『リーダーシップの日本近現代史』(337)-「日本の深刻化する高齢者問題―大阪を中心にその貧困率、年金破綻と生活保護、介護殺人、日本の格差/高齢者/若者/総貧困列島化を考える」(下)★『日本の生活保護費は対GDP比は0.6%、生活保護費はOECD平均の4分の1』★『「生きる権利を主張すべき」ー本人が申請しないと役所は動かない』
2020/05/02
2016年(平成28)3月24日 講演会全記録
「大阪の高齢者問題―貧困率、年金破綻と生活保護、介護殺人、日本貧困列島へ」(下)
一般社団法人大阪自由大学理事長 池田知隆(元大阪市教育委員長,元毎日新聞論説委員)
個人はどうすればよいのか
要介護認定率が全国よりも高いのは深刻で、こういう数字を見ると大阪は本当に大変なところだなと思います。
では、どうすればいいのかという道筋はなかなか見えてきません。そこで大阪市も、高齢者の地域の包括支援体制を充実させる、認知症の高齢者の生活支援をする、啓発活動を進める、住まいのあり方を考えるなどの重点を掲げ、対策を立てていますが、なかなかこうすれば良くなるということはありません。
そんな中で、個々人はどう生きていけばいいのでしょうか。いまや誰もが「下流老人」になりかねないといわれます。ちょっとお金を持っていても、いったん病気になれば、もぅすぐ「マイナスのスパイラル」.に入ってしまいます。「年収4百万円」 の若い人たちでも、やがては[生活保護のレベル生活」が避けられないといわれるほどです。
いまの58歳位までの人が、自分の納めた年金と受け取れる年金とのバランスが取れ、それ以下の世代は年金を納めても、見返りが少なく、「年金を納めるのはあほらしい」と考える人が増えてきています。かろうじて60歳以上の人はある程度の年金は貰えるかも知れませんけれども、それでも一且病気になれば本当に生活は厳しくなります。『下流老人』という言葉が本当に流行語になりましたが、この言葉に身につまされる人が少なくありません。
日本人は生活保護を受けずに頑張る人も結構多いようです。しかし、社会保護制度を抜本的に見直さないといけない危機的な状況にきています。保険料を納付して、それがやがて戻ってくる年金システムはもう崩れてきて、とにかく最低資金は税金でもって負担して、これだけはとにかく税金で出しますよという形に変えていかないともたないんじゃないかと思います。
貧困に陥る5つのパターン
高齢者が貧困に陥るとき、5つのパターンがあるようです。
(1)は、まあまあ何とか暮らせるなと思っていても、本当に病気になってしまったら、どんどん負のスパイラルに入る。
(2)は、ちゃんとした介護施設に入れなくなったとき、自分で漂流していかなくてはならない。
(3)は、子供がなかなか自立せず、自分の家に居て世話までしなくちやいけないという問題?
(4)は、それから離婚の問題で年金を分割して小く中でそれぞれが大変な暮らしに置かれていぐ。
(5)は、最終的に誰かが認知症になって周りに頼りになるような家族がいない。ということが挙げられています。病気になったらお金がかかる。
仕事と両立できずに介護離職しなければならない。子供にもしわ寄せになる。そういう「マイナスのスパイラル」に陥り、にっちもさっちもいかなくなってしまいます。
では、どう考えていったらいいのか。私もそうでしたけれど、とにかく 「無自覚」にならないようにすることのようです。 「何とかなるよ」 ということでは 「何ともならない」のです。「自分だけは大丈夫だ」 と思っていても、いつ、何があるかわからない。いざとなったとき、誰に支えになってもらうのか。
そのことを普段から考えておくことが必要です。
自助、共助、公助という3つの考え方があります。自分である程度自分を助けて行く。お互い様でお互い助け合う。その後、公費で
それなりに社会が支えていく。よく「生活が困っているのは、あなたがちゃんと老後の資金を貯めていなかったからだ」 という形で、本人に責任をかぶせてしまいがちですが、あんまり自己責任だけに追い込んで行かないようにしなくてはなりません。そういうだけでは、救いもありません。
社会保険制度と社会システムの不備をどう直すか
問題の所在は、社会保険制度とか社会システムの不備をどうなおしていくのかということですし、あたりまえのことですが、周りの人との支え合いの関係をどう作っていくかというのに尽きるのではないでしょうか。自分や家族だけの問題とせずに、とにかく困ったら周りの人に相談するようにしなくてはなりません。
大阪はどういう街なのか、と考えたとき、非常に懐が深い街だと思います。他の地域から流れてきた人に対しても優しい。非常に開放的です。戦前からそうですし、ある意味では古代からそうだったかも知れません。渡来の人たちがまず瀬戸内の海を通って大阪に辿り着く。朝鮮半島から渡って来る人たちも受け入れました。
