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『リーダーシップの日本近現代史』(2)記事再録/日本国難史にみる『戦略思考の欠落』②「ペリー黒船来航情報を無視、無策で徳川幕府崩壊へ②「オランダからの来航予告に対応せず、猜疑心と怯惰のため時間を無駄にすごした」【勝海舟)

      2019/08/26

 

   

  日本リーダーパワー史(606)

日本国難史にみる『戦略思考の欠落』②

(開国要求のペリー黒船来航情報に対応できず、徳川幕府崩壊へ

「オランダからの来航予告にまともに対応せず、猜疑心と怯惰のために,あたら時間を無駄にすごした」【勝海舟の弁)

前坂 俊之(静岡県立大学名誉教授)

徳川鎖国時代と戦略情報、危機対応能力

鎌倉、室町、戦国安土、桃山時代と続き、1603年に江戸時代に入り徳川幕藩体制は230年続いた。鎖国を祖法(家康が定めた憲法)としたが、オランダ、中国の2か国とは長崎を通じて貿易を行った。鎖国230年の徳川1国平和主義はなぜ長く続いたのか。

それはヨーロッパからみると、日本が一番遠くの存在だったからである。『ファーイースト(極東)』というようにユーラシア大陸の東はしに海をへだてて存在する日本。陸路でも海路でも一番遠い。

この地政学的条件が日本を他国による侵略を免れた最大の要因である。徳川幕府は大型船(500石積(排水量100トン余)の製造を禁止、外国船が入ってくると『打ち払い令』で追い返していた。19世紀となり、英国の産業革命による鉄鋼蒸気船の発明で、航海術の進歩によって西欧の軍艦が砲艦外交で開国、貿易をもとめて弱小国をつぎつぎに植民地にする弱肉強食の帝国主義時代に入る。

徳川末期末期には西欧からのそうした船が日本近海に多くあらわれてくる。日本に通商を求めてきて断られたロシア船の略奪行為をしたり、イギリス船の長崎港不法侵入事件などの頻発で『鎖国を祖法』(憲法)としてかたくなに守る幕府は1825(文政8)年、異国船打払令を出し、沿岸に近づく外国船を、打ち払うよう命じた。日本人漂流民を送還するため来航した、アメリカの商船「モリソン号」にも砲撃を加えた。

日本を追放されオランダで研究生活を送っていたフォン・シーボルト(1796-1866,医師、博物学者)は、オランダ国王ウィレム2世に「アヘン戦争の結果を知らせ、鎖国を撤廃するよう促すべきである」と進言し、ウィレム2世による国書は1844年、正式な儀式を経て長崎奉行を通じ幕府に手に渡された。

オランダ商館長の予告通知と幕府の対応

幕府はこの助言を「鎖国」の掟に従って拒否した。しかしオランダは1852(嘉永6)年6月5日,ドンケル・クルチウスを出島の商館長として送り込み ペリーの米黒船艦隊の来航を予告した。

その内容は「アメリカ政府が日本国に使節を送り,日本国と通商を遂げたいために蒸気仕掛軍船サスケハンナを主監とした4隻を派遣するので、その軍事力からみて,日本にとってきわめて憂慮すべき事態が起こる恐れがある」というもので、「別段風説書」として、新聞記事、独自の情報を交えて報告した。

しかし幕府はこの情報を信用せず,ことの重大さに気づかなかった。来航の可能性まで否定して、情報そのものを徹底して秘匿した。

オランダ国王には『そのような不吉な情報をしらせてくれるな』との返事を出し、全国に国の安寧を願って神社に祈祷をさせていた。

傍観主義の幕府とベリー来航

予告時期がせまり、浦賀奉行所から警備対策の伺いも幕府上層部は「異船が何隻きても日本が鉄砲をぶっぱなせば,直に逃げ帰る」、「浦賀にきても,ここは外国の事務の取扱場所ではないとつっばねて長崎に回せばよい」と強がって何ら対策を講ぜず、時間を空費した。元寇の役のケースとまるで同じ、情報軽視と無為無策である。

