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池田龍夫のマスコミ時評④ 「核なき世界」への胎動  広島・長崎原爆の「道義的責任」

   

2009,08,04
 
 
         
「核なき世界」への胎動

広島・長崎原爆の「道義的責任」
 
                                 
                      ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 
 
 「原爆忌」の八月。あの悪夢から六十四年を経た今、核の脅威は軽減どころか、核保有国の増加とテロ暴発など新たな難題が恐怖を増幅させている。
オバマ米大統領の誕生(09・1)によって、核軍縮への期待が高まっているものの、国際的協調・連帯への道筋はいぜん不透明。核廃絶を呼びかけたオバマ提案をはじめサミット宣言などへの動きは評価するが、国家エゴを乗り越えた各国の歩み寄りなくして、「核なき世界」が実現するはずはない。
核をめぐる最近の動きを探り、問題点を考察したい。
 
  歴史的なオバマ「プラハ演説」
 
 ヨーロッパ諸国を歴訪中のオバマ大統領は二〇〇九年四月五日のプラハ演説で、核兵器廃絶を目指す包括的な戦略を公表した。北朝鮮が「飛翔体」(『人工衛星』か『ミサイル』)を太平洋に向け発射した日で、核問題への関心はいやがうえにも高まった。
 
 「全面戦争の危機は去ったが、(核拡散により)核攻撃の危険性は高まった。米国は核兵器を使った世界で唯一の核大国として、行動する道義的責任がある」と米国の決意を鮮明にし、核兵器削減→核廃絶への具体的プログラムを提示した。
 
特に米大統領が公式の場で「核使用の道義的責任」に言及した意義は大きい。次いでオバマ大統領は「時間はかかるが、世界を変革できることを信じる。核廃絶に向け確実に行動する。ただ、世界に核兵器が存在するうちは米国は安全な方法で核兵器を維持する。敵の攻撃を抑止し、同盟国に安全を保障するものだ」と述べている。
 
今後の具体的取り組みとして、「①世界の核兵器の九割以上を保有している米・露が、第一次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新条約合意を目指す。②核実験全面禁止条約(CTBT)批准を、米上院に求める。③核拡散防止条約(NPT)強化に努め、違反国は処罰する。④テロリストによる核兵器入手を防ぐことは、差し迫った最大の課題。このため核関連物質をすべて管理できる態勢を四年以内に築く。⑤兵器用核分裂性物質の生産を検証可能な方法で禁じるカットオフ条約を求める」などと大胆に提言しており、ブッシュ前政権の軍事大国戦略を一八〇度転換した「核なき世界へ向けた歴史的メッセージ」と称しても過言ではなかろう。
 
 ところが、国際協調を阻む強固な障壁が存在しているのが現実。NPT締約国は現在一九〇カ国(米・露・中・英・仏五カ国以外は非核国)にのぼるが、インド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルの核兵器保有四カ国はNPTに参加していないため、〝手詰まり〟状態が続いている。
 
NPTの空洞化が批判されるゆえんだが、北朝鮮に続きイランが無気味な動きを示しているように、「核を持った方が国際的優位に立てる」との危険きわまる論理が勢いを増すようになれば、世界は無秩序の大混乱に陥るに違いない。
 「クリントン政権時代の一九九五年にはNPTの無期限延長が実現したが、それ以外で核軍縮に大きな前進はなかった。そしてCTBT批准に真っ向から『ノー』と言ったブッシュ政権の八年間があった。
 
核軍縮や不拡散をめぐっては九五年から実質的な進展がなかった中で、オバマ氏が『核のない世界を目指すと宣言したのだ。
核軍縮をめぐる米大統領の発言としては、米ソ核軍縮に取り組んだケネディー大統領に類する重要さを持つ。 ……私は核が抑止力のすべてとは考えない。冷戦時代の米露関係が核による抑止で安定したからといって、現在の中東や南アジアの地域的関係に同じことが当てはまるとは思えない。
 
ただ、核への依存は一種の『中毒』なので、そこから抜け出すには時間がかかるだろう。『核ゼロ』という最終目標に向かっていくなかで、核兵器に対する考え方もやがては劇的に変わるのではないか」という米国シンクタンク・スチムソンセンターのエリザベス・ターペン不拡散部長の分析(『朝日』5・24朝刊)は、的を射ている。
 
  「G8宣言」をテコに、核軍縮と取り組め
 
 次いでモスクワを訪問したオバマ大統領は七月六日、メドベージェフ露大統領と会談。十二月五日に失効する「START1」を継承する「次期戦略兵器削減条約」につき協議した結果、「両国は戦略核弾頭を1500~1675個の範囲内で削減し、戦略的な運搬手段を500~1100の範囲まで削減する」ことで合意した。
 