それだけではなく、この数十年前から、困ったら大阪に行ったらなんとかなるよと、各地方の自治体の生活保護担当者は大阪までの交通費を出して、大阪に行くように奨励した話もよく聞きます。大阪に行けばなんとかなるよといろんな人が大阪にやって来て、そこで大阪の住民たちもそれを受け入れてきて、いま、多くの問題を抱える都市になってきました。
ある意味、大阪は日本の難民を受け入れ、救ってきたとも言えなくもありません。その大阪という街をどうすればいいのか、これは日本の重要な課題です。
「生きる権利を主張すべき」ー本人が申請しないと役所は動かない
日本の人たちはおとなしく、なんでも自分で抱え込んでしまいがちだといいました。それをいいことに、社会保障制度が悪乗りしていると言えなくもありません。日本の福祉行政は、まず本人が申請しないことには対応しようとしないのです。本人が訴えない限り、役所は動かないということです。役所のほうである程度、困窮していることを把握していても、本人から何も言ってこないからといって何もしない。日本人は謙虚で慎ましく、自分のことは自分で何とかしていこうとする。
そこで役所も「申請がありませんから、なんとかやっているのでしょう」と放置しているケースが多い。しかし∵号っではなく、私は「困っているんだ」と役所、社会福祉事務所、社会保障協議会などに自分の窮状を訴えていく。それを権利としてきちんと行使していくことが大事なのではないのか。そう思います。
これは日本弁護士会が作っている資料ですが、とにかく困ったら、生活保護をもらってでもとにかく生きるということです。憲法2条では、国民の最低の生活を保障しますと決めています。人間は、いろんな形でいろんな所でいろいろと支え合って社会に貢献し、生きる権利があります。生活保護のことも、きちんと理解し、偏見で見ずに正しく考えようと呼びかけています。
日本の生活保護費の対GDP比は0.6%、生活保護費もOECDの平均の4分の1。
諸外国に比べたら、圧倒的に少ないのです。先進国の中でGDP比に占める国家予算の教育費の割合は最低です。生活保護費もOECD(経済協力開発機構) の平均よりも4分の1です。日本人には「自己責任論」というのが染み付いて、「自分が失敗して生活を苦しんでいるのは俺が患いんだjと思いがちですが、いろんな事故にあったり、病気になったり人間はどこでどんな事に出合うかわかりません。
そういうとき、きちんと支えあえるセーティネットのシステムを整備していかなくてはなりません。ですから生活保護もこのデータを見る限り、もっと遠慮することは無いとは言いませんが、困.った時にはきちんと貰うというのがこれからの生き方ではないかなという気がします。
生活保護の利用率というのも、白本は全人口の1.6%(2010年)と先進国の中で最も低いのです。日本で生活保護をもらえる資格があるのにも関わらず、多くの人がもらっていない。もらっている人は18%しかいない。ですから、このデータを見たら、日本っていうのは本当になんていう国だという気がします。フランスは権利意識が強く、補足率が91%なんです。自分の収入が低いとなったら、とにかく生活保護やそういうお金をもらうのは当然だと9割以上の人が思っているのです。
しかし日本は2割以下。こういう数字を見ると本当に日本人は謙虚だなとびっくりさせられます。イギリスさえ9割近くの人が貰っている。スウェーデンも8割以上です。ドイツでも3分の2が貰っている。ドイツもヨーロッパの中では低い方ですけれども、それに比べると日本は極端に低いのです。
ですから、苦しくなったら福祉事務所に相談に行く。役所も申請しないと受け付けないというのであれば、とにかく申請することです。皆さん、困ったときには正しく権利を行使してもいいのです。それには社会保障制度がどうなっているのか、よく知るべきです。
それにあたりまえのことですが、経済観念が大事です。それはわが身に言い聞かせていることでもあります。そして、最後はなんだかんだ言っても、支え合いの関係というか、地域の中で自分の不満とかストレスを発散できるような関係というのをいかに築いて、自分だけに全部押し込めないということではないか。そういう中で、住みよい地域社会の参加意識っていうのを作っていきたいなと思っています。
私の好きな、同世代でまだまだ若々しい沢田研二さんという歌手がいまして、『我が窮状』という歌があります。これは憲法9条をもじった歌なのですが、その歌詞の中に「老いたるは無力を気骨に変えて礎石となろうぜ」という言葉があります。「なかなかいいな」と思ってちょっとここで紹介します。
老いたは言え、気骨を持って自分でなんとかやっていきましょうよ、と団塊世代の代表的存在でもある沢田研二さんが歌っています。この言葉を私も、自分でかみしめながら、皆さんに届けたいと思った次第です。
おわり
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