日本リーダーパワー史(388)「最強のリーダーシップ・児玉源太郎伝(9)『全責任を自己一身に帰し、一身を国家に捧げる決意」
2016/02/20
「日本のナポレオン」・児玉源太郎伝(9)
① 明治の奇跡・日露戦争を勝利のスーパープロデューサーは児玉源太郎である。
② 児玉は軍事的な天才であるばかりか、経済、政治、外交の手腕、リーダーシップに優れたオールラウンドの「オルガナイザー」であり、数少ない天才である。
③ 台湾総督、陸軍大臣、内務大臣の実力大臣から2階級降下して日露戦争の全面指揮にたった児玉参謀本部次長は「この国難に対してどのようなリーダーシップ」を発揮したのか。
④ 日露決戦は避けられぬとみた児玉は内務大臣として、桂太郎首相と協力して、
軍備増強、財政改革、経済界の応援、協力要請、陸軍内の主戦論の統一、戦略戦術参謀面でもリーダーシップを発揮、即実行したのである。
③ 日本は今、「第3の国難<日本沈没>の危機にある。ところが、気概のある政治家、経済人、知識人がいない。「国難にわれ1人立たん」の決意で参謀本部をになった児玉のリーダーパワーを政治家もトップも、国民も見習うべきである。
前坂 俊之(ジャーナリスト)
明治35年以降、ロシアの満州、中国への侵攻はとどまることを知らず、年政府は、軍備を充実して自衛の方策を立てるため、議会に軍備増大の予算案を提出したが、議会は日清戦争後の民力休養こそ最優先だとし、租税の増徴を否決された。
ロシアの満洲への野心がますます露骨になってくると、桂首相は児玉内相とも協力し行政財政の整理によって、約一千万円を節約し海軍拡張にあてた。
36年4月になり、ロシアは約束の第3次撤兵も踏みにじり、鴨緑江下流の韓国領内を占領し、名を伐採集積に託して軍事的施設を建設拡張した。ここにおいて、桂首相、児玉も如何なる財政難に遭遇するともロシアに対して一戦交える覚悟を決めて、4月21日、桂首相、小村外相は京都に西下し、山県有朋、伊藤博文の元老二人と「無隣庵会談」を開き、開戦を迫った。
開戦を指導することがどんなにむつかしいことか。当時は大国ロシアとの戦争に勝てるわけがないとみて、開戦には日本の指導層も国民も大半が反対なのである。日露戦争の結果論から見ている現代人には当時Wカップトップの対ロシア戦を指揮する監督ザッケローニの心情の何十倍もの国難打開の重みが児玉の全身に乗りかかってきたと思えば、その幾分かは理解できるであろう。
「ロシアの準備が整う前に」ひとり陸海軍のみでなく政界、経済界、財界などを含め、広く国民輿論の動向を引っ張らねばならない。
児玉は内務大臣の時の開戦半年前の36年8月、財界の巨頭渋沢栄一を訪ねて財界への根回しを行い、開戦の避けられないことを相談し、財界の決意を説いている。政治家、官僚の垣根など眼中にない、真のリーダーシップを発揮した。
渋沢は当時の財界は不況下であり、とうてい戦費二十億の負担に耐えず、又外債は不可能、として開戦に納得しなかった。
10月12日、田村前参謀次長の急逝で、児玉は2階級降下して参謀本部次長を兼任。内務大臣を免じた。当日、軍服姿で現れた児玉は参謀本部でのあいさつは「これまで通りの貴君らの精励勤務を望む」と一言あいさつしたのみ。その軍服姿の眼光炯々、決然とした一言に参謀本部員は思わず奮い立ったのである。
十月二十八日、銀行クラブで銀行家の例会があった。この席で日本郵船社長近藤廉平は、東亜旅行の視察談を行い、金融界の多数名士を前にして露国戦備の模様を語り、開戦が一日遅れば我に一日の損がある。もはや戦費を顧慮して遽巡すべき時ではないと力説した。渋沢もこの席でテーブル・スピーチを行い近藤に和した。大変な変りようである。近藤の朝鮮、満洲、シベリア国境への旅行は児玉が勧告、斡旋したものであった。
(「名将児玉源太郎」加登川幸太郎著 日本工業新聞社 昭和57年)
次に紹介するのは三十六年十月十六日、児玉新次長は、内相官邸へ参謀本部各部長を晩餐に招き、宴終ってから次のスピーチである。(機密日露戦争76-77P)
この中で、児玉は「国が敗れるときは、日本もその企業も個人もすべて絶滅する」との危機感をのべたうえで、
全責任を自己一身に負担し、その責任を内閣にも、又参謀総長に分かたず、、一身を国家に捧げる決心を以て立案し、実行する」と言明している。
文字通り、日本を興し、明治の奇跡を起こしたのは、この児玉の決断、実行、勝利の最強のリーダシップであったのだ。
<児玉の現状分析と対策>
「露国の圧迫は日に日に激しくなってきている。帝国たるもの一大決心を以て起っ時がきた。ロシアとわが国を比較すれば、海軍力でわれわは劣ることを自覚しなければならぬ。
陸軍力では、同等であると信ずるが、ロシアは日本は劣るとみるかもしれないが、とにかく兵力においては、さして差はない。ロシア側の唯一の頼みは、財力が優っている点であろう。
ロンドンにおける日本公債の下落は主としてロシア側の策謀によってである。その手腕や実に驚くべきである。われわれにはほとんどできないことである。たとえ出来たとしてもその真似事たるに過ぎない。
わが外交がいたずらに警告、抗議をするだけで、何の方策もないのに比べれば、ロシアの策謀はや感心すべきである。そもそもロシアの今日の領土侵略を敢えてするのは遠く三百年来の国是(ロシアの膨張主義)に由来し、わが国が武力を以って起つても、一朝にしてその国是を放棄するとは思われない。両国の戦争はついに免れないのである。
そして、帝国(日本)がこの戦争に費やすところ、これを一年間と見て八億円が見込まれる。いかにしてこの軍費を得るべきか。ロシアがわが国を侮蔑するのは、つまりこの点にある。我が国は弱点をしのぐ工夫がなければならぬ。
予は、全責任を自己一身に負担し、この責任を内閣にも、又参謀総長にも分たず、一身を国家に捧げる決心を以て熟慮考究の上、一策を按じ、着々これが実行を試みつつある。
それは国内大会社、郵船会社を始め、各汽船会社、鉄道会社等を説き勧め、各自進んで無償輸送させることである。九州では石炭をロシア人には売渡さない契約をしたと聞いた。
会社社長は大いに、わが勧誘に賛同している。ただ株主の意向如何を気づかうのみである。
固より政府は、輸送を無期限に無償で約束させようとするのではない。一時支払いを延期するのみである。戦争止み、平和に復するならば、少くも通常配当以上の賠償をなすべきは政府の義務であろう。
帝国にして万一敗戦せんか、各会社がたとえ、戦時好配当をできても戦後の絶滅は免かれないであろう。これを思えば、一時の支払延期の如きは忍ぶ能わざることではない。この理を解する者は、皆争って無償軍用に供するに甘んずるであろう。
この方策が万一、失敗すれば、責任は余一身にある。各部長はこのことを知り 戦争開始のため財政の諸準備と軍費調達の経緯を知らない態にして置かれたい」
もって児玉次長のインテリジェンスとリーダシップを見ることができよう。
つづく
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