詰めの協議は残されているが、二〇〇二年取り決めの「1700~2200個」を下回る目標を両核大国が打ち出したことを、一歩前進と受け止めたい。
 
 以上の「オバマ核軍縮構想」は、七月九日イタリア・ラクイラで開かれた主要八カ国(G8)首脳会談の主要議題の一つに取り上げられ、「核兵器のない世界に向けた状況を作ることを約束する」との「G8首脳宣言」に結実した。宣言内容のポイントは、前段で紹介した「オバマ・プラハ演説」と同趣旨なので重複は避けるが、勢いを増した「核軍縮」の潮流をさらに推進すべきだ。
 
NPT非加盟国のインド・パキスタン・北朝鮮・イスラエルを核軍縮の〝土俵〟に引っ張り出さねばならないが、一筋縄ではいかないのが国際パワーゲームの現実。オバマ大統領がG8夕食会で、「世界核安全保障サミットを来年三月ワシントンで開催する」と公表したことに、核軍縮への潮流を拡大したいとの悲願が読み取れる。
 
  被爆国・日本は、積極的アピールを
 
 「核の番人」と呼ばれる国際原子力機関(IAEA)新事務局長選挙が七月二日行われ、ウィーン国際機関日本政府代表部大使の天野之弥氏が選出された(正式就任は十二月)。核軍縮のうねりが高まってきた現在、原子力平和利用・核拡散防止の重責を担うIAEAトップに初めて日本人が就任することを喜びたい。「核なき世界」へ向け、日本が国際舞台で発言する好機であり、独自の提案も積極的に打ち出してもらいたい。 
 
 「井上ひさしさんが週刊誌で、オバマ米大統領の核軍縮演説を評価していた。原爆を落としたのは誰かという主語をはっきり語っているからだという。日本語は主語があいまいだ。広島の慰霊碑に刻まれた『安らかに眠って下さい 過ちは繰り返しませぬから』を巡っても、かつて論争があった。悔いと誓いの主語は日本なのか米国なのか。
物議をへて今は『人類』ということで多くに受け入れられている。米大統領の言葉は、米国が『主語』に歩み寄ろうとする変化だと読める。今こそ日本も世界も、核廃絶の主語を担う決意を強くする時だろう。国連本部で五月六日に演説した二人の市長も、その思いを語った。
 
長崎の田上富久市長はオバマ演説に触れて『被爆地は感動に包まれた』と説明した。そして『核なき世界への流れを力強い潮流にしていこう』と呼びかけた。広島の秋葉忠利市長は、原爆症で亡くなった佐々木禎子さんが回復を祈って折った鶴をかざした。世界は悲しい鶴を、もう誰にも折らせてはなるまい。
 
オバマ流核軍縮は、米国の国益に沿った現実的な戦略だという。投下への自責だけがその背景なのではない。だが『繰り返さない』ことへの意志には信を置きたい」(『朝日』5・8朝刊『天声人語』)との指摘に共感を覚えた。
 
 「オバマ大統領の姿勢(道義的責任)に日本はいかに向き合うべきか、という重要な問題を提起しているのではなかろうか。この問いかけに対する筆者の答えは、日本の首相の真珠湾(アリゾナ記念館)訪問と、それに応えるオバマ大統領の広島訪問である。この訪問は、決して謝罪や贖罪のために行われるのではない。…日米両首脳がそれぞれの地で、鎮魂と平和の祈りを捧げ、そのうえで、核兵器がない世界を目指す長い道のりを日米がともに歩むことを誓うためのものでなくてはならない。
 
相互訪問がこのようなものとして両国民に理解されれば、戦後いまだに完結していない日米の最終和解が達成され、そこから相互信頼に基づく真のパートナーとしての関係が生まれるだろう」との栗山尚一・元外務次官の提言(『毎日』5・28朝刊『私の主張』)は、戦後の「日米関係」の歪みを指摘し、両国関係再構築を念願する熱い気持ちが込められていた。
 
 ただ、理念だけでは核軍縮は進まない。オバマ大統領当面の第一ハードルは、CTBT批准に必要な米上院三分の二の賛成を獲得することだ。「G8」すべての足並みがそろえば、核軍縮を渋る他国への説得材料になるはずである。そして、「道義的責任」を認めた米国と、被爆国・日本が〝真の核軍縮〟構築に知恵を結集して欲しい。
        
 

 - IT・マスコミ論

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