核艦船の日本立ち寄り、領域通過が許されることの根拠として、米政府・軍部ははじめから『日本語で〝持ち込み〟とされる〝イントロダクション〟とは、核の貯蔵など核兵器を陸に掲げて据えつけることを意味する。核兵器の寄港、領海通過を含まない』との解釈を堅持してきたことを強調した。
 
そして『日本政府は、核の寄港は完全にОKだという口頭合意を忘れたのだと思う』と述べ、『日本政府は国民にウソをついていることになる』とまで言い切った」と記し、2-3面全面見開きで一問一答と解説を大々的に報じている。
 「日本語の〝モチコミ〟は、英語のイントロダクション(introduction)だが、寄港・通過ならイントロダクションではなくトランジット(transit)。燃料補給の寄港や領海通過は許されるというのが米政府と軍部の了解事項」との米側解釈が、ライシャワー氏の「核持ち込み寄港」発言の論拠と思われる。
 
     1999年の米公文書公開で明らかになった「日米間の口頭了解」
 
 日本政府は「核持ち込み」を否定し続けてきたが、1999年の米外交文書公開を機に貴重な文書が発掘された。朝日新聞5月15日夕刊が報じた特ダネで、「核搭載船日本寄港に大平外相『了解』/裏付ける米公文書/『事前協議適用されぬ』」と、1面トップで報じた。先の「ライシャワー証言」を補強するように、米公文書に記載された「大平外相の『了解』」が明らかにされたことで、〝虚構性〟はますます強まった。
 
同紙は「問題の文書は、72年6月にレアード国防長官が、攻撃型空母ミッドウェーの横須賀母港化や2隻の戦闘艦の佐世保への配備などを日本政府に認めさせるようロジャース国務長官に要請した書簡。98年末に米国立公文書館で解禁された資料で、我部政明・琉球大教授が入手した。書簡では、国務省側が核兵器を搭載している航空母艦を日本に寄港させる場合は日米両政府で事前協議の問題が生じることを心配したことに対し、国防長官は『事前協議は法的にも日米間の交渉記録で問題がないことは明らかだ。
 
ライシャワー大使が63年4月に大平外相と話し合った際、核搭載船の場合は日本領海や港湾に入っても事前協議が適用されないことを大平外相も確認した。以後、日本政府がこの解釈に異議を唱えてきたことはない』とつづっている」と、公文書の記載内容を報じている。ところが日本政府は「核搭載船の寄港」を否定し続け、この「米公文書公開」から数えても10年経過してしまった。
 
この問題と同根の「沖縄返還密約」につき、交渉当事者だった吉野文六・元外務省アメリカ局長の重大発言が2006年2月にあったことは記憶に新しい。その「密約文書開示請求訴訟」第1回口頭弁論が6月16日に始まったばかり。どちらのケースも、米国の公文書公開によって「密約の存在」が国民の前に明らかにされており、政府は「情報公開」の決断を迫られている。
 
      「日本の安全保障」の選択肢を提起した孫崎享氏の視点
 
 村田、岡崎両氏より十数年後輩の外務省元高官、孫崎享氏の新著「日米同盟の正体 迷走する安全保障」(講談社現代新書09年3月刊)が、日本の安全保障につき鋭い分析と提言を試みているので、同書を参照しながら、日本の安全保障問題につき感じたこと、気がかりな点を記しておきたい。
 
 「平和憲法」「非核3原則」に象徴される、戦後日本の〝立ち位置〟に関するもので、「核持ち込み」疑惑も結局は、日本外交政策の脆弱さ・曖昧さの所産と見ることが出来る。この論議を突き詰めれば、「日米同盟」や「核の傘」についての本質的問題にぶち当たる。「日米同盟」の強化が、果たして日本の〝安全弁〟になり得るだろうか? 「核の傘」に頼る安保政策の危うさを感じざるを得ない。
 
この点につき孫崎氏は、「米国は日本の核兵器保有を懸念し、日米間安全保障の取引で、日本に攻撃能力を発展させないことを含めたのである。日本を守るのは何も米国が善意で行っているのではない。日本の核兵器保有を防ぐことを目的の一つとしている。米国が日本を守る姿勢を示すことは、第一義的には米国の国益のためである。米国が他国の兵器から日本を守るという建前を降ろせば、日本が核兵器開発の道を歩む可能性がある。米国はこの道は封じなければならない。では逆に日本にとり,この禁じられた道を開放することが正しい選択なのか。自国の核での報復力を持つことは軍事的利点を持つ。
 
しかしこの利点は、核武装の是非を考慮する要因の一つにしか過ぎない」と、ズバリ指摘している。次いで「核戦略の原則として、核保有国である敵が攻撃してくる際には、核を使用する可能性が高いことがあげられる。核を保有することは核戦争を覚悟せざるを得ない。日本に対して核攻撃をする際には、東京など政治・経済の中心部に対する攻撃が主となる。
 
例えばロシア・中国は日本に壊滅的打撃を与えうる。その一方で日本は、ロシア・中国の広大な地域からして壊滅的打撃を与えられない。日本が核保有の選択を模索する際の最大の弱点である。(従って)筆者は日本の核保有に否定的である。では、米国の核の傘の下で万全か。これも万全ではない。核戦略の中で,核の傘は実は極めて危うい存在である。米国が日本に核の傘を提供することによって、米国の都市が攻撃を受ける可能性がある場合、米国の核の傘は、ほぼ機能しない。日本は完全な傘の下にいないことを前提に安全保障政策を考えねばならない」と、「核の傘」に疑問を呈していた。
 