当時の老中首座は27歳の阿部正弘https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%BF%E9%83%A8%E6%AD%A3%E5%BC%98

であり、これまた北条時宗と同年の戦知らず、経験不足、国難に対応できる力量など持ち合わせていない若造だった。

天保の改革の立役者水野忠邦の失脚,幕政の混乱のなかで,たまたま老中上席であったで阿部正弘がところてん式に首座についた。政治的な経綸も希薄であり、年寄、年上の老中、幕閣に囲まれて唯一の頼りは行政経験豊かな勘定所系の役人たちだった。

幕臣と有志大名から幕府成立以来」初めて海防策を求めたが、台場(砲台)の建設や、肝心の大型蒸気船の建設は祖法でできず、いずれも資金不足により,対策は後手に回った。

阿部には打つ手がなく、結局「黒船が来れば国書を受け取り一日も早く退去させ、その後多くの意見を聞き,国としての方針を決定し再来に備えよう」という先延ばし、異国情報拒否症だった。

まるで時宗と同じ危機管理ゼロのケースで、せっかく2年前のオランダ商館長の来航予告情報も知りながら対策も立てず,一方的な圧力に屈して日米和親条約を結ぶ結果を招いた。

旧幕臣の勝海舟,直接外交にかかわった田辺太一たちが,「オランダからの来航予告にまともに対応しておれば、適宜の処置を講ずる時間がありながら,猜疑心と怯惰のために,あたら時間を無駄にすごした」と述懐している。

(青木美智雄「ペリー来航予告をめぐる幕府の対応みついて」

research.n-fukushi.ac.jp/ps/research/usr/db/pdfs/00118-00002.pdf

驚くべき情報無視、グローバリズムへの無知、神頼み、無責任体制、何百年も続く情報音痴ぶりが日本人のDNAに深くしみついた証拠である。

危機が来ると、カミナリが鳴り出すとそれを調べるのではなく、怖いと布団をかぶって通過するのを祈る。『地震、カミナリ、火事、オヤジ』とはよく言ったもので、神頼みして対策を立てない。つまり、科学的な精神、インテジェンスの欠如である。

アメリカ建国の父の1人、ベンジャミン・フランクリン(政治家、物理学者)(1706-1790)がカミナリ除けの避雷針を発明したのと、将軍、大老、幕府のたちの迷信的な態度との落差は、封建時代の日本と近代化した西欧の科学主義と合理精神との違いそのもの。

ここでも、日本の外国無知、外交音痴ぶりがしめされて、徳川幕府は崩壊した。しかし、元をたどれば海外とのコミュ二ケーション、海外知識の研究を禁じる鎖国の思想そのものが敗北、自滅の原因であろう。幕府を倒した薩摩、長州はすでに薩英戦争(文久3年1863年8月)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%A9%E8%8B%B1%E6%88%A6%E4%BA%89

下関戦争(元治元年1864年8月)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E9%96%A2%E6%88%A6%E4%BA%89

で西欧軍艦に痛い目にあわされた経験から、開国派に転じて、西欧列強と巧みな外交戦を戦わせていた。

西郷隆盛は英国の外交官・アーネスト・サトウとの交渉で幕府側についたフランスと英国の仲を裂くために、フランスの幕府への資金提供情報を密告して、サトウが抜け駆けに怒り『それでは、英国は薩摩に討幕資金を提供しよう』と申し出たが、西郷はきっぱりと断った。

植民地にされた国は列強から安易に借款して、その借金を返済できず、領土を奪われるパターンが多いのを知っていたのである。西郷、高杉晋作らは「自国は自国で守る、国内紛争に他国を介入させてはならぬ」という独立論を堅持していた。

西郷、高杉のインテリジェンスがなければ、日本は西欧列強の植民地に、清国、朝鮮同様になっていたであろう。

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