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池田龍夫のマスコミ時評(63)「30年代に原発ゼロ」戦略の意義』(9・17)『世界平和アピール七人委の提言を噛みしめる』(9・14)

   

 

池田龍夫のマスコミ時評(63)
 
「30年代に原発ゼロ」戦略の意義』(9・17)
●『世界平和アピール七人委の提言を噛みしめる』(9・14)
●『西日本6電力の供給、猛暑を乗り切った』(9・10)
 
                                  池田龍夫(ジャーナリスト)
 
 
        「30年代に原発ゼロ」戦略の意義917
 
 政府のエネルギー政策・環境会議は9月14日、「30年代に原発稼動ゼロ」との戦略目標を決定。さらに①40年運転制限を厳格に適用②原子力規制委員会の安全確認を得た原発のみ再稼動③原発の新増設はしない――の3原則を掲げた。
 
                           民意によって動いた画期的戦略
 
 朝日新聞15日付朝刊で編集委員が「日本のエネルギー政策が初めて民意によって動いた。目標を達成するには多くの課題があるが、世界3位の経済大国日本の脱原発宣言は世界に強いメッセージを与える」と、脱原発指針を評価していた。当初逡巡していた野田佳彦首相が世論の動向もにらんで、画期的戦略を提示した意義は大きい。
 
                                                   全ての国民の力を結集せよ
 
 東京新聞15日付社説は「新戦略の推進には『全ての国民の力を結集することが不可欠である』と政府はうたう。これまでエネルギー政策、特に原子力政策は、『原子力ムラ』と呼ばれる狭い世界の中で、人知れず決められていくきらいがあった。

新戦略に曖昧さが残るのも、経済への影響を恐れる産業界や、日本の原子力技術の衰退が、安全保障に影響を及ぼすことなどを憂慮する米国への過剰な配慮があるからだ。だがこれからは、新戦略を具体化するにも、市民参加の仕組みが何より大切になるだろう。原発ゼロを達成するということは、社会と暮らしをさらに変えるということだことだ」と述べていた。

 
                                核燃料サイクル維持に矛盾残るが…
 
 政府内の調整は難航した模様で、「30年代に原発ゼロ」を打ち出したものの、具体的戦略の矛盾点を指摘せざるを得ない。その最たるものが、核燃料サイクルの継続を容認したことだ。「原発ゼロ」目標とは明らかに矛盾しており、きっぱりプルニウム再処理工場や高速増殖炉「もんじゅ」稼動打ち切りの方針を示さないと辻ツマが合わない。

現在50基の原発で稼動しているのは大飯原発の2基だけ。将来的に廃炉にどう取り組むかを、今後の政策目標にすべきである。青森県などの反発、海外の批判を緩和する狙いがあったと推察されるが、原発ゼロが進めば核燃料サイクルを続ける意味がないことは明らかだ。

 
                                          在京6紙の論調は「朝毎東」対「読産日」の真っ二つ
 
 朝日・毎日・東京3紙の論調は「原発ゼロへ国民全体が覚悟を持とう」と政府の戦略を前向きに捉えていたが、読売・産経・日経3紙の論調は「原発ゼロは戦略に値しない。
 
具体策なく矛盾点も多い。選挙対策だ」「原発ゼロ対策は即時撤回して『25%超』に。世界で孤立し責任を果たせぬ。日本を沈没させる空論だ」「国益を損なう『原発ゼロ』には異議がある。日米同盟に影を落としかねず、国際関係への思慮を欠く」などと、政府を真っ向から批判している。
特に読売社説は「日本が核燃料の再処理を委託している英仏両国も、日本企業が持つ原発技術に期待する米国も、強い懸念を示している。米国は日米原子力協定に基づく特別な権利として、日本に使用済み核燃料の再処理を認めている。『原発ゼロ』を理由に、日本は再処理の権利を失いかねない。米国が、アジアにおける核安全保障政策のパートナーと位置づける日本の地位低下も心配だ」と批判していた。
 
 いずれにせよ、世界を震撼させた「3・11福島原発事故」当事国として、世界に原発の恐怖を訴え、クリーンエネルギー開発の先頭に立ってほしいと思う。
 
   世界平和アピール七人委の提言を噛みしめる(914)』
 
 福島原発事故から1年半の9月11日、世界平和アピール七人委員会は「原発ゼロを決めて、安心・安全な世界を目指す以外の道はない」と題する声明を発表した。湯川秀樹、茅誠司氏らによって1955年結成された7人委員会は代々引き継がれ、現在のメンバーは武者小路公秀、土山秀夫、大石芳野、池田香代子、小沼通二、池内 了、辻井喬氏の7人。

メンバーは入れ替わったものの、人道主義と平和主義、不偏不党の立場は変わらず、事あるごとに国の内外に問題提起しており、今回が108番目のアピールという。

 平和運動として注目すべき委員会だが、メディアの反応はまことに冷ややか。11日付夕刊と12日付朝刊各紙を調べたところ、何処にも見当たらなかった。脱原発の市民運動が盛り上がっている今、七人委アピールには目もくれず、政局ドタバタ劇に走るメディアの問題意識の欠如が悲しい。
 「これまで日本のエネルギー
政策、原子力政策は、政府と官僚、財界と産業界、学界、マスコミが一体となった“原子力ムラ“によって支配されてきた。

〝安全神話〟を作り、事故に対する備えを怠ってきた。ところが責任の所在を曖昧にして、誰も責任をとろうとしない。……原子力規制委員会の人事は、国の原子力政策、ひいては政治が、国民の信頼を回復できるか否かの岐路に立っていることを示す重大な問題である。私たちは、これまで原子力推進にかかわってこなかった人の中から、視野が広く将来を見据えて判断できる人を選ぶべきだと考える」などとの7人委提言は、傾聴すべき正論である。

 
    西日本6電力の供給、猛暑を乗り切った910
 
 経済産業省・資源エネルギー庁が中部・北陸・関西・四国・九州6電力の推計をもとに、7、8月の電力状況をまとめ、民主党のエネルギー・環境調査会に報告した。
9月4日明らかになったもので、大飯原発(福井県おおい町)を再稼動させなくても、西日本各府県で供給電力に余裕のあったことが裏づけられた。特に心配だった関電は、2010年度より10%以上の節電目標を掲げたが、実際は11・1%の節電につがったという。「原発ゼロでもいける」との証明を得た印象だが、エネルギー庁や経団連などは、「再稼動は、なお必要」との姿勢を崩していない。
市民や企業の節電努力が実ったことは喜ばしいことだが、日射量に恵まれ太陽光発電量の増加、水力発電量アップも、電力供給を下支えしたとみられる。いずれにせよ、東電・東北・北海道電力を含めて猛暑を乗り切った実績は、「脱原発依存」陣営への追い風になるに違いない。野田佳彦政権が今回の電力調査結果に基づき、クリーンエネルギー政策構築に当たるよう強く要望したい。
 
(いけだ・たつお)1953年毎日新聞入社、中部本社編集局長・紙面審査委員長など。 

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