日米安保条約第6条は「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することが許される」と規定している。いわゆる「極東条項」によって防衛区域を限定しているのに、国際緊張の激化に伴ってなし崩し的に区域が拡大されていることに危惧を感じる。
 
この点につき孫崎氏は、「日本の安全保障の中核と位置づけられてきた日米安保条約について、日米同盟は従来の安保条約の通り、極東を中心に運営するのが望ましい」と指摘する。次いで安全保障政策に関し三つの選択肢をあげ、「第一に米国主導の戦略を常に受け入れること、第二に国連主導の方針を受け入れること、第三にNATОのように西側の価値観を有している国々の国際的機関との連携を強めることであるが、日米の共通の戦略を米国の戦略にそのまま合わせることには疑問がある。米国と一体化の道を進む際、米国は日本の危険の負担を前提にしている。次に、国連との協調を強めるという選択がある。(国連が機能していないとは言えないが)安保理常任理事国のロシア、中国が拒否権を有しており、国連ですべてを処理できないという議論は根拠がある」とも指摘する。
 
三番目の選択として孫崎氏は、「日本が可能性をもっと追求してよいのは、NATОとの協力関係だろう。日本は欧州諸国とは政治の民主化、経済の自由化という共通の目標を分かち合っている。欧州と米国で構成している軍事組織NATО内では、一方で米国は軍事力を利用し世界の軍事的環境を変えるのを正しいと確信しているが、他方において、ヨーロッパは力を越えて、法律と規制、国際交渉と国際協力の世界に移行した状況にある。この米欧二つの潮流の中、政治の民主化、経済の自由化という共通の枠組の中で互いの妥協を図っているのがNATОの現状である。日本はNATО等欧州の決定を重んじ、これとできるだけ協議していくという方法がある」と、米国に傾斜過ぎた日本の外交姿勢の修正を促している。 (孫崎氏は外務省国際情報局長、駐イラン大使など歴任。09年3月まで防衛大教授)
 
多極化時代到来で国際情勢は混沌としており、我が国の針路はさらに厳しい時代になった。北朝鮮の不気味な動向が不安を増幅させ、「非核3原則」の〝持ち込ませず〟条項を改めて「非核2・5原則」または「非核2原則」へと安保・防衛政策を転換させようとする動きが目立ってきたことに、日本国民はもっと警戒の目を注ぐ必要があるのではないか。この点で、孫崎氏の精緻な分析に強い刺激を受けた。
 
本稿執筆中に、岡崎久彦氏のブログを検索したところ、「『村田回想録』の書評」が掲載されており、参考になった。岡崎氏は同書を高く評価し、「安全保障、憲法解釈などにつき村田氏と意見は完全に一致するが、一致しないのはアメリカについての認識である」と述べていた。
 
村田氏は「防衛」もさることながら、「繊維」など日米経済交渉を通じて米国の高圧的姿勢に接し、批判的に見るようになったようで、〝日米同盟強化路線〟を唱導する岡崎氏とは見方が異なっている。また、岡崎氏とは正反対の主張を展開している孫崎氏は外務省時代、岡崎・国際情報局長の下で分析課長だったという。外務官僚ОB三者三様の〝外交観〟が興味深かったことを、付記しておく。
(2009年7月31日 記)
 
 
 
 [注]外務省HP「日米安保条約第6条の解説」
  日米安保条約第6条の規定を受けて、地位協定、交換公文で「事前協議」等の細則が決められている。外務省ホームページの解説が、事前協議問題の理解に役立つと思い、その全文を転載する。
 「侵略に対する抑止力としての日米安保条約の機能が有効に保持されていくためには、我が国が平素より米軍の駐留を認め、米軍が使用する施設・区域を必要に応じて提供できる体制を確保しておく必要がある。第6条は、このための規定である。
 第6条前段は、我が国の米国に対する施設・区域の提供義務を規定するとともに、提供された施設・区域の米軍による使用目的を定めたものである。日米安保条約の目的が、我が国自身に対する侵略を抑止することに加え、我が国の安全が極東の安全と密接に結びついているとの認識の下に、極東地域全体の平和の維持に寄与することにあることは前述のとおりであり、本条において、我が国の提供する施設・区域の使用目的を『日本国の安全』並びに『極東における国際の平和及び安全の維持』に寄与することと定めているのは、このためである。

 第6条後段は、施設・区域の使用に関連する具体的事項及び我が国における駐留米軍の法的地位に関しては、日米間の別個の協定によるべき旨を定めている。なお、施設・区域の使用および駐留米軍の地位を規律する別個の協定は、いわゆる日米地位協定である。
 米軍による施設・区域の使用に関しては、『条約第6条の実施に関する交換公文(いわゆる<岸・ハーター交換公文>』が存在する。この交換公文は、以下の三つの事項に関しては、我が国の領域内にある米軍が、我が国の意思に反して一方的な行動をとることがないよう、米国政府が日本政府に事前に協議することを義務づけたものである。
 
・ 米軍の我が国への配置における重要な変更(陸上部隊の場合は一個師団程度、空軍の場合はこれに相当するもの、海軍の場合は、一機動部隊程度の配置をいう)。
・ 我が国の領域内にある米軍の装備における重要な変更(核弾頭及び中・長距離ミサイルの持ち込み並びにそれらの基地の建設をいう)。
・ 我が国から行なわれる戦闘作戦行動(第5条に基づいて行なわれるものを除く)のための基地としての日本国内の施設・区域の使用。
 なお、核兵器の持ち込みに関しては、従来から我が国政府は、非核3原則を堅持し、いかなる場合にもこれを拒否するとの方針を明確にしてきている。」

                            

 - IT・マスコミ論